第72号
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太陽光・太陽熱利用

現地調査報告・中国の世界トップレベル研究開発施設(その4)
太陽光・太陽熱利用

2012年 9月14日

秦 舟(しん しゅう):(独)科学技術振興機構中国総合研究センターフェロー兼
研究開発戦略センターフェロー

1976年北京生まれ。1994年来日。2 008年3月東京大学総合文化研究科国際社会科学専攻博士課程単位取得満期退学。2008年3月より現職。現在、調査研究プロジェクト及びウエブサイトの情報発信を担当。

1.世界の太陽エネルギー利用

 太陽エネルギー利用は、大きく太陽光利用と太陽熱利用に分けられる。太陽光利用は主に太陽光発電(PV)となり、太陽熱利用は集光型太陽熱発電(GSP)及び太陽熱給湯と暖房(太陽熱温水器等)が挙げられる。太陽エネルギーを、他の水力、風力、バイオマス、地熱等と合わせて自然エネルギーという。

 世界のエネルギー供給源をみると、石炭、石油などの化石燃料が全体の81%を占め、自然エネルギーは16%、原子力が3%である。自然エネルギーのうち、伝統的なバイオマスが10%、水力発電は3.4%、残りの2.8%を太陽熱、地熱、風力などが占める。

 電力の供給源をみると、2010年の世界の総発電容量は4950GWで、約1/4に当たる1320GW分は、自然エネルギーに由来している。その大半が水力発電によるもので、水力を除く自然エネルギーの発電容量は312GWとなっている。そのうち風力発電は198GW。また、太陽光発電は40GWで、総発電容量の0.8%に過ぎない。しかし、2005年から2010年の間に、太陽光発電、太陽熱発電、太陽熱温水器などの太陽エネルギー関連分野は、年平均15~50%の高成長を遂げ、特に太陽光・太陽熱発電分野の成長は著しく、2010年の成長率は70%を超え、今後の成長が期待されている。

(注)1GW(ギガワット)は100万KW(キロワット)で、一般的な原子力発電所1基分に相当する。

2.中国の太陽エネルギー利用

(1)太陽光発電

 世界の太陽光発電設備容量は40GW(4000万KW)、うちドイツは17.3GWで、世界の約半分の太陽光発電容量を有する。日本はスペインに次ぐ世界3位の設備容量(3.6GW)を有している。中国は0.9GWで第8位であり、世界全体の2%程度となっている。

 中国のエネルギー中長期計画では2020年までに非化石エネルギー消費量を全体の15%に引き上げ、そのうち太陽光と太陽熱発電の設備容量を現在の約20倍(20GW)に引き上げる目標を掲げている。日本の2020年の目標値は14GWで、日本より意欲的な目標となっている。

図1 主要国の太陽光発電設備容量(2010年)

図1 主要国の太陽光発電設備容量(2010年)

(注)REN21「自然エネルギー世界白書2011」を基に筆者作成

(2)太陽熱温水・暖房設備

 太陽光発電と比べ、太陽熱発電の規模は遥かに小さく、現在はまだ研究開発段階にあるといえる。一方、直接の熱利用である太陽熱温水・暖房設備の容量は、太陽熱発電の規模よりかなり大きく、2010年では世界全体で約185GWth(ギガワット熱)となっている。国別では、中国が最も大きく、118GWthで、世界全体の64%を占める次いでEU全体で14%、うちドイツが5%を占めている。そのほか、トルコが5%、日本、ギリシャ、イスラエル、ブラジル、オーストリアがそれぞれ2%となっている。

図2 世界の太陽熱温水・暖房設備の容量(2010年)

図2 世界の太陽熱温水・暖房設備の容量(2010年)

(注)REN21「自然エネルギー世界白書2011」を基に筆者作成

(3)太陽電池製造企業

 図3は、太陽光発電に使用される太陽電池モジュール製造業者の世界市場シェアである。中国企業と台湾企業は、世界トップ10のうち7社を占める。

 後述するサンテックパワー(江蘇省無錫市)の市場シェアは、2010年で世界一。米国のFirst Solarは、生産が増加し続けたにも関わらず、前年の1位から3位へと後退した。

図3 太陽電池製造業者の市場シェア(2010年)

図3 太陽電池製造業者の市場シェア(2010年)

(注)REN21「自然エネルギー世界白書2011」を基に筆者作成

 太陽電池産業の世界生産量は2010年、前年の2倍以上に拡大した。生産の急拡大は、太陽電池の大幅な価格下落をもたらし、2009年に前年より約4割下落したのに続き、2010年はさらに14%下がった。価格低下背景には、太陽電池の素材である多結晶シリコン等の供給拡大と、中国系企業をはじめとするメーカーの生産能力の急拡大がある、と指摘されている。

 中国企業躍進には、二つの理由が考えられる。一つは生産能力の急拡大である。2010年に世界全体で増設された生産設備のうち、中国本土企業が50%近く、台湾企業が約15%をそれぞれ占めた。また、中国政府の太陽エネルギー関連プロジェクト支援政策により、太陽電池製品が大幅にコストダウンしたことも大きい。

(4)太陽熱温水・暖房産業

 太陽熱温水・暖房産業は、前述したように、中国が世界全体の設備容量の64%を占め、また、製造者としても先導的な地位を保っている。中国では、5000以上の企業が太陽熱温水器の製造に関わっており、約20の企業が海外進出を果たしている。その中で、山東省徳州市に拠点を置く皇明太陽エネルギー集団(皇明集団、Himin)は、世界最大の太陽熱温水器製造業者となっている。

 今回、皇明集団と、世界最大の太陽電池メーカー、サンテックパワーの日本子会社、サンテックパワージャパン(SPJ)を訪問した。現地調査の結果を踏まえて分析したい。

3.現地訪問(その1 太陽バレー)

日 時:2011年12月21~22日
場 所:山東省徳州市太陽バレー(中国語は「太陽谷」)
対応者:趙志耘(中国科学技術情報研究所副所長)
張 旭(同研究所戦略研究センター長)
烏 雲(同センター研究員)
張 書鵬(徳州市科学技術局長)
王 学軍(皇明集団プロジェクトマネジャー)
張 立峰(皇明集団技術開発センター チーフエンジニア)

(1)皇明集団の概要

 皇明集団は、石油掘削の技術者だった黄鳴氏が1995年6月に民営企業従業員数は約4000名、年商20億元(約246億円)。年間集熱面積300万m²相当の温水器を生産・販売。中国財政部と科学技術部、国家エネルギー局が実施する「金太陽実証プロジェクト」にも参画している。同プロジェクトは、太陽光発電システムを既存の電力網に接続するもので、投資額の50%の補助金がある。電気が通っていない遠隔地で、独立した太陽光発電システムを立ち上げるプロジェクトも含まれており、投資額の70%は補助金が充てられる。

(2)太陽バレーの概要

 太陽バレーは山東省徳州市北部に位置し、面積は90万m²に達し、「中国太陽城」とも呼ばれている。皇明集団が2005年から徳州市政府とともに、8億ドルを投じて太陽バレーを建設してきた。太陽バレーは世界最大の太陽エネルギー研究開発、産業拠点となっており、研究開発、産業、科学知識の普及、観光、国際会議の五つのゾーンで構成されている。

 現在、100以上の地元太陽エネルギー関連企業が進出し、年間生産額は1000億元(約1兆2300億円)に達し、太陽エネルギー産業クラスターとなっている。

写真1 太陽バレー(皇明集団提供)

写真1 太陽バレー(皇明集団提供)

 太陽バレーを実際見てみると、観光スポット的なイメージが強く、テーマパークのように感じられた。太陽熱利用だけではなく、太陽光地熱、風力など多くの自然エネルギー要素が取り込まれている。

 先方の説明によると、研究開発において、太陽バレーは世界トップ水準の太陽エネルギー利用技術を集約しており、干渉膜コーティング、高温熱発電、エコガラス、太陽熱利用および建築省エネ等に関するコア技術が開発され、年間500件以上の新技術が製品化されている。なかでも、世界初という皇明集団の真空管自動化生産工場、および中国最大のテストラボが注目されているという。しかし、研究開発の現場は見学できなかった。

(3)太陽エネルギーホテル「日月潭」

 太陽バレーには、太陽エネルギーホテル「日月潭」がある。「日月潭」は中国太陽バレーのシンボル的な建築物で、皇明集団が建設した。建築面積は約7.5万m²。「日月潭」は、台湾の景勝地「日月潭」の湖に形が似ていることから名付けられた。

写真2 太陽エネルギーホテル「日月潭」

写真2 太陽エネルギーホテル「日月潭」

 日月潭は、ホテル、会議、研修、展示場等の機能を一体化し、太陽熱による給湯システム、暖房、冷房、太陽光発電等の技術を建築物と融合させた、という。正面入り口の屋上部分は太陽エネルギー集熱管に覆われ、ホテルの温水、熱供給等がこれで賄われている。また、入り口の左右屋上部分は太陽光発電パネルに覆われ、ホテル内の一部の電力を供給している。建物全体の省エネ率は70%以上、これに60%を占める太陽熱利用の冷暖房を加えると、省エネ効率全体では88%に達するという。中国内では、太陽エネルギー総合利用技術と建築省エネ技術を結びつけた建築の模範と評されている。

 2010年11月に開かれた第4回世界太陽都市大会のメーン会場は「日月潭」だった。

(4)集熱真空管工場と屋上の太陽熱発電設備

 皇明集団の集熱真空管工場は、生産ラインが自動化され、年産2000万セットに達している。

 この工場の屋上には、太陽熱による発電設備が設置されている。この設備に用いられている技術は、フレネル型太陽熱発電技術で、反射鏡を利用して太陽熱を収集し、その熱により蒸気を発生させてタービンで発電を行うものである。皇明集団は、このフレネル型太陽熱発電技術に関し、100%の知的財産権を持っているという。

 ただ、今回は工場内部の見学ができず、車内から屋上に建設中の太陽熱発電施設を見学しただけであった。その後、皇明集団より提供された写真3を見ると、2010年に設置が始まって1年以上経過しているが、太陽熱パネルは屋上スペースのほんの一部にしか設置されていないことが判る。まだこれからという感じである。太陽熱発電は太陽光発電に比べ、原理が簡単なものの工程は複雑なため、設置に手間取っている可能性がある。

写真3 工場の屋上に設置された太陽熱発電施設(皇明集団提供)

写真3 工場の屋上に設置された太陽熱発電施設(皇明集団提供)

(5)検査センター

 皇明集団は18の太陽熱温水器関連技術検査センターを持ち、2009年1月、中国合格評定国家認可委員会の許可を得て、国家承認の技術検査機関となった。中国全国の太陽熱温水器の品質評価を管理し、原材料・部品・完成品の検査項目が1000件以上に達している。同センターが発行する検査報告は、中国国内はもちろん、米国、英国、オーストラリア、ドイツ、日本等の主要45カ国で承認されている。

 今回この検査センターをいくつか見学できた。外見的にはかなり広い感じであった。建物1階に、写真4のような窓ガラスで囲まれた実験室が20以上に並んでいた。

写真4 検査センター

写真4 検査センター

 我々が見学した際には、研究者や検査員などの姿は見えず、閑散としていた。検査を受ける物品が大量に置いてある状況でもなかった。たまたま、スケジュール的に暇な時期だったのかもしれないが、中国全土の温水器の品質評価を管理するとともに、日本や米国などにも承認されているという触れ込みにしては、寂しい状況であった。

(6)皇明集団の技術

 皇明集団技術開発センターの張立峰チーフエンジニアの話や、その後提供を受けた資料などを総合すると、皇明集団の強みは、以下のようにまとめられる。

 従来の太陽熱温水器には「冬の水温が上がらず、温水量が減少する」という「冬眠症」問題が存在した。この「冬眠症」の原因はさまざまで、保温層の保温効果低下、パイプの凍結等があるが、最も大きな問題はコア部品である集熱真空管の熱収集不足だという。

 集熱真空管の性能は、コーティング技術にかかっているため、皇明集団はこの問題を解決するため、2002年、シドニー大学の章其初博士の特許であるコーティング技術「干渉膜技術」を買い取り、引き続きシドニー大学、フラウンホーファー研究所との共同研究により、製品レベルの集熱真空管を開発してきた。

 それまでの集熱真空管は、熱吸収性能を高めるため、熱吸収層となる多層化した熱膜層を持っていた。多層化熱膜層を持つ集熱真空管は、熱吸収性能が高まる反面、層が多いため放熱比(吸収されない熱の比率)も大幅に上昇し、外に放出された熱は熱膜層の脱落につながり、結局、集熱真空管全体の熱収集不足をもたらし、温水器の使用寿命も縮めることになっていた。

 それに対して、干渉膜技術は、熱膜層2層のみであるが、2層は異なる金属成分比により互いに干渉作用を起こし、吸収率が大幅に高まると同時に、放熱比を下げることができる。さらに光反射を減少させる層により、光反射と放熱を低減し、高吸収率・低放熱比を実現し、熱収集効率を高めた。また、熱膜層を厚くすることにより、2層のみでも、高温環境下において、その安定性が保てる。この干渉膜技術により作られた皇明集団の集熱真空管は、それまでの集熱真空管より熱吸収率を10%以上高めることができたという。

(7)課題

 干渉膜技術について、日本のメーカーの意見を聞いたところ、皇明集団のコーティング技術はそれなりのものと評価できるが、世界の他のメーカーと比べて大きな差があるとはいえない、とのことであった。製品価格が断然安い点が皇明集団の優位性である

4.現地訪問(その2 サンテックパワージャパン)

日 時:2012年5月28日
場 所:サンテックパワージャパン(SPJ)本社
対応者:三澤邦子(SPJマーケティング本部ゼネラルマネジャー)

(1)サンテックパワージャパンの概要

  サンテックパワージャパン(以下「SPJ」と略す)の前身は、日本のMSKである。1967年に電子部品メーカーとして創業したMSKは、81年に太陽エネルギー電卓の開発・販売を始め、90年から太陽光モジュールの開発を始めた。MSKの笠原唯男社長とサンテックパワー創業者の施正栄氏は、太陽エネルギー関連学会・イベントで顔を合わせた旧知の仲であった。2009年、MSKはサンテックパワーの100%子会社になり、SPJと社名変更した。

(2)サンテックパワーの概要

 サンテックパワー(Suntech Power、中国名は無錫尚徳太陽能電力有限公司)は、江蘇省無錫市に立地するハイテク太陽エネルギー企業であり、2001年1月に設立された。同社は、結晶シリコン太陽電池およびモジュール、太陽光発電システム、その他太陽光応用製品に関して、研究・製造・販売等を主な業務としている。同社は、現在、無錫、洛陽、青海省、上海、長野県に生産拠点を構えており、従業員数は1万1000人。また年商31.5億ドル(約2450億円、2011年)となっている。

 創業者の施正栄博士は江蘇省揚中出身で、1988年にオーストラリアに渡り、ニューサウスウェールズ大学で太陽エネルギー分野の権威マーティン・グリーン博士(Martin Green)に師事し、91年に博士号取得。2001年1月に帰国し、同年9月サンテックパワーを設立し、CEOとなった。施正栄氏はオーストラリア国籍を取得していたため、中国国内ではサンテックパワーは外資企業として登録された。

 サンテックパワーは2002年9月、多結晶シリコン太陽電池生産ラインを稼働。2年後には50MW、2005年150MW、2006年300MWと、世界有数の太陽光発電メーカーになっていった。2005年12月14日、中国の外資系民営企業として初めてニューヨーク証券取引所で上場を果たし、同年、アジア企業トップ100に入り太陽電池分野では世界6位となった。2011年9月に、サンテックパワーの生産規模は約2400MWに達し、太陽エネルギー製品・太陽電池における世界最大のメーカーとなった。サンテックパワーの現在の主な競合他社は、シャープ、京セラ、独Q-cellsだという。

(3)強み

 三澤氏へのインタビューの結果を踏まえたサンテックパワーの特徴と強みは以下の通りである。

① グローバルな経営

 単なる中国の企業としてではなく、グローバルな企業として発展しようとする意欲が強い。傘下企業は、北京、上海、サンフランシスコ、東京、ミュンヘン、ローマ、マドリード、ソウル、シドニー等の世界主要都市にある。技術関係の責任者となるCTOは、豪ニューサウスウェールズ大学のスチュアート・ウェンハム教授(Stuart Wenham)が兼任し、経営、財務関係のCCOとCFOも経験豊富な米国人が就任するなどグローバルな経営体制となっている。

②世界トップレベルの技術

 太陽光発電モジュールの製造に最も重要なのは、変換効率の高いセルの開発である。セルは太陽光電池一枚一枚のこと、モジュールは、数十枚のセルを一枚のパネルに取り込んだ装置である。

 セルの変換率は、太陽光をどれだけ電気に変えられるかを示す比率のことであり、2010年時点の実験室の世界記録(単結晶シリコンセル)は約25%となっている。セル変換率の世界記録は、サンテックパワーのCTOを兼務する豪ニューサウスウェールズ大学のウェンハム教授の研究室である。同研究室は80年代から、米国スタンフォード大学(米サンパワー社の委託)と競争して、セルの変換効率を高めてきた。研究室レベルの変換効率の高いセルを工場で量産するため、サンテックパワーは無錫本社に380人の研究チームを設置している。独自のセル表面設計・表面加工技術を開発するとともに、生産設備の設計能力を高めてきた。

 コストの低い薄膜太陽電池の開発・生産にも注力している。2006年、上海に薄膜太陽電池研究・製造センターを立ち上げ、2009年に四川大学の光電研究所と合弁企業を設立した。同社では、CdTe(カドミウムテルル)型太陽電池の開発を進めている。

③世界販売力

 最大の強みは、世界市場における競争力である。徹底した海外現地販売戦略とアフターサービス強化で、中国で製造したモジュールを世界各国に輸出してきた。サンテックパワーは2001年創業以来、累計、世界80ヶ国以上に2,000万枚以上のモジュールを出荷し、2010年には世界シェア1位となった。図3は、2010年の太陽電池製造業者の市場シェアだが、サンテックパワーが7%を占めて世界一である。ドイツとフランス、米国等が得意先であり、製品は世界各地の太陽光発電所の部品として使われている。

(4)課題

①赤字転落

 サンテックパワーは2011年約6.5億ドルの赤字を出している。SPJの三澤氏によれば、原因は以下の3つと考えられるという。

 一つは、急激な生産規模の拡大による投資の重みである。2010年の生産規模1.8GWに対して、0.6GW分の追加設備投資を行い、2011年に生産規模を2.4GWにまで拡大した。しかし、リーマンショックやユーロ危機などの影響を受け、太陽電池市場が予想の規模拡大にはならなかったため、結果として投資が経営を圧迫することになった。そのため、2012年は生産規模の拡大を行わず、2.4GW体制を維持することにしている。

 二つ目は、材料調達先の変更に伴う違約金の支払いである。従来サンテックパワーは、10年契約に基づいて米MEMC社から結晶シリコン材の供給を受けていたが、もっと低コストのシリコン素材を確保するため他社の供給を考え、米MEMC社との契約を5年間で停止した。これに伴い膨大な違約金を払うことになった。

 最後は、モジュール世界市場価格の下落による利益減である。現在の太陽電池メーカーの市場競争が非常に厳しく、中国、米国、日本などの主要企業が市場シェアを奪い合っている状況である。また、世界各国から多くの新規企業が参入し、素材、部品メーカーも含め、価格競争が一層厳しくなってきている。

②ブランドイメージの低さ

 日本法人のSPJ販売員が一番苦労しているのは、中国製品のトータルブランドイメージの低さである。日本企業の強さもあって、SPJの日本市場シェアは現在約6%で、市場シェア拡大がSPJの最大目標だという。

③開発能力の向上

 地元工場の人件費の安さ、中国政府の優遇策などを考えると、外国トップメーカーと同レベルの製品を製造しているとしても、原価は安いはずである。それでも赤字を出しているのは、現在世界市場の競争の厳しさを象徴している。市場競争に勝ち残るためには、モジュール構成素材の研究開発に注力すべきであるというのが、現在のサンテックパワーの考え方である。

 太陽エネルギー研究の専門家である科学技術振興機構研究開発センターの河村誠一郎フェローによれば、サンテックパワーの研究開発に関し、太陽電池セル基盤技術と量産化技術について以下のようにコメントしている。

 セル技術(変換効率)について、豪州ニューサウスウェールズ大学の技術をベースにした高い技術を保有していることは共通認識となっており、これは中国メーカーの中ではトップであるといえる。ただし、この技術の優位性が事業に結びついていないのが実態であり、サンテックパワーは量産品への展開という点で他社とそれほど大きな差があるとは思えない。現時点では低コスト故に、市場シェアを獲得しているのが実態であろう。

④調達と自社開発のバランス

 サンテックパワーは、高品質な太陽電池モジュールの構成素材を世界各地からカスタムメードで調達できるという強みがあるが、高い設計能力を持っていることを考慮すれば、中間膜、ガラス、バックシートなどの素材を自社開発してコスト節約につなげることも考えられる。特に、現在高品質な構成素材はかなり高価格であり、サンテックパワーもその調達にかなりの資金を投じている。研究開発、及びそれに伴う設備投資には人材と資金力が必要となるが、長期的に考えると原材料・構成素材も含む自社開発能力の向上が大きな課題となるであろう。


編集部注

 本稿は、科学技術振興機構研究開発戦略センター(CRDS)の海外動向報告書「中国の科学技術力について~世界トップレベル研究開発施設~」(2012年6月刊)にまとめられた成果を基に、執筆者にリライトを依頼し、掲載したものである。(中国総合研究センター 鈴木暁彦)