第72号
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2000年代に進んだ中国エネルギー問題の構造変化

産業経済論から中国のエネルギー問題の深層を照らす(その1)
2000年代に進んだ中国エネルギー問題の構造変化

2012年 9月24日

堀井 伸浩(ほりい のぶひろ):九州大学大学院経済学研究院 准教授

 慶應義塾大学法学研究科前期博士課程修了。1996年4月、アジア経済研究所研究員。2006年4月、日本貿易振興機構アジア経済研究所副主任研究員。0 7年4月から現職。この間、中 国清華大学客員研究員(99~02年)、朝日新聞社アジアネットワーク(AAN)客員研究員、国際エネルギー機関(IEA)コンサルタント、東京大学社会科学研究所客員准教授、総 合資源エネルギー調査会臨時委員、世界銀行短期コンサルタント、国際協力銀行エネルギー経済専門家を歴任。

主要著書・論文等:

  • 中嶋誠一・堀井伸浩・郭四志・寺田強共著『中国のエネルギー産業-危機の構造と国家戦略-』重化学工業通信社、2005年11月15日、340頁。
  • 小島麗逸・堀井伸浩共編『巨大化する中国経済と世界』日本貿易振興機構アジア経済研究所、2007年5月、306頁。
  • 堀井伸浩編『中国の持続可能な成長-資源・環境制約の克服は可能か?』日本貿易振興機構アジア経済研究所、2010年3月、ix 287頁。
  • 堀井伸浩「中国の石油産業-市場経済化により変容する国家・企業関係-」(坂口安紀編『途上国石油産業の政治経済分析』第4章)岩波書店、2010年3月、pp.111-142。
  • 堀井伸浩「中国セメントメジャーのM&A戦略」(田島俊雄・朱蔭貴・加島潤編著『中国セメント産業の発展-産業組織と構造変化』第10章)お茶の水書房、2010年3月、pp. 285-321。 
  • 堀井伸浩「「新興国」中国の台頭と日本の省エネルギー・環境分野における国際競争力:今後のグリーンイノベーションの帰趨を握る対中国市場戦略」(『中国経済』2010年6月号)、日本貿易振興機構、2 010年6月、pp.35-60。

世界のエネルギー需給を左右する中国の消費増

 2010年時点で世界のエネルギー消費量の多い国を上から10カ国並べてみたのが下の図1である。中国はまさに、この2010年にアメリカを抜いて世界最大のエネルギー消費国となった。

図1 世界の主要エネルギー消費国のエネルギー消費状況

図1 世界の主要エネルギー消費国のエネルギー消費状況

(出所)BP, Statistical review of world energy full report 2011, http://www.bp.comより作成

 2010年の消費量は棒グラフで示してあるが、図を見れば一目瞭然、中国とアメリカの両国が圧倒的な消費量となっていることが分かる。両国のエネルギー消費が世界全体に占める比率は39.3%に及ぶ。そ の後にロシア、インドが続き、我が国は第5位である。

  折れ線で示したのは2000年時点での消費量の合計であるが、棒グラフと比較してみることで、中国の2000年代のエネルギー消費量の急増ぶりが際立っていることが理解できる。中国はこの10年間で、ド イツ以下、2010年時点の世界の第5位から第10位の国々のエネルギー消費量を足し合わせた量とほぼ匹敵するエネルギーの消費を増加させることとなったのである。

 この10年間でエネルギー消費量の増減を区分けしてみると、減少したのはアメリカ、日本、ドイツ、フランスであり、増加したのは中国、ロシア、インド、カナダ、韓国、ブラジルであった。カ ナダはほぼ横ばいと言ってよい微増であるので、概ね先進国におけるエネルギー消費は成熟化し、安定ないし産業構造の転換などによって減少している一方、新興国でエネルギー消費が急増している構図と言える( 韓国はOECD加盟国であるが、依然エネルギー消費量は高い成長率となっているのが例外的である)。その新興国の中でも増加が目立つのは、中国とインドの2カ国ということになる。

 中印両国はしばしば一括りにされて取り上げられがちだが、両国のエネルギー問題を一緒にするのは、インドに対して少々気の毒という気がしてくる。インドの場合、元 々2000年の水準が2億9580万トン(石油換算、以下同じ)に過ぎず(同年の順位は世界第7位)、2010年までに77.2%も増加したとはいえ、5億2420万トンに止まっている。

 他方、中国の場合は、2000年の水準が10億3820万トンと既に相当の量に達していたのに加え、10年間で134.3%増加したことで24億3220万トンにまで消費量が巨大化することとなった。2 000年時点ではアメリカの半分以下の水準であったのに、わずか10年で追い抜いてしまったという事実は、改めてこの10年間の中国のエネルギー消費の急増のすさまじさを感じさせるものである。

中国の石油輸入の増加

 消費量の急増は、自ずと中国によるエネルギー輸入量を増加させることとなった。図2は中国の石油輸出入量および原油対外依存度の推移を示したものであるが、特 に2000年代半ば頃から中国の石油輸入が大きく増大してきたことが分かる。

図2 中国の石油輸出入量および原油対外依存度の推移

図2 中国の石油輸出入量および原油対外依存度の推移

(出所)中国海関(税関)資料より作成

 2000年から2010年にかけての期間、世界の石油貿易量の増加分の37.6%を中国一国の輸入増が占めることとなった。ちょうど中国の国有石油企業による海外進出、海 外の石油開発プロジェクトの権益獲得の動きが活発だったこともあり、中国による石油買占めが、「爆食」(桁外れの大食い)として、大いに注目を集めることとなった。

 あまり認知されていないようだが、中国は世界第5位の産油国であり、しかも2000年から2010年にかけては年平均2.2%で増産してきた(世界の石油生産の成長率は0.8%に止まる)。しかし、そ れ以上に石油消費が急増したことで図2の通り、原油の対外依存度は増加の一途を辿り、1990年には3%未満であった同値は2010年には54.5%にまで上昇している。中国はいまや、過 半の原油を海外からの輸入に依存している状況となっている。

エネルギー需給を支える根幹=石炭さえも輸入に

 近年、更に大きな変化があった。主要エネルギーである石炭についても、中国は輸入を急増させているのだ。図3の通り、2009年に石炭の輸入量は突如急増し、2010年も引き続き増加している。2 011年には中国の石炭輸入量は1億8240万トンとなり、長年、世界最大の石炭輸入国であった日本の1億7522万トンを上回り、世界最大の石炭輸入国となった。

図3 中国の石炭輸出入量の推移

図3 中国の石炭輸出入量の推移

(出所)中国海関(税関)資料より作成

 図3の通り、かつて2000年代前半には、中国はかなりの量の石炭を輸出しており、当時はオーストラリアに次ぐ、世界第2位の輸出国であった。大輸出国転じて大輸入国となることのインパクト、特 にアジア市場に対する衝撃は無視しえない大きさがある。

中国のエネルギー問題をどう理解するか?

 以上の状況を踏まえれば、今後の世界のエネルギー需給を考える上で中国が決定的に重要であるという点については、ほぼ異論のないところであろう。とりわけ、同 じ東アジアに位置するエネルギー輸入大国である(また脱原発依存から火力への依存度が高まる)我が国にとって、中国のエネルギー輸入が今後どのように推移するかは重要な課題である。し たがって中国がエネルギー消費を増加させ、輸入も急増させているという現象だけに関心をとどめるのではなく、その背景にある要因にまで踏み込んだ分析が必要である。

 中国は、石油・石炭、そして天然ガスも今後数年間でかなりの量を輸入すると見込まれているが、そうした現象を引き起こしている原因についての分析がなければ、今後、中 国が果たしてどの程度の量を輸入してくる可能性があるのかを見通すことはできないからである。

 本連載は、特に中国国内のエネルギー供給力を左右する要因に注目し、エネルギー産業を産業経済論の観点から分析することで、今後の中国のエネルギー輸入がどのように推移していくのか、展 望することを目的とする。

 各エネルギーの需給を産業の観点から見ることで、様々な点で通説と異なる中国のエネルギー問題の構造が見えてくるはずである。一例を挙げれば、近年、石炭輸入は急増している一方、国 内の生産能力にはかなりの供給余力が存在していた、という論点がある。

 2009年以降の石炭輸入の急増は、国内価格に比して国際価格が割安となったため、主に沿海部で輸入が拡大したという構図が指摘できる。国内価格の上昇は、中小炭鉱の整理、大型炭鉱への統合政策や、産 炭地の地理的分布の変化など様々な要因が関係している。

 統計データをきちんと押さえ、現場でのフィールド調査も反映した分析を次回以降、展開していきたい。

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