【18-07】日本企業の中国再評価進む みずほ総研のアジアビジネス調査

2018年5月7日 小岩井忠道(中国総合研究・さくらサイエンスセンター)

 ビジネス展開先として中国を再評価する日本企業が増えていることが、みずほ総合研究所が5月2日に公表した「アジアビジネスアンケート調査結果」で明らかになった。日本企業の中国ビジネスに対する取り組み姿勢について報告書は、「中国の景気持ち直しや日中関係の改善を受けて前向きになっている様子がうかがえる」としている。さらに日本企業のアジア進出の目的が内需狙いとなっていることを指摘し、「アジアのインフラ整備に取り組むことがアジアの内需拡大に寄与し、日本企業の市場拡大にもつながる」と提言している。

 報告書によると、「今後最も力を入れていく予定の地域」として日本企業が最も多く挙げた先は、ASEAN(東南アジア諸国連合)の中の5カ国(タイ、マレーシア、インドネシア、フィリピン、ベトナム)。しかし、今回2017年の調査結果で「ASEAN5カ国」を挙げた日本企業の割合40.8%は、前年に比べ1.7ポイント低下している。これに対し、中国は31.5%と「ASEAN5カ国」には及ばなかったが、前年に比べると1.4ポイントの上昇となった。次いで3位は「NIEs」(アジア新興工業経済地域=韓国、台湾、香港、シンガポール)の20.9%(前年比1.2ポイント低下)、4位米国11.9%(前年比1.4ポイント低下)、5位インド9.0%(前年比1.2ポイント上昇)となっている。

日本企業の「今後最も力を入れていく予定の地域」(複数回答)

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(みずほ総合研究所「アジアビジネスアンケート調査」資料から)

 みずほ総研がこの調査を始めた2007年以降、2011年まで「今後最も力を入れていく予定の地域」のトップは中国だった。「ASEAN5カ国」が中国を抜いて1位となったのは、日中関係が緊張した2012年。以来、この関係は変わらず中国は2009年の51.1%から年々、比率が下がり続け、2014年には29.7%と調査開始以来、初めて30%を下回った。その後も横ばい状態が続いていた。

 調査は、資本金1,000万円以上の製造業4,411社に調査票を送り、1,052社から回答を得た。このうち「現地にビジネス拠点を設けている」日本企業は28.6%の301社。最も多い進出先は「ASEAN5カ国」の186社で、次いで中国の177社だった。これらの社がそれぞれ拠点を設けている国・地域で「今後2~3年で検討している取り組み」として最も多かったのは、「ASEAN5カ国」、中国いずれも「ライン合理化などによる現地体制の増強」だった。報告書は「生産コストの上昇に対する対応が喫緊の経営課題になっている様子がうかがえる」とみている。

 中国再評価の理由は、「今後最も力を入れていく判断材料」を企業に聞いた答え(複数回答)からも見て取れる。「現地市場の拡大動向」を1位に挙げているのは、中国だけでなく、「ASEAN5カ国」に対しても同様の結果が出ている。しかし、「ASEAN5カ国」に対して「現地市場の拡大動向」を1位に挙げた企業は72.7%に上るが、前年より2.6ポイント低下した。これに対し、中国は前年より2.8%増の75.2%の企業が「現地市場の拡大動向」を第一の理由に挙げている。中国に対して2番目に多い理由として挙げられた「製品の原材料の調達の容易さ」についても、中国は前年より3.5ポイント増の31.7%だったのに対し、「ASEAN5カ国」に対しては、前年より2.3%減の17.0%にとどまった。

 一方、「ASEAN5カ国」に対し、「未熟練労働力の確保」と「技術者・熟練労働力の確保」を「今後最も力を入れていく判断材料」に挙げた日本企業は、いずれも中国に対してよりも多く、かつ前年より増えているという実態も明らかになった。こうした結果から、報告書は「日本企業のASEAN重視は続くもその勢いはピークアウト感がみられる」としている。

中国進出企業177社の中国拠点設置地域

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(みずほ総合研究所「アジアビジネスアンケート調査」資料から)

 中国に進出している177社の進出先をみると、華東地域(上海市、江蘇省、浙江省など)に拠点を置く企業が前年に続き最も多く65%を占める。華東地域には数では及ばないものの前の年より拠点を増やした日本企業が多かった地域は、華南地域(広東省、福建省、海南省、広西チワン族自治区)の33.9%(前年31.5%)。次いで、東北地域(遼寧省、吉林省、黒龍江省)12.4%(前年10.2%)、中・西部地域8.5%(前年6.9%)と続く。一方、華東、華南地域に次いで進出日本企業が多い華北地域(北京市、天津市、河北省、山東省)は前年の18.1%から14.1%に比率を落としている。

 これら177社が挙げた中国進出の狙いについて、前年に比べ目だった変化はどのようなものか。進出の狙いとして最も多かったのは、「生産コストの削減」で、76.3%と前年の67.1%からさらに上昇している。人件費が安く済むという利点は薄れたといわれているが、生産コストを削減可能という魅力が再び見直されていることがうかがえる。そのほかに、変化が目立つのは「国内拠点との生産分業体制の構築」で、前年の45.4%から53.7%に増えた。次いで「中国からの部材調達の強化」が、38.9%から43.5%に、「生産タイムの短縮化」が23.1%から30.5%にそれぞれ増えている。

 報告書は、こうした中国進出の狙いが達成されたかどうかについての企業の見方も伝えている。「達成できた」と答えた企業の割合(%)から「達成できていない」と答えた企業の割合(%)を引いたポイント数で達成度を比較している。前年に比べ達成度が大きく伸びているのは「国内市場への浸透」で、前年の20.5ポイントから33.5ポイントへと上昇した。「系列・関連会社以外の納品先の開拓」の伸びも目立つ(30.0ポイントから46.5ポイントに上昇)。さらに目を引くのが「現地における研究開発能力の取り込み」。前年は「達成できていない」とする答えが「達成できた」とする答えより15.4ポイントも上回っていたが、今回は逆転し、「達成できた」とする答えが「達成できていない」より26.9ポイント上回った。

中国進出企業の進出時の狙いと達成状況

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(みずほ総合研究所「アジアビジネスアンケート調査」資料から)

 中国拠点を経営する上での課題については、「中国市場での販売シェア拡大」をあげる企業数が、前年に引き続き今回もトップとなった。この他では、「中国市場での販売品の単価増」を重視する企業が、前年の29.6ポイントから、今回は39.6ポイントと大きく増えているのが目立つ。

 今後2,3年の投資環境については、懸念材料だった「大気や水質の環境汚染」と「為替レートの安定」が、前年より改善されたとみる企業が多い一方、「ワーカー人材の供給量拡大」については、さらに悪化したとみる企業が増えているのが目を引く。

 今回の調査結果を基にみずほ総研は、日本企業のアジア進出の目的が内需狙いとなっていることを指摘している。「内需拡大の基盤となるのはインフラ整備だ」とし、電力、港湾、産業道路などの工業インフラに続き、都市インフラを重視することを提言した。環境、安心安全、防災などの分野で蓄積してきたノウハウを生かして、アジアのインフラ整備に取り組むことがアジアの内需拡大に寄与し、日本企業の市場拡大にもつながるとしている。

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