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【24-33】「微生物による発電」の効率をさらに高めるには?(その1)

陳 曦(科技日報記者) 2024年04月17日

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実験を行う微生物学者。(画像:視覚中国)

「細菌が直接電気を発生させることができる」と聞くと、にわかに信じられないかもしれないが、関連分野の研究には100年に及ぶ歴史がある。発電菌は電気活性微生物の一種で、微生物の電子伝達過程で大きな役割を果たしており、微生物のエネルギー代謝プロセスに対する人々の理解をアップデートし続けている。汚染物質の早期警報や迅速な生分解、エネルギー回収、貴金属抽出など、さまざまな分野における画期的な技術のインスピレーションと基盤は、これらの微生物から得たものだ。

 天津大学化工学院の宋浩教授率いる研究チームが手掛けた、シトクロムと導電性ナノワイヤを中心とした導電性タンパク質が微生物の電子伝達過程で重要な役割を果たすことをレビューした論文がこのほど、学術誌「Quantitative Biology」に掲載された。論文はシトクロムと導電性ナノワイヤの潜在的研究の方向性を展望し、「電気活性微生物」を実用化するための参考情報を提供している。

外部環境と電子を双方向交換できる特殊な微生物

 宋氏は「外部環境と電子を双方向交換する微生物を『電気活性微生物』と呼んでいる。これには、外部環境に電子を放出する『発電型』の電気活性微生物と、外部環境から電子を取り込む『電気を食べる』電気活性微生物がある」と説明した。

 1910年には英国の科学者マーク·ピットが、微生物の培養液が電流を発生させることを発見した。その後、研究者は複数の「発電型」電気活性微生物を相次いで発見し、選別、鑑定してきた。このうち、通性嫌気性細菌Shewanella oneidensis MR-1や嫌気性菌の異化的金属還元菌が最も幅広く研究されている。

 2000年代初め、研究者はこの2種類の発電菌のゲノムシーケンシングに成功し、「発電型」電気活性微生物の遺伝背景に対する理解がさらに深まった。

 これらの「発電型」電気活性微生物は、発電という"超能力"をどのように実現しているのだろうか? 宋氏は「発電の本質はエネルギー変換だ。生物の体内において、基質有機物が細胞の呼吸作用で酸化して電子を放出し、細胞の呼吸鎖を通じて、伝達、移動する。グルコース分子は、生物の体内で完全に酸化した後、最大で24個の電子を放出する」と説明した。

 宋氏はさらに「『発電型』電気活性微生物のエネルギー放出は、細胞内だけに限らず、細胞外への電子移動も可能だ。この微生物は細胞膜に埋め込まれている導電性タンパク質と電子伝達担体、そして細胞膜から成長した導電性ナノワイヤを通じて、酸化環境中の有機物から発生した電子を環境中の電子受容体に伝達する」と語った。

 研究者は10年近くにわたり、一部の電気活性微生物が水素や電極といった電子供与体から電子を取り込み、細胞の生長を維持していることを解明してきた。この種の電気活性微生物は『電気を食べる』微生物と呼ばれ、これには主にMoorella thermoacetica、ラルストニア属菌、Clostridium autoethanogenum、ロドシュードモナス・パルストリス、Sporomusaceaeなどがある。

多分野に応用できるポテンシャルを秘める

 宋氏によると電気活性微生物はエネルギーや化学工業、医療などの分野で応用できる大きなポテンシャルを秘めているという。

「発電型」は有機物を分解するとともに、電子を放出して化学エネルギーを電気エネルギーに転換できる。そのため、この微生物を環境や汚水中の有機物を使った発電に利用することもできれば、電子を放出した金属の陽イオンを利用して金属ナノ材料を作り、エネルギー不足を解決したり、グリーンな先進製造を推進するソリューションを提供することもできる。

 宋氏は「ソーラーパネルや熱電発電装置、発電機の大部分は使用環境の制約を受けている。一方、新たに開発した導電性タンパク質に基づき、大気中の水分を利用してエネルギー収集を行うタンパク質ナノワイヤ薄膜発電機は、少なくとも20時間連続で電流を発生させることができる。その上、他の持続可能な電力生成システムと比べ、この種の装置は設置場所や環境条件などの制約がより少ない」と説明した。

「発電型」微生物の発電原理を活用すれば「電池ファミリー」に新たなメンバーが加わる可能性がある。有機性廃棄物を分解する際に電気エネルギーを収集する微生物燃料電池や、水素を生成できる微生物電解電池、海水の淡水化に用いられる微生物脱塩電池などは、科学者の研究開発の方向性となっている。

 一方、「電気を食べる」微生物は、食べた電子を利用して、細胞物質の合成を促進し、電気エネルギーから化学エネルギーに変換することもできる。このような微生物は、二酸化炭素などの低エネルギー密度で高酸化状態の基質を、フーゼル油や脂肪酸などの高エネルギー密度で還元状態の高い、高価値化学品に還元することができ、「二酸化炭素排出量ピークアウトとカーボンニュートラル」という目標達成に向けたテクノロジー・ロードマップを提供することができる。

その2 へつづく)


※本稿は、科技日報「如何让产电微生物释放更大效能」(2024年2月21日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。

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