【14-11】双方向の日本語学習支援アジアで展開

2014年05月09日 小岩井 忠道(中国総合研究交流センター)

 これまで海外で日本語を学ぶ青少年は、中国、韓国が突出して多かった。ところがASEAN(東南アジア諸国連合)各国の日本語学習熱も急激に高まっている。国際交流基金の「 2012年 海外日本語教育機関調査」によると、2012年の日本語学習者が最も多かった国は中国(約105万人)だったが、3年前に3位だったインドネシアが2位に浮上した。数 も約87万人と中国との差を縮めている。3 年前にトップだった韓国は、学習者数84万人と3年前に比べ12万人余り減らして3位に後退した。

文化のWA(和・環・輪)プロジェクト

 こうしたASEAN諸国の日本語に対する関心の高まりにもマッチした新たな国のプロジェクトが、今年度からスタートした。「 文化のWA(和・環・輪)プ ロジェクト~知り合うアジア~」だ。推進機関となる「 アジアセンター」が4月1日、国際交流基金の中に設置された。「 日本語学習支援事業」が、「芸術文化の双方向交流事業」とともにこのプロジェクトの2つの柱の一つになっている。

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日本語パートナーズ説明会(東京会場 提供:国際交流基金)

 3月20日、日本記者クラブで記者会見した安藤裕康・国際交流基金理事長によると、言語学習支援、芸術文化交流において日本は中国、韓国に相当水をあけられている。中国は、中国語と中国文化を教育・宣 伝し、友好関係を深めることを目的に「孔子学院」を世界各国に設立している。その数は2013年末現在、1,086カ所を数える。来年にはこれを1,500カ所に増やし、現 在すでに6,000人いる中国語の教師も5万人に増やす計画という。韓国もまた金大中・大統領時代の1998年に始まったコンテンツ産業育成策の成果が現れており、例 えば地上波テレビ番組の輸出本数は日本の3倍にも達している。

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「文化のWAプロジェクト」発足式典であいさつ
する安藤裕康・国際交流基金理事長
(写真:コタニシンスケ 提供:国際交流基金)

 同基金の調査によると、海外で日本語を学ぶ人の数は1974年の7万7,827人から2012年の398万5,000人と約40年で50倍強に増えた。ASEAN諸国についてみると、2 012年には113万人に達し、この3年間で約24.7%増えている。

 「日本文化に対する関心が高まっているのに、日本側からの供給は不十分。明治以来の伝統で、文化に対するプライオリティ(優先度)が低いためだ。中国、韓国には大きな差をつけられてしまったので、双 方向の文化・芸術交流を図るという日本らしいやりかたで進める。アジアの多様性を尊重し、相手国と対等な立場に立った…」。安藤理事長は今回のプロジェクトについての意気込みを語っている。

 「文化のWA(和・環・輪)プロジェクト」が、日本とアジア各国とがお互いを理解し、友好関係を強めることに大きな力となれるだろうか。プロジェクトの準備状況などを下山雅也・国 際交流基金アジアセンター部長に聞いた。

高まる日本語学習熱に対応

―東京オリンピックまでの7年間で300億円の予算が投入されるということですが、こうしたプロジェクトが発足するまでの経緯を伺います。

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下山雅也・国際交流基金部長

 2013年1月、安倍首相が発表した「対ASEAN外交5原則」の4番目に「アジアの多様な文化、伝統を共に守り、育てていく」ことがうたわれました。それを受けた 「アジア文化交流懇談会」( 山内昌之座長)の提言と、日・ASEAN友好協力40周年記念シンポジウム「 調和するアジア―文化交流の新時代」を 経て、昨年12月14日に東京で開かれた「 日・ASEAN特別首脳会議」で、今 回のプロジェクト内容を盛り込んだステートメントと実施計画が採択されました。

―「文化のWA(和・環・輪)プロジェクト」の二本柱が、「芸術文化の双方向交流事業」と「日本語学習の支援事業」となっていますね。後者の方が、事業内容や狙いがより明確という印象を受けます。日 本語学習支援事業をどのように進めるのか、説明願います。

 海外の日本語学習者はずっと中国、韓国が突出して多かったのですが、ASEAN諸国も近年、急増しています。特にインドネシアはこの約5年間で3倍になっています。高 校の第2外国語として日本語を学ぶ生徒が多く、約2,000校ある日本語を教え始めている学校の9割が高校です。タイ、マレーシア、フィリピンも学習者が急増しています。タイなどもほとんどが高校生なのですが、ベ トナムのように小学校でも日本語を教えている国もあります。

 問題は、増える学校、生徒数に先生の数が追いつかないということです。短期間のトレーニングを受けただけの教師も多く、先生の質を上げることが求められています。安藤理事長とインドネシア・ジ ャカルタの高校を訪問したとき、出迎えてくれた生徒たちが、AKB48のヘビーローテーションを歌ってくれました。ところが、その高校に日本人が来たのは初めてというのです。せ っかく日本語を学んでも日本人と接触する機会がない。これでは学習しても面白くなく、学習意欲がなかなか上がらないということでしょう。

日本語パートナーズ3,000人派遣

―どのような日本語学習支援をどの程度の規模で行おうとしているのですか。

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「文化のWAプロジェクト」発足式典であいさつする安倍首相
(写真:コタニシンスケ 提供:国際交流基金)

 東京オリンピックが開かれる2020年までに約3,000人を派遣する計画です。当初の計画では、派遣先は日本語教育機関数に応じて、インドネシアが最も多く1,950人、次いでタイ330人、マ レーシア108人、ベトナム90人、フィリピン70人、ミャンマー20人、シンガポール18人、ラオス8人、ブルネイ4人、未定400人という内訳です。

 派遣される人は、日本語教育の専門家ということにこだわりません。むしろ日本語を教えること以上に、日本人をアジア各国の学校教育の現場に立たせることの意義を重視しています。現 地の先生のパートナーとして発音を教えたりすることに加え、生徒に遊びを教えたり、さらには日本人がどのようなことを考えているかを学校内だけでなく、地域の人たちにも知ってもらうような活動を期待しています。高 校生たちに溶け込めて、現地のことを理解したいという意欲を持つ人が望ましく、教員資格の有無や学歴は問いません。年齢も20~69歳と大きな幅を持たせています。

―初年度の計画を教えてください。

 インドネシア、タイ、フィリピン、マレーシア、ベトナムの5カ国に派遣する予定です。第1回の公募を3月11日に始めました。インドネシアに9月中旬から9カ月間派遣する25人、タ イに9月初旬から6カ月派遣する30人、フィリピンに10月中旬から10カ月派遣する3~4人、同じく9月中旬から6カ月派遣する1~2人です。

 第2回の公募を4月下旬に開始します。こちらはインドネシア25人(12月中旬から6カ月)、マレーシア10人(2015年1月中旬から9カ月)、ベトナム10人(12月初旬から6カ月)です。初 年度は合わせて105人に抑えていますが、来年度からは年間300人以上に増やす予定です。それぞれ書類選考、面接を経て合格者を内定した後、派遣地域・機関を決め、1 カ月間の研修を終えてから現地へ行ってもらいます。

応募者の半数50代以上

―公募に対する反響はいかがですか。

 日本語パートナーズ説明会を3月29日に東京と京都で開きました。東京はあまり広くない当基金内のホールで開いたのですが、午前、午後合わせて約250人という予想以上の方が集まってくれました。7 割は50代、60代の方たちでしたね。4月10日に締め切ったインドネシアは25人の枠に154人の応募がありました。60代(3割)を含む50代以上が半数、20代が3割、他 2割が30代~40代という内訳です。何らかの形で日本語教育に関わっている人、あるいはインドネシアに滞在したことがあるといった海外生活経験者が多かったです。

 これまで日本語教育支援で海外へ派遣されていたのは、日本語教育学を学び、修士号を持ち、教師の経験が何年以上といった人たちが多く、派遣先も日本語教師を養成するような大学がほとんどでした。で すから新しい日本語学習支援事業は「日本語パートナーズ」の派遣事業と称しているわけです。日本語教師ではなく…。

 双方向というのがプロジェクトの重要なキーワードです。現地のことを理解し、グローバル時代に日本人が知らなければならないことを日本に帰ってから発信してくれることも「日本語パートナーズ」の 方々には期待しています。


 (注)国際交流基金は1972年に設立されて以降、毎年、海外諸国に日本語の専門家を派遣している。2013年には、世界各国に日本語教育の専門家(上級専門家、専門家、指導助手、若手日本語教員)1 49人が派遣された。このうちASEAN諸国への56人を含めアジア各国は計73人となっている。これらの専門家は、「日本語専攻学科や教師養成課程、修士課程などの立ち上げや、中 等教育段階での日本語導入の支援」(上級専門家)、「現地の日本語教師への助言・指導、カリキュラム編成や教材作成等について支援、派遣先国あるいは周辺地域の日本語教師を対象とした研修会の実施、教 師間のネットワーク形成、日本語教授法や日本語教材作成に関する助言・指導」(上級専門家、専門家)、「派遣先の日本語教育機関の日本語講座の授業を実際に担当」(専門家)、「 上級専門家や専門家の指導を受けながら、基金海外拠点や派遣先の日本語教育機関において、日本語講座の授業や日本語教育事業を担当」(指導助手)など役割が異なる。

 さらに応募資格も「文化のWA(和・環・輪)プロジェクト~知り合うアジア~」で派遣される日本語パートナーズとはだいぶ異なる。「日本語教育関連分野において修士号以上の学位を有する」(上級専門家、専 門家)、「大学で日本語教育を主専攻または副専攻として修了ないし終了見込み」(指導助手)というように、日本語教育が専門の人たちで、特に上級専門家、専門家はそれぞれ通算10年、2年以上の中等・高 等教育機関、日本語学校等の日本語教師(非常勤含む)勤務経験が必要とされている。派遣期間も2年ないし2年以上と日本語パートナーズより長い。


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