【14-01】中央経済工作会議のポイント

2014年 2月 7日

田中修

田中 修(たなか おさむ):日中産学官交流機構特別研究員

略歴

 1958年東京に生まれる。1982年東京大学法学部卒業、大蔵省入省。1996年から2000年まで在中国日本国大使館経済部に1等書記官・参事官として勤務。帰国後、財務省主計局主計官、信 州大学経済学部教授、内閣府参事官を歴任。2009年4月―9月東京大学客員教授。2009年10月~東京大学EMP講師。学術博士(東京大学) 

主な著書

  • 「2011~2015年の中国経済―第12次5ヵ年計画を読む―」(蒼蒼社)
  • 「検証 現代中国の経済政策決定-近づく改革開放路線の臨界点-」
    (日本経済新聞出版社、2008年アジア・太平洋賞特別賞受賞)
  • 「中国第10次5ヵ年計画-中国経済をどう読むか?-」(蒼蒼社)
  • 「中国経済はどう変わったか」(共著、国際書院)
  • 「中国ビジネスを理解する」(共著、中央経済社)
  • 「中国資本市場の現状と課題」(共著、財経詳報社)
  • 「中国は、いま」(共著、岩波新書)
  • 「国際金融危機後の中国経済」(共著、勁草書房)
  • 「中国経済のマクロ分析」(共著、日本経済新聞出版社)
  • 「中国の経済構造改革」(共著、日本経済新聞出版社)

 2013年12月10-13日、党中央・国務院共催により中央経済工作会議が開催され、2014年の経済政策の基本方針が決定された。会議では、習近平総書記が重要講話を行い、内外経済情勢を分析し、2013年の経済政策を総括し、2014年の経済政策の総体要求・任務を提起した。李克強総理は講話の中で2014年のマクロ経済政策の方向を説明し、2014年の経済政策について具体的手配を行い、かつ総括講話を行った。本稿では、会議のポイントを紹介する。

(1)会期

 12月10-13日、4日間という異例の長さであった。2012年は、会議の簡素化という習近平総書記の意向を受け、従来の会期2.5日が2日に短縮されていた。

 会期が延びた詳しい経緯は明らかにされていないが、12月12-13日に中央都市化工作会議が開催されており、これが会期に影響した可能性がある。

(2)経済の抱える問題

①経済運営に下振れ圧力が存在し、②一部業種の生産能力過剰問題が深刻であり、③食糧安全保障の難度が増大しており、④マクロの債務水準が引き続き上昇し、⑤構造的な雇用矛盾が際立ち、⑥生態環境が悪化し、⑦食品・薬品の質が憂慮され、⑧社会の治安状況がよくない、点が列挙されている。

(3)安定の中で前進を求め、改革・イノベーションを行う

 人民日報社説2013年12月14日(以下「社説」)は、これが今回の会議の核心だとする。社説は両者の関係を次のように補足説明している。

 「安定の中で前進を求め、改革・イノベーションを行う。両者は相互補完である。

 安定の中で前進を求めることは、根本である。安定の中で前進を求めてこそ、改革の全面深化のために有利な外部条件を提供できるのであり、改革の任務を順調に推進できるのである。もし経済が大きく上下すれば、発展の質・効率に影響を与えるのみならず、改革の進捗にも影響を与え、改革の難度を増すことになる。

 改革・イノベーションは、牽引である。改革・イノベーションを行ってこそ、経済社会の持続的で健全な発展のために次々と絶えることのない動力を注入できるのであり、中国経済の発展を長期に制約する深層レベルの体制メカニズムの障害を更に突破し、「安定」を確保し、「前進」を実現できるのである。

 安定の中で前進を求め、改革・イノベーションを行うためのカギは、程度をしっかり把握するということである。二の足を踏んではならず、功を焦ってもならない。胆力は大きく、歩みは着実でなければならない」。

(4)マクロ経済政策

 「発展をGDPの増大と単純化してはならない」とGDP成長率至上主義を戒め、成長率については「再び後遺症をもたらすことのないような速度」でよいとしている。2008年リーマン・ショック時に発動した大型景気対策が、生産能力過剰・地方政府債務の増大・住宅価格の上昇・インフレをもたらしたことへの反省であろう。

 また、「合理的区間における経済成長の平穏な運行を維持しなければならない」とし、マクロ・コントロールの方式・手段を不断に整備して、経済社会の発展の予期目標とマクロ政策をうまくバランスさせるとしている。

 これは李克強総理の持論であり、経済に上限(インフレ率)・下限(成長率・雇用)を設け、経済が合理的区間にある間は景気対策を発動せず、経済構造調整・経済発展方式の転換に専念し、経済が上限に近付けば景気引締め策、経済が下限に近付けば景気刺激策を発動するというものである。なお。会議では「物価の安定を維持する」との記載はあるが、2014年の上限・下限の具体的数値は明示されなかった。

 さらに、マクロ・コントロールの中に改革の精神・考え方・方法を組み込んでいくとしている。

(5)財政政策

 積極的財政政策を維持することとされた。税制改革では、営業税を増値税に改めるテストの対象業種を拡大するとしている。財政部としては、この改革を第12次5ヵ年計画の最終年度である2015年に完成させることを目標としている。ただ営業税は地方税であり、増値税は共有税(国75%、地方25%)であるため、単純に営業税を増値税に改めれば、国と地方の財源配分に変動が生じることになる。したがって、増値税のあり方の見直しも必要となろう。

 また「地方政府の債務リスクをコントロール・解消することを経済政策の重要任務とする」し、省・区・市政府は自分の地域の政府債務に責任を負うこととされた。対策としては、短期的な対応措置と長期的な制度建設が示されており、安易な借入を禁じるとともに、今後建設地方債の発行が議論されることになろう。

(6)金融政策

 穏健な金融政策を維持することとされた。金融制度改革としては、金利の市場化と人民元レートの形成メカニズムの改革が明記されている。

(7)食糧安全保障

 これまでは、農業政策は農業経営の現代化・農民の所得向上の観点から語られてきたが、今回は食糧安全保障が強調されている。食糧の自給率が低下傾向にあることに危機感があるのであろう。なお、国務院発展研究センター農村経済研究部の葉興慶部長は、食糧には穀類・豆類・イモ類が含まれるとし、小麦・稲については経済・技術の観点から比較優位性が維持できるだろうとしている(新華網北京電2013年12月13日)。

(8)産業構造調整

 生産能力過剰の解消とイノベーションが強調され、「生産能力過剰解消の根本的出口はイノベーションである」とされている。このため、知的財産権保護の強化・企業のイノベーション促進する租税政策の整備が挙げられている。

 また、過剰生産能力の解消は当然リストラを伴うため、雇用対策の部分では、従来の大学卒業生に加え、一時帰休者の再就職対策が盛り込まれた。これは国有企業改革が本格化した1998年以来のことである。

(9)改革の仕分け

 習近平総書記の持論である「胆力は大きく、歩みは着実でなければならない」が強調され、時機が熟さず、条件が具備していない条件下で、改革を一斉に立ち上げてはならないとする。具体的には、改革の手順を4分類している。

  1. 方向が明らかで効果が速やかに現れる改革、地方・部門が授権により扱ってよいものに属する改革:2014年ないし近いうちに推進を加速してよい。
  2. 関係方面が広範で中央の政策決定が必要な改革:改革案を早急に検討・提起し、具体的な改革戦術を制定し、全面的に統一企画し審査決定した後、2014年の適当な時期に推進してよい。
  3. 認識がまだ深まっていないが推進しなければならない改革:大胆に模索し、テストを先行させ、ルールを見つけ出し、共通認識を凝集させて、全面推進・展開のために経験を累積し、条件を創造する。
  4. 全会が提起した推進が必要な制度面の建設:法律の改正・整備が必要なものも検討を強化し、できるだけ速やかに始動しなければならない。

 したがって、2013年11月の党3中全会で決定された改革の諸項目は、この4分類に仕分けされ、③④に該当するものは2015年以降に先送りされることになろう。特に法整備が必要なものは、2015年の全人代以降に順次立法・法改正がなされていくものと思われる。

 なお、国家情報センター経済予測部の祝宝良主任は、「①政府が更に権限を簡素化・開放し、②小型・零細企業に対する税の減免を強化し、③民営中小銀行を設立し、④国有企業の利益上納率を引き上げ、⑤資源価格を改革し、⑥公立病院を改革する等の方向は既に非常に明確になっており、2014年に重大な進展が期待される」としている(新華網北京電2013年12月13日)。

 習近平総書記がトップに就任した中央改革全面深化領導小組が、今後どのような改革のタイムスケジュールを示すが注目される。

(10)その他

 主体的機能区制度の位置付けにより地域の発展のあり方を区分すること、低家賃住宅・公共賃貸住宅の建設・供給の増加、大気汚染対策、自由貿易地域・投資協定交渉の推進、シルクロード経済帯(バンド)・海のシルクロードの建設、サービス業の発展の加速・ウエイトの引上げ・水準の向上、都市化の質の向上、民生を保障するセーフティネットの構築などが挙げられている。


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