取材リポート
トップ  > コラム&リポート 取材リポート >  【13-23】優れた技能引き出す努力を OECD教育局次長提言

【13-23】優れた技能引き出す努力を OECD教育局次長提言

2013年11月 8日 小岩井 忠道(中国総合研究交流センター)

image

 経済協力開発機構(OECD)が初めて実施した「国際成人力調査」を担当したシュライヒャーOECD教育局次長が来日、10月31日日本記者クラブで記者会見した。

 10月8日公表された「国際成人力調査」によると、「読解力」(文章を理解、評価、利用して社会参加する能力)と「数的思考力(数学的情報や概念を利用、解釈し、伝達する能力)のいずれにおいても日本は調査対象となった24の国・地域の中でトップ。ただし、もう一つの調査対象技能である「IT を活用した問題解決能力」では、平均レベルで「良くも悪くもない」という結果だった。

 シュライヒャー氏は、「日本はせっかくの人材を生かし切れていない。優れた人材からもっと価値を引き出す努力が必要」と提言した。

 OECDは、これまで15歳の生徒たちを対象とする「学習到達度調査(PISA)」を2000年以来、3年おきに実施している。2009年に行われた直近の調査では、読解力、数学リテラシー、科学リテラシーとも日本は上位グループに入っているとされた一方、初めて調査に特別参加した上海が全てでトップの成績だったことが大きな関心を呼んだ。

 シュライヒャー氏は「伝統的に日本はどちらかというと知識を習得することにたけていたが、自ら学習する意欲にやや問題があった。しかし、ここ数年のPISA結果を見るとこうした問題も改善されている」とあらためて日本の若者の学力の高さを評価した。今回の「成人力調査」結果も「これまでのPISAの結果と合っている」と賞賛しつつ、「高い技能を持つ日本のグループには、自己管理能力や企業家精神をもっともっと改善していくことが求められている」とさらなる努力を促している。

 16-65歳の成人を対象に行われた今回の調査は、単に国別の能力比較が目的ではない。「読解力」「数的思考力」「IT を活用した問題解決能力」といった重要なスキル(技能)が、職場や家庭でどのように使われ、社会にどのような影響を及ぼしているかを見ることだ。例えば、米国は、55-64歳の高齢層の技能力はほぼ平均値を示しているのに対し、16-25歳の若者の成績は最下位。親の教育水準が低いとその子の読解力も低いなど、年齢や学歴などによる格差があまりない日本と対照的な結果となっている。

 シュライヒャー氏は「日本は技能がもともと高い。逆に米国は、もともとは高くない技能を引き出す能力にたけている。車に例えるとブレーキを利かせずスムースに走らせる、つまり女性や非正規雇用者をもっとうまく労働力の中に組み入れることで、日本はより生産性を高められるはず」と語った。

 さらに氏は次のようにも言っている。「今は知識に給料が払われる時代ではない。知識を使って何をするかに払われる時代だ。創造力に富み、創意工夫ができる。問題解決能力がある。主体的に物事を動かすことができる。人と協力して協同できる。コミュニケーション能力がある。そうした人が価値ある人材として扱われる。さらにITデジタル時代に必要ないろいろなツールを使いこなせる能力が給料に結びつく時代ということだ」

 「日本は、どのレベルの生徒にもしっかり教育するだけでなく、優秀な生徒たちによりよい教育を与えることにもっともっと努力する余地がある」

 OECDは今回の「国際成人力調査」結果から次のような結論を公表している。

世代を超えた進歩

 過去数十年で、より多くの人により良い読解力と計算の技能を身につけさせることに、大きな進歩を示した国もある。例えば韓国の若者は日本の若者よりも良い成績を収めている一方、55歳から64歳の労働者の水準はこの年齢の最下位3グループの1つになっている。 フィンランド人の高齢者の成績は平均とほぼ同じだが、若者の成績は日本、韓国、オランダとともにトップレベル。イングランドと米国の若者の読解力と計算の技能は、退職間近の人々とあまり違いはない。

スキルと学歴との格差

 実際の技能の水準とその人の学歴との間に大きな差がある場合が見受けられた。しかしオーストラリア、フィンランド、日本、オランダ、ノルウェーでは、高卒資格を持たない成人の4人に1人以上が5段階中3番目のレベルに達しており、若いころの学業が限られていても技能を身につけることができるということを示している。

社会的背景の影響はさまざま

 社会的背景が技能に強い影響を及ぼしている国もある。 イングランド、ドイツ、イタリア、ポーランド、米国では、親の教育水準が低いと、その子どもの読解力の技能は親の教育水準が高い子どもよりもはるかに低い。両グループ間の差が最も小さいのは、オーストラリア、エストニア、日本、スウェーデン。

技能への経済社会的影響

 平均すると、読解力テストでトップレベルの点数をとった労働者の時間給の中央値は、最も低い水準の点数だった労働者よりも62%高い。チェコ、エストニア、ポーランド、スロバキア、スウェーデンなどでは、賃金格差は比較的小さく、米国、韓国、アイルランド、カナダ、ドイツでは格差が大きくなっている。低技能の成人は、高技能の人と比較して、他人への信頼感が2倍も低く、市民社会に関与しているという感じも半分程度しか持っていない傾向がある。

移民の課題

 移民の成績は、その国で生まれた人よりも悪く、特に子どものころからその移民先の国の言葉を習わなかった人に見られる。 しかし、移民先の国での滞在期間が長くなると技能の習熟度も向上しており、移民の社会統合政策が果たす役割の重要性が示されている。

成人教育

 高技能の労働者は、低技能者よりもさらなる訓練を受ける傾向が平均で3倍も高い。デンマーク、フィンランド、オランダ、ノルウェー、スウェーデンは、低技能労働者の成人教育率を高めることに最も成功している。カナダ、イングランド、北アイルランド、アイルランド、イタリア、スペイン、米国といった低技能の成人の割合が高い国々は、特に職場における成人教育の利便性を高める努力をする必要がある。