【14-08】中国の中等職業教育の発展段階と改革動向(その4)

2014年10月27日

陸 素菊:華東師範大学職業教育・成人教育研究所副教授
職業教育研究センター副主任

略歴

 蘇州大学政治学部卒。江蘇省教育委員会政策研究室科長研究員を経て、2003年名古屋大学大学院教育発達科学研究科博士学位取得、東京大学教育学研究科客員研究員。現在、華東師範大学職業教育・成人教育研究所副教授、上海市教育学会職業技術教育研究会事務局長、日本産業教育学会理事。専攻は学校職業教育・成人職業訓練。

その3より続き)

中等職業教育の改革動向(2)

職業能力の養成を重視する専門分野と教育課程

 中等職業学校経営の規範化を目指して、とくに学校の専門分野と産業界、学校と企業の関係、専門のコースと職業資格の基準、教育のプロセスと生産プロセス、学校卒業証明書と職業資格証明書、職業教育と生涯学習をよりよくかみ合わせようとして、中等職業学校の専門学科の設置が調整されてきた。国家教育部が2010年3月に「中等職業学校専門(学科)カタログ(2010)」を発布した。それは旧「専門学科カタログ(2000)」を改訂したものであり、旧版のカタログと比して、専門学科類は13から19に、専門(学科)数は270から321に増やされ、22の専門が削除された。カタログは、その後の全国の中等職業学校の専門分野を設置する基準となった(表3を参照)。

表3 中等職業学校専門学科カタログの内容(例示)

表3

 「カタログ」には19の専門学科類、321の専門学科、927の専門(技能)コースが提示され、対応する職業(ポスト)が1185件、職業資格は720件、継続学習コースは554コースある。19の専門学科類は農林畜産水産類、資源環境類、エネルギー・新エネルギー類、土木水利類、加工製造類、石油化学工業類、軽工業紡績食品類、交通運輸類、情報技術類、医薬衛生類、余暇保健類、財政経済・ビジネス類、観光サービス類、文化芸術類、スポーツ・健康維持類、教育類、司法サービス類、公共管理サービス類、その他となる。改訂された「カタログ」にもとづき、同年10月に制定した「中等職業学校専門学科の設置を管理する規則(試行)」は専門学科の設置要件、手順と管理の責任分担などを明確にした。

 中等職業教育の教育課程については、2002年に関係業界の職業教育教授(学習)指導委員会の諮問を受け、教育部が中等職業学校の82重点建設専門学科の授業(学習)指導プログラムを査定し発布した。プログラムには専門学科のカリキュラム(授業計画)、主幹専門科目の学習指導要領と専門(学科)設置の参考基準を含む。その基準によれば、中等職業学校の教育課程は共通基礎科目と専門技能科目という二つの部分から構成される。

 共通基礎科目には、必修科目と選択科目がある。必修科目には、道徳教育、文化(国語、数学、外国語、コンピュータ応用基礎)、体育と健康、芸術などがある。一般的に、総学習時間の3分の1を占め、累計総学習時間は約1学年分に該当する(表4)。専門技能科目は職業ポスト(群)の能力要求に対応して基礎レベルの部分と専門的な部分から構成される。教育課程の内容は生産労働の実情と社会的実践に結びついており、応用と実践的特徴を強調し、関係する職業資格審査の要求に合致するよう配慮されている。専門科目の学習時間は一般的に総時間数の3分の2を占め、そのうち、企業実習の総時間数は約一学年分となる。

表4 中等職業学校の教育課程構造図

表4

 ところで、学校現場の実施においてはさまざまの問題も現れている。専門科目に偏る教育課程の構成によって基礎科目が手薄になり、学校教育の優位性を失ってしまったこと、また実践教育を確保できる実習の場所、実践科目の教員の能力が欠けていることなどが問題点としてあげられている。これらによって、生徒に保障すべきキャリア発達を損なっていることが懸念される。

「双師型」重視の教員養成・研修体制づくり

 職業能力の養成にはさまざまな条件整備が必要となる。そのひとつとして、改革開放以来、中国の中等職業教育の大きな進展に伴って、中等職業学校の教員の養成と質的向上が重要な課題となった。そのため、高等教育機関が職業学校の教員を養成する制度、中等職業学校の教員が在職しながら修士号を修得する制度、中等職業学校の教員が定期的に企業現場で実践的な研修を受ける制度などの中等職業教育の教員養成と研修の制度が取られてきた。とくに、中等職業教育の特徴を反映する教員資格制度の実施には、普通高校の教員と同水準の学歴の要求のほか、「職業教育教員の双証書(学歴合格証書と職業資格証書)」を持つ「双師型」教員の養成が提唱されてきた。

 現在、中等職業教育の教員養成・研修体制は以下の3つの部分から構成されている。つまり、

(1)独立して設置された職業技術師範大学・学院は8ヶ所が設置され、中等職業学校の教員養成と研修の中枢を担っている(表5を参照)。

(2)普通4年制大学で中等職業教育の教員養成クラスを設け、職業教育教員を養成する。

(3)大中企業を拠点とする国家レベルの職業教育教員養成・研修基地と企業の教員研修基地は76ヶ所、および省レベルの職業教育教員養成訓練基地は300ヶ所ある。

表5 独立して設置された職業技術師範大学・学院一覧

表5

出所:職業能力開発総合大学校『諸外国における職業教育訓練を担う教員・指導員の養成に関する研究』プロジェクト報告書、第313頁により訂正作成

 こうした教員養成・研修基地を中枢として、その他学校、企業が共同参加の体制が形成されている[9]。「双師型」教員を養成するため、国の規定[10]により、中等職業学校の専門科目と実習指導を担当する教員は、2年ごとに企業の生産現場などで実践研修を累計2ヶ月受けなければならない。また、その他の教員も定期的に企業現場での見学、調査研究活動を行うべきであるとされている。

 中等職業学校の教員資格要件は次のとおりである。基礎科目と専門科目を担当する教員の資格を取得するには、高等師範大学四年制あるいはその他四年制大学卒業以上の学歴証書を持つ必要がある。中等職業学校の実習指導教員の資格取得には、中等職業学校卒業とそれ以上の学歴とエンジニア補佐(助手)またはそれ以上の専門技術職務経歴、あるいは中級以上の技能者資格が必要となる。また特殊な技能を持つ者に対しては、省レベル以上の人民政府教育行政部門の承認のもと、その学歴規定をある程度緩和する制度もとられている。

 中等職業学校の教員の多数は普通高等教育機関の卒業生であるため、その構成を改善する策として、政府は中等職業学校が企業現場の技能者を呼びかけ、兼任教員として任用することを奨励し援助する政策を講じた。部門間の管轄があるため、実施の際にさまざまな問題が起こっている。

 中等職業学校の教員の構成を見れば、2007年現在、全国の中等職業学校の専任教員は65.46万人に達し、2003年より9.46万人、約16%の増加があった。科目別の内訳は基礎教養科目46.14%、専門科目50.54%、実習科目3.32%であり、2003年と比して教養科目の減少と専門科目の増加、とくに加工製造類、情報技術類などの教員が増加する傾向にある(表6、表7を参照)。

表6 全国中等職業教育機関専任教員数の変化と増減率(人/%)

表6

出所:「2007年度教育事業発展統計広報」
(http://www.stats.edu.cn/data/2007/p098.htmおよびhttp://www.stats.edu.cn/data/2003/p96.htmより作成)

表7 全国の中等職業教育専門科目専任教員の専門分野別構成と変化

表7

出所:「2007年度教育事業発展統計広報」
(http://www.stats.edu.cn/data/2007/p098.htmおよびhttp://www.stats.edu.cn/data/2003/p96.htmより作成)

 中等職業学校の教員は増減の波が見られるものの全体的に増加する傾向にある(図5)。ここで問題なのは、学卒から直接教員になった者がその多数を占め、企業現場からはわずか少数だということである(表8)。教員数の半数を占める専門科目の教員が実践現場の研修を如何に実施するかは、技能労働者を養成する中等職業教育の存在理由に関わる課題であるといえよう。

図5 中等職業学校の専任教員数の変化(1995-2011年)

図5

出所:関係年度の『全国教育事業発展統計広報』より作成
 

表8 中国各地域の中等職業学校教員分類の統計(2005年)(人)

表8

出所:職業能力開発総合大学校『諸外国における職業教育訓練を担う教員・指導員の養成に関する研究』プロジェクト報告書、第311頁(中国教育科学十五ヵ年計画2005年重点プロジェクト「中等職業学校教員現状と対策のサンプル調査研究」報告書(DJA050154)第10頁)による

 中等職業学校の教員資質を全面的に向上させるため、2006年12月に教育部、財政部が配布した『中等職業学校の教員資質を向上するプランの実施に関する意見』に基いて、2006年から5年計画で中央財政から5億元の特別資金が計上された。①中等職業学校の中核となる専門科目教員の研修、②中等職業学校の重点専門(学科)研修プログラムの開発、③中等職業学校で不足している専門(学科)の特別招聘また兼職教員の援助という3つのプロジェクトが推進された。これらによって、とくに中等職業学校の専門科目の教員に対する資質向上プログラムが実施された。2010年末の統計によれば、中央財政第1期の特別投入によって、直接養成研修した教員は3万人、各省レベルの投入による研修は12万人、計15万人にのぼった。その研修形態は大学研修、企業、海外研修に及ぶ。また3万人の兼職教員の招聘を加えて、「双師型」教員の比率は30%に達した。

 以上のように、中国の中等職業教育の改革動向を、行政財政体制と学校経営、専門分野と教育課程、教員養成と研修に即して考察してきた。市場化体制への移行に伴った改革政策によって、教育部門に統合し部門間連携を強化する行政管理体制、多元化しつつある財政体制、産業部門・企業の協力を重視する「技能重視」の教育課程、「双師型」教員の養成・研修など、構造的な変化が見られた。しかし、部門間の壁を越え、産業部門・企業の関与ができる、企業からの技能者を兼任教員として任用を可能にするなど、さまざまな制度的整備、労働市場の改善や社会意識的変革は今後中等職業教育の行方に係わる重要な鍵となる。

その5へつづく)


[9] 中華人民共和国教育部・中国ユネスコ全国委員会「中国特色のある現代職業教育体系を構築:新経験・新起点と新戦略」(『中国職業技術教育』、2012年第16号)

[10]国家教育部弁公庁「中等職業学校教師が企業で実践する制度の構築に関する意見」、2006-9-28


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