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中国における近年のパーキンソン病の発病機序及び神経保護に関する研究の進展

2010年 8月16日

周 嘉偉

周 嘉偉(Zhou Jiawei):
中国科学院上海生命科学研究院神経科学国家重点実験室副主任

1962年10月生まれ。1996年、イギリスインペリアル理工医科大学生物化学専攻科にて博士学位取得。1996年~1998年、アメリカHahnemann大学にてポスドク研究に従事。1998年、中国科学院百人計画」に入選し、中国科学院上海生理研究所に勤務。2001年から2007年7月まで、中国科学院上海生命科学研究院生物化学・細胞生物学研究所研究チームリーダー、研究員。2007年8月より、中国科学院上海生命科学研究院神経科学研究所研究チームリーダー、研究員を務める。2006年に「国家傑出青年科学基金」による資金援助を取得。主にパーキンソン病の発病機序と中脳ドーパミン作動性ニューロンの発育の分子基盤について研究。すでにPNAS、J Neurosci、FASEBJ等を含む国際学術定期刊行物に論文20編余りを発表。

共著者:唐蜜(中国南京医科大学神経科学研究所)

 中枢神経退行性疾患は中枢神経系の進行性ニューロン欠損を特徴とする一連の疾患である。通常、中枢神経退行性疾患には、アルツハイマー病、パーキンソン病(Parkinson’s disease, PD)、ハンチントン病、筋萎縮性側索硬化症等が含まれる。一般に、これらの疾患の中で、PDの罹患率はアルツハイマー病に次ぐものと考えられている。中国では、65歳以上人群のアルツハイマー病患者は約5%にも達している。2000年の首都医科大学宣武医院の疫学調査の結果によれば、北京地区の55歳以上人群のPD罹患率は1.17%[24]となっている。これに比して、アメリカの同年齢グループ人群のPD罹患率は約1%であり、中国、特に都市の人口におけるPD罹患率が欧米諸国に非常に近いということを示している。推計によると、アメリカでは100万を超える人々がPDに苦しんでおり、しかも毎年約5万人がPDと診断されている。中国は絶対人口が多いため、患者総数は少なくとも200万人以上にのぼり、欧米主要国のPD患者数の合計を超えているものと見られる。中国社会は人口老齢化の拡大により、今後10年間、患者数がしだいに増加することが予想される。

 神経退行性疾患は患者の労働力の喪失と医療費の増加を招き、社会的負担もそれによって絶え間なく増大する。今のところまだ、中国におけるPD患者の各種費用についての大規模な評価報告はないが、上海瑞金医院の陳生弟教授とその同僚らは、2004年~2005年の臨床患者に関する調査研究を通じ、PD患者一人当たりの経済負担は7,679元/年(USD925またはEUR731)、うち一人当たりの直接的経済負担は7,603元/年であることをとりあえず明らかにした。これらの統計データが示しているように、中国のPD患者の経済負担はかなり重い。他の先進諸国と比べても、中国は似たような公共健康の問題に直面している。本報告は、中国が過去数年間にPDの基礎研究の面で上げてきたいくつかの成果を簡単に紹介するものである。

1 パーキンソン病と関わりのある突然変異遺伝子のスクリーニング

 PDの病因は今なおはっきりしていない。中国国内の家族性PD患者についての大規模な遺伝的連鎖解析及び単一遺伝子のポジショナルクローンニングは、ともに当該疾患の病理メカニズム研究のために新しい手がかりを提供した。Parkin, PINK1,DJ-1, ATP13A2という4種類の遺伝子は、すでに常染色体劣性遺伝早発性PD(AREP)であることが実証されている13個の関連遺伝子の一部に属している。長沙湘雅医院の唐北沙教授は、中国のAREP患者におけるこの4種類の遺伝子について、突然変異遺伝子のスクリーニング分析を行った[4]。彼らは直接シーケンシング法とリアルタイム定量PCRによる分析測定を活用して、AREPに罹患している29の中国人家庭におけるこれら4種類の遺伝子の突然変異率について研究した。その結果、うち14の家庭(48.3%)がParkin遺伝子の突然変異を伴い、2つの家庭(6.9%)がPINK1遺伝子の突然変異を伴い、さらに1つの家庭(3.4%)がDJ-1遺伝子の突然変異を伴っていることを発見した。これらの家庭においてはATP13A2の病因性突然変異は発見されなかった。彼らはさらにこれらの患者の中に、3種類の新しいParkin遺伝子の突然変異部位(c.G859T, c.1069-1074delGTGTCC, c.T1422C)と1種類の新しいDJ-1遺伝子の突然変異部位(c.T29C)を発見した[4]。これらのデータは、中国のAREP患者が他の国の患者とは異なるいくつかの遺伝的特徴を持っていることを示している。Parkin遺伝子の突然変異は中国のAREP患者に最もよく見られる発病要因の一つである。

 家族性神経退行性疾患患者には1個以上のAREP関連遺伝子のヘテロ接合突然変異が隠れているのではないか、ということを検証するために、唐北沙研究チームは、一種の新しい中国人の家族性PDに隠れているダブル遺伝子へテロ接合体のミスセンス変異部位を鑑定し、すなわちPINK1,DJ-1遺伝子においてそれぞれPINK1P399LとDJ-1A39Sをコードした[4]。SH‐SY5Y神経芽細胞株におけるこの2種類の突然変異タンパク質の同時発現は、MPP+がもたらす細胞毒性に対する当該細胞の感受性を明らかに増大させることができる。この研究は、常染色体劣性ダブル遺伝子による遺伝性PDの例を初めて報告し、同時にまたDJ-1とPINK1が協同で細胞を保護し、ストレス反応に抵抗する能力を具えていることを示しており、当を得ている。

2 パーキンソン病における病理学的変化の分子メカニズム

2.1 α-synucleinの異常凝集の細胞モデル

 PDは病理学的特徴において様々な神経退行性疾患と似ており、すなわち脳内に異常タンパク質の凝集が見られるが、細胞内凝集物Lewy小体の形成はPDの一つの重要な病理学的特徴である。α-synucleinはPDの発生と進行に密接に関わっている一つのタンパク質である。このタンパク質は同時にLewy小体の主な構成タンパク質の一つでもある。α-synuclein遺伝子の突然変異はLewy小体の形成を増やすことがあるが、しかし分からないのは、大部分のPD患者にはα-synuclein遺伝子の突然変異などないにもかかわらず、Lewy小体の形成が見られるということである。2003年、Iwatsubo研究チームは、Lewy小体内のα-synucleinがS129においてリン酸化修飾を発生することを発見し、リン酸化α-synucleinがPDのLewy小体の形成に関与している可能性があることを指摘した[11]。だが、いまなお、Lewy小体の形成をシミュレートすることのできる細胞モデルはなく、α-synucleinのリン酸化がLewy小体形成の結果なのか、原因なのかということもはっきりしていない。そこで、中国科技大学の王光輝研究チームは、一つのリン酸化α-synucleinトランスフェクションの細胞モデルを作り上げ、ユビキチンの関与の下で、リン酸化α-synucleinが細胞のLewy小体様構造の形成を促すことができることを発見し、さらにリン酸化α-synucleinがユビキチンK63を通じて、その他のタンパク質の形成するK63のポリユビキチン鎖に作用し、それによってタンパク質の凝集とLewy小体様構造の形成を引き起こしているということを実証した。この細胞モデルは、リン酸化α-synucleinにはLewy小体様構造の形成を促す作用があることを部分的に証明した[9]。この細胞モデルは、今後、α-synucleinの異常凝集を抑制できる薬品を見つけていくための、潜在的なスクリーニングモデルを提供している。

2.2 パーキンソン病患者の脳内の鉄蓄積

 黒質鉄イオンのレベル上昇はPDにおけるニューロン死と関わりがあると考えられている。だが、鉄レベルの上昇メカニズムはまだはっきりしていない。推測によれば、このプロセスは鉄イオンの輸送と関連している可能性がある。過去数年間に、Fe2+のPD発病メカニズムにおける役割についても研究が行われてきた。青島大学の謝俊霞研究チームは、神経毒6-ハイドロキシドーパミンによる損傷が、ラットでのferroportion 1、hephaestinの黒質ドーパミンニューロン退化時におけるダウンレギュレーションの発現を招来することを発見し、鉄輸送の破壊が鉄の黒質部位における蓄積を引き起こす可能性があることを指摘した[13]。異常な鉄蓄積はPDに出現するだけでなく、アルツハイマー病患者の大脳にも出現する。研究により、頭頂葉皮質層内の鉄濃度はアルツハイマー病患者の認知機能障害の重症度と正の相関を成すことが発見されている[26]。

3 神経保護

 現在、PDの神経退化メカニズムはなお完全には解明されておらず、しかもPDの症状に対する治療も部分的にしか効果がないため、これらの疾患の進行を予防または緩解する有効な治療手段はまだない。中国の科学者はPD治療の潜在的方法と基盤についての探究をすでに開始している。

3.1 ドーパミンニューロンにおけるGDNFが誘導する神経保護作用の分子メカニズム

 グリア細胞由来神経栄養因子(Glial-cell-line-derived neurotrophic factor, GDNF)は転化成長因子βスーパーファミリー(the transforming growth factor-β superfamily)の一つのメンバーであり、ドーパミンニューロンを保護するその顕著な能力は、GDNFがPD治療の潜在的価値を有していることを示している。GDNFはRET受容体チロシンキナーゼと配位子結合受容体GFRα1(GDNFファミリー受容体α1)によって形成される多成分受容体との間の相互作用を通じて、神経栄養と形態発生を媒介する機能を発揮する。しかしながら、詳しいGDNFのシグナル経路はまだ明らかになっていない。上海の二つの研究チームが、GDNFの誘導するドーパミンニューロンの保護と分化の相関メカニズムの解明に努めてきた[2]。

 上海第二軍医大学の何成研究チームは、C-ターミナルはGDNFの構造安定性にとって極めて重要で、α-螺旋、フィンガー様構造1、2は受容体の結合と関連があり、一方、N-ターミナルはGDNFの生物学的機能にとってべつに重要ではないということを発見した[1]。彼らはGFRα1分子の解析を行うことにより、その構造成分中のどれがGDNFとRetの結合に関わっている可能性があるのかを確定した。PC12細胞のGDNFによる刺激後の生存と分化反応、及びGDNF-GFRα1-Retの相互作用の分析に基づき、彼らはGFRα1中央領域の残基152NN153、Arg259、316SNS318がGFRα1とGDNFの結合、及び下流シグナルの伝導誘発にとって極めて重要であることを発見した[14]。酵母2-ハイブリッド法の実験分析によってさらに、アダプタータンパク質Src-homology-2-Bβ(SH2-Bβ)はRETと相互に作用し合うことができ、GDNFの誘導する神経突起成長を媒介するシグナル分子であるということを確認した[23]。これらのデータは、GDNFの作用の分子機序に基づいた、ドーパミン作動性ニューロンの生存を促す新たな方法を確立する上で、非常に多くのことを教えてくれている。GDNFは分子量が比較的大きく、直接血液脳関門を通じて神経細胞に作用することができないため、今後は研究結果に基づき、上記の鍵となる結合部位を活性化することのできる小分子量のポリペプチドを設計することによって、GDMFの作用をシミュレートし、それにより自然状態の下におけるGDNFのいくつかの欠点を克服していくことが可能である。

 上海瑞金医院の陳生弟研究チームは、二次元ディファレンスゲル電気泳動(Difference in two-dimensional gel electrophoresis, DIGE)及び質量スペクトル技術を活用して、GDNFを与えた前後の、GFRα1とRETの発現を安定させたPC12細胞におけるタンパク質のリン酸化状況の定量比較を行った。鑑定によれば、GDNFは熱ショックタンパク質27のリン酸化を引き起こすことができ、このリン酸化タンパク質はp38分裂促進因子活性化タンパク質キナーゼ(MAPK)と細胞外シグナル調節キナーゼ(ERK)の下流エフェクター因子である[7]。

3.2 アストロサイトのFGF-2発現の調節とPDの神経保護

 GDNF及びその他のタンパク質以外に、既知のドーパミンニューロンに対して顕著な保護作用を持つものとして、さらにfibroblast growth factor-2(FGF-2)がある。成人の脳内において、FGF-2は主にアストロサイトによって合成、分泌されるが、基底神経節(Basal ganglia)においてFGF-2の合成と分泌を調節している分子機序は、完全に明らかになっているわけではない。中国科学院上海神経科学研究所の周嘉偉研究チームの研究は、興奮の古典的なD1類、D2類ドーパミン(dopamine, DA)受容体はアストロサイトのFGF-2の発現と放出を増強することができ[8]、転写因子myeloid zinc finger protein 1(MZF-1)はFGF-2 promoterとの結合を通じて、このプロセスを媒介している可能性があることを明らかにした[10]。さらなる研究によって、アストロサイトのFGF-2の発現は、さらにホスファチジルイノシトールとカップリングしたD1様ドーパミン受容体[phosphatidylinositol(P1)-linked D1-like receptor]のコントロールも受けているということがわかった。ホスファチジルイノシトールとカップリングしたドーパミン受容体を活性化することは、イノシトールの依存するカルシウムシグナルを増強し、FGF-2の発生を高めることができ、反対に、古典的なドーパミン受容体を活性化することはグリア細胞内のカルシウムシグナルを抑制し、FGF-2のレベルを引き下げる。他方で、グルタミン酸はアストロサイトによる代謝を経た興奮性神経伝達物質であり、やはりアストロサイト内のカルシウム振動を誘発し、FGF-2の発現を促すことができる。これは、アストロサイトとニューロンの間に発生するグルタミン酸-グルタミンサイクルはシナプス間隙のグルタミン酸を取り除き、ニューロンのグルタミン酸合成のために原料を提供することができる以外に、余分な機能も具えており、すなわち細胞内のカルシウムシグナルのコントロールに関与することによって、脳内の生理レベルのFGF-2を維持するということを示している。したがって、この研究により、大脳内におけるアストロサイトによるFGF-2生成の正確なコントロールの分子機序が明らかになった。また、ホスファチジルイノシトールとカップリングしたD1様ドーパミン受容体のアゴニストSKF83959を腹腔内投与すると、線条体及び腹側中脳内のFGF-2のレベルを元に戻すことによって、マウスのPDモデルにおける黒質のDAニューロンに対する有効な保護を実現することができる[22][図一]。この研究結果は、アストロサイトがPDの神経保護プロセスにおいて発揮する可能性のある重要な役割を明らかにした。これらの結果はPD治療薬の開発のために、新たな思考の道筋を提供するものである。

3.3 ATP感受性カリウムチャネル(KATPチャネル)とパーキンソン病の関連性についての研究

 中国南京医科大学の胡剛教授が指摘したKATPチャネルとPDの発生、進行の関係は、神経保護剤の研究開発における新たな潜在的ターゲットである。彼らは、Kir6.2のノックアウトはMPTPの誘導するPDモデルの発生を阻止し、MPTPの引き起こす黒質緻密部のDA作動性ニューロンの数量的損傷を取り消すことができることを発見した。しかしながら、Kir6.1/Kir6.2に的をしぼった混合性KATPチャネル開放剤IPTは、PDマウスモデルのDAニューロンに対して明らかな保護作用を有しており、さらなる研究により、その保護作用は、KATPチャネル開放剤がMPTP/MPP+のもたらすアストロサイト及び小グリア細胞の活性化増殖を著しく抑制し、神経炎症のもたらすDAニューロンの損傷を抑制することができることと関連があることを発見した。研究を通じてさらに、Kir6.2遺伝子ノックアウトとKATPチャネル開放剤は、いずれもMPP+ /MPTPの誘導するアストロサイトによるグリア伝達物質D‐serineの合成増加を著しく抑制できるということを発見したが、これはKATPチャネルのグリア伝達物質に対する調節がPDの重要な病理メカニズムであることを示している[16, 19]。一連の研究結果から明らかなように、ニューロン上に発現するKir6.2の構成するKATPチャネルと、グリア細胞上に発現するKir6.1の構成するKATPチャネルは、それぞれ異なったメカニズムを通じてPDの発生、進行に関与しており、KATPチャネルは多能性神経保護剤(Multipotential neuronprotectants)の研究開発における新たなターゲットとなっている。

3.4 中枢神経系におけるその他の分子の神経保護作用の鑑定

 黒質線条体ドーパミン経路の破壊は多くの持続的反応、たとえば、線条体と黒質の炎症反応や神経成長因子の合成増加を触発する。これらの反応は、潜在的な神経保護作用を具えた分子を鑑別するための機会を提供している。この実験モデルを利用して、周嘉偉研究チームはインビトロ及びインビボ研究において、6-ハイドロキシドーパミンによる損傷は、相対的に緩慢ではあるが持続的なcystatin Cのアップレギュレーションを誘導することができ、このタンパク質はドーパミンニューロンを保護する作用を発揮することができるということを発見した。これはシステインプロテアーゼ阻害剤がPD及びその他の神経退行性疾患の神経保護治療において、潜在的な応用の可能性を有していることを示している[18]。

 周知のように、ニコチンはPDの発病リスクを減らすことができる。北京中国科学院生物物理研究所の趙保路研究チーム[20]は、すでに相応のメカニズムについて研究を行ってきた。ニコチンはN-メチル-4-フェニルピリジン(MPP+)及びCa2+が誘導するミトコンドリアの腫脹と、損なわれていないミトコンドリアの中から受容体に依存しない方式によって放出されるシトクロムCを抑制することができる。ニコチンはまた、ミトコンドリア呼吸鎖複合体Iの電子漏出も部分的に防ぐことができる。これらの結果は、ニコチンの神経保護効果がそのミトコンドリア呼吸鎖との相互作用に関連している可能性があることを示している[17]。

3.5 生薬から分離された化合物の抗炎作用

 1994年以来、北京大学神経科学研究所の韓済生・王暁民の両教授が率いる研究チームは、将来性のあるPD治療のいくつかの新たな方法について研究を進めてきた。彼らの研究は伝統的な生薬あるいは鍼灸、遺伝子治療や幹細胞代替療法等の現代技術にまで及んでいる。その詳しい情報については彼らの最近の要約を参考にされたい[15]。ここでは一つの例、Triptolide(PG490)の抗炎作用を引用する。

 神経炎性反応がPDのドーパミンニューロンの進行性壊死において重要な役割を果たすことは、多くの証拠によってはっきりと示されている。この推論は、周嘉偉研究チームがパーキンソン病患者の脳脊髄液から得た分析結果によって支持されている[3]。Triptolide(PG490)は一種の伝統的な生薬化合物で、いくつかの末梢器官組織において抗炎及び免疫抑制能力を有する。王暁民研究チームは、Triptolide(PG490)はリポ多糖の誘導する黒質部位小グリア細胞が過量に生み出す、腫瘍壊死因子-α(TNF-α)やインターロイキン-1β(IL-1β)といった細胞因子を効果的に抑制することができ、それによってリポ多糖(lipopolysaccharide, LPS)の誘導するドーパミンニューロンの損傷を防止するということを発見した[25]。Tripchlorolide(TW397)は雷公藤(タイワンクロヅル)根部の木質部分から分離した雷公藤のトリクロロエポキシ化合物の類似物で、この化合物もドーパミンニューロンを保護し、MPTPのもたらす神経毒作用を防止する [6]。これらのデータは、Triptolide及びその類似物が今後のPD治療において持つ潜在能力を示している。同時にまた、炎症反応がPDにおけるドーパミンニューロンの退化を媒介する一つの重要なポイントであることをさらに示唆している。

 Triptolideとその類似物のほか、天然産物中の抗酸化作用を有する物質もまたドーパミンニューロンの生存にとって有益である。緑茶ポリフェノールは活性酸素・フリーラジカル-一酸化窒素経路を阻害することにより、ラットのPDモデル内のドーパミンニューロンが6-ハイドロキシドーパミンの神経毒作用を受けないよう保護することができる[5]。この結果は過去の発見とぴったり符合する。エピガロカテキンガレート(Epigallocatechin gallate, EGCG)は緑茶の主要活性成分である。酸化的ストレス時に0.1μg/mLの投与量を与えると、センチュウの寿命を1.729倍に延ばすことができるが、EGCGは主にフリーラジカルを除去し、ストレス耐性タンパク質(たとえば、スーパーオキシドディスムターゼ-3や熱ショックタンパク質)の発現レベルを高めることによって、相応の作用を発揮しているのだと考えられる[21]。

4 結論

 中国及び世界の他の地域の老年人口の絶え間ない増加により、PDの罹患率は上昇し続ける可能性がある。中国のPD患者の遺伝子型と表型を他の国々の患者と比較し、互いの間に存在する違いと相似性を認識することは、これらの疾患の発病原因と進行過程を認識するうえで重要な意味を持つであろう。PDに対し早期の診断と革新的な治療を行うことは極めて重要である。より有効な診断及び治療手段のさらなる発展は、相当程度、PDの発病機序についての深く掘り下げた研究にかかっており、この面で我々には依然として多くのなすべき仕事がある。中国の神経科学者が過去の研究の中で蓄積してきた経験と収めてきた業績は、新たな科学的発見を成し遂げるためのすばらしい基盤となっている。

図1

図一:アストロサイトの発現する古典的なドーパミン受容体D1、D2及びphosphatidylinositol(PI)-linked D1-like receptorは、
それぞれの細胞内シグナル伝達経路を通じてFGF-2の発現及び分泌過程を媒介し、さらには隣り合ったドーパミン作動性ニューロンの生存を促進する。

主要参考文献:

  1. Chen, Z.Y., et al., Biochem Biophys Res Commun. 268 (2000) 692-696.
  2. Du, Y., et al., Exp Biol Med (Maywood). 233 (2008) 881-890.
  3. Guo, J., et al., Cell Res. 19 (2009) 1401-1403.
  4. Guo, J.F., et al., Mov Disord. 23 (2008) 2074-2079.
  5. Guo, S., et al., Biol Psychiatry. 62 (2007) 1353-1362.
  6. Hong, Z., et al., Eur J Neurosci. 26 (2007) 1500-1508.
  7. Hong, Z., et al., J Proteom Res. 8 (2009) 2768-2787.
  8. Li, A., et al., Faseb J. 20 (2006) 1263-1265.
  9. Liu, C., et al., J Biol Chem. 282 (2007) 14558-14566.
  10. Luo, X.-Y., et al., J Neurochem. 108 (2009) 952-61.
  11. Takahashi, M., et al., Neurosci. Lett. . 336 (2003) 155-158.
  12. Wang, G., et al., Mov Disord. 21 (2006) 1439-1443.
  13. Wang, J., et al., Eur J Neurosci. 25 (2007) 2766-2772.
  14. Wang, L.M., et al., J Biol Chem. 279 (2004) 109-116.
  15. Wang, X., et al., Neurochem Res. 33 (2008) 1956-1963.
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  20. Zhang, J., et al., FASEB J. 20 (2006) 1212-1214.
  21. Zhang, L., et al., Free Radic Biol Med. 46 (2009) 414-421.
  22. Zhang, X., et al., J Neurosci. 29 (2009) 7766-7775.
  23. Zhang, Y., et al., J Cell Sci. 119 (2006) 1666-1676.
  24. Zhang, Z.X., et al., Lancet. 365 (2005) 595-597.
  25. Zhou, H.F., et al., Neurobiol Dis. 18 (2005) 441-449.
  26. Zhu, W.Z., et al., Radiology. 253 (2009) 497-504.

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