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【13-018】中国の大気汚染防止の法制度および関連政策(Ⅳ)

2013年 8月 1日

金 振

金 振(JIN Zhen):公益財団法人地球環境戦略研究機関(IGES)
気候変動・エネルギーエリア研究員

 1976年、中国吉林省生まれ。 1999年、中国東北師範大学卒業。2000年、日本留学。2004年、大 阪教育大学大学院教育法学修士。2006年、京都大学大学院法学修士。2009年、京 都大学大学院法学博士。2009年、電力中央研究所協力研究員。2012年、地球環境戦略研究機関特任研究員。2013年4月より現職。

前回のつづき

3.大気汚染防止法の仕組み

(4) 環境計画中心の政策体系

(4.1) 行政計画の法的位置づけ

 「国民経済および社会発展に関する国家計画」(通称、国家発展5ヵ年計画)に代表されるように、中国の様々な政策、制度の実施において、行政計画が重要な役割を果たしている。中国の場合、行政計画に広範な法的規範性が賦与されていること、また、計画の策定・変更手続が比較的に簡単であることから、政策決定・執行過程において行政計画が多用されている。

「行政計画に法的規範性が賦与されている」という意味は、以下の2つの視点から説明できる。第1に、行政機関(中央および地方政府)が策定した計画は、法規範としての性質があるため、計画で策定した数値目標や政策方針には強い法的拘束力が働く。例えば、第12次5ヵ年計画にて決定した大気汚染物質総量削減目標は、地方政府のみならず一般事業者も拘束する法的効果があるという点についてすでに述べた。

 第2に、行政計画には、授権規範としての性質があるため、上位行政機関が策定した行政計画を根拠に、下位の行政機関は、計画実施のための行政法規や規範性文書等を策定することができる。つまり、行政機関は法令や条例を介さなくても、上位行政機関が策定した計画のみを根拠に規制制度を導入することができる。

このように、中国における行政計画には強い法的拘束力があるだけではなく、授権規範として法的性質もあるため、法令に替わる法規範として、あらゆる政策分野に用いられている。環境分野、とりわけ大気汚染防止政策分野も例外ではない。制度の全体像を把握するためには、まず、大気汚染防止関連の行政計画について理解を深める必要がある。

(4.2) 大気汚染防止に関する主な国家計画

 現在、大気汚染防止に関する国家計画として、主に、①第12次5ヵ年国家発展計画、②第12次5ヵ年環境保護計画、③「第12次5ヵ年計画における節能減排に関する総合工作方案」(以下、省エネ・排出総量削減総合工作方案)、④「節能減排(省エネおよび汚染物質排出削減)に関する第十二次五ヵ年計画」(以下、第12次5ヵ年省エネ・排出総量削減計画)、⑤「重点区域大気汚染防止に関する第12次5ヵ年計画」(以下、第12次5ヵ年重点区域計画)、がある。

図

図1 中国における大気汚染防止関連計画の体系、内容

 図1は、これら5つの計画の内容やそれぞれの関連性について簡単にまとめたものである。周知の通り、①の第12次5ヵ年国家発展計画は、中国の社会経済のあらゆる分野が含まれた国家計画であり、省エネや環境分野のように、明確な定量目標が定められているものも少なくない。第12次5ヵ年国家計画は国務院が策定し、全国人民代表大会(以下、全人大)の承認を得て初めて法的効果が発生する。国務院は、ここで掲げた具体的な数値目標について、全人大に対し目標達成の政治的な責任を負う。大気汚染防止政策と密接な関連性がある目標は、汚染物質排出総量削減目標と省エネ目標であり、いずれも、国全体の目標として掲げられている。

 ②の第12次5ヵ年環境保護計画は、①に基づいて策定した国レベルの環境計画であり、主に、環境保護部が策定し、国務院の承認・公布を経て確定される。計画では、環境分野全体に渡る国家目標(主に、汚染物質排出総量、大気質、水質に関する全国目標)と関連政策がまとめられている。

 ①に基づいて策定される③の省エネ・排出総量削減総合工作方案、④の第12次省エネ・排出総量削減計画は、国家改革発展委員会と環境保護部が共同で策定している点、国務院の承認・公布を経る必要がある点、また、汚染物質排出総量削減政策のみならず省エネ政策も含まれている点、においては共通している。違いは、①は、国家目標を31の省級政府目標に配分するために作られた計画であり、②は、国家目標を業界ごとの目標に再分配するために策定されたものである。

 ④の第12次5ヵ年重点区域計画は、47のメガ都市に限定して実施する区域計画である。同じく、①に基づいて策定された計画であり、大気汚染対策に特化した計画である。主に、国家環境保護部、国家発展改革委員会、財政部が共同で策定し、国務院の承認・公布を経て執行される。特徴は、都市単位の目標と企業単位の目標が両立している点である。特に、前者の場合、①~④において掲げていないPM10 & PM2.5目標が含まれており、また、一部の都市に限り、2016年より全国適用するはずのPM2.5基準を、前倒しで適用している点が注目に値する。

 また、①~⑤に共通するが、いずれの計画も中央政府または地方政府が取るべき規制措置や補助金措置等について規定しており、国や地方の制度導入に必要な授権規範を提供している。