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【16-24】中国留学経験者訪中団が北京・上海を訪問(その1)

2016年11月16日 石川 晶(中国総合研究交流センター フェロー)

 10月30日から11月5日までの日程で、中国留学経験者訪中団(団長:小口彦太江戸川大学学長)が北京・上海の政府関連機関、大学、企業などを訪問し、各担当者とのディスカッションを行った。

 この訪中団は、中華人民共和国駐日本国大使館が主催し、教育部留学服務中心(中国側)と早稲田大学孔子学院(日本側)が実施するもので、46人の中国留学経験者が選抜された。

 1979年の日中両国政府により留学生相互派遣に関する合意がなされて以来、両国間では語学のみならず各専門分野の研究を目的とした留学を通して人的交流が盛んに行われ、それぞれの国で学んだ人材が各方面で活躍するようになった。留学生相互派遣が始まってから40年近くの月日が流れたが、その間、両国のおかれる状況と関係性も変化を見せてきた。特に昨今、中国は急速な経済発展を遂げる一方で日中間の関係は緊張状態がつづき、多少の改善の兆しを見ることができるものの、未だ正常に戻ったとは言いづらい状況にある。

 このような中、東京の中国大使館は、過去に中国をその肌で感じ直接目で見てきた留学経験者に今の中国を実際に見てもらい、日本と中国との絆について再考を促し、日中関係の改善のきっかけになることを目的とし、今回の訪中団を企画した。

 今回の訪中団は、留学生相互派遣が始まって間もない80年代に留学経験のある社会人から、つい数ヶ月前まで中国の大学で中国語を勉強しながら専門分野でも研究を行っていた現役の大学生まで、非常に幅広い年代層によって構成された。

 一行は北京では中国外交部、中国教育部北京大学をはじめとする市内の大学、在中国日本国大使館、華為技術有限公司を、その後上海へ移動し、復旦大学、中国(上海)自由貿易試験区行政服務中心、上海ヤクルト工場などをそれぞれ訪問した。

 最初の訪問先である外交部では、外国記者新聞中心でアジア司参事官の楊宇氏とディスカッションを行った。楊参事官は、日中関係が厳しい現状を変えるには、両国を深く理解する留学経験者が周囲に中国、日本に関する正しい情報を発信することが重要であり、日中交流を促進するためのキーパーソンになって欲しいと参加者に対して述べた。また2017年は日中国交正常化45周年、2018年は日中平和友好条約締結40周年の節目の年であり、この歴史的チャンスを逃さず、両国の関係が良い方向へ進んでいくように両国が努めていくべきであるとも語った。

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写真1 外交部でのディスカッション。中央奥は楊宇参事官

 中国教育部では国際合作・交流司の方軍副司長と直接対話することができた。方副司長は、これまで中国語学習のため短期・長期で中国留学した日本人が大きな割合を占めていたが、すでに中国国内の大学の研究レベルも飛躍的に向上し、居住環境も大幅な改善が見られるため、これからは各専門分野において長期で、特に修士生・博士生としての留学に期待していると語った。

 また日本の「留学生30万人計画」を高く評価したうえで、中国国内でも多くの日本留学のニーズがあり、教育部留学服務中心が主催となり毎年開催される中国国際教育展示会(日中大学フェア&フォーラム)では学生とその親族が日本の大学に非常に注目していることを紹介した。しかし中国の学生にとっては日本の環境技術、マンガ・アニメなどを勉強したくても日本語学習の難しさが高いハードルとなるようで、方副司長はその解決策として英語で行われる授業を増やせば格段に留学しやすくなり、また大学・専門学校などの国際化も一層進むのではないかと提案した。実際、中国では英語で行われる授業を積極的に増やし、欧米やアフリカなどから留学し北京大学をはじめとした多くの大学で学位を取得した学生が増加しているという。

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写真2 教育部国際合作・交流司の方軍副司長(中央)

 11月1日、一行は北京の在中国日本国大使館を訪問し、まず中国日本商会との懇談会に参加した。懇談会では中国日本商会の活動内容を、また中国で事業を展開する日本企業5社(住友商事、トヨタ自動車、キヤノン、三菱電機、三菱東京UFJ銀行、セブン&アイ・ホールディングス)の中国における各事業の紹介、中国市場の動向などについて説明を受けた。

 懇談会に続いて、大使館広報文化部長の山本恭司公使とのディスカッションが行われた。山本公使は日中関係について、これまでの諸問題の背景を解説しながら双方の信頼回復に向けた取り組みをいかに行うかを訪中団に説明するとともに、「中国留学経験者はわが国にとって日中交流おける貴重な人材でもあり、さまざまな場面で日中の橋渡し役になって欲しい」と述べた。また山本公使は参加者からの質問にも積極的に応じ、訪中団にとって大使館訪問は非常に貴重な経験となった。

 参加者のひとり、お茶の水女子大学文教育学部の村田有沙さんは「中国で活躍する日本企業の現場の苦労話や山本公使の中国とどう付き合うかという話は大変参考になった。学生である自分には滅多にない機会だったので、訪中団に参加することができて本当に良かった」と感想を述べた。

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写真3 在中国日本大使館における山本公使とのディスカッション

 11月2日、一行は中国を代表するIT企業である華為技術有限公司の北京会展中心を見学した。北京郊外の中関村環保科技示範園に建設された北京会展中心では、最新のネットワークインフラ技術やモバイルネットワークの活用事例などが展示されており、中国のIT企業がすでに世界有数のレベルにまで到達していることに驚きを隠せなかった参加者も少なくなかった。

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写真4 華為技術有限公司北京会展中心の見学

 早稲田大学人間科学部の竹内雄登さんは「展示物の規模に圧倒された。すでに世界170カ国以上に展開していることも思ってもみなかった」と述べ、中国のIT企業の発展のスピードに驚いた様子であった。

 本訪中団では母校へ訪れる機会も設けられており、北京市内の大学に留学経験のある参加者は北京大学、北京語言大学など各大学をそれぞれ訪問した。特に80年代、90年代に留学した本訪中団のメンバーからは、留学生寮や校舎などの設備が刷新されたことに対し、中国の教育の急速な発展ぶりを感じながらも、昔日の景色が見られなくなったことが少し残念に思えたという声があった。しかし各大学は訪中団の訪問を熱烈に歓迎し、留学時代の恩師に再会できた参加者の多くは感激の表情を見せていた。

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写真5 北京大学元培学院訪問の様子

その2へつづく)