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【14-011】中国市場における日本企業の課題(その3)

2014年 5月26日

和中 清

和中 清: ㈱インフォーム代表取締役

昭和21年生まれ、同志社大学経済学部卒業、大手監査法人、経営コンサルティング会社を経て昭和60年、(株)インフォーム設立 代表取締役就任
平成3年より上海に事務所を置き日本企業の中国事業の協力、相談に取り組む

主な著書・監修

  • 『中国市場の読み方』(明日香出版、2001年)
  • 『中国が日本を救う』(長崎出版、2009年)
  • 『中国の成長と衰退の裏側』(総合科学出版、2013年)

権限移譲、現地化、中国企業との共同が中国市場対応の三本の矢

 ベンツは2010年に高級ビジネス車を市場投入したが、2013年には販売台数が前年比43%増加し、5億元を投じて商用車研究開発センターを建設している。欧米企業の市場への対応は総じてスピードがある。だが日本企業はそうではない。リスクを考えすぎれば対応のスピードが遅れる。最初は課長が来て、次に部長が来て、最後に社長が来るが、それでも決まらないは昔から言われる言葉だ。

 市場への懐疑は中国企業の成長への懐疑に通じ、製造業ではローカル企業への対応に遅れる。これまで日本は中国の技術を疑い、中国企業の成長に疑問を持ち、今もそれが尾を引く。日本人の中国の科学技術や中国企業への意識と現実の姿とは大きなズレがある。

 スマートフォンでは既にHuawei、Lenovo、ZTE、Coolpad、さらにⅩiaomi、Meizuなどの中国企業がノキア、モトローラのグローバル企業に取って替わった。

 中国移動(China Mobile)は2014年に2億台以上のスマートフォンを調達する予定だがその半分が4G対応で、中国メーカーは着々と対応を進めている。中国国内や新興国だけでなく欧米の4G通信市場にもシェアを拡大させる勢いだ。HuaweiやZTEには国家開発銀行が融資し、国策で世界をリードする通信機器会社を育てている。そのため成長スピードも驚異的に早くなる。しかし未だに残る中国の技術への偏見が、市場の対応遅れにもつながっている。

 市場対応の近道は有力ローカル企業と組むことだが、中国人、中国企業への不信がそれを躊躇させる原因のひとつとなっている。

 さらに裏リベートの問題がある。購買の裏リベートは日常的で、市場対応にはその問題がつきまとう。そこに無理に日本企業が絡む必要もないが、その認識と状況把握は必要だ。

 購買担当の考えがわからなければ営業は進まない。それに対処するにも関係社会への対応の知恵を身に付けねばならない。裏の金銭要求に対して関係を深めれば飲食接待で済ますこともできるし、負担の少ない対応をすることもできるが、その微妙な勘は日本人では掴みにくい。面と向かい日本人に裏リベートを要求する購買担当もいない。社内忘年会の抽選の紅包すら1万元、2万元の時代だ。裏リベートをどうするかを聞かれても、的確に答えられる日本人は少ない。まして遠く離れた本社でその機微がわかるはずもない。

 裏リベートの会話は、夕刻5時以降や休日の私的な交わりからしか出てこない。関係社会は5時から始まる。そのような市場への対応は日本人だけでは困難だ。だから現地への権限移譲、現地化、中国企業との共同が大切で、この三つが市場対応の言わば三本の矢である。

 しかし中国で騙されたとの情報ばかりが飛び交う日本の企業では、その対応も難しく、成長市場を前にジレンマを抱える日本企業が多い。

時には割り切って「いいかげんさ」に慣れねば市場対応は進まない

 市場対応が遅れるもう一つの原因は、「中国社会のいいかげんさ」である。それが様子を見ての対応を余儀なくさせる。欧米企業が思い切った戦略を取れるのは、遠く離れ、人種も違い、いいかげんさを肌で感じないからでもある。中国事情がわからないから中国人にまかせる。だから彼らの対応スピードは速くなる。

 しかし日本企業は、社会のいいかげんさに目が向き、まかせることに踏み切れない。日本では中国の問題情報ばかりが誇張して流されるのでなおさらだ。

 いいかげんな社会への対応は、日本人は不得手で、慣れていない。日本社会はステップを踏み、結果を確認して進む社会である。社会の隅々で専門化やルール化が進み、前が見え、周囲も見え、安心できるため、ステップを一歩一歩着実に踏みやすい。

 しかし中国は逆だ。社会が悠長なことを認めず、情報も不足してバラバラで、手ごたえを確認していては前に進まない。大ざっぱで、細部を確認していては身が持たない。多少拙くても、進みながら修正していく社会なのである。

 手とり足とりの社会ではないので足りないところは自分で補い、自分でリスクに対処する。日本ではバスに乗ればテープの音声が次の停留所を教え、急停車の危険に備えるように注意し、運転手も同じことを繰り返す。信号待ちで停まる時さえ、ブレーキに注意するように言う。だが中国では降りる時も自ら「下」(降りる)と声を張り上げる。

 社会のしくみ、習慣、成熟度が違うので日本の経験は噛み合わず、慎重になる。「そんないいかげんなことでは進められない」とは日本人からよく出る言葉だ。

 中国市場に対応するには「いいかげんさ」「曖昧さ」に慣れることも必要だ。そのために人材が重要となってくる。日本の企業には製造業が多く、現地では技術畑出身者が多い。技術や管理畑の人は一つ一つを確認して進みがちである。1+1が2にならねば次に進めず、2が満たされるまで待つ人も多い。中国では永久に満たされないこともある。日本では結果が見えていても、過程に難があれば、結果も否定される事もある。しかし中国は結果優先だ。だから営業畑など柔軟な思考ができる人材を上手く組み合わせて対応することも必要だ。

 さらに中国は自己本位の社会でもある。その社会に対処するにはお金をコントロールする術を持たねばならない。

 日本人は精神社会で育ち、お金より心の意識が強い。本当はお金も大切だが、それを表に出さない。お金を後回しにして、心でコントロールしようとするので噛み合わない。市場対応にもそれが現れ、精神を優先しがちで、自己本位の社会に対処するノウハウ、しくみに弱い。心も大切なことだが、中国市場への対応には、裏社会への対応でも、日常の営業においても、お金をコントロールする術、しくみをしっかりつくり、それがあっての心、意識であることも理解すべきである。

日本の経験に固執すれば失敗する

 中国市場への対応は難しい。一方で国際的な感覚で成長している市場があり、一方で古い習慣、慣れ親しんだ生活スタイルに固執する頑固な市場がある。例えば食の市場だ。20年前は、上海ですら街中で珈琲を飲むことさえ苦労したが、今はどこに行ってもスターバックスが目立つ。20年前は刺身を食べることに躊躇した上海人も、回転寿司に列をなす。

 経済成長で変わるもの、変わらないものの見極めもまた難しい。90年代にある日本の有名なラーメン店が上海に進出し失敗した。日本式に固執しすぎた結果である。中国人にとり食べることは生きることそのものであり、生活の中で何をおいても重要だ。今の30代の中国人は、配給キップを手に食べ物の配給の列に並んだ経験のある人でもある。食に対する思いが日本人と違う。また同じ中華民族でも香港人とも違う。

 日本人なら仕事が忙しく1、2時間、昼食をとるのが遅れても何とも思わないが、多くの中国人は顔つきが変わる。美人でも目がつりあがる。中国人にとっては食は重いものであり、面子も伴うものでもある。だからいかに美味しくても、ラーメンだけで食事を済ますのは恥ずかしい。日本人のようにラーメン定食でラーメンとご飯となればもっと恥ずかしい。

 食の貧しい時代、配給の長い列に並んだ過酷な過去を思い起こすことにもなる。だから味で勝負と意気込みラーメンだけで進出しても、これまでは受け入れられなかった。

 中国で成功している日本式ラーメンに味千ラーメンがある。日本の名前がついてはいるが、香港人女性が経営者である。その成功要因はメニューを拡げ、調味料も中国人好みに工夫し中国の食文化に合わせたことだ。

 今回の日中論壇は日本企業の中国市場の課題について述べた。筆者は中国市場と向き合い20数年が過ぎたが、残念ながらこの課題は20年前も今も大きくは変わっていない。

 今、中国市場で戦っている日本企業は、どうして日本企業に発注するのかという圧力とも戦っている。靖国参拝や政治家とそれを取り巻く人々の言動などの政治問題があるからだ。選挙で日本の成長戦略を語りながら、一方で巨大市場への対応を困難にさせている政治家の無責任さにも呆れるが、重い鎖を引きずりながらも必死に風土の異なる中国市場で戦っているのが日本企業である。その企業戦士の爪の垢でも煎じて政治家に飲ませてやりたい思いもしている。

 だが、いくら現状を憂いても、今の政治家には理解できないだろうとの思いも一方にある。数日前、筆者が協力する広東省の自動車部品鍍金工場を、習近平国家主席の後継者とも目される広東省書記の胡春華氏が見学した。この工場は、日本本社にも無い最先端の環境対応自動化ラインを中国工場に投入している。政治対立の中でも日本企業が信頼されているのか、日本企業との直接交流に活路を見出そうとしているのか、昨年の省長の訪問に続いての胡春華書記の訪問だった。

 国際間には対立はつきものである。まして日中間には歴史的にも複雑な問題が絡む。対立や問題を対話により解決するのが政治家の仕事だ。その対話すらも進められない政治とは決別し、企業は自力で中国との信頼を積み重ね、友好の活路を切り開いていくべきかもしれない。愚かな政治に頼るな。今を積めという思いがする。



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