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【15-02】ウクライナ問題中国にとって誤算 小原凡司氏が分析

2015年 1月16日 小岩井 忠道(中国総合研究交流センター)

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 民間シンクタンク「東京財団」の研究員たちが1月13日「2015年の内外情勢を展望する」と題した公開討論会を、同財団で開いた。中国の軍事戦略に詳しい小原凡司研究員は、欧米諸国の安全保障、外交は西からのアプローチを最優先する、と指摘したうえで「日本は欧米、中国、ロシアのいずれにも偏らないバランス感覚を持つことが重要」と提言した。

 昨年12月17日の同財団主催講演会では、攻撃的現実主義の代表的研究者とされるジョン・ミアシャイマー米シカゴ大学教授が「ウクライナ危機は中国に有利に働き、日本にも大きな影響を及ぼす可能性がある」と警告したばかり。小原氏は、「ウクライナ問題は中国にとってむしろ誤算だった」と語り、ミアシャイマー教授とは異なる見方を示した。

 「中国は『共産主義の輸出』、『世界共産化』などと主張したことはない。『中国の夢』など自分のことしか言っていない」。小原氏は、まず世界が注視する「中国の台頭」について、旧ソ連がかつて引き起こした状況とは大きく異なることを強調した。国際社会において「歴代王朝と同程度の位置を占めるのが中国の目標」という中国人研究者の言葉を紹介し、この目標が「世界GDPの4分の1を占める」ほど大きなものであることに注意を喚起している。

 その上で「国内に抱える問題もあって中国は経済活動を外に広げなければならない。問題は世界の経済成長率が中国のように高くないこと。中国が自分の夢を実現しようとすると、他国の経済を浸食せざるを得ず、そこに大きな衝突が生じる恐れがある」との懸念を示した。

 小原氏は、欧米と日本の置かれた地理的位置と他国への対応の違いを重視している。

 ロシアを含む東欧がまずあって、次に中東、その先となると中央アジアまで、というのが米国、欧州、北大西洋条約機構(NATO)のアプローチの仕方。これに対し中国が目の前に大きく存在し、その先はなかなか見づらいのが日本。欧米、ロシア、中国との関係を考えて、どこにも偏らないバランスのとれたアプローチが日本には必要だ…と提言した。

 また「安全保障は国の持つ資源を全て動員してあたるべきもの」と、軍事力だけを重視することに対しては否定的な考え方も示している。

 小原氏は、昨年8月、日本記者クラブ主催の記者会見で、昨年3月のロシアによるウクライナのクリミア併合後に起きた情勢変化が中国にとっては好ましいことではなかった、との見方を明らかにしている。

 「中国の望みは、米中がどのような地域でも自由に自国の権益を追求し、お互いに干渉しない世界。国内の批判が怖いので小国とは衝突しても自国の権益を守ろうとする。しかし、大国間の軍事衝突は避けなければならないと思っている。自分がコントロールできる範囲で米国、ロシアのバランスをとりたかったのが、ウクライナ問題でいきなり状況が変わり、ロシアから背中を押されたという感じになった」

 他方、ウクライナ問題についてミアシャイマー米シカゴ大学教授は、昨年12月の東京財団主催講演会で、「米国は、中国がアジアを支配することは許せない。中東、欧州からアジアに軸足を移し、台頭する中国を封じ込めるためにロシアとも協調する必要があるのに、ウクライナで問題を起こしたのは愚か。ロシアを敵に回し、なおかつ中国とロシアを接近させてしまった」と断じている。


YouTube動画サイト 東京財団研究員討論会「2015年の内外情勢を展望する」
YouTube動画サイト 日本記者クラブ主催記者会見 小原凡司東京財団研究員「中国とどうつきあうか」
日本記者クラブウェブサイト「日本記者クラブ主催記者会見 小原凡司東京財団研究員「中国とどうつきあうか」会見詳報
YouTube動画サイト 東京財団主催講演会 ミアシャイマー米シカゴ大学教授「攻撃的現実主義の視点から読み解く、中国の台頭とロシアのクリミア併合」