【15-05】矢継ぎ早の金融緩和政策と金利自由化の進展

2015年 5月19日

露口洋介

露口 洋介(つゆぐち ようすけ):
信金中央金庫 海外業務支援部 上席審議役

略歴

1980年東京大学法学部卒業、日本銀行入行。在中国大使館経済部書記官、日本銀行香港事務所次長、日本銀行初代北京事務所長などを経て、2011年日本銀行退職。同年4月より現職。著書に『中国経済のマクロ分析』(共著)、『東アジア地域協力の共同設計』(共著)、『中国資本市場の現状と課題』(共著)など。

 中国人民銀行は5月11日から預金・貸出基準金利を引下げた。人民銀行は、昨年11月22日、本年3月1日に預金・貸出基準金利の引下げ、本年2月5日、4月20日に預金準備率の引下げと矢継ぎ早に金融緩和政策を打ち出しているが、それらに続く金融緩和措置である。

預金、貸出基準金利の引下げ

 今回、人民銀行は銀行の人民元貸出基準金利と預金基準金利を、各期間にわたって一律0.25%引下げた。普通預金などの流動性預金の基準金利は0.35%のまま据え置いた。この結果1年物定期預金基準金利は2.25%、1年物貸出基準金利は5.1%となった。同時に預金金利の上限を基準金利の1.3倍から1.5倍に引き上げた。1年物預金金利で見ると上限は3.25%から3.375%に引上げられたことになる。

 貸出金利については既に上限も下限も撤廃されており、銀行が自由に決定してよいことになっているはずだが、未だに基準金利が公表されている。人民銀行の2015年第1四半期金融政策執行報告によると、2015年3月の銀行の貸出数量の62%が基準金利とその1.3倍以下の間で実行されており、1.3倍超の金利は27%に止まっている。基準金利以下の貸出も11.3%にすぎない。依然として基準金利周辺に貸出量が集中しており、基準金利がまさに貸出金利の参考基準となっていることが伺える。なお、非金融企業と個人が調達した資金を示す社会融資総量のうち人民元貸出が占める比率は2014年末残高で66.3%だったが、2015年第1四半期中の増加額で見ると78.3%を占めており、「影の銀行」など人民元貸出以外の資金調達経路は減少してきている。

 以前のように名目GDP成長率が10%を超えるような状況で貸出金利が5~6%程度というレベルは明らかに低水準であった。昨年も、実質GDP成長率は7.4%であるが、名目成長率は8.2%に達していた。しかし、2015年第1四半期の名目成長率は5.8%に止まっている。実質成長率が7.0%であるからGDPデフレーターは1.2%のマイナスに転じたことになる。この状況で今回利下げ前の1年物貸出基準金利5.35%は、既に明らかな低水準とはいえない。今回の金利引下げは、経済が減速傾向である中、GDPデフレーターのマイナス転化によって生ずる実質金利の上昇がさらに経済を冷え込ませることを防ぐことを目的としている。人民銀行ホームページに掲載された人民銀行責任者の説明では「国内物価水準が総体的に低位にあり、実質金利が依然として歴史的平均水準より高い水準にあるため」、金利を引下げたとされている。一方、同じ説明の中で今後の金融政策の方針として「中性で適度な金融環境を保持する」としており、依然として中性的な金融政策を継続するという慎重な言い回しを維持している。金融緩和政策が経済を強く刺激する政策と解されて、資産バブルや過剰生産を助長することを依然として警戒しているのである。

預金金利の上限引き上げ

 預金金利の上限については2015年3月1日に基準金利の1.2倍から1.3倍に引上げており、今回はそれに続く引上げである。前出の金融政策執行報告によると、3月時点の各銀行の提示金利は3グループに分かれる。第1グループは国有銀行と少数の株式制銀行で、1年以内の定期預金は基準金利の1.1倍の水準、2年以上の定期預金と流動性預金は基準金利ないし若干それを上回る水準となっている。第2グループは株式制商業銀行と少数の都市商業銀行で、1年以内の定期預金は基準金利の1.2倍の水準、2年以上の定期預金と流動性預金はおおよそ基準金利の1.1倍の水準。第3グループは、地方金融機関で各期間の預金とも基準金利1.2倍から1.3倍となっている。第1グループに所属する個別銀行名は不明であるが、人民銀行の統計によると、4大商業銀行、郵政貯蓄銀行、国家開発銀行の国有銀行に最大の株式制銀行である交通銀行を加えた7行の2015年3月末の人民元預金残高は全銀行の52%を占めている。従って人民元預金の過半は基準金利の1.1倍以内の金利水準にあると考えられる。前回の本コラム で述べたとおり、今年中に預金金利の上限が撤廃される可能性があるが、その後も当面は預金、貸出ともに基準金利が公表され続けるということがあり得る。さらに金融政策の変更時に基準金利の引下げや引上げが行われ、預金や貸出金利が基準金利の周辺で推移することによって、事実上、金利が規制された状況と同様の運用が行われる可能性もあるだろう。

金利自由化と金融政策

 前回のコラムでも述べた「金利を自由化しないと金利を利用した金融政策が行えない」という表現はわかりにくいかもしれない。金利を利用した金融政策とは、人民銀行が金利水準をコントロールすることを意味しており、現在も人民銀行が金利を規制しているのだから金利を利用した金融政策を行っているように見える。この点ついては、2つの側面が存在する。一つは人民銀行が様々な期間の金利を決定しており、イールドカーブを人為的に決めているという点である。前回も述べたように、人為的に決められたイールドカーブで資金の需給がバランスする保証はない。短期金利をひとつだけコントロールしてイールドカーブは市場で決まるようにすべきである。もう一つは、そのように人為的に決められた様々な期間の金利の水準が低すぎるという点である。そういう状況だと借入需要が超過し、貸出総量を規制する必要が生じる。現状では、金利という価格目標を使用した金融政策は未だ実現していない。従って数量を利用した政策に頼らざるを得ない。

 2015年第1四半期の金融政策執行報告の中で人民銀行は「現在わが国の金融政策のコントロールは正に数量型コントロール主体から価格型コントロール主体に徐々に転換する過程の中にある」としているが、同時に「完全に価格を目標とするには時期尚早である。移行段階では数量目標が依然として有効である」と述べている。実際の運用も含めて預金、貸出金利の完全自由化が実現するまでは、数量目標の金融政策を維持する必要があり、貸出量をコントロールする窓口指導が実施され続けるものと思われる。こうした中、前述の通り2015年第1四半期の名目GDP成長率は5%台に低下しており、今回引下げ後の1年物貸出基準金利の5.1%でも明らかな低水準とはいえなくなってきている。スムーズに金利自由化を行う条件が徐々に整いつつある。

(了)


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