【15-05】上半期の経済動向と今後の経済政策

2015年 8月18日

田中修

田中 修(たなか おさむ):日中産学官交流機構特別研究員

略歴

 1958年東京に生まれる。1982年東京大学法学部卒業、大蔵省入省。1996年から2000年まで在中国日本国大使館経済部に1等書記官・参事官として勤務。帰国後、財務省主計局主計官、信 州大学経済学部教授、内閣府参事官を歴任。2009年4月―9月東京大学客員教授。2009年10月~東京大学EMP講師。学術博士(東京大学) 

主な著書

  • 「2011~2015年の中国経済―第12次5ヵ年計画を読む―」(蒼蒼社)
  • 「検証 現代中国の経済政策決定-近づく改革開放路線の臨界点-」
    (日本経済新聞出版社、2008年アジア・太平洋賞特別賞受賞)
  • 「中国第10次5ヵ年計画-中国経済をどう読むか?-」(蒼蒼社)
  • 「中国経済はどう変わったか」(共著、国際書院)
  • 「中国ビジネスを理解する」(共著、中央経済社)
  • 「中国資本市場の現状と課題」(共著、財経詳報社)
  • 「中国は、いま」(共著、岩波新書)
  • 「国際金融危機後の中国経済」(共著、勁草書房)
  • 「中国経済のマクロ分析」(共著、日本経済新聞出版社)
  • 「中国の経済構造改革」(共著、日本経済新聞出版社)

1.上半期の経済動向

 まず、1-7月期主要経済指標から経済の動向をみることにしよう。

(1)経済成長率

 2015年1-6月期のGDPは、前年同期比で実質7.0%の成長となった。年間目標7.0%前後の範囲におさまっている。これを四半期別の推移でみると2014年7-9月期7.3%、10-12月期7.3%、2015年1-3月期は7.0%、4-6月期は7.0%となっており、経済は1-3月に落ち込んで以降はなだらかに推移しているようにみえる。

 しかしこれを先進国で用いる前期比でみると、2014年7-9月期1.9%、10-12月期1.5%、2015年1-3月期1.4%、4-6月期1.7%の成長となる。これを4倍すれば年率換算となるので、中国経済は昨年10-12月期の段階で6%近傍まで減速し、今年に入って1-3月期は6%を割り込み、4-6月期はやや持ち直したものの、7%を割り込んだ姿となっている。

 つまり、中国経済は10-12月期、1-3月期と急激に落ち込み、4-6月期やや回復軌道に乗りかけているというのが実情である。

(2)物価

 1-6月期の消費者物価は、前年同期比1.3%上昇となった。年間のインフレ抑制目標は3%前後であるから、インフレの懸念はないようにみえる。しかし、月別にみると、5月1.2%から6月は1.4%に上昇しており、とくに豚肉価格が7.0%上昇している。これが7月には、さらに16.7%も上昇しているのである。

 中国の消費者物価は食品価格が3分の1を占めており、なかでも生鮮野菜と豚肉価格の影響が大きい。生鮮野菜価格は季節性の変動があり、冬場には上昇しがちであるが、春から秋にかけては比較的安定する。これに対し、豚肉価格は需給が不安定なため、数年周期の上昇・下落のサイクルがあり、現在上昇サイクルに入ったのではないかとみられている。となると、7月以降は豚肉価格の動向が消費者物価動向を大きく左右することになろう。

 このことは、金融政策の制約要因となる可能性もある。これまで人民銀行は利下げを積極的に発動して、景気を下支えてきた。その理由は物価の下落傾向により、実質金利が上昇しており、小型・零細企業の金利負担を軽減するため、というものであった。しかし、物価が上昇傾向に転ずれば、実質金利は逆に低下傾向となるので、利下げは発動しづらくなる。無理に発動すれば、金利選好の強い預金者は預金を引き出し、理財商品・信託商品・株に再び振り向け、シャドーバンキングの再拡大を招く危険性があるからである。

(3)雇用

 1-6月期の新規就業者増は、718万人となり、半年で目標1000万人以上の71.8%を達成した。6月末の都市登録失業率は4.04%で、年間目標の4.5%以内をクリアしている。1-6月期の有効求人倍率は約1.06倍である。

 このように、経済の減速にもかかわらず、雇用が比較的安定しているため、習近平指導部は大がかりな景気対策を発動していないのである。

(4)景気持ち直しの兆候

 6月の指標をみると景気の持ち直しの兆候がみられたが、7月の指標は再び低迷しており、景気回復の動きはまだ確実とはいえない。

 まず、需要面であるが、消費の伸びは5月10.1%→6月10.6%とやや上向いているが、7月は10.5%とほぼ横ばい状態である。投資は累計なのでわかりにくいが、1-5月11.4%→1-6月11.4%と下げ止まっていた。しかし、1-7月は11.2%と再び落ち込んだ。ただ、新規着工額は伸びている。輸出は5月-2.5%→6月2.8%とマイナスからプラスに転じていたが、7月は-8.3%と再び大きくマイナスとなっており、必ずしも安定していない。

 その他の指標では、工業生産の伸びは5月6.1%→6月6.8%とやや改善していたが、自動車生産の不振により7月は6.0%に落ち込んだ。電力使用量も5月1.6%→6月1.8%と上向いていたが、工業の不振により7月は-1.3%となった。

 改善が著しいのは不動産市場であり、全国70大中都市のうち新築分譲住宅販売価格が前月比で上昇した都市は、5月20→6月27に増えた。また分譲建物販売面積の伸びは1-5月-0.2%→1-6月3.9%とマイナスからプラスに転じ、1-7月は6.1%に大きく伸びた。販売額も1-5月3.1%→1-6月10.0%→1-7月13.4%と大きく回復している。もっとも、住宅市場は在庫消化の段階であり、しかも回復傾向が著しいのは北京・上海・広州・深圳といった第一線都市である。地方都市では住宅価格はまだ下落しており、不動産開発投資も1-5月5.1%→1-6月4.6%→1-7月4.3%と、まだ上昇に転じる気配はない。

2.今後の経済政策

(1)党中央政治局会議(7月30日)

 習近平総書記は、この動向を踏まえ、7月30日に党中央政治局会議を開催したが、そこでは経済情勢について「上半期の経済成長は予期目標と符合しており、主要な経済指標はある程度反転上昇し、構造調整は引き続き推進され、農業情勢は引き続き好転し、発展の活力はある程度増強されている。同時に、経済の下振れ圧力は依然かなり大きく、一部の企業は経営が困難になっており、経済成長の新動力の不足と旧動力の弱体化という構造的矛盾が依然として際立っている」としている。

 下半期の経済政策については、「マクロ政策の連続性・安定性を維持し、区間コントロールの基礎の上に方向を定めたコントロールを強化し、遅滞なく事前調整・微調整を進める。経済の下振れ圧力への対応を高度に重視し、システミックなリスクの防止・解消を高度に重視する」とし、基本的にこれまでの政策の方針を維持している。「区間コントロール」とは、インフレ・雇用・成長率目標の達成に重点を置くことであり、「方向を定めたコントロール」とは財政・貸出資金を農業・農村・農民、小型・零細企業、中西部鉄道・水利プロジェクト・バラック地区改造・都市インフラ等に重点的に振り向けることである。

 具体的な政策としては、次の項目が挙げられている。

①積極的財政政策のトーンを変えないことを堅持し、公共支出の力の入れ具合を維持し、企業の負担を引き続き軽減し、更に多くの民間資金の投入増加を誘導・テコ入れしなければならない。
②穏健な金融政策は、緩和と引締めを適度にし、合理的な流動性を維持し、実体経済に奉仕する能力・水準を高めなければならない。
③具体的で有効な方法を採用し、消費・投資・輸出の安定的な伸びを誘導する。
④構造調整を確実に推進し、イノベーション駆動による発展戦略の実施を加速し、大衆による起業・万人によるイノベーションを促進し、良好な市場環境を創造し、優勝劣敗、競争・協力の中で企業の活力を増強しなければならない。
⑤改革を構造調整の根本的な拠り所とし、行政の簡素化・権限の委譲、開放と管理の結合、サービスの最適化を引き続き推進し、国有企業、財政・税制、金融等の体制メカニズム改革を重点的に推進しなければならない。
⑥民生の保障を確実に強化し、雇用の保障を際立てて位置づけ、貧困扶助開発政策をしっかり行うことを高度に重視し、低所得者・失業者・障害者等の基本生活保障にとりわけ注意を払わなければならない。

(2)全国財政工作ビデオ会議(7月29日)

 楼継偉財政部長は講話の中で、当面の財政政策について、次のように指示している。

①力を強め効率を高め、積極的財政政策の各措置をしっかり実施する。

 重大プロジェクトの建設を強力に推進する。財政資金の統一的企画・使用を大いに推進する。税率の引下げ・手数料の整理を強化する。

②政府と社会資本の協力(PPP)モデルの普及・運用を加速する。

 法律制度と政策支援の体系の整備を加速する。市場理念とリスク意識を強化する。PPPプロジェクトの実施を規範的に推進する。

③成長の安定とリスク防止を統一的に企画し、地方政府の債務管理を一層規範化する。

 融資プラットホーム会社の市場化による転換・改造を早急に推進する。法に基づき、地方政府の起債行為を規範化する。

④各種の投資誘導基金の役割を好く発揮させる。

 各種の投資誘導基金を設立し、運用方式を刷新することは、財政資金の乗数効果とレバレッジ作用を発揮させ、民間資金を誘導し経済社会発展のカギとなる分野・脆弱部分に投入させることに資するものである。

⑤財政・税制改革を深く推進する。

 予算公開を全面的に推進し、政府予算体系を整備し、中期財政計画管理を実行し、財政移転支出制度を改革・整備し、予算業績効果管理を積極的に推進し、発生主義の政府総合財務報告制度の建設を早急に推進する。

営業税を増値税に改める改革の全面的完成に努力し、消費税改革を推進し、資源税制度を早急に整備し、租税法定主義の原則を積極的に推進・実施する。

中央と地方の権限と支出責任の区分を検討・整備する。財政部駐在事務所の転換を引き続き推進する。

(3)人民銀行支店長座談会(8月3-4日)

 当面の金融政策については、次の方針が決まった。

①穏健な金融政策を引き続き実施し、マクロ・コントロールの考え方・方式を刷新・整備し、緩和・引締めの適切な度合を更に重視する。

 多様な金融政策手段を柔軟に運用し、事前調整・微調整を遅滞なく進め、適度な流動性を維持し、マネー・貸出と社会資金調達規模の合理的な伸びを実現する。

②フローをうまく用い、ストックを活性化することを重視し、資金調達構造と貸出構造を改善・最適化し、社会資金調達コストを引き下げ、重点分野・脆弱部分に対する金融支援を強化する。
③人民元レートの形成メカニズムを更に整備し、合理的な均衡水準における人民元レートの基本的安定を維持する。
④金融の改革開放を全面的に深化させ、金融システムの活力・動力を増強し、金融の運営効率と実体経済へのサービス能力を高める。
⑤健全なリスク事前警告・識別・処置メカニズムを一層確立し、金融市場の予想の安定を重視し、金融リスクを有効に防止・解消する。
⑥金融市場のインフラ建設をしっかり推進し、金融のサービス・管理水準を全面的に高める。

 このように、景気回復の足取りはかなり弱いが、6月時点では一方的な鈍化は止まったようにみえた。ただ、工業生産者出荷価格が7月に前年同期比-5.4%となり、輸出の伸びも7月はマイナスに転じ、工業生産の伸びが再び鈍化するなど、依然不安定要因も多い。このため、当面のマクロ経済政策については、従来の方針が維持されつつも、必要に応じ財政支出の拡大・流動性の供給によるテコ入れが模索されることとなろう。人民銀行は、8月11日から3日間で人民元の対ドルレートを4.5%引き下げたが、これをもって景気対策本格発動とまでは言い難い。当面の懸念としては、株式市場がこれ以上混乱しないことが肝要であろう。また、FRBが利上げを実施したときに、中国内外の資本流動がどのように変化するかも注意が必要である。


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