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【16-25】中国留学経験者訪中団が北京・上海を訪問(その2)

2016年11月16日 石川 晶(中国総合研究交流センター フェロー)

その1よりつづき)

 高速鉄道で北京から上海へ移動した訪中団は、まず復旦大学を訪問した。復旦大学では留学生寮や語学クラスの教室などのキャンパス案内の後、国際文化交流学院による近年の復旦大学への留学に関する状況の説明と意見交換が行われた。

 復旦大学でキャンパス見学している時間帯と並行して、復旦大学以外の上海市内の大学へ留学していた訪問団メンバーは、上海交通大学上海外国語大学など母校を訪問した。教育部からの事前連絡があったため、各大学は訪問団を心から歓待し、参加者にとって有意義な時間となった。

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写真6 復旦大学での意見交換会

 11月4日、訪中団一行は中国(上海)自由貿易試験区行政服務中心を訪れた。一行は行政中心のスタッフから、中国(上海)自由貿易試験区が貿易手続きの簡素化、通関のスピードアップに努め、また積極的に金融取引の規制緩和を進めているという説明を受け、実際の事務手続きなどの現場を見学することができた。

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写真7 中国(上海)自由貿易試験区行政服務中心

 続けて一行は行政服務中心の近くに開設された「国家戦略の偉大な旗のもとに―」浦東開発開放テーマ展を見学した。改革開放政策により上海は中国のどの都市よりも発展したが、本展ではその過程および近未来のビジョンに関する展示が設置されており、短時間でも激動の時代を理解できる内容となっていた。

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写真8 浦東開発開放テーマ展

 一行が最後に訪問したのは、上海郊外のヤクルト上海工場であった。中国市場への進出の歴史や中国国内における販売戦略について説明を受けた後、実際に生産ラインを見ながら製造工程について解説を聞くことができた。また身近な製品であるためか、質疑応答の時間には大いに盛り上がり、なかなか質問が途切れなかった。

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写真9 ヤクルト上海工場

 帰国前日の4日夜、宿泊先の上海外国語大学内の施設で交流会が催された。開会のあいさつでは、教育部留学服務中心の孫建明主任が「訪中団の方々には今後も中国のあらゆる面について理解を深め、その上で日中交流の促進のために尽力して欲しい」と訴えた。

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写真10 教育部留学服務中心の孫建明主任

 また交流会では日本語を勉強している上海外国語大学の学生、上海外国語大学に留学中の日本人学生、大学関係者や現地で活躍する社会人らも参加し、訪中団を歓迎しながら積極的に交流を図っていた。

 訪中団メンバーのひとりで日本の大学に勤務する呉安那さんは、今回の訪中団について、特に北京大学復旦大学などの中国の各大学への訪問が仕事の上で非常に勉強になり、他方、企業訪問を通じて中国の若手従業員の傾向を把握できたことが収穫であったと語った。

 また日本・アジア間の留学のサポートを行う組織である日本百賢アジア研究院(関連記事)の事務局長を務める植田賢司さんは「参加できて本当に良かったと思う。母校を訪問できたことが何よりも印象深く、また若い世代との交流を通じ、彼らの秘めている大きなパワーを確認できた。是非とも来年度以降も継続させて欲しい」と筆者の質問に笑顔で答えた。

 一週間にわたり訪中団を率いた、副団長である江正殷早稲田大学国際部東アジア部門長は総括として、「かつての日本人留学生は語学を学ぶだけで、各研究領域のレベルについては常に日本が上で、中国から学ぶものなどあまりなかったかもしれないが、今は分野によっては中国のほうが上のレベルに達しており、また留学目的・方式も多様化している。本訪中団に参加したメンバーは世代も留学時期も違い各々抱く『中国観』は違うであろうと思うが、当時と今の中国は全く違う点を理解・把握しながら今後も中国とお付き合いして欲しい」と思いを語った。

 多くの訪中団参加者に聞いたところ、ほぼ全員がこのような企画に対し好意的な印象を持ち、継続すべきであると回答している。本訪中プログラムでは、日中関係の改善を促進するためには、やはり両国の国民がそれぞれお互いの国を訪問し、自分で見聞することが肝要であること、また中国留学経験のある日本人、反対に日本留学経験のある中国人が両国の正確な情報を周囲に伝えていくことが両国の相互理解のための鍵となっており、影響力も非常に大きいことを再確認させられた。

(おわり)