中国の法律事情
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【13-013】中国におけるPE課税(下)

2013年 7月 1日

中島 あずさ

中島 あずさ:西村あさひ法律事務所・弁護士
(北京事務所首席代表)

1996年早稲田大学商学部卒業
2002年弁護士登録
2006年明治学院大学法科大学院非常勤講師(アジア法)


松井 博昭

松井 博昭:西村あさひ法律事務所・弁護士

2006年早稲田大学法学部卒業
2008年早稲田大学法科大学院修了
2009年弁護士会登録

 前回に述べたコンサルタントPEの認定に関しては、解釈上、重要であると考えられる通達等が多く存在する。以下では、その中でも特に重要な通達等について、一部を紹介することとしたい。

4.中国におけるPE認定に関する留意点(2)-通達等で示された判断基準

(1)「12箇月の間に合計6箇月を超える期間」の意義について

 コンサルタントPEの認定の要件である「12箇月の間に合計6箇月を超える期間」(日中租税協定5条5項)の意義について、国税函(2006)694号は、複数年に及ぶプロジェクトについて、そ の間に一度でも「12箇月の間に合計6箇月を超える期間」の役務提供があった場合には、プロジェクト期間全体についてPE認定がなされるものとしている。

(2)「複数の関連プロジェクト」の意義について

 国税発(2010)75号では、「同一企業による、商業関連性又は連続性を有する複数のプロジェクトは、『同一プロジェクト又は関連プロジェクト』とみなす」と定めた上で、その判断基準として、こ れらのプロジェクトが、①同一の包括的な契約に含まれるか、②同一又は関連性のある締約者によるものであるか、③前後のプロジェクトについて繋がりが必然となるものか、④同一の性質のものか、⑤ 同一の人員により実施されているか否かといった要素を挙げている。なお、この国税発(2010)75号は中国とシンガポールとの間の租税条約に関する通知であるが、当 該解釈通知はその他の国との租税条約にも準用するとされているため、日中租税協定の解釈でも考慮されることとなる。

(3)会社への人員派遣がPEを構成する場合について

 国税発(2010)75号は、子会社に派遣される人員がPEを構成するか否かの判断基準を挙げている。

 すなわち、同通知は、「PEを構成しない」場合として、①子会社の要請による子会社のための人員派遣であること、②その出向者が子会社に雇用されていること、③ 子会社がその出向者の業務に対して指揮権を有すること、④その出向者の業務への責任及びリスクが子会社により負担されていることといった要素を挙げている(5条7項(一))。

 一方、同通知は、「PEを構成する」場合として、①親会社が、その派遣する出向者に対して指揮権を有し、かつ関連のリスク及び責任を負担していること、② 子会社へ派遣する人数及び基準が親会社により決定されること、③出向者の給与が親会社により負担されること、④親会社が子会社へ人員を派遣し活動させることにより子会社から利益を獲得していること、と いった要素を挙げている (5条7項(二))。

 かかる法、租税協定及び国税発(2010)75号等の規定に基づき、2013年6月1日に施行された国家税務総局公告2013年第19号は、非居住企業から派遣する人員がPE を構成するか否かの具体的な判断基準を挙げており、今後の実務においては、かかる基準が参考とされるものと思われる。

 同公告によれば、非居住企業(日本企業)が、出向者の業務結果の一部又は全部の責任及びリスクを負担し、出向者の業績を常に考査・評価する場合には、当該非居住企業(日本企業)は中国国内において機構、場 所を設立して役務を提供するものとみなされ、相対的な固定性及び恒久性を有する機構、場所において役務を提供する場合には、当該機構、場所は中国国内に設立されたPEを構成することとなる(1条)。そして、そ の判断においては、①出向先の国内企業(中国企業)が非居住企業(日本企業)に対して管理費、サービス費性質の費用を支払っているか否か、② 国内企業(中国企業)が非居住企業(日本企業)に支払った費用の額が非居住企業(日本企業)が立て替えた出向者の給料、賃金、社会保険料及びその他の費用を上回っているか否か、③ 非居住企業(日本企業)が国内企業(中国企業)から支払われたかかる費用の全部を出向者に支払わず、その費用の一部を保留しているか否か、④非居住企業(日本企業)が負担する出向者の給料、賃金について、そ の一部だけしか中国で個人所得税を納付していないという事実はないか否か、⑤非居住企業(日本企業)が出向者の人数、就任資格、給料基準及び中国国内の勤務場所を決めているか否か、と いった要素を踏まえて確定することとされている(1条)。

 他方、非居住企業(日本企業)が出向者を派遣して中国国内において役務を提供させる目的が国内企業(中国企業)において株主としての権利を行使し、そ の適法な株主としての権利及び利益を保障することのみにある場合には、当該活動(出向者が、非居住企業(日本企業)に対して国内企業(中国企業)への投資に係る意見を提出する、非 居住企業(日本企業)を代表して国内企業(中国企業)の株主総会又は董事会の会議に参加する等の活動を含む。)については、これを国内企業(中国企業)の営業場所において行ったとしても、非 居住企業(日本企業)が中国国内で機構、場所又はPEを設立したものとはみなされないこととされた(2条)。

 また、主管税務機関が非居住企業(日本企業)の企業所得税納税義務の有無を判断するに当たっては、①非居住企業(日本企業)、出向先の国内企業(中国企業)及び出向者との間の契約又は取決め、② 非居住企業(日本企業)又は国内企業(中国企業)の出向者に対する管理規定(出向者の業務職責、業務内容、業務考査、リスク負担等についての具体的な規定を含む。)、③ 国内企業(中国企業)が非居住企業(日本企業)に支払う費用及び帳簿処理状況、出向者の個人所得税納税申告資料、④国内企業(中国企業)の取引相殺、債権放棄、関 連当事者との取引又はその他の形式を通じた派遣行為に係る費用の支払隠蔽の有無、といった派遣行為に係る資料を重点的に審査するとされている(5条)。

 非居住企業(日本企業)から国内企業(中国企業)への出向者や派遣社員等がコンサルタントPEに当たるか否かを中国税務当局が判断するに当たっては、2 013年6月1日に施行された国家税務総局公告2013年第19号を含む上記通達の挙げる要素が考慮されるため、出向契約や出向者に係る費用負担のしくみを確定するに当たっては、上 記の各要素を踏まえた検討が必要となる。

5.中国PE課税に係る留意点

 以上を踏まえ、日本企業が中国の子会社等に出向者を出す場面等で、中国におけるPE課税がなされるリスクに対処する上でのいくつかの留意点を指摘する。

 まず、日本企業として注意が必要なのは、中国子会社の指揮命令下で業務を行わせるべく日本企業から中国子会社に対して出した出向者の業務が、親会社による役務提供であるとして、中 国においてコンサルタントPEを構成すると認定されるリスクがあることである。このようなリスクに対処するためには、4.(iii)の通達等で示された要素に留意しながら契約関係等を慎重に構築し、かつ、そ の構築した仕組みを証明するための書面資料を準備しておき、税務調査等の場面においては、出向者の真の雇用者が出向先企業であることを中国税務当局に対して、適切に説明する必要がある。

 次に、上記3及び4.(i)(ii)に従い、「12箇月の間に合計6箇月を超える期間」の判定において、独立した複数のプロジェクトがある場合には、全 体が一つの関連プロジェクトではないかと不当に疑われないよう、契約書等を独立して作成し、各プロジェクトが独立したものであることを明確にしておく等の対策が考えられる(もっとも、中 国におけるPE認定は中国税務当局による事実認定次第という側面もあるため、単に契約を細分化するのみで、各プロジェクトが独立したものであると認められない場合は、中国税務当局により「複数の関連工事」と 認定されるリスクが存することには留意する必要がある。)。

最後に、仮にPE認定を受けた場合でも、推定課税により課税がなされないよう、中国において関連法規に従い帳簿を設置し、適正な根拠に基づいて記帳を行うよう努めることである(上記2(1))。

 以上のほか、中国PE課税の関係では、2013年6月1日に施行された国家税務総局公告2013年第19号のように法改正が相次いでいることから、最新の法改正にも対応し、かつ、専門家等を利用して、個 別の事案に応じた特殊性にも配慮した適切な対応を採ることが肝要であると思われる。


【付記】

論考の中で表明された意見等は執筆者の個人的見解であり、科学技術振興機構及び執筆者が所属する団体の見解ではありません。