第47号:脳・神経科学
トップ  > 科学技術トピック>  第47号:脳・神経科学 >  A型ボツリヌス毒素の作用メカニズム及び臨床応用

A型ボツリヌス毒素の作用メカニズム及び臨床応用

2010年 8月 6日

侯一平

侯一平(HOU Yi Ping):
蘭州大学基礎医学院神経科学研究所 副所長 教授

1957年3月生まれ。1983年に蘭州医学院臨床医学部を卒業、医学学士。1988年に医学修士学位を取得。1992-1995フランスリオン第一大学科学院、医学院に留学、ポストドクター。1999-2000カナダMcGill大学モントリオール神経学研究所、訪問学者。国家自然科学基金支援プロジェクト、甘粛省自然科学基金、甘粛省中年青年自然科学資金、甘粛省サポート計画などの研究プロジェクトを主催。中国語や英語による研究論文を86篇発表。その内、Proc Natl Acad Sci USA、J Neuroscience、Neuroscience、Eur J Neurosci、Sleep Research、Sleep、NeuroReport、Neuroimmunomodulation、Can J Physiol Pharmacol、Acta Pharmacol SinなどSCI文章は16篇。現在、中国解剖学会理事、中国神経科学学会理事、中国睡眠研究会生理と薬理専門委員会常務理事、甘粛省解剖学会理事長、中国解剖学会国際交流事務委員会委員、中国解剖学会人体解剖学専門委員会委員、中国解剖学会神経解剖学専門委員会委員、中国神経科学学会教育と継続教育委員会委員を兼任。
主要な研究方向: 睡眠覚醒中枢調整抑制メカニズム、神経毒素の作用メカニズム及び臨床応用

 ボツリヌス毒素(Botulinum toxin、BTX)はボツリヌス菌が成長繁殖する際に産出する代謝産物で、細菌外毒素の特性を持つ神経向性毒素である。その抗原性の違いからA~Gの7亜型に分類される。その分子量は150 kDaで、アルカリ性溶液の中で神経毒素とヘマグルチニン(HA)の2つに分離される。神経毒素は蛋白加水分解酵素により分解され、重鎖(H)と軽鎖(L)の活性のある二本鎖構造を形成し、二本鎖の間は非共有結合のジスルフィドによって結合される。BTXは神経横紋筋の接合部のコリン作動性神経終末に作用し、アセチルコリン(Acetylcholine、ACh)の放出を阻害することによって、筋麻痺を引き起こすことが証明された[1]。そのメカニズムは(1)毒素と受容体の結合。低親和性受容体との結合及び高親和性受容体との結合という2ステップを含む。(2)毒素の移入。飲作用によりシナプス前終末に入る。(3)毒素のアロステリック、シフト。ボツリヌスの重鎖は飲体膜で通路を形成し、軽鎖を細胞質に導入する。(4)毒素の軽鎖は小胞と質膜の結合過程に関与するキーポイント蛋白のVAMP or Synaptobrevin、SNAP-25及びSyntaxinの3つに解裂する。開放放出が発生しないようにする。即ち、結合、内在化、転移、解裂可溶性NSF付着蛋白受容体(SNARE)蛋白の四つのメカニズムによって、AChの放出(Fig. 1)を抑える。A型ボツリヌス毒素(Botulinum toxin type A、BTX-A)は現在臨床治療に多く用いられる生物毒素である。BTX-Aは軽鎖酵素がSNAP-25を切断することにより神経伝達物質がシナプス前膜での放出を阻害し、シナプス伝達を阻害する。現在、臨床骨格筋収縮機能障害により引き起こす疾病、例えば斜視、筋肉痙攣などの治療に多く用いられ、また連続的臨床応用によってBTX-Aが胃腸管平滑筋機能障害、腺分泌の増加、片頭痛などの疾病を治療できることが示されているが、その作用のメカニズムはまだ不明である。これに鑑み、我々は最近数年来BTX-Aの非コリン作動性神経伝達物質/モジュレーターに対する作用のメカニズムについて、研究を行った。臨床応用の拡大に論理的な根拠を提供するために、本文では我々の研究を概説し、また臨床応用の可能性を検討した。

1. BTX-Aが胃麻痺を治療する場合の、胃平滑筋に対する作用及びそのメカニズム

 胃不全麻痺(Gastroparesis)による機能障害は糖尿病の患者に良く見られる。胃排出障害の増加、胃内容物の排出遅延を特徴として、よく幽門痙攣或いは幽門機能不調が伴う。原発性幽門痙攣による胃排出遅延も胃不全麻痺の症状を生じさせることがある。臨床幽門にBTX-Aを注射することは、胃不全麻痺の患者にとって胃排出[2]を増加することが可能で、エクスビボ実験によってBTX-Aがモルモット幽門平滑筋内のAChの放出[3]を抑えることができると証明された。

1.1 BTX-Aが活動ラットの幽門筋電活動とP物質の放出を抑制

 P物質(Substance P、SP)はAChと同じように幽門の収縮と胃筋電のクラスター放電活動[4]を誘発することができる。SPは幽門環状筋内層と粘膜層の近隣エリアに分布し、胃排出の調節[5]に関与する。糖尿病ラット幽門括約筋環状筋層SP免疫陽性細胞は正常のラットより著しく減った[6]。また、不確縫線核にSPを微量注射したら、胃内圧と幽門活動が著しく増える[7]ことになった。

 麻酔を施したラットの幽門にメモリ電極と注射導管をそれぞれ移入し、手術回復後、0.3ml生理食塩水或いはBTX-Aを含むBTX-A 10、20と40 U/Kgを注射した後の筋電の変化をそれぞれ記録する。記録後、幽門組織を取り、放射免疫測定または免疫組織学的解析をそれぞれ行う。結果:BTX-A 10、20と40 U/Kgを注射すると、どれも幽門筋電低速波の振幅が低減したが、低速波の周波数は改変しない。クラスター放電活動は完全に消えた(Fig. 2)。20 U/Kgを投与した場合の抑制効果は10 U/Kg(P<0.05)を投与した場合の抑制効果より著しくよいが、40 U/Kg(P>0.05)を投与した場合と比べて著しい差はなかった。BTX-Aを注射後、放射免疫法(RIA)測定で幽門組織中のSPの含量は生理食塩水より著しく低減し(P<0.01)、幽門環状平滑筋神経そう内と粘膜層のSP免疫表現が著しく減少した(P<0.05)。結論:腹腔鏡手術を模擬し、幽門にBTX-Aを注射したら用量依存的に活体ラット幽門筋電低速波振幅、クラスター放電活動と平滑筋の収縮を抑える。この抑制作用は用量が一定の限度になった後、用量の増加に従って増加することはない。BTX-Aが自律神経と腸神経SPの幽門での放出を抑えるのは、幽門筋電活動が弱まることを引き起こしたメカニズムの一つ[8]である。またBTX-Aは同様に胃体筋電活動とSPの放出[9, 10]を抑えることも分かった。

1.2 BTX-AはSPによって引き起こされるラットエクスビボの幽門平滑筋の収縮作用を抑制

 BTX-Aの内因・外因的SPによるラットエクスビボ幽門平滑筋収縮に対する影響及びそのメカニズムを更に確定するために、我々はそれぞれ下記の方法で実験を行った。①Electrical field stimulation(EFS)を利用して幽門平滑筋内因的神経伝達物質の放出を誘導し、平滑筋の収縮を引き起こし、Atropineでコリン作動性神経を遮断した上、NK1受容体アンタゴニスト[D-Arg1、D-Phe5、D-Trp7,9、Leu11]-SP(APTL-SP、1 µmol/L)とBTX-Aの筋肉片の収縮に対する影響をそれぞれ観察した。②30minおきにSP(1 µmol/L)を加えて、濃度が違うBTX-A(4、10 kU/L)の中でインキュベートした幽門平滑筋条片の収縮を誘発して、4時間継続して記録を取る。BTX-Aの外因的SPにより誘導した筋条片の収縮に対する抑制作用を観察した。結果:①EFSは平滑筋の収縮振幅、頻度と張力を増やす。当該作用はAtropine 1 µmol/Lに不完全に抑えられる。余波はそれぞれAPTL-SP 1 µmol/L或いはBTX-A 10 kU/Lに抑えられるが、BTX-Aに抑えられた余波は更にAPTL-SPに抑えられることはない。②BTX-A 4と10 kU/Lでそれぞれ幽門平滑筋条片をインキュベートする。30 minおきにSP 1 µmol/Lを加えて継続して4 h観察する。SPにより誘導する収縮張力が時間につれて逐次に低下した。4時間時点でBTX-A 4 kU/L群の収縮張力はSPにより誘発した張力の(73.4±11.5)%であり、10 kU/L群がSPにより誘発した収縮張力の(25.1±8.1)%(Fig.3)である。結論:BTX-Aが外因的SPとEFSにより誘発した内因的SPにより引き起こされるエクスビボ幽門平滑筋の収縮に抑制作用[11]がある。また更にBTX-AがSPにより引き起こされたラット胃前庭部エクスビボ平滑筋の収縮作用を同様に抑えることができることが証明された[12]。

1.3 BTX-AはCholecystokiinにより引き起こされるラットエクスビボの幽門平滑筋の収縮作用を抑制。

 胆嚢収縮物質(Cholecystokinin、CCK)とは十二指腸壁Ⅰ型内分泌細胞及び腸神経系と中枢神経系のペプチド神経元が放出する神経伝達物質であり、消化管運動と分泌の調節において重要な役割を果たしている。CCKに受容体がCCK1/CCK2Rとの2種類あり、胃腸運動機能を媒介するのはCCK1Rで、CCKとCCK1Rの結合によって幽門収縮を引き起こすことができる。

 エクスビボ幽門平滑筋条片でBTX-AがCCKにより引き起こされる幽門平滑筋の収縮にも抑制作用があるかどうかを測定する。結果では、以下のことが明らかになった。(1)CCK-8S(5×10-8 mol/L)は幽門平滑筋の張力(P<0.01)と振幅(P<0.05)を増加させ、CCK1RアンタゴニストLorglumide(3 μmol/L)はCCK-8Sにより引き起こされた幽門平滑筋収縮の張力(P<0.05)と振幅(P<0.01)を著しく低下させる。(2)EFS(100 V、4 Hz、60 s)により引き起こされる幽門平滑筋収縮張力(P<0.05)及び振幅(P<0.05)が増加し、Atropine(1 μmol/L)はEFSにより誘発した幽門平滑筋の張力(P<0.05)及び振幅(P<0.01)を低下させるが、まだ小さい収縮波が残り、Lorglumideは更に残余収縮波を抑える。(3)BTX-A 10 kU/Lは完全にEFSにより引き起こされる収縮張力(P<0.01)及び振幅(P<0.01)を抑制し、CCK-8S(5×10-8 M)を加えても新しい収縮波を引き起こすことができなくなる。(4)BTX-A(10 kU/L)は幽門の自発的収縮の張力(P<0.01)と振幅(P<0.05)を抑える。その後、CCK-8S(5×10-8 M/L)を加えたが、新しい収縮波を引き起こさなかった。(5)Atropine(1 μM/L)はCCK-8S(5×10-8 M)により引き起こされた幽門平滑筋条片の収縮反応を抑制できない。結果では、BTX-Aはシナプス前膜CCKの放出を抑えることによって、同時に、CCKとCCK1Rの結合を遮断することでCCKにより引き起こされた幽門平滑筋の収縮を抑えることができることを示している[13]。

図1 

図1 ボツリヌス毒素(ボツリヌストキシン)の結合、内在化、転移、及び選択的なSnare蛋白の切断(切り取り)のプロセスは、その後、シナプス前膜における神経伝達物質のドッキング、融合、及びエキソサイトーシス(開口分泌)を抑制する。

2. BTX-Aでアレルギー性鼻炎を治療する場合の作用及びそのメカニズム

 アレルギー性鼻炎(Allergic rhinitis、AR)は鼻の痒み、くしゃみ、鼻腔病理的分泌の増加を主徴とする。好酸球と神経伝達物質、神経ペプチドの放出増強或いは賦活などを病理的特徴とする。その過程は神経活動と炎症/免疫細胞との相互作用による結果であり、即ち炎症促進反応であると考えられている。局部のSPと血管活性腸ペプチド(Vasoactive intestinal peptide、VIP)はAR好酸球の産出を増やすことが最近証明された。AR患者のくしゃみと水性鼻汁は抗ヒスタミン薬により抑えられるが、鼻づまりに対する作用が比較的小さい。一方、エフェドラアルカロイドと糖質コルチコイドは効果的に鼻づまりを軽減することができるが、ARの患者に対する治療効果がわずかしかない。

 我々は鼻内BTX-Aの投与によって、卵蛋白(Ovalbumin、OVA)によりアレルギーを引き起こしたラットの典型的なAR症状を緩和できるかどうか、AR鼻粘膜SPとVIPの免疫表現を変更するかどうかを研究した。方法はFig.4を参照。結果では、ARラット鼻腔にBTX-A(10 U/side)コットンストリップを1時間置いた後、典型的ARラットの鼻水、鼻の痒みとくしゃみ症状が緩和でき、後続鼻腔の反復性のOVAによるアレルギーによって引き起こされるARの症状を抑えられ、粘膜内炎症組織学の特徴が消え、漿液腺が萎縮することが分かった。BTX-AはAR動物鼻粘膜内、粘膜下の血管周囲と漿液腺の近隣ゾーンのSPとVIP免疫反応細胞及び繊維を減少することができる。結果では、BTX-Aが、AR鼻粘膜への関与を抑制するという病理によって神経ペプチドの放出を変更し、局部にBTX-Aを用いるのは、AR症状を治療するための有効な方法の一つであることが示された[14-16]。

図2

図2 0.9%Nacl(対照患者)と20 U/kgのBTX-Aの注射の後の種々の局面での幽門部の筋電性活性。
BTX-A(20 U/kg)の注射により、徐波の振幅、スパイク活性の振幅とバーストが減少した。BTX-Aの抑制効果は継続し20分後に強くなった。

3. BTX-Aで多涎症を治療するに当たり耳下腺、顎下腺に対する作用及びそのメカニズム

 多涎症(Sialorrhea)とは唾液腺の過度分泌によって発生する症状の一つで、神経機能性障害疾病、例えばパーキンソン病、重症筋無力症及び脳性まひなどに良く見られる。また、一部の頭首部腫瘍、例えば喉がん患者は喉の全摘出術を受けた後、よく唾液腺の過多分泌及び咽頭瘻によって、傷口が塞がらないことはよくある。臨床で抗コリン薬を利用して症状を緩解することができるが、心拍の加速及びドライマウスになりやすい。外科手術、例えば唾液腺の摘出或いは鼓室神経の摘出は永久的な唾液腺分泌の減少になりやすい。BTX-Aによって多涎症の治療を試せば、将来性のある治療法[17]になると思われる。

 生理食塩水0.1 ml或いはBTX-A 2.5 Uをそれぞれ2群のラットの片側耳下腺に注射した。BTX-Aを注射した群は7日目にアシナスの数が変わっていないが、一部のアシナスが軽く萎縮し、アシナス間の隙間が大きくなり、VIP-IRとSP-IR繊維が著しく減少した。12日目に、アシナスの数が著しく減少し、腺細胞の萎縮が著しく増え、一部のゾーンに腺管の萎縮が見られた。然し、アシナスと腺管の壊死と炎症細胞の浸潤が見られず、VIP-IRとSP-IR繊維が更に減少した。第35日目、アシナス細胞は正常に回復し、生理食塩水群と同じようになり、線条部及び粒状曲細管(GCT)細胞がインタクトで、細胞質が豊富で、VIP-IRとSP-IRは生理食塩水群と同じである。本研究結果で、BTX-Aの局部注射により短期間リバーシブルラット耳下腺アシナスと線管の萎縮及びVIP-IRとSP-IR繊維の減少を引き起こすことが証明された[18]。同じ研究法で顎下腺にBTX-Aを注射することにより一時的顎下腺アシナスと線管の萎縮及びVIP-IRとSP-IR繊維の減少を引き起こすことが証明された[19]。上記の結果によれば、BTX-AはVIP、SPの放出を抑えることにより、耳下腺、顎下腺腺組織の一時的非損傷的萎縮と分泌の減少を引き起こすことが示されている。

図3

図3 幽門筋切片でのSP誘発収縮反応の減少はBTX-Aによる治療時間と相関関係があった。
A.B:4或いは10 kU/LのBTX-Aで培養した幽門平滑筋切片の収縮グラフ。SP 1 µmol/Lに対する収縮反応は時間依存的に4時間にわたって減少した。 C:SP誘発収縮反応への4及び10 kU/LのBTX-Aが及ぼす抑制効果率を、SP.平均±SEM, n=8. *P<0.05, **P<0.01誘発収縮反応と比較し、同時にSP群とも比較した。

4. BTX-Aの片頭痛に対する治療作用及びそのメカニズム

 片頭痛(Migraine)の発病は「三叉神経脈管系(Trigeminal vascular system)」の有痛物質例えば、Substance P (SP)、Calcitonin gene-related peptide (CGRP)などの放出と関係がある。当該神経ペプチドの放出増により血管透過率の増加、血漿浸出などの神経原性炎症を生じさせると同時に、SPとCGRPは痛みの調節と伝導(痛みのシグナル)にも関与する。

4.1 BTX-Aは片頭痛ラットの頸静脈血液、脳幹と三叉神経節のCGRPとSPの含量を低減

 我々はニトログリセリン(Nitroglycerin)の前頭側頭ゾーン皮下注射或いは電気刺激によってラットの片頭痛モデルを作製する。症状が発生した2時間後、それぞれ前頭側頭ゾーン皮下に生理食塩水或いは5、10 U/kgのBTX-Aを注射する。毎日1回、6日間連続して注射する。結果:BTX-Aの局部注射は片頭痛ラットの症状を緩和でき、片頭痛によるラットの頸静脈血液、脳幹と三叉神経節に含まれるCGRPとSPの含量を低減できる。BTX-Aが「三叉神経脈管系」のCGRP、SPの放出と無菌炎症の反応を抑えることにより、片頭痛の症状を軽減することができると示された[20, 21]。

4.2 ツボにBTX-Aを注射することにより片頭痛を治療する臨床研究

 甘粛省人民病院で診療を受ける片頭痛患者(国際頭痛学会(HIS)頭痛・顔痛分類委員会2004片頭痛の診断基準に従って診断確定)を選定し、open-label studyを利用してそれぞれBTX-A(25 U)を固定箇所[22]群(30名)と針灸ツボ群(30名)に1回注射した。注射前後の痛み発作の強さについては視覚連続尺度(Visual Analogue Scale、VAS)を採用し、注射後4ヶ月間フォローアップした。結果によって、2群の患者はBTX-Aを注射後、片頭痛の発作頻度、強さ及び継続時間は皆治療前より軽減したが、針灸ツボ注射の治療効果は固定箇所注射[22]より効果が高かったことが示された。但し、この効果のメカニズムが不明で、更に研究する必要がある。

図4

図4 増感、抗原投与、BTX-A治療と繰り返しの抗原投与、及び鼻汁の同時的収集並びに量測定のプロトコルが示されている。OVAにより誘発され、BTX-Aで治療したARのラット実験モデルの概略図。BTX-A治療の後、ラットは繰り返し抗原投与を受け、鼻汁を採取し、量を測った。ラットは32日目に始末し、組織学及び免疫組織学的解析用に鼻腔組織を採取した。

5. BTX-Aの動脈血管に対する作用及びそのメカニズム

 腫瘍治療の新しい戦略は薬理介入によって一時的に血管灌流と酸性化作用を増加させることである。酸素は放射エフェクトに呼応するキーポイントで、腫瘍血管の多量輸血は血液循環において化学治療薬が腫瘍に接近することにたいして有利である。

 BTX-Aは一時的に腫瘍血管床を開けるかどうかを研究し、筋張力測定法でBTX-Aの血管の張力に対する影響を測定する。アドレナリンα受容体作動薬のMethoxamine (MOA)或いはEFSでウサギの腹部動脈筋肉片の収縮を誘導した後、ウォーターバスの中にKrebs液(対照)、BTX-A(50、100 kU/L)を加え、30 min後更にMOAを加える。結果:MOAとEFSにより誘発した動脈筋条片の収縮張力はBTX-A用量依存性に抑えられ、再度MOAを投与しても収縮[23]を引き起こすことができない。また、エクスビボラット腸系膜上動脈管はMOAにより誘発されて収縮した後、それぞれBTX-A 10、20、40 kU/Lを加えると、用量依存的張力低下が見られ、再度アドレナリンα受容体抑制剤Phentolamineを加えると、再拡張の幅は対照群と比べて著しく減少した(P<0.01)。BTX-AはKClによるラット腸系膜上動脈管の収縮、CGRPアンタゴニスト-CGRP(8-37)に対する血管収縮作用、及びCGRPに対する血管拡張アンタゴニスト作用を抑えるが、CGRPの血管拡張作用に影響を与えない(未発表)。上記の試験では、BTX-Aは動脈血管アドレナリン作動神経終末に作用することができ、ノルアドレナリンの放出による血管平滑筋の拡張を抑えると同時に、CGRPの放出を抑え、CGRPの血管拡張作用も阻害する可能性があると示された。

図5

図5 3つのグループで10日間、2日ごとに毎日30分間、ろ紙法を使って鼻汁を採取し、測定した。AR群(n=10)では、鼻汁は対照群(n=12, P<0.001)と比較して有意に増加した。しかし、AR群+BTX-A(n=10)群では鼻汁が減少し、5日目には対照群と同程度となった。
データは、平均±SEM. *P<0.05, **P<0.001, vs. 対照群;#P<0.001, vs. AR群、として表示されている。

6. まとめ

 我々は研究によって、BTX-Aが骨格筋のコリン作動性神経終末のAChの放出を抑えるだけではなく、胃平滑筋、鼻粘膜腺、唾液腺及び血管平滑筋のコリン作動或いは非コリン作動性神経も抑えることを証明した。(1)BTX-Aは活動ラット幽門筋電低速波振幅及びクラスター放電活動、エクスビボラット幽門と胃前庭部平滑筋収縮の振幅、頻度と張力のメカニズムを抑える。当該抑制作用はBTX-AがACh、SPとCCKの放出を抑制することと関係がある。当該作用は、BTX-Aが胃麻痺など消化管平滑筋機能障害疾病の治療に用いることができることを示している。(2)BTX-Aはアレルギー性鼻炎の神経免疫調整ペプチドであるSPとVIPの放出を抑えることにより、粘膜病理の変更を阻害し、アレルギー性鼻炎の症状を緩和させる。局部にBTX-Aを用いるのはアレルギー性鼻炎を効果的に治療するのに有効な方法であることを示した。(3)BTX-Aは耳下腺、顎下腺が分泌するVIP、SPの放出を抑えて調整することにより、腺組織の非損傷的短期萎縮を引き起こし、腺分泌の減少を生じさせる。BTX-Aが多涎症を治療するための新しい方法になることを示した。(4)BTX-Aが片頭痛を治療するメカニズムは「三叉神経脈管系」のCGRP、SPの放出と無菌炎症の反応を抑えることによって片頭痛の症状を軽減したのであろうと思われる。(5)BTX-Aは動脈血管アドレナリン作動神経終末に作用し、ノルアドレナリンの放出を抑えることによって血管平滑筋の拡張を引き起こす。当該作用はBTX-Aの局部注射は一時的な血管灌流と酸性化作用を増加し、放射エフェクトを増加することと化学治療薬が腫瘍に接近することを示している。有効な補助剤として抗腫瘍細胞毒療法の有効性を高めることが可能かどうかは、我々が今後注目するポイントである。

主要参考文献:

  1. Wenzei RG. Pharmacology of botulinum neurotoxin serotype A. Am J Health-Syst Pharm 2004; 61: S5-S10
  2. Lacy BE, Zayat EN, Crowell MD, Schuster MM. Botulinum toxin for the treatment of gastroparesis: a preliminary report. Am J Gastroenterol 2002; 97:1548-1552.
  3. James AN, Ryan JR, Parkman HP. Inhibitory effects of botulinum toxin on pyloric and antral smooth muscle. Am J Physiol Gastrointest Liver Physiol 2003; 285:G291-297.
  4. Milenov K, Golenhofen K. Differentiated contractile responses of gastric smooth to substance P. Pflugers Arch 1983; 397:29-34
  5. Lindesstrom LM, Ekblad E. Originals and projections of nerve fibers in rat pyloric sphincter. Auton Neurosci 2002; 97:73-82.
  6. Soediono P, Belai A, Burnstock G. Prevention of neuropathy in the pyloric sphincter of streptozotocin-diabetic rats by gangliodes. Gastroenterology 1993; 104:1072-1082.
  7. Krowicki ZK, Hornby PJ. TRH and substance P independently affect gastric motility in nucleus raphe obscurus of the rat. Am J Physiol 1994; 266(5 Pt 1):G870-877.
  8. Hou YP, Zhang YP, Song YF, Zhu CM, Wang YC, Xie GL. Botulinum toxin type A inhibits rat pyloric myoelectrical activity and substance P release in vivo. Can J Physiol Pharmacol 2007; 85:209-214.
  9. Zhang YP, Hou YP, Song YF, Xi RS. Inhibited stomachic smooth muscle following botulinum type A injection in rats with radioimmunoassay method. Chin J Clin Rehabil 2003; 71:292-293.
  10. Zhang FK, Zhang YW, Hou YP, Song YF, Xi RS, Zhang YP. Botulinum toxin Type A inhibits the contraction of stomachic smooth muscles and decreases the content of substance P in rats. Chin J Pathophysiol 2005; 21:314-317.
  11. Ren YX, Lian HJ, Song YF, Zhang XP, Hou YP. Inhibitory effect of botulinum toxin type A on substance P induced contractile response in pyloric smooth muscles in rats in vitro. Chin J Pharmacol Toxicol 2008; 22:452-456.
  12. Zhou YY, Hou YP. Inhibitory effect of botulinum toxin type A on electrical field stimulation-induced smooth contractility in pylorus and antrum in vitro. Mod Prev Med 2008; 35:775-777.
  13. Lian HJ, Ren YX, Liu XW, Zhang XP, Hou YP. Inhibitory effect of botulinum toxin type A on cholecystokinin-induced rat pyloric smooth muscle contractility in vitro. Sciencepaper Online 2008. 05. 16; 1-6. http:// www.paper.edu.cn
  14. Wen WD, Yuan F, Wang JL, Hou YP. Botulinum toxin therapy in the ovalbumin-sensitized rat. Neuroimmunomodulation 2007; 2007; 14:78-83.
  15. Wen WD, Yuan, F, Hou YP, Song YF. Experimental studies for botulinum toxin type A on allergic rhinitis in the rat. Chin J Otorhinolaryngol 2004; 39:97-101.
  16. Wen WD, Hou YP, Yuan F, Wang YC, Song YF. Inhibition of rhinorrhea with botulinum toxin type A and the expression VIP on nasal mucosa in allergic rhinitis rat. J Fourth Mil Med Univ 2003; 24:1969-1773.
  17. Savarese R, Diamond M, Elovic E, Millis SR. Intraparotid injection of botulinum toxin A as a treatment to control sialorrhea in children with cerebral palsy. Am J Phys Med Rehabil. 2004, 83:304-311.
  18. Wen WD, Yuan F, Hou YP. The mechanism of inhibitory effect on parotid gland secretion with local botulinum toxin type A in the rat. Chin J Stomatol 2009; 44:38-40.
  19. Yuan F, Hou YP, Wen WD. Immunohistochemical and morphological investigations of the influence of botulinum toxin type A on the submandibular gland of the rat. J Clin Otorhinolaryngol 2004; 18:558-560.
  20. Zhang XY, Hou YP, Song YF, Wang YC. Botulinum toxin type A for modulating calcitonin gene-related peptide contents in jugular plasma and brain stem of migraine mole rats triggered by nitroglycerin. Chin J Clin Rehabil 2006; 10:80-82.
  21. Zhang XY, Hou YP, Song YF, Wang YC. Botulinum toxin type A reducing SP immunoreactivity in jugular plasma, brain stem and ganglion nervi trigemini in model rats triggered by nitroglycerin. Chin J Clin Pharmacol Ther 2006; 11:921-924.
  22. Aoki KR, Childers MK. Pharmacology in pain relief. In: Childers MK, editor. The use of botulinum toxin type in pain management. Columbia, MO, USA: Academic Information Systems Inc; 2002. p.31-40..
  23. Zhang Y, Yan WJ, Hou YP, Zhou XH. Clinical investigation of migraine headache treatment by acupunctureal-point injection with botuliunum toxin type A. Chin J Neuroimmunol Neurol. 2007; 14:164-166.
  24. Zong XJ, Song YF, Zhang XP, Hou YP. Inhibitory effect of botulinum toxin type A on isolated aortic contractility-induced by Methoxamine and electric field stimulation. Chin J Clin Pharmacol Ther 2009; 14:1366-1370.