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【24-34】「微生物による発電」の効率をさらに高めるには?(その2)

陳 曦(科技日報記者) 2024年04月18日

天津大学化工学院の宋浩教授率いる研究チームが手掛けた、シトクロムと導電性ナノワイヤを中心とした導電性タンパク質が微生物の電子伝達過程で重要な役割を果たすことをレビューした論文がこのほど、学術誌「Quantitative Biology」に掲載された。論文はシトクロムと導電性ナノワイヤの潜在的研究の方向性を展望し、「電気活性微生物」を実用化するための参考情報を提供している。

その1 よりつづき)

産業化にはまだ複数の課題が

 近年、電気活性微生物を触媒コアとしたバイオ電気化学システムが世界で次第に産業化されつつあり、一部の分野では産業規模を備え始めている。

「発電型」電気活性微生物の利用では、世界の複数のテクノロジー企業がこれを使った微生物燃料電池システムを開発し、汚水処理や電気エネルギーの回収に活用している。

 一方、「電気を食べる」電気活性微生物の利用を見ると、光電気を駆使してこの微生物による窒素固定・炭素固定を行い、高価値化学品を合成する技術が現在、投資界において新たな注目の的となっている。例えば、米国の企業はバイオニックブレードデバイスを開発し、ソーラーパネルを利用して電力を提供し、水を水素と酸素に分解している。「電気を食べる」微生物はマイクロバクテリウムを培養し、水素を電子供与体として窒素固定・炭素固定を行い、液体肥料を生成する。

 宋氏は「電気活性微生物は応用の大きなポテンシャルを秘めているが、その実現には、科学や工学、経済、社会といった複数レベルの課題がまだ残っている」と指摘した。

 天津大学化工学院の李鋒副研究員は「自然に存在する野生の『発電型』微生物は細胞外の電子移動速度が遅く、電気活性微生物のエネルギー変換効率における重い足かせとなっている。これが、幅広い産業化を阻む主なボトルネックだ」と見解を述べた。

「電気を食べる」微生物の応用について、同学院の曹英秀副教授は「この微生物は主に、細胞外の電極から電子を取得し、自らの還元力に変換することで化学合成を駆動する。このプロセスには、細胞外電子の膜貫通移動-細胞内還元力変換-生成物指向型合成が含まれるが、『電気を食べる』微生物は膜貫通電子の移動速度が遅く、膜貫通電子の細胞内の還元力に変換する効率が低いため、応用を制約する重要な要素となっている」と説明した。

 宋氏は「現在、一部の効率的な電気活性微生物の生物学的安全性はまだ十分に論証されていない。また、産業化への応用は法律・法規や倫理問題とも関係する可能性がある。特に食品や医学、農業、環境といった分野では、新技術の安全性や持続可能性を確保し、関連する法律・法規、倫理基準に合致させる必要がある」と述べた。

 さらに、「生物電気化学システム関連産業は依然として発展の初期段階にあり、産業チェーンはまだ整備されていない。生産・研究開発のコストが高止まりし、産業の経済効果が不十分な状態だ。こうしたボトルネックを打破するためには、複数の学科が今後も共に努力する必要がある」と指摘した。


※本稿は、科技日報「如何让产电微生物释放更大效能」(2024年2月21日付6面)を科技日報の許諾を得て日本語訳/転載したものである。

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