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【14-09】中国の中等職業教育の発展段階と改革動向(その5)

2014年10月27日

陸 素菊:華東師範大学職業教育・成人教育研究所副教授
職業教育研究センター副主任

略歴

 蘇州大学政治学部卒。江蘇省教育委員会政策研究室科長研究員を経て、2003年名古屋大学大学院教育発達科学研究科博士学位取得、東京大学教育学研究科客員研究員。現在、華東師範大学職業教育・成人教育研究所副教授、上海市教育学会職業技術教育研究会事務局長、日本産業教育学会理事。専攻は学校職業教育・成人職業訓練。

その4より続き)

中等職業学校卒業生の就職状況

 企業現場の技能労働者の養成を目指す、また就職促進を重視する中等職業学校にとっては、その卒業生の就職率や初任給水準、定着率は中等職業教育の有効性を判断する重要な指標となった。そこで本節では、中等職業学校の新卒者の就職率とその変化、専門分野別の就職状況、そして就職の質を測る初任給水準、定着率の分析を通して、中等職業教育の有効性と課題を検討する。

中等職業学校卒業生の専門分野状況

 まず、2007年から2011年までの統計(表9を参照)を見てみると、中国の中等職業学校(機構)は約2,000万人の卒業生を社会に送り出してきた。全体的に、中国の経済発展に必要とされる第2次、第3次産業に該当する卒業生が大きな割合を占めている。また、中等職業学校卒業生の専門分野の変化を見ると、全体的に増加傾向のなか、情報技術類の減少と同時に、農林畜水産類の増加が見られ、産業構造の経年変化と農業大国である国情を反映している。2011年度中等職業学校の卒業生数の専門分野の分布は、高い割合を占める順位から見ると、加工製造類30.64%、情報技術類24.08%、財政経済・ビジネス類11.78%、医学衛生類9.60%、農林畜水産類7.06%、交通運輸類6.34%、文化芸術類3.55%となっている。上海の場合は、2007年度の中等職業学校の卒業生から見た専門分野の構成は、最も多い順位は観光サービス類26.40%、加工製造類17.30%、情報技術類12.21%であり、全国の状況と違い、上海の産業構造を反映したものと見られる(図6を参照)。

表9 全国中等専門学校卒業生の専門構造と変化(2007~2011年)(万人)

表9

出所:『中国統計年鑑2012』により作成
 

図6 上海市中等職業学校卒業生の専門分野別状況(2007年度)

表9

出所:上海市中等職業学校(中等専門学校、職業高校を含む)卒業生の就職情報広報(2008)
http://wenku.baidu.com/view/b55759dc7f1922791688e857.html

中等職業学校卒業生の就職率

 当局による最新のデータによれば、2010年度全国の中等職業学校の卒業生数は659.05万人であり、そのうち就業者数は636.40万人、平均就職率は95.56%に達した。また、卒業生の進路別の割合からみると、各種企業事業部門への就職の割合が77.96%、個人経営者の割合が12.8%、そして進学者の割合は9.19%となっており、進路先の割合は省内65.53%、省外34.20%、大陸外0.27%となっている。就職の情報源を見ると、学校推薦が最も多く79.26%であり、仲介機関は7.53%、その他は13.21%となっている。教育部の責任者によれば、数年来、自主的な起業、省内就職、学校推薦の割合が高くなっていることが2010年の特徴とみられる、とのことである[11]

 高等教育の普及率が高い上海市においては、中等職業学校の進路には進学の割合が近年ほぼ4割を占め[12]、ほかの地域よりかなり高くなっている(表10を参照)。

表10 上海市中等職業学校卒業生の就職進路の変化(2003-2007年)

表10

出所:上海市教育科技サービスセンターの調査より。
陳嵩「上海市中等職業学校卒業生就業現状分析」中国職業技術教育2008(3)から引用
(注:本表の中等職業学校は中等専門学校と職業高校のみ、技術労働者学校は含まれていない)

中等職業学校卒業生の就職の質

 中等職業学校の教育の質を測る指標として、新卒の就職率だけではなく、就職の質を示す専門分野と就職ポストが一致する程度を示す「対口率」、「初任給」の高さと就職後の「昇進のチャンスの有無」を加えて分析すれば、学校職業教育の成果と課題が見える。

 国家教育部職業教育と成人教育司が発表した「2010年中等職業学校卒業生就職の質に関するサンプル調査」[13]によれば、調査対象である71校の中等職業学校の全卒業生46,619人の就職率は98.40%とかなり高い水準に達し、就職ポストが専門分野と一致する卒業生は35,906人であり、就職した卒業生の75.79%を占める。初任給については、被調査卒業生の9.78%が月給1,000元未満、1,000-1,500元は57.36%、1,500-2,000元は26.95%、2,000元以上は15.78%となっている。高い就職率に隠れて卒業生の競争力が劣っていること、とくに低い初任給水準と「昇進のチャンスが見えない」という社会的経済的待遇の低さは中等職業教育が嫌われる理由であるとの判断が出された。

 中等職業学校卒業生の低収入状況と低定着率が、2006年に採用した社員を対象としたある企業調査[14]の結果から明らかにされた。職業教育と訓練を受けなかった「農民工」、3年制「専科」大学およびそれ以上の大卒と比較して、中等職業学校の卒業生は、固定給は月に1,400元であり、農民工(800元)より高い一方で、大卒(2,700元)の半分である。一年後の定着率は中等職業学校卒業生がもっとも低く、21.17%であり、農民工は90.62%、大卒は80%である。新卒後の雇用に対する満足度は、普通に満足19.73%、かなり満足2.46%の結果が示されており、低い状態になっている。

 中国の中等職業学校が大きな規模の卒業生を社会に送り出し、経済発展に寄与してきたことは確かな事実である。一方、中等職業学校の卒業生を雇う企業側には、中等職業学校の卒業生の定着率が低く、また「規律が守れない」「学習能力が低い」などの不満がある。また中等職業学校の生徒・卒業生の「不本意入学」の増加や、そして「低収入」、「将来への不安感」などに見られるように、大きなズレが存在することが見逃せない。それは、市場化のなか、政府と企業、また個人、それぞれ求める利益を反映するものであろう。

むすび

 改革開放後、中国の中等職業教育は高校教育の重要な構成部分として、急速な経済発展に必要とされた技能労働者の養成を目的として、また民衆の教育ニーズに対応し、就職促進の一環として、1980年代以降、いくつかの発展段階を辿り、規模の上でも構造的にも大きな進展を果たしてきた。

 また、市場化の進展に伴った行財政改革、専門分野と教育課程の編成、教員養成と研修などの動向に見られたように、就業前の技能労働者養成システムにとっては、部門間の壁を越え、産業部門・企業の関与および企業からの技能者を兼任教員としての任用を可能にするさまざまな制度上の整備、そして労働市場の改善や社会意識の変革は、これからの中等職業教育のあり方にかかわる重要な鍵となるであろう。

 今後、市場化が進むなか、中等職業教育におかれた社会的、経済的、教育的な状況がよりよく改善され、中等職業教育が経済発展のためだけでなく、個人の生計と発達にも役に立つ生涯教育体制にも寄与できることが望まれる。

(おわり)


[11] 「2010年全国中職卒業生就業率96.56%」(『中国教育報』、2011-6-22、第002版)

[12] 陳嵩「上海市中等職業学校卒業生就業現状分析」(『中国職業技術教育』、2008年第3号)

[13] 国家教育部「2010年全国中等職業学校卒業生就業情報」(2011-6-21、http://www.edu.cn/zhi_jiao_news_295/20110621/t20110621_637899_2.shtml

[14] 楼根良「中職卒業生就業状況調査」(『中国職業技術教育』、2008年第3号)