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【12-001】中国経済、その強さの秘密

和中 清(㈱インフォーム 代表取締役)     2012年 1月23日

昨年の時代を表わす言葉は“限”

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歩道にまで押し寄せる闇金融PR

 去年の中国の時代を反映する漢字のトップは“限”でした。

 “限”の字に加熱する中国、急ぎすぎる中国の姿を読むことができます。

 中国人力資源と社会保障部の発表では、昨年9月末まで31省の21の地方政府で最低賃金が21.7%上昇しました。深圳ではまもなく最低賃金が1500元に上がります。中国の社会小売品売上総額は昨年1月から9月累計で前年比17%の増加です。

 昨年の国慶節黄金期間には小売と飲食業の売上は前年比17.5%増加し、昨年後半には販売に少し低下が見えたというものの、11月までの国内乗用車累計販売台数は11142165台で前年比8.99%の増加です。経済の過熱を抑えるため貨幣流通量M2をはじめ、様々な分野で制限が行われました。昨年は全国47の都市で住宅購入制限が実施されました。住宅購入制限や低所得者向けの保障性住宅の建設増加で住宅価格が沈静化し、昨年10月には全国70都市の住宅価格は前月比0.14%下降し、上海では0.3%下降するなど1級都市で大きな影響が出ています。広州では昨年11月、全市10区で新建設の住宅販売面積は前年比19%減、前月比27.38%減となりました。

 今年の1月6日に温家宝首相が出席し全国金融工作会議が開催され、そこで提議された金融改革8項目の第一番目に農村金融サービスの強化、中小企業の金融円滑化が掲げられましたが、昨年、融資制限は中小企業に打撃を与え、温州では企業家の自殺が相次ぎ、闇金融、高利融資が社会問題となりました。今や闇金融は社会の隅々に根を張りその多くの年利率は60%を超えています。

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上海人民広場で掲載されている結婚相手募集の広告

 また昨年の事故の後、時速350kmから300kmに高速鉄道の速度制限も実施されています。社会生活では結婚難がさらに深刻になり父母を巻き込んだ婚活は激しさを増してテレビ番組では行き過ぎたお見合い番組の制限がありました。

 しかし今の中国を見れば“限”も一時の解熱剤にしかすぎません。高鉄の速度制限の一方では、昨年末には時速500㌔運転を目指すCRH380A列車が試験運転を開始しました。

 住宅販売も内陸部で増加を続けている都市も多く、全体でも昨年10月の住宅価格は前年比3.09%の上昇です。

 中国経済が少しでも下降ぎみになると、日本ではすぐに中国経済にも翳りとかバブル崩壊とかのニュースが流れます。経済成長率が9%以上を続けている国でコンマ数%、成長率がダウンしただけでどうして翳りとなるのか全く解せませんが、経済成長率の下降の背景にある中国の政策をもっと読むべきです。ローン規制以外にも昨年は上海1都市だけでも26.6万戸の完成目標で低価格政府保障性住宅の建設が進められたわけですから住宅販売に影響を与えるのも当然です。

 “限”の言葉のように、いかに熱を抑えながら安定成長を続けるかの政策運営が当面続きそうです。

持たざる国の強さ

 日本ではTPP 交渉参加に関し「もっと説明して議論し、国民の理解と共感を得てから判断すべき」との反論があります。TPP交渉参加の判断で重きをなす農業問題は40年前から同じ論争が繰り返されています。大量の安い遺伝子組みかえ作物が流入し日本の農業は壊滅するとの話はされても、それなら逆に日本の安全な作物が際立ち、チャンスととらえる人が少ないのも問題です。その是非はともかくとしても、議論をつくしてという反論に日本がだめになっていく理由が凝縮されているとも感じます。

 延々と議論ばかりの日本。40年の歳月を返せと思いたくなるのは私だけでしょうか。

 中国は嘗て論争の国でした。論争と抗争が発展を遅らせて世界の最貧国から抜け出せなかったのが中国でした。その国が論争をやめて実践の国へと歩み始めたのが1980年代です。

 その論争の襷を今や日本が引き継いだのでしょうか。

 中国の経済成長を考える時、とみに感じることは、その逆の日本の衰退要因です。言い換えれば中国の成長との対比で日本の問題がクローズアップされます。本題に入る前に、少しそれを考えてみたいと思います。

 中国の成長要因の一つは“持たざる国”の強みです。

 後に述べるように中国の政治は戦略的です。一緒に出席したシンポジュームの席で、東軟集団の劉積仁総裁は「中国には何もなかった。失うものがないので国も企業も思い切ったことができた」と語りましたが、まさに失うもののない強みが戦略の裏にあります。

 方や失われた20年は“持てる国”の日本をストック重視へと導きました。今も日本では、個人金融資産、対外貸付などのストックを考えれば悲観するに及ばずの論も展開されます。

 しかしストック重視の姿勢は国、企業、人を競争回避、守りへと導きます。企業もいかにバランスシートが優れていてもフローの損益計算が赤字では大きな問題です。

 今、日本の多くの工場で海外への技術流出を恐れた結果、年老いた技術者が必死で技術を守り、この人たちがいなくなればどうしますかと危惧されるところがたくさんあります。 

 ストックにしがみつき競争を避けた日本の姿をそこに見ることができます。

 “持てる日本”が過去にしがみついている間に、“持たざる中国”がどんどん成長した現実を直視すべきです。

「中国はどうですか」という難しい問いかけ

 私はこの二十数年、毎月日本と中国を行き来しています。そんな私が日本に帰るとよく「中国はどうですか」の質問を受けます。しかしこの質問ほど答えにくい質問はありません。例えば最近の中国の新築住宅販売状況を見ても、10月の全国70都市の10月の調査で、前月比での販売価格が下落した都市は34都市、同じ水準の都市が20都市、増加した都市が17都市です。昨年後半、政策の影響もあり中国の住宅販売が低下し、日本ではバブル崩壊ととらえがちですが、仔細に見ればそうとも言えません。前年比で販売価格が下落した都市は中小企業問題を抱える温州と寧波だけです。

 中国の経済動向で常に話題に取り上げられる自動車販売を見ても内情は複雑です。昨年10月の乗用車の販売台数は122.08万台、前年比1.42%と2010年までの勢いが弱くなっています。前月に対しては7.48%の減少です。

 中国の乗用車販売の約70%近くは1600cc以下の小型車です。政府の省エネ補助政策の変化の影響により中国自主ブランド車や小型車の落ち込みが大きくなっています。

 しかしベンツやBMWなどの高級車は大きく販売台数が増加しています。昨年9月までアウデイ(中国名奥迪)は223631台、前年比29%増、ベンツ(中国名奔馳)は139400台、前年比38%増、9月までの中国の乗用車累計販売が1064万台、前年比6.38%増と比べれば高級車の好調さがわかります。BMW(中国名宝馬)は昨年10月までの累計販売台数は195868台、前年比44.5%増です。独、米、中国のBMW三大市場での中国の存在感がますます高まっています。

 また昨年の上半期、表のように日産テイアナ、ホンダアコード、トヨタカムリが中国での中高級車の車種別販売台数トップ3でした。そのため中国の日産花都第2工場は総投資額50億元をかけて生産能力を高め、2012年には完成車生産能力が年60万台、花都、襄陽、鄭州の三大生産基地の完成車設計生産能力は100万台となり、東風日産は2012年100万台の中国販売目標を掲げています。

中高級車の2011年上期販売台数
車名 販売台数(台)
新天藾 (日産ティアナ) 73026
新雅閣 (ホンダアコード) 69734
凱美瑞 (トヨタカムリ) 65774
新君越 (Buick LaCrosse) 57745
馬6 (マツダ6) 51496
新君威 (Buick Regal) 37825

変化が速く多様化が進む中国

 中国はどうですかに対する答えが難しい、その理由の一つは中国の変化の早さです。

 2010年の中国の一人当たりGDPは約3万元、2000年の2.56倍になりました。10年間の年平均増加率は9.8%です。それとともに2010年の一人平均可支配収入は2000年に対して2.73倍となっています。一人平均住宅面積も27㎡と2000年の19㎡から8㎡増加しました。昨年の第二四半期には中国のPC出荷量は1850万台に達し、同期の米国の出荷量を超えました。

 グラフは2001年から2011年までの各年第一四半期の中国の100家庭あたりの自動車保有台数です。今年の第一四半期には20台に突入すると見られています。

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 経済成長とともに産業構造の変化はもちろんのこと、これまでともすれば単調なイメージでしかとらえられなかった農村社会ですら多様化しつつあります。

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※農村経済緑皮書より作成

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 最近の清華大学金融研究中心とシテイーバンク共同報告では都市訪問調査家庭の税引き後収入の年平均額は89170元、平均資産総額は715947元、平均負債額が4.58万元と報告されています。億元富豪がとかく話題になる中国ですが一般調査の家庭の平均資産が1千万円近く、しかも資産負債比率6.39%というのは多くの日本人にとり驚きです。

 深圳の海関統計では2011年1~3期の外貿輸出入累計額は3051億米ドル、前年比27.3%の増加です。それにつれて中国銀行深圳分行の10月末までの国際貿易決済総額は1025.65億米ドルと1千億ドルを超え、2006年の310億ドル、2010年の940億ドルから大きく増加し、同時に同行人民元の境外国際貿易決済額は636.62億元となり2010年の245億ドルから159%の増加で人民元がアジア化から国際化に向かい進んでいることがわかります。このような各種の経済データを見ても中国のイメージがどんどん変化し、その変化についていけない人が多いのも無理からぬこととうなずけます。

  そしてもう一つの理由は中国の多様化です。やはり自動車販売を例にとれば昨年10月の普通乗用車の販売台数は85.82万台、前年比では2.76%増と低調でしたが、MPV車は4.49万台、前年比12.92%の増、SUV車は14.6万台前年比21.58%の増加です。

2011年1月~10月中国乗用車車種別販売状況
車種 1月~10月販売台数(万台) 前年同期伸び率(%)
普通乗用車 824.66 7.95
MPV 40.62 14.69
SUV 126.01 18.09
クロスオーバー車 184.71 -9.82
合計 1176.00 5.86

 昨年11月の乗用車販売台数は124.6万台で前年に対し2.9%の減少、11月までの累計では前年比3.6%の増加ですが、11月までの自動車輸入台数は90.5万台、前年比31%増加し、2011年の輸入台数は100万台を超えると予想されています。輸入増加の一方では自動車輸出も増加し、ここにも変化と多様化の中国経済の姿が見られます。

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 さらに昨年1月~10月の中国の実際使用外資額は950億米㌦、前年比15.86%の増加ですが、サービス業の実際使用外資額は445億米㌦で前年比20.65%の増加です。停滞する欧米を尻目にアジア諸国の投資も大幅に増加し、ここにも工業分野だけでなくサービス社会へと多様化していく中国を窺い知ることができます。

 グラフはこの数年間のウオルマートとカルフールの中国での売上額の推移です。

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 また中国の留学生数の直近のデータを見ると昨年末には28.5万人、今年にかけて留学生は30万~35万人に達すると予想されています。中でも米国への留学生が増加し、2011年には15.7万人、2012年には20万人に達すると見込まれています。ちなみに日本人の海外留学生数は文部科学省の発表では2008年6.7万人で近年は減少傾向です。

 日本では今、キッズダンスがブームのようですが、中国では1時間100元~200元もかかる家教、家庭教師がブームです。キッズダンスが問題とは言えませんが、この面では日本が多様化しているのでしょうか。しかしちょっと心配ですね。

 このようなことからもグローバル化の中、多様化していく中国が窺えます。

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中国の強みは経済の分散

 中国と日本を比べて強く感じることは中国の分散社会の強さ、日本の集中社会の弱さです。言い換えれば双発、複数の成長エンジンを持つ国と、東京という単発エンジンの国の弱さです。経済の分散はいろんなデータで読むことができます。都市別の国内生産額、固定資産投資、都市別社会消費品小売総額など都市が拮抗し、競い合っていることがわかります。さらに大学、大企業の本社所在地などにも分散社会の姿を読み取ることができます。

日本の主要県別総生産額(2008年)
内閣府 統計データより(名目)
都道府県 総生産額(単位:億円) 東京を100とした比率
東京都 897,149 100
北海道 183,595 20
宮城県 81,934 9
千葉県 196,888 22
神奈川県 308,987 34
富山県 44,964 5
石川県 46,114 5
静岡県 164,526 18
愛知県 337,579 38
大阪府 379,845 42
広島県 115,155 13
福岡県 180,199 20
2009年上位10都市の総生産額
2010中国城市統計年鑑
順位 都市 地区総生産額(万元) 北京を100とした指数
1 上海 150,464,500 124
2 北京 121,530,000 100
3 広州 91,382,135 75
4 深圳 82,013,176 67
5 蘇州 77,402,000 64
6 天津 75,218,500 62
7 重慶 65,300,100 54
8 杭州 50,875,530 42
9 无錫 49,917,200 41
10 青島 48,538,672 40
2009年上位10都市社会消費品小売総額
2010中国城市統計年鑑
順位 都市 社会消費品小売総額(万元) 全体に占める割合(%) 北京を100とした指数
1 北京 53,098,869 4.1 100
2 上海 51,732,408 4.0 97
3 広州 36,157,655 2.8 68
4 深圳 25,679,436 2.0 48
5 重慶 24,790,110 1.9 47
6 天津 24,308,297 1.9 46
7 武漢 21,640,873 1.7 41
8 蘇州 20,268,405 1.6 38
9 成都 19,499,459 1.5 37
10 南京 19,354,933 1.5 36
2009年上位10都市固定資産投資額
2010中国城市統計年鑑
順位 都市 固定資産投資総額(万元) 全体に占める割合(%) 北京を100とした指数
1 重慶市 53,179,185 2.5 109
2 上海市 52,733,299 2.5 109
3 天津市 50,063,247 2.3 103
4 北京市 48,584,051 2.3 100
5 成都市 40,258,902 1.9 83
6 沈陽市 35,199,470 1.6 72
7 大連市 31,136,950 1.4 64
8 武漢市 30,011,045 1.4 62
9 蘇州市 29,673,482 1.4 61
10 広州市 26,598,516 1.2 55
中国10大都市の大學設置数(2009年)
2010中国城市統計年鑑
都市 大學設置数(校)
北京市 88
武汉市 78
广州市 74
上海市 66
济南市 66
天津市 55
重庆市 51
西安市 49
哈尔滨市 48
长沙市 48
中国500強企業の地域分布(2009年)
2009中国500強企業発展報告 (企業管理出版社)より作成
東部地区 中部地区 西部地区 東北地区
市・省 企業数 市・省 企業数 市・省 企業数 市・省 企業数
浙江 37 河南 16 重慶 10 遼寧 17
山東 51 安徽 11 四川 11 吉林 5
広東 37 湖南 7 雲南 9 黒竜江 4
江蘇 50 湖北 11 陜西 9    
河北 16 江西 8 広西 5    
北京 96 山西 12 内蒙古 7    
天津 25     貴州 3    
上海 28     甘肅 3    
福建 8     新疆 2    
        青海 1    
        海南 1    
東部計 348 中部計 65 西部計 61 東北計 26
中国主要都市における金融機関の本部設置数
南方都市報
分類 形態 北京 上海 天津 広州 深圳
銀行 政策銀行 3 0 0 0 0 3
  国有商業銀行 4 1 0 0 0 5
  株式銀行 4 2 1 1 2 10
  都市商業銀行 1 1 1 1 1 5
証券 証券会社 11 14 1 2 17 45
  基金管理会社 7 28 1 0 17 53
  先物取引会社 20 26 4 7 11 68
保険 財産保険 12 11 1 1 4 29
  人身保険 20 11 2 1 3 37
  再保険 4 2 0 0 0 6

 だから最近の中国経済のように沿海部の成長率に翳りが出ても、内陸都市の成長が中国経済を支え全体として9%を超える成長率を維持することができます。

 因みに昨年9月までの中国の主な省市のGDPと前年比を示しておきます。

 西部の重慶の成長率は16.5%、また湖北省、四川省、貴州省など中西部の省の成長率は14%を超えています。

2011年1~9月 上位省市のGDPと前年増加率
南方都市報より
省・市 GDP(億元) 前年増加率(%)
広東 36963 10.1
江蘇 35113 11.2
山東 33031 11.1
浙江 22627 9.5
河南 20370 11.4
河北 17822 11.3
遼寧 15709 12.5
四川 15468 14.7
湖南 13625 12.9
湖北 13578 14.0
北京 11404 8.0
安徽 11078 13.8

 また夫々の経済圏をとっても決して特定の都市に集中しているわけでもなく、その経済圏の中でさらに分散していることが読み取れます。

この分散が中国の息の長い成長の要因の一つにもなります。

珠江デルタの地域別経済比較(2010年)
広佛肇 (広州、佛山、肇慶) 、深ガン恵 (深圳、東莞、恵州)、珠中江 (珠海、中山、江門)
  広佛肇 深ガン恵 珠中江
面積(平方km) 26232 15618 13057
常住人口(万人) 2381 2318 913
生産総額(億元) 17322 15487 4579
全社会固定資産投資(億元) 5608 3954 1794
社会消費品小売総額(億元) 6496 4691 1790

戦略の強み

 中国経済は日本と比べ投資と輸出に依存し問題と批判する人がいます。これは多くの点で中国経済の姿がつかめていない論です。

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 先ず、中国は20年、30年前にはことインフラに関しては何もなかった国です。当然、投資先行、依存の経済になるのは必然でまだしばらくはそれが続きます。

 また日本がGDPに占める輸出割合が大きい時代は活力の時代でした。自分の生活をきりつめても投資と輸出にまわす。そこから国の活力が生まれました。輸出が増えれば街が栄え、その街の消費も拡大します。中国はかつての日本と同じ道を進んでいるわけです。

 むしろ日本のGDPの輸出割合が低く、サービス輸出も入れると低すぎることが問題です。

 私が中国で出会ったある17歳の農民工女性は「今は、故郷の農家から一歩歩けば泥の道、二歩歩けばコンクリート、三歩で国道に行ける」と楽しく故郷の変化を語ってくれましたが、その故郷の変化の向こうに誰もが豊かな未来を感じているのが今の中国です。

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 中国の投資は消費に繋がり、日本の投資はそれが弱いのが問題です。新幹線網を日本の隅々まで整備しても、リニアで東京、名古屋を1時間短縮しても、結果は東京が栄え集中を加速するだけ。まさに“一将功なり、万骨枯れる”の日本が続きます。

 中国は投資の背後に戦略やビジョンがなければ、人は便利さ、快適さに向かいますます集中は強まると日本を反面教師に政策を進めているのかもしれません。

 GDPの投資割合が高い、低いが問題でなく、投資に対して確たる戦略があるかないかが問われなければなりません。

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新農村のアパート

 中国の経済成長は30年前の深圳の実験に始まり、上海開発を起爆剤に全国に13の経済技術開発区をつくり加速しました。今も国策の開発区建設は続き、昨年10月には武漢東湖高新技術区で東湖総合保税区の工事が始まり、鄭州新鄭総合保税区とともに二つの国務院批准の総合保税区が中部に誕生しました。大胆な優遇政策を餌に地方の開発区にまで外資を導き、西部開発、中部堀起、北方開発が進んでいます。

 この欄の成長の大回廊で述べたように、今や中国の経済群が環状高鉄で結ばれ企業の内陸シフトが始まっています。環状高鉄の出現により東の太平洋、西の中近東からヨーロッパ、南のアセアン、北の朝鮮半島、ロシアと中国都市とのつながりがよりダイナミックな線のつながりへの可能性を秘め、戦略として読み取ることができます。

 今、初めて中国の内陸都市に出かけた多くの日本人が内陸都市の変貌に驚嘆の声をあげます。上海や北京を見慣れ、内陸都市はまだ遅れているとのイメージしか持ち合わせなかったところに、いつの間にこんな都市がと多くの人が驚きます。

 河南省の鄭州では新区開発が進み、空港の近くには台湾の富士康が深圳の龍華から移転して30万人とも40万人とも言われる工場街の建設が進んでいます。既に10万人の雇用が始まって周辺の街や村の物不足、物価にまで影響を与えています。鄭州市はそれを機にさらなる企業の内陸誘致を進め、農地の工業用地への転用を行い、並行して新農村建設が進んでいます。100㎡3LDK、天然ガスと暖房付の新農村住宅に入居した農民が工場で働き、農家の現金収入が増えています。農地を手放した農民には、保障で36万元と新農村アパート数戸を得て現代的アパートに移る人もいます。今中国では農家保障ですらそのような状況です。

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 まして都市では異常とも言える保障額となり、深圳市では立ち退き保障で多くの千万元戸(億円家庭)が出現して話題に上っています。私もよく利用した深圳郊外の地鶏で人気のレストランは深圳から厦門に至る高鉄建設で立ち退きになり、経営者に1億元(11億円)の保障金が支払われ、気をよくした経営者がマカオのカジノで8千万元を損したと地元で噂されています。尤も昨年1月~11月までのマカオのカジノの売上総利益収入が2442億MOP$、前年比44%の増加でラスベガスの5倍に達したと見られ、賭博好きの中国のお金持ちが驚くべきお金をカジノにつぎ込むのもうなずけますが。

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 富士康の内陸移転の背景にはしたたかな政府の戦略があります。沿海部の最低賃金を引き上げ、内陸政府は移転企業への優遇施策を進め、内陸に留まり就職する学生には省長工程と呼ばれる特別制度で補助金を支給して大企業の内陸移転の障害になる外堀を埋めていきます。今では鄭州の富士康の基本給は1500元、残業をいれると2000元を超え、沿海部と差が縮小し、沿海部の農民工募集難がますます顕著になっています。

 沿海部と内陸部の賃金差が縮まれば、故郷での就業を希望する学生が増えて内陸の職業学校では内陸企業と沿海企業の学生争奪戦が常態化し、学内の大規模な募集会に多くの企業が殺到しています。

 中国の投資は内陸に企業を呼び込み、経済の分散化をさらに進め、農家に現金収入をもたらして、それが消費に結びついています。

 鈴木自動車は農村を無限の市場ととらえ軽自動車の北斗星を31999元で販売し、山東、河北、山西、河南などの内陸、農村部で急速に販売が増加しています。まさに「三歩歩けば国道」のインフラ投資が内陸での消費のGDPを持ち上げています。

農村住民家庭100戸当りの耐久消費財保有台数
中国統計年鑑
バイク 洗濯機 冷蔵庫 クーラー カラーテレビ パソコン 携帯電話
1985 0.7 1.9 0.1   0.8    
1990 0.9 9.1 1.2   4.7    
1995 4.9 16.9 5.2 0.2 16.9    
2000 21.9 28.6 12.3 1.3 48.7 0.5 4.3
2007 48.5 45.9 26.1 8.5 94.4 3.7 77.8
2008 52.5 49.1 30.2 9.8 99.2 5.4 96.1
2009 56.6 53.1 37.1 12.2 108.9 7.5 115.2
2010 59.0 57.3 45.2 16.0 111.8 10.4 136.5

 製造業の外資や内陸への誘致での“モノ”づくり、人民元の国際化に向かう“カネ”戦略、そしてグローバルな国土開発、さらに国家中長期科学と技術発展計画を実行するための国費海外留学研究生派遣は年6000人に及ぶなど、中国は“ヒト”の面でも戦略的です。

投資は目的なのか、豊かになるための手段なのか

 中国と日本では投資、公共事業の背後にある戦略、考え方そのものが異なります。日本は国土も狭く、中国に比べ人口は少なく、投資は全体経済にすみやかに波及して東京の繁栄が地方につながり、投資と成長は同じの発想で戦後を進みました。そこに利権もからみ投資そのものが目的との感もぬぐえません。投資が主役で一人歩きする。政治の重点がいつのまにか権力と派閥になってしまったのと表裏の問題なのでしょうか。

 しかし投資の麻薬が切れれば途端に禁断症状があらわれるのが日本の現実です。

 一方、中国には広大な国土と13億の人口圧力があります。日本のように東京が栄えれば全土もという発想に立つわけにはいきません。東京のように人口の10分の1が北京に集中すれば大変、また不可能です。人口をどう分散させて安定を図るかという宿命に直面するのが中国です。だから中国は投資の向こうにある戦略、国土のビジョンを持たざるを得ません。今も西部開発、中部掘起の向こうには7億農民の、その半数の都市や農村周辺の街への移住の圧力があります。十二・五計画では都市就業人口を4500万人増加させ、農村余剰労働力4000万人の就業転移を図らねばなりません。広東省東ガン市は日系企業など輸出加工企業が集結しているエリアですが、その2010年の常住人口822万人のうち630万人が農民工等非戸籍人口です。いつか故郷に帰るだろう630万人も圧力です。

 これらの就業圧力に直面し投資の先の戦略を考えざるを得ないのが中国です。

 日本にも首都直下型地震という大きな圧力があったはずですが、日本ではその圧力が戦略には繋がらず集中が加速しました。東北大地震が太平の眠りを覚ます蒸気船ともなりリスク回避のための分散につながることを期待するだけですが。北京には証券取引所がない意味を日本も理解すれば日本の成長図式も違ったのではないでしょうか。

 戦略の有無は、自由主義と社会主義の違いによる経済の政府関与の相違にも起因します。

 日本は国が公共投資を行えば、あとは自由な経済がより大きな成果に導く、まさに神の見えざる手が働くと考えて公共投資を進めてきたとも思えますが、中国は逆です。

 こう言えば語弊があるでしょうが、私は20年以上中国経済に直接触れ合いながら、共産党政権は13億の国民の大半は愚かだと考え、その前提で政策を進めているのではと思うことがよくあります。だから政府が導かねば成果は出ない、自ずと戦略的になるのでしょうか。市民をうまく誘導しながらも、中国のように独裁の必要を叫ぶ日本のどこかの首長も、本音は大衆は愚かだと心の奥底で思っているのかも?ですね。

 実際、日常的に中国と関わっていると、どうしようもない中国“愚かな中国”にも直面します。昨年中国で話題となった言葉はHOLD、ジョブス、高鉄、地溝油、校車、郭美美などです。HOLDは、私はこの場を支配したとテレビで話題となった言葉、地溝油は下水から油を回収して販売する業者が後を絶たないこと、校車は異常な定員オーバーの送迎車事故で幼稚園児多数が犠牲になった事件、郭美美は女性が絡んだ中国赤十字の汚職です。

 何れもどうしようもない“愚かな中国”がもたらした事件です。

 このような生身の中国と向き合うからこそ、政府はより強引に、戦略的に方向をしめして国民を導かねばと考えているのでしょうか。

 また政府役人の人材若返りも中国をより戦略的に、旧態にこだわらない思い切りの良さをもたらしている原因とも思えます。昨年、深圳で副区長、常務委員などの区幹部が任命された時、その15%が70年以後の生まれ、いわゆる70后で最も若い人は1977年生まれでした。

面子主義が分散経済を支える

 前にこの欄で中国の面子主義をとりあげました。この面子も多様化、分散経済に大きく寄与しています。日本ではよく企業のPRに本社東京という字を見かけます。もし中国で、殊に上海などでは、本社北京とPRする会社があれば逆に反感を買い、どうぞお帰りくださいとなります。面子主義とともに地方牌と言われる保護主義も中国にあり、お互いに競い合う風土があります。上海や北京は国際金融都市に向かい都市建設が進んでいますが、それら以外にも地域金融センター、アジア金融センターなど30を超える都市が金融センターの名乗りを上げています。

 中国ではGDPすら中央と地方が喧嘩をしあっていると言われます。毎年中央の目指す成長率と地方のそれが噛み合わず、近年は地方の成長率が大きく政府目標を上回っています。

 例えば昨年12月、深圳の龍岡区党代表大会では2012年のGDP成長率が10.5%と発表されています。地方の一部統計の重複などの問題もありますが、やはり地方の面子が大きくそれに影響しています。

 昨年12月、富二代の象徴ともいうべき中国贅沢品市場が話題になりました。中国内地の贅沢品市場が1000億元を超え世界5位、香港、マカオを入れると世界3位で、ルイビイトン、シャネル、グッチを牽引するのは中国ということがますます鮮明になりました。 

 最近の乗用車の購買アンケートでも、乗用車の購入時の選択でブランド価値は低くても装備が高配備の車より、装備は低配備でも高級ブランドを選ぶ人が56%です。その理由の41%が面子です。外観はベンツで中身は中国製の偽ベンツが横行するのもうなずけます。

 このような面子が中国経済に与えるインパクトは大きく、それが地域、都市が競い合い経済の分散にも好影響をもたらしているのではないでしょうか。


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