【14-03】2014年政府活動報告のポイント(2)

2014年 4月 3日

田中修

田中 修(たなか おさむ):日中産学官交流機構特別研究員

略歴

 1958年東京に生まれる。1982年東京大学法学部卒業、大蔵省入省。1996年から2000年まで在中国日本国大使館経済部に1等書記官・参事官として勤務。帰国後、財務省主計局主計官、信 州大学経済学部教授、内閣府参事官を歴任。2009年4月―9月東京大学客員教授。2009年10月~東京大学EMP講師。学術博士(東京大学) 

主な著書

  • 「2011~2015年の中国経済―第12次5ヵ年計画を読む―」(蒼蒼社)
  • 「検証 現代中国の経済政策決定-近づく改革開放路線の臨界点-」
    (日本経済新聞出版社、2008年アジア・太平洋賞特別賞受賞)
  • 「中国第10次5ヵ年計画-中国経済をどう読むか?-」(蒼蒼社)
  • 「中国経済はどう変わったか」(共著、国際書院)
  • 「中国ビジネスを理解する」(共著、中央経済社)
  • 「中国資本市場の現状と課題」(共著、財経詳報社)
  • 「中国は、いま」(共著、岩波新書)
  • 「国際金融危機後の中国経済」(共著、勁草書房)
  • 「中国経済のマクロ分析」(共著、日本経済新聞出版社)
  • 「中国の経済構造改革」(共著、日本経済新聞出版社)

はじめに

 3月5日、全人代が開催され、李克強総理が総理就任後最初の政府活動報告(以下「報告」)を行った。2014年の経済政策の主要なポイントは以下のとおりである。

(7)経済発展方式の転換

 「我々が追求するのは発展であり、質・効率を高め、転換・グレードアップを推進し、人民の生活を改善する発展である」とする。

 そして、成長を安定させると同時に、発展を

①主として要素投入への依拠から更に多くイノベーション駆動に依拠させるよう転換し、②主として伝統的な比較優位から更に多く総合的な競争優位性を発揮させるよう転換し、③産業の国際分業をローエンドからミドル・ハイエンドに引き上げ、④都市・農村や地域の不均衡からバランスのとれた協調へと邁進させなければならない、としている。

 このため、「政治業績の考課・評価体系を整備し、各方面の積極性を発展方式の転換・構造調整の加速、科学的発展の実現へと確実に誘導し、雇用と個人所得を不断に増加させ、生態環境を不断に改善することにより、経済社会の発展を更に効率的で、更に公平で、更に持続可能なものにする」と述べている。

(8)改革の全面深化

 「改革は最大のボーナスである」という李克強総理の持論を展開したうえで、「現在、改革は既に堅塁攻略の時期・深水区域に進入して」いるとし、「壮士が腕を断つ決意・背水の陣による一戦の気概をもって思想観念の束縛を打破し、利益固定化の藩屏を突破し、経済体制改革を牽引力として、各分野の改革を全面的に深化させなければならない」とする。

 改革の優先順位としては、①大衆が最も望む分野、②経済社会の発展を制約する際立った問題、③社会各界がコンセンサスに達することができる部分から始めるとし、党3中全会で決定された「資源配分において市場の決定的役割を発揮させる」という方針を再確認している。

 2014年は党3中全会で決定された改革事項を実施に移す初年度であり、どの程度改革の具体的内容が盛り込まれるかが注目されていた。報告では以下のような改革が列記されている。

①行政体制改革

 行政審査・許認可事項を更に200項目以上取消・下方委譲する(2013年実績は416項目)。企業の投資自主決定権を保証する。

②財政改革

 予算制度の透明化を図る。特別移転支出項目(補助金)を3分の1削減する。中央と地方の権限と支出責任を早急に検討・調整し、現有の財政力構造の総体的安定を維持しつつ、中央と地方の収入区分を段階的に合理化する。地方債発行を認め、地方政府の債務収入を予算管理に組み入れ、債務リスクを防止・解消する。

 なお、財政部の楼継偉部長は3月6日の記者会見において、「特定移転支出は現在220項目あるが、これを150項目前後に圧縮する。営業税の増値税への転換は、今後サービス業・不動産業・金融サービス業にまで範囲を拡大することを検討する」としている(新華網2014年3月6日)

③税制改革

 営業税の増値税への転換を鉄道輸送・郵政サービス・電信等の業種に拡大する。不動産税・環境税の立法作業を進める。小型・零細企業への優遇税制を拡大する。消費税・資源税改革を進める。

④金融体制改革

1)金利の市場化(自由化)を引き続き推進する。

  この点につき、人民銀行の周小川行長は3月11日の記者会見において、「個人的には、預金金利の自由化はこの1-2年で実現できると考えている」と発言している(2014年3月11日新華網)。

2)為替レートの双方向への変動区間を拡大する。

 これは、3月17日より変動幅が上下2%から3%に拡大されている。

3)人民元資本項目の兌換化(自由化)を推進する。

 この点につき、人民銀行の周小川行長は3月11日の記者会見において、「人民元資本項目の兌換化は着実に推進し、段階的に実現する」と述べている(2014年3月11日新華網)。

4)民間資本による中小タイプの銀行を設立する。

 これについては、銀行業監督管理委員会の尚福林主席が3月11日の記者会見において、第1弾として民営資本の5銀行を天津・上海・浙江・広東でテストする」としている(2014年3月11日新華網)。

5)預金保険制度を確立する。

 これについて、人民銀行の周小川行長は3月10日、「預金保険制度は2014年に打ち出す見込みがある」と述べている(上海証券報2014年3月11日)。

⑤国有企業改革

 国有資本投資運営会社のテストを推進する。中央国有企業の収益の上納比率を高める。金融・石油・電力・鉄道・電信・資源開発・公益事業等の投資分野に非国有資本を参入させる。

⑥農村改革

 請負農地の経営権の秩序立った移転を誘導する。専業大農家・家庭農場・農民合作社・農業企業等の新しいタイプの経営主体を育成する。

⑦戸籍制度改革

 戸籍制度の改革を推進し、異なる規模の都市で農民の受入数を差別化した戸籍移転政策を実行する。

⑧所得分配体制改革

 所得格差の縮小に努力する。企業従業員の給与アップのための集団交渉制度を推進し、国有企業責任者の報酬管理を強化・改善する。多様なルートで低所得者の所得を増やし、中等所得者のウエイトを不断に拡大する。都市・農村住民の所得を経済と同歩調で増やす。

⑨計画出産の改革

 計画出産の基本国策を動揺させないことを堅持し、一方が一人っ子の夫婦が2人目の子供を産むことを認める政策を実施する。

(9)その他

①都市化

1)約1億人の農業からの移転人口を都市戸籍に移す。

 都市基本公共サービスによる常住人口カバー率100%を段階的に推進する。このためには財源が必要となるため、農業からの移転人口の市民化コストの分担、多元化した都市建設投融資等のメカニズムを模索するとしている。

2)約1億人が居住する都市バラック地区の「都市の中の村」を改造する。

 これは住宅改革の一貫である。高層ビルが林立する一方でバラック地区が広がるような情況を決して生じさせてはならないとしている。

3)約1億人の中西部の農民を近場の都市で就業させる。

 このため、中西部の産業発展と人口集積能力を高めるとしている。

②産業構造調整

 生産者向けサービス業や新興産業を育成する一方で、鉄鋼・セメント・板ガラスといった生産能力過剰業種の設備廃棄目標を設定している。

③社会保障

 都市・農村住民基本医療制度を整理・合理化する。統一した都市・農村住民基本年金保険制度を確立し、企業従業員年金保険との接続方法を整備する。

④雇用

 727万人の大学卒業生の就職・起業と、生産能力廃棄に伴う従業員の再配置・再就職に取り組む。

⑤住宅・不動産

 社会保障的性格を持つ安住プロジェクトの建設を強化し、2014年は700万戸以上新たに着工し、うち各種バラック地区を470万戸以上とし、付帯施設の建設を強化する。政策的な住宅投融資メカニズムと手段を刷新し、市場化した運用方式を採用し、社会保障的性格を持つ住宅のために長期に安定しコストが適切な資金支援を提供する。年内に社会保障的性格を持つ住宅480万戸を基本的に完成させる。

⑥環境対策

 大気汚染対策として、小型石炭ボイラー廃棄、石炭火力発電所の発電ユニットに脱硫装置・脱硝装置・集塵装置の取り付け、排気ガスの基準を満たさない車の廃棄について具体的目標を定めている。また2014年はGDP単位当りエネルギー消費を3.9%以上引き下げ、二酸化硫黄・化学的酸素要求量をいずれも2%削減しなければならない、としている。

⑦対外開放

 国際競争の新たな優位性を早急に育成する。積極的に外資を有効利用し、サービス業の開放拡大を推進する。中国上海自由貿易試験区をしっかり建設・管理し、若干の新たなテストを展開する。2014年の輸出入総額は7.5%前後の伸びを予期目標とする。国際分業における中国製造業の地位を高める。

 サービス・貿易協定、政府調達協定、情報・技術協定等の交渉を推進し、「中国・アメリカ」、「中国・欧州」投資協定交渉を推進し、韓国・オーストラリア・湾岸アラブ諸国協力会議(GCC)等とのFTA交渉のプロセスを加速する。なお、日本についての言及はない。

⑧政府自身の改革・建設

 2014年は、土地譲渡金収支と耕地保護の情況について全面的な会計検査を進める。


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