第40号:環境・エネルギー特集Part 1-低炭素社会づくりを目指す
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中国における太陽エネルギー利用技術の開発および産業の現状

2010年 1月18日

苗蕾

苗蕾 (Miao Lei ):中国科学院・広州エネルギー研究所太陽エネルギーチームの研究主任、日本精密セラミック研究センター材料技術研究所の客員研究員。博士コース担当教員

 1972年6月生まれ。2004年3月、名古屋工業大学都市循環システム工学専攻博士学位取得。主に酸化物半導体の熱電変換や光電機能材料の研究や開発に従事。 2003年以降、応用物理や材料表面の研究に関する国際的な学術雑誌に合わせて73本余の論文を発表(SCI論文59本およびEI論文44本)。代表的な論文は、Adv. Mater.、Appl. Phys. Lett.、 J. Appl. Phys.、 Chem. Materといった雑誌において、300回余引用(SCIにおける引用333回、引用著者数1056回)。ナノ光電材料分野における国際学会で招待講演 (Invited) 12回。共著書を3冊出版、日本における特許2件および中国における発明特許6件取得。このほか、日本工業新聞社の主催する2002年先端技術大賞における学生部門特別賞、日本育英会奨学金、名古屋工業大学学長賞、日本学術振興会外国人特別研究員など受賞。2009年には、材料研究分野における成果が評価されアメリカの「Who's Who in the world」全集に収録。【MARQUIS、 Who's Who、 26 edition、P1562】。

1.序文

 エネルギー、環境、持続可能な経済成長の「トリレンマ」が近年ますます顕著になっている。加えて電力、石炭、石油といった再生不能エネルギーの有限性に関する警鐘が頻繁に鳴らされている。このような状況に伴い、ますます多くの人々が新エネルギーや再生可能エネルギーの利用に関心を示すようになっている。エネルギー問題は、世界各国において社会や経済の成長を制約するボトルネックとして、いよいよ顕著になっている。太陽エネルギーは再生可能エネルギーの一つとして、ますます多くの人々から注目されている。バイオマスエネルギーは世界的に見てもわずかしか利用されていない。国際的な生物の均衡、自然の均衡、地域的要素といった制約ゆえに、バイオマスエネルギーを効果的に近代的な方法で利用しようとすると、量が限られてしまう(中国:標準石炭約7億トン分に相当)。水力発電の利用も多くはなく、風力発電に至っては年間の利用可能時間さえ限られている(中国:標準石炭数億トン分に相当)。原子力は安定したエネルギー供給源である。加えて資源量の面で言うと、原子核融合さえ可能であれば、エネルギー供給は尽きることがない。しかし放射能汚染、核拡散、放射能廃棄物の処理といった技術的または政治的な障害や課題を解決する必要がある。

 さまざまな資源のうち、真の意味で再生可能エネルギーだと言える最大のものが、太陽エネルギーである。2005年における全世界のエネルギー消費は3.0x1020ジュール/年だったが、地上に照射される太陽エネルギーは、世界のエネルギー消費の1万倍に相当する3.0x1024ジュール/年もある。太陽エネルギーを地球に住む数十億人のための、ひいては将来地球に住むことになる百億人のためのエネルギー源として利用することがもっとも理想的である。これまでに開発された太陽エネルギー利用技術には、太陽光発電、太陽熱温水器、太陽熱発電、ソーラーハウス、ソーラー調理器、太陽冷却、太陽冷暖房システムなどがある。

 図1で示す資源分布からも分かるように、中国には豊富な太陽エネルギー資源が存在しており、同エネルギーの利用の余地が十分にある。中国が2007年に消費した一次エネルギーは、標準石炭26.5億トン分に相当する。これに対し中国の地表面に照射される太陽エネルギーは、標準石炭1700億トン分に達する。エネルギー消費量の600倍以上である。中国の太陽エネルギー産業は世界一の規模に達している。また太陽熱温水器の生産量や使用量で世界最大であり、世界有数の太陽電池生産国でもある。地球温暖化や原油価格の変動によって、中国でも新エネルギーや再生可能エネルギーの開発ブームが生じている。中国における科学技術分野の最高学術機関であると同時に、自然科学や先端技術の総合研究・発展センターでもある中国科学院は、2009年1月12日に「太陽エネルギー行動計画」をスタートさせた。同計画の最終的な目標は、2050年くらいまでに太陽エネルギーを重要エネルギーとすることである。そのために2015年に部分的な利用、2025年に代替利用、2035年に本格利用を実現するという3段階の目標も制定している。太陽光発電、光熱、光化学、光生物といった太陽エネルギーの主な利用方法に関する科学的重要課題を足掛かりとして、中核技術の開発、応用モデル、転換・転用などの分野において太陽エネルギー行動計画が実施される。中国科学院は同計画の実施のために同院の力を結集すると共に、関連する国内の科学技術力とも連携していくつもりである。特に新原理、新方法、新材料、新技術の発見や開発を重視している。また産業、大学、研究機関の連携を推進し、太陽エネルギーが一日も早くコスト的に大規模利用が可能なエネルギーとなるよう努力していく。

図1  中国における太陽エネルギー資源の分布

図1 中国における太陽エネルギー資源の分布

 1978年に発足した中国科学院・広州エネルギー研究所の太陽エネルギーチームは、主に「太陽エネルギーの利用のための重要材料と技術」に関する基礎研究や応用研究に従事している。同チームは、中国で初めて太陽熱の利用に関する研究を開始した国家レベルの科学研究機関であり、「中国一」の称号を与えられている。太陽エネルギーの光熱転換材料やシステム、太陽光発電に関する新材料やシステム、太陽エネルギーに関する機能材料(輻射制御材料や熱反射塗料など)の開発と応用、省エネ新建材の開発と応用などが主な研究テーマである。同チームの研究における主な特色は、太陽エネルギーのさまざまな利用方法を組み合わせている点にある。例えば光と熱の利用(太陽エネルギーの光熱転換材料や太陽光発電に関する新材料とシステム)、直接利用(太陽エネルギーの光熱転換材料や太陽光発電に関する新材料とシステム)と間接利用(太陽エネルギーに関する機能材料や省エネ建材)の融合などである。新エネルギーや再生可能エネルギーの研究を専門的に行う国家レベルの科学研究機関として、太陽エネルギーのさまざまな利用方法に関する研究を総合的に展開している。

2.太陽光発電に関する研究および産業の現状

2.1 太陽光発電の基本原理と研究開発の現状

 第一世代の太陽電池における基本物理過程は、光励起半導体材料の形成する光電子と正孔によって生じる。半導体のp-n接合における電場作用によって、光電子と正孔の分離と移動が実現する。この過程で重要なのは、太陽光の吸収率、光励起による光電子と正孔の発生率、有効に光電子と正孔の移動を促進する方法である。太陽電池における太陽光発電技術を大まかに分類すると3種類になる。第一世代は結晶シリコン太陽電池であり、単結晶シリコン太陽電池と多結晶シリコン太陽電池がある。第二世代は半導体を利用した薄膜太陽電池であり、アモルファスシリコン(a-Si)、ガリウム砒素(GaAs)、カドミウムテルリド(CdTe)、銅・インジウム・ガリウム・セレン(CuInGaSe)がある。第三世代は新型太陽電池であり、色素増感、広帯域スペクトル、多層構造多結晶、量子ドットやナノ、有機電池といった多種多様の新型電池がある。太陽電池の研究において課題となっているのは、効率、コスト、寿命の3要素を同時に考慮しなければならない点である。

 第一世代太陽電池は中国で盛んに生産されているが、技術面では改善の余地を残している。第二世代太陽電池は諸外国において産業化が実現しつつあるが、中国ではアモルファスシリコン太陽電池のみが産業化生産に移行できる状態である。ただし多くの解決すべき科学的重要課題を残している。第三世代太陽電池は、中国における多くの大学や研究所で研究が進められている。効率と寿命をいっそう向上させることが、科学的な課題となっている。理想的な太陽電池の効率は40%以上である。豊富な基質材料、低消耗、安価な薄膜化、柔軟な構造、クリーンな製造技術などが必要である。中国の大学や科学研究機関は、目下以下に記す六つの分野を中心として太陽電池に関する研究を展開している。

 (1) 低消耗、低コスト、大規模な太陽電池向け多結晶シリコンの精錬技術。
(2) 第一世代結晶シリコン太陽電池の効率を高める新構造。
(3) 結晶シリコン薄膜太陽電池に関する研究。
(4) 高効率で安価な化合物半導体を利用した薄膜太陽電池。
(5) 第三世代太陽電池に関する新概念や新構造。
(6) 高効率かつ高寿命な新材料を利用した色素増感太陽電池に関する研究。

2.2 中国における太陽光発電政策、市場と産業

 中国は「京都議定書」に加盟しているだけでなく、「再生可能エネルギー法」を制定し2006年1月1日から施行している。中国政府は2010年までに中国における太陽光発電システムの設置総数を450メガワット(MW)にまで増加させると公約している。しかし2006年の時点では85MWしかなかったため、毎年38%の増加幅で設置を続けなければならない。太陽光発電は将来的に中国における重要なエネルギー供給源となる。中国政府による最新の計画によると、2010年までに太陽光発電システムの累積設置数を300MWにするという。次いで2020年までに1.8GW、2050年までに600GWという目標がある。

表1 2010年における中国の太陽光発電市場
市場の種類 累計設置数 (MW) 市場シェア (%)
農村電化 180 51
通信・工業 45 13
太陽光発電製品 32 9
実用発電 (BIPV) 73 21
実用発電(砂漠発電所) 20 6
合計 350 100
表2 2020年における中国の太陽光発電市場
市場の種類 累計設置数 (MW) 市場シェア (%)
農村電化 400 22
通信・工業 300 11
太陽光発電製品 200 17
実用発電 (BIPV) 700 39
実用発電(砂漠発電所) 200 11
合計 1800 100

 1971年、中国は人工衛星の東方紅2号に太陽電池を応用することに初めて成功した。1973年からは太陽電池を地上で応用するようになったが、コストが高いために市場の発展は緩慢であった。2002年に国家計画委員会は「西部地域の村落に対する電力供給計画」を発動した。太陽光発電や小型風力発電によって、西部地域の七つの省や自治区(チベット自治区、新疆ウイグル自治区、青海省、甘粛省、内モンゴル自治区、陝西省、四川省)にある700余の未電化村落に電力供給を行うことにした。同計画による太陽光発電の使用量は15.3MWに達した。2000年以降、「光明工程」、「GEFと世界銀行によるREDP」、中国とオランダの共同事業である「シルクロード」といったプロジェクトが相次いで実行に移され、太陽光発電システムによって中国西部の未電化村落に対する電力供給問題を解決する動きが活発になった。

 中国における在来型エネルギーは極めて不足しており、将来の電力供給も保証されていない。中国は太陽光発電をエネルギー戦略の基軸にすべきである。政府の掲げている2010年と2020年の達成目標に基づき、表1と表2に太陽光発電市場の分布状況を示す。

 中国における太陽光発電産業は1970年代に始まり、1990年代の半ばに安定成長の段階に入った。太陽電池や構成部品の生産量は毎年着実に増加している。30年以上にわたる苦労を経て高度成長段階を迎えている。「光明工程」先導プロジェクトや「村落に電力供給」プロジェクトといった国家プロジェクトや国際的な太陽光発電市場に牽引され、中国の太陽光発電産業は急速に発展した。2007年末には太陽電池の生産量で世界シェア27%を実現し、日本やヨーロッパを抜いて世界一となった。また原材料の生産から太陽光発電システムの建設に至る各工程を網羅した産業ネットワークが確立されつつある。特に多結晶シリコンの生産は著しい発展を遂げており、年間生産量が1万トンの大台を突破した。太陽電池の原材料生産に関連したボトルネックが解消されたことで、中国における太陽光発電産業の大規模化のための基礎が据えられた。中国で応用されている太陽エネルギー製品には、街灯、信号灯、公園灯、電卓、玩具などがある。輸出需要や労働集約型産業であるといった要素のため、珠江デルタ地域、福建省、浙江省といった沿岸地域に一群の太陽エネルギー消費財メーカーが設立されている。中国は太陽エネルギー消費財や応用製品の分野で世界最大の生産国となっている。また太陽電池の使用量は年間20MWに達しており、輸出も非常に盛況である。

 中国における太陽エネルギー産業と市場の発展状況には顕著な格差が存在しており、市場は産業の発展に遠く及ばない。主な原因は中国における太陽エネルギー産業の急速な発展が、外国(特にヨーロッパ)の太陽エネルギー市場に牽引されているためである。外国における太陽エネルギー市場の急速な発展は、関連各国の厳格かつ効果的な法規や政策に支えられている。しかし中国では太陽エネルギー産業化と規模化の発展を加速するため、2009年7月になり初めて「金太陽モデルプロジェクトの実施に関する通知」が出され、総合的な財政補助、技術サポート、市場浮揚政策が決定したばかりである。加えて中国の太陽エネルギー産業には、輸出も輸入も海外に依存した構造、原材料価格の変動、無秩序な競争といった問題が存在する。中国における太陽エネルギー企業は製品の98%を輸出しており、原材料の90%以上を輸入している(2009年からは変化が見られる)。加工方法、技術、設備などもすべて輸入に頼っている。2008年5月の時点で、高純度シリコンの精製を行うメーカーが全国に34社存在した。加えて37社が開業の準備を行っており、すべてが操業を開始すれば生産能力の合計が6.8万トンに達する。この数字は需要をはるかに上回るものであり、倒産するメーカーも出てくることだろう。中国には500余の太陽エネルギー関連企業が存在する。このうち40社が材料、70社がシリコンインゴットやシリコンウェハー、30社が電池ユニットを取り扱っている。海外市場に上場している企業が10社あるほか、多くの国内上場企業も太陽エネルギー業界に参入している。

2.3 中国における多結晶シリコン産業

 中国における多結晶シリコン産業は1950年代に興った。1960年代末には峨眉半導体材料研究所(国営第739工場)、洛陽単結晶シリコン工場(同第740工場)、華山半導体工場(同第741工場)などが操業していた。1970年代に多結晶シリコンの精製ブームが起こり、上海や武漢を含む各地で多結晶シリコン工場が建設された。しかし電力消費、材料ロス、コストが高いことや競争力の欠如といった原因で倒産が相次ぎ、洛陽、峨眉、上海棱光などに小規模工場が残るのみとなった。2004年になって太陽エネルギー産業が活況となり、世界中で多結晶シリコンの需要が爆発的に増加した。多結晶シリコンメーカーは生産規模を拡張したが、急な需要に追いつくことができない状態であった。最近の5年間に多くの工場が拡張または新設されてきた。2008年における中国の多結晶シリコン産業を見てみると、生産能力が2万トン、生産量が約4000トン、建設中の工場における生産能力が約8万トンであった。業界は2009年における多結晶シリコンの生産量を1万7000トンと予測している。3.5GW分の太陽電池を生産するために、3.5万トンの多結晶シリコンを消費する必要がある。国内生産分を差し引くと、1万トンを海外から輸入しなければならない。

2.4 中国における太陽電池製造業の現状

 中国における太陽電池の生産には以下のような特徴がある。

 (1) 爆発的な勢いで成長している。2005年に多くの工場が新設されたことにより、生産能力が一気に過去の総額を越えた。

 (2) 市場の需要が旺盛で、大手メーカーでは2年先までラインが埋まっている。

 (3) 原材料が不足しているため生産能力が十分に発揮されていない。また監督制度に難があり、質の悪い原材料が市場に流入している。

 (4) 導入技術を消化吸収することにより、太陽電池の生産技術は世界最先端の水準に達している。

 (5) 企業の総合的な技術力や人材が依然として不足しており、技術革新や開発力が欠如している。

 代表的な太陽電池メーカー:江蘇無錫尚徳太陽エネルギー電力有限公司、中電電気南京光伏科技有限公司、欧貝黎、江蘇林洋、天威英利、阿特斯、常州天合、晶澳、雲南天達光伏科技股份有限公司、江蘇順風光電、台州索日、江蘇天保光伏、杉杉尤利卡、無錫尚品、江陰浚鑫寧波太陽能電源有限公司、上海交大泰陽緑色能源公司など10余の大手メーカー。図2は最近5年間における中国の太陽電池総生産量を示す。

図2 2004-2009年における中国の太陽電池総生産量(単位:兆ワット)

図2 2004-2009年における中国の太陽電池総生産量(単位:兆ワット)

3.太陽熱の利用に関する研究および産業の現状

3.1 太陽エネルギーの中低温利用:温水器

 1970年代後半に始まった中国の太陽熱温水器産業は、長年にわたる発展を経て、総合的な産業チェーンが形成されるようになっている。原材料の加工から温水器製品の製造、販売、サービスに至るまで、総合的かつ調和のとれた発展が実現している。生産高や設置数を見ると、中国はまさに生産大国また応用大国と言うことができる。2006年の時点で全国に1300社以上の太陽熱温水器メーカーがあった。設置済み太陽熱温水器における集熱面積は、標準石炭で約1200万トン分に相当する9000万平方メートルに達している。年間の生産能力は1800万平方メートルである。使用量と年間生産量は共に世界シェア50%以上となっている。2020年までに集熱器の面積が3億平方メートルに達する見込みである。2007年に中国における太陽熱温水器の生産量は、前年比30%増となった。また太陽熱温水器市場の売上高は約320億元であった。生産高が1億元を超えるメーカーは20社余だった。太陽熱温水器の輸出額は、約28%増となる約6500万米ドルだった。輸出先はヨーロッパ、アメリカ大陸、アフリカ、東南アジアなどを包含する50余の国や地域である。業界内で目下問題となっているのは、厳格な業界参入基準や建築業界を考慮した基準の不足である。広州エネルギー研究所の太陽エネルギーチームの開発した中低温選択吸収被覆を利用した製品と性能指数を図3で示す。我々はマグネトロンスパッタ法を採用し、銅製の基質に高吸収率かつ低放射率の高性能選択吸収被覆を施している。すなわち、W - Al2O3。

 図3代表的な中低温選択吸収被覆の製品と性能

図3代表的な中低温選択吸収被覆の製品と性能

3.2 太陽熱の中高温利用:熱発電

 太陽熱発電は重要な太陽エネルギーの利用方法の一つである。太陽光発電のコストが非常に高い中にあって、太陽熱発電技術には特に重要な意義がある。太陽熱発電とは、集光集熱器を利用し太陽の放射エネルギーを熱エネルギーに変換し、熱力学サイクルによって持続的に発電する技術である。1980年代にアメリカ、日本、イスラエル、ドイツ、イタリア、ロシア、オーストラリア、スペインなどの国々が相次いで多種多様のモデル装置を開発したことにより、太陽熱発電技術の発展が促進された。アメリカのSunlab共同実験室の研究によると、2020年位までに太陽熱発電のコストが約0.05米ドル/ KWhになるという。その際には、高出力発電によって従来型エネルギーからの転換を実現する最も経済的な手段の一つとなるだろう。

 目下各国で応用されている主な太陽熱発電システムは、図4で示すタワー式、ディッシュ式、トラフ式の3種類である。このうちトラフ式システムは1990年代初めに商業化が実現しているが、他の2種類は依然として商業化に向けた実証段階にある。2007年末における太陽熱発電システムの設置容量は、全世界で464MWだった。加えて目下建設中または計画中の太陽熱発電容量は3717MWである。IEAは2010年における太陽熱発電の容量を、市場シェアの5%となる1025TWh/aと予測している。また2020年までには市場シェアが10%に達すると予測している。国際エネルギー機関(IEA)が2005年に予測した集光型太陽熱発電のコストは次のとおりである。トラフ式は2012年に0.05米ドル/ KWh、タワー式は2018年に0.04米ドル/ KWh、ディッシュ式は2025年に0.06米ドル/ KWh。

 図4  3種類の太陽熱発電方式(a)タワー式(b)ディッシュ式(c)トラフ式

図4 3種類の太陽熱発電方式 (a)タワー式 (b)ディッシュ式 (c)トラフ式

 中国における太陽熱発電技術の研究は歴史が浅く、1970年代になって初めて基礎研究が始まった。「第7次五ヵ年計画」の期間中に湘潭電機工場がアメリカ・スペース・エレクトロニクス社と提携し、2ユニット5kwの放物面鏡を利用した集光型太陽熱発電機を開発した。しかし高価格だったほか、工法、材料、部品、関連技術などの面で根本的な問題解決に至らなかったため、販売や実用は実現しなかった。アメリカカリフォルニア州にあるLUZトラフ式太陽熱発電所が首尾よく操業を開始したことは、中国でも広く注目を集めた。そして当該ユニットを導入し、チベット自治区のラサに35 MWのLUZトラフ式太陽熱発電所を建設することが計画された。当時実施されたフィージビリティースタディーによると、当該発電所の電力コストが約1.1元/ KWhで、運営コストが0.1元/ KWhだった。ラサ地区の石炭火力発電所の電力コストである0.8元/ KWhと比較してもメリットがあると判断できた。2005年に中国河海大学、南京春輝公司、イスラエルのEDG社が提携して、南京に70KWの空気冷媒を利用したタワー式発電所を建設した。2006年に設立された上海工電能源科技有限公司が、タワー式熱発電所の研究に従事するようになった。同じく2006年にアメリカの企業(中国語による社名標記は「新霓虹」)と西蔵花冠公司が提携し、天津に空気伝熱発電の試験装置が作られた。熱による電力は1000KWを超えた。2007年、ドイツのソーラー・ミレニアム社と内蒙緑能公司がオルドスに1000MWの発電所を建設することで合意した。そのうち第1期プロジェクトは50MWである。同じく2007年に南京市は東南大学によるトラフ式システムの開発を支援することを決めた。2008年に広東省科学技術庁は、東莞康達機電グループによる100KWのトラフ式熱発電プロジェクトを支援するための特別予算を計上した。この分野における中国科学院の研究は、電工研究所が担当しており、中国初の太陽熱発電所の研究や建設を目標としている。発電所は2010年に完成し送電を開始する予定である。

 総合的に評価すると、中国における太陽熱発電分野の研究は依然として遅れており、国際水準に遠く及ばない。

4.結論

 以上のことから現段階における太陽エネルギーの利用状況について、二つの特徴を挙げることができる。第一の特徴は、技術力の向上に伴いさまざまな方式が試されていることである。原子力発電と比較すると太陽エネルギー技術は簡単そうに見えるかもしれないが、現状では標準石炭数十億トンに相当する大きなエネルギーを生じさせることはできず、画期的な新技術の開発が不可欠である。第二の特徴は、化石燃料やその他のエネルギー技術の継続的なコスト上昇の後に本格的な利用が始まるという点である。太陽エネルギーの利用に関する発展傾向については次のように述べることができる。太陽エネルギーの利用は、その他のエネルギーと比較した直接的な生産コストおよび間接的な環境負荷(気候変動や炭素)に左右される。前者の軽減や後者の増大が進むことにより、太陽エネルギーの利用促進が合理的なものとなる。この過程は時間を要するものだが、人類がエネルギーや気候変動に関する問題を解決する上で、太陽エネルギーの利用が重要な選択肢となることに間違いはない。

 2009年12月7日、12日間にわたる「国連気候変動枠組条約」第15回締約国会議および「京都議定書」第5回締約国会議がデンマークの首都コペンハーゲンで開催される。コペンハーゲン気候会議に先立ち中国政府は、2020年までにGDPあたりの二酸化炭素排出量を2005年比で40~45%削減することを発表した。これは中国政府が温室効果ガスの排出量削減に関して初めて公表した具体的な数字である。費用や技術面に関するフィージビリティースタディーによると、温室効果ガスの排出量削減目標を実現するためには、GDP1%に相当する代価が必要となる。中国は「再生可能エネルギー法」を制定し施行することにより、太陽エネルギー産業の発展を政策面で支えている。京都議定書の批准、環境保護政策の推進、国際社会に対する公約などは、太陽エネルギー産業にとってチャンスとなるだろう。また西部大開発によっても太陽エネルギー産業に巨大な国内市場が形成されている。さらに中国政府によるエネルギー戦略の調整も、再生可能エネルギーの開発に対する支援を増大させている。これらすべてが中国における太陽エネルギー産業に絶好の機会をもたらしている。