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【14-01】3中全会決定で地方政府の行動改善 国務院発展研究センター研究者が予測

2014年 1月 8日 小岩井 忠道(中国総合研究交流センター)

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  JICA研究所の招きで来日した中国国務院発展研究センターの林家彬・社 会発展研究部巡視員(部長待遇研究員)が、2013年12月12日講演し、中国共産党第18期中央委員会第3回全体会議(3中全会)の決定で、地方政府の行動様式が大きく変わるとの見通しを示した。

 中国共産党は2013年11月15日、3中全会で採択された「 改革の全面的深化における若干の重大な問題に関する中共中央の決定」全文を公表した。3 中全会最終日の11月12日に公表された コミュニケとの比較などから、多 方面にわたる改革が盛り込まれた決定の効力を疑問視する声も日本国内の中国研究者から聞かれる(2013年12月11日中国研究サロン「中国はどこへゆく」リポート「 習政権の軍依存3中全会で明確に 國分良成氏分析」、2013年11月13日 シンポジウム 「中国政治の光と影-習近平体制の課題と展望-」 リポート「 改革の徹底に日中の専門家から期待と懸念」参照)。

 しかし、林氏は、コミュニケが分かりにくいとして株式市場などに失望感を招いたことは認めたものの、決定については「期待に応える内容となっており80点以上を付ける人が多い」と 盛り込まれた改革策に高い評価を与えた。

 林氏の講演は、まず、35年前に始まった改革開放路線によって成し遂げられた長期に及ぶ経済成長が、地方政府の行動様式に大きく起因することを自身の研究成果も基に詳しく解説した。氏 が地方政府の行動様式を決めてきた要因として挙げたのは、次の5つ。「幹部選抜メカニズムと業績評価体系」「財政税制制度」「土地制度」「中央地方関係」に加え、国民経済と社会発展計画、都市農村計画、土 地利用計画といった「計画制度」だ。

 地方政府幹部の評価が経済指標に偏っていた結果、ビルや道路建設など目立つものは力を入れるものの、下水道や福祉など見えにくいものは手を抜く。企 業関連税収を主にせざるを得ない税制構造のため企業誘致に力を注ぐ。それでも不十分なため土地の収用・売却に走り、かつ売却金を高くするため地価を押し上げ、さ らに不動産関連税収を挙げるため住宅価格の高騰も黙認・歓迎する…という結果を招いた、と林氏は指摘した。

 こうした地方政府の行動様式を許した要因に、都市の土地は国有なのに農村は農民集団所有、かつ農村の土地は政府がいったん収用しないと売買は許されない、という不平等な土地制度があることも挙げている。結 果として、土地を売買した収益の大半は地方政府に入り、農民はあまり恩恵にあずかれない、という現実を氏は示した。

 3中全会の決定には、「単純に経済成長速度で業績を評価する傾向を是正」など地方政府幹部の業績評価や選抜方法の改革が盛り込まれている。「地方税体系を改善し、直接税の比重を漸次引き上げる」な どの財政税制改革に加え、「農村集団経営性建設用地の譲渡、賃貸、資本化を許し、国有土地と同等の市場権利を与える」といった土地制度の改革も盛り込まれた。さらに「市場で価格形成できるものは市場に任せ、政 府は不当干渉しない」など経済自由化の推進策や、「地方によって管理すればもっと便利で有効な経済社会事項は、全て地方と基層に管理させる」という地方分権の推進も明記されている…ことも林氏は評価した。 

 そのほか、裁判を経ずに人を拘束できる「労働教養制度」の廃止など法治国家を目指す方策や「地方政府とその構成機関の権限リスト制度を実施し、法律に基づき権力の実行プロセスを公開する」と いった腐敗防止・摘発の推進策、「自然資源資産財産権制度と用途規制制度の整備」など環境保護の推進策が盛り込まれていることの意義も強調している。特に重要領域については「2020年までに、本 決定の提出した改革任務を完成させる」と時期を明示したことに、大きな期待を示した。

JICA研究所ウェブサイト: 林家彬中国国務院発展研究センター社会発展研究部長講演

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