第93号
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北京の大気汚染の現状と原因分析(その2)

2014年 6月30日

彭 応登

彭 応登:博士、北京市環境保護科学研究院 研究員

略歴

1984.7-1986.8 湘潭市環保研究所 助工
1986.9-1989.6 北京市環科院 修士号取得
1989.6-1994.9 北京市環科院 工程師
1994.9-1997.7 北京師範大学 博士号取得
1997.7-2000.2 北京市環科院 高級工程師
2000.3.7-2002.5 北京市環科院 院長助理 研究員
2002.6.7-2009.10 北京市環科院 大気所所長 研究員
2009.11-2011.10 北京市環科院 副総工程師 研究員
2011.11-現在 国家城市環境汚染控制技術研究中心 研究員
1964年6月生まれ。湖南省湘潭市出身。
主に区域環境評価・企画、大気汚染コントロール研究等に従事する。国内外の学術雑誌および学術会議で発表した論文等は60件以上。そのうちSCI収録論文は6件、EI収録論文は5件にのぼる。 

その1より)

2. 北京の大気汚染の現状と原因

2.1 大気汚染の現状

 北京市では2013年に「大気清浄行動計画」という五ヶ年行動計画を始動、2013年1月1日から「空気質指数(GB3095--2012)(AQI)」を導入した。また、大気汚染対策における重点目標を84項目に分類、公表し、現在までに、石炭燃焼量を130万t削減、老朽自動車35万台を新エネルギー自動車へ交換、汚染の原因となっている企業288社を整備、揮発性有機物の排出の8,300t削減する等の措置が実施されている。

 2013年の北京市の大気中汚染物質の濃度値は、それぞれ以下の通りとなっている。

  • 微小粒子状物質(PM2.5)は、年平均濃度値89.5μg/㎥で国家基準値156%超。
  • 二酸化硫黄(SO2)は、年平均濃度値26.5μg/㎥で国家基準値内。
  • 二酸化窒素(NO2)は、年平均濃度値56.0μg/㎥で国家基準値40%超。
  • 吸引性粒子状物質(PM10)は、年平均濃度108.1μg/㎥で国家基準54%超。
  • 大気中の一酸化炭素(CO)は、24時間における平均濃度値3.4mg/㎥で国家基準内。
  • オゾン(O3)は、1日あたり最大8時間の平均濃度値183.4μg/㎥で、国家基準値15%超。

 オゾンの基準超過は5月から9月にかけて見られ、1日当たりでは午後から夜に高濃度な時間帯が集中している。

 北京市全域の降水中pH値は年平均5.38で、酸性雨の割合は16.0%であった。また、二酸化硫黄、二酸化窒素及び吸引性粒子状物質の濃度はここ数年減少傾向にある。この5年間で二酸化硫黄及び吸引性粒子状物質は目に見えて減少しているが、二酸化窒素は横ばい状態である。

 2013年の北京市内各区県における、大気中のPM2.5の年平均濃度値は68.0~107.8μg/㎥であり、いずれも国家基準内の数値であった。同じく、二酸化硫黄の年平均濃度値は19.2~38.6μg/㎥で国家基準内であった。一方、二酸化窒素は年平均濃度値が34.4~65.7μg/㎥であり、延慶県、懐柔区、平谷区で国家基準を超える数値を示した。また、吸引性粒子状物質の年平均濃度値は78.3~131.7μg/㎥で、国家基準内に収まっている。

 AQIによる6段階の空気質指数における、2013年の北京市の空気質ごとの日数と割合は下記の通りであった。

 一級(優)41日、11.2%。二級(良)135日、37.0%。三級(軽度の汚染)84日、23.0%。四級(中程度の汚染)47日、12.9%。五級(重度の汚染)45日、12.3%。六級(深刻な汚染)13日、3.6%。

 このうち、一級(優)及び二級(良)の日数は合わせて176日であり、年間の48.2%を占めた。また、五級(重度の汚染)及び六級(深刻な汚染)は58日で、年間の15.9%であった。

 北京市では、2013年1月1日から、正式にPM2.5の測定を開始した。同年12月31日までのPM2.5の平均濃度は89.5μg/㎥で、国家基準値である年平均35μg/㎥を大きく上回る結果となった。北京市内の分布の状況を見てみると(図3)、PM2.5濃度は南で高く北で低いという特徴があることが分かる。南東、南西部の市境近辺の濃度が北京市全域の中で最も高く、南部と市街地全域がそれに続いて高くなっているのに対し、北部は全体的に安定している。区域背景伝送センターを含む35カ所の観測地点における年間のPM2.5濃度のデータが示すところによると、最低値は北京北東密雲ダムと北京北西発達嶺における60μg/㎥で、市内全域の平均値より30%低い。また、最高値は北京南西琉璃河、北京南東永楽店、北京南榆垡で、110~120μg/㎥に達し、市内全域の平均値より30%高い数値となっている。

図3

図3 2013年北京市のPM2.5濃度分布図

2.2 大気汚染の原因

 2013年の軽度の汚染以上の基準を上回る汚染の中で、主要な汚染物質はPM2.5であり、77.8%を占める。続いてオゾンが20.1%を占め、主に5~9月に発生している。その他の汚染物質(PM10、NO2等)は2.1%に留まった。このことから、PM2.5は北京の空気の質(大気質)に最も影響する汚染物質であることがわかる。

 化学物質収支法(CMB)を用い、北京市の2013年のPM2.5の主な発生源を分析したところ、五大排出源が識別された。二次無機塩(硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム)、有機化合物、自動車排気ガス、石炭の燃焼、粉じんがそれに該当し、年平均の寄与率はそれぞれ36%、20%、16%、15%、6%、また、その他の非特定排出源の寄与率は7%で、図4に示す通りである。

図4

図4 2013年北京市のPM2.5主要排出源

 二次無機塩の寄与率が最も高く、36%であった。主な存在形態は硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウムであり、その前駆体であるSO2、NOX、NH3が大気中で化学反応を起こし生成された二次生成粒子がPM2.5に寄与している。二次無機塩の寄与率36%のうち、二次硝酸塩の寄与率が16%、二次硫酸塩の寄与率が20%であった

 有機化合物(OM)の寄与率は20%で、ここには直接大気中に放出される一次生成有機粒子や揮発性有機化合物、及び大気中で化学反応を起こし生成された二次生成有機粒子が含まれる。北京市のVOCs排出調査の結果と排出源のスペクトル監視測定データによると、一次生成有機粒子の排出源には飲食店での調理による煙、バイオ燃料の燃焼、工業過程における排ガスなどが含まれる。SOC/OCの比率が40%~60%であることから、二次有機粒子の寄与率は10%~15%と試算される。

 自動車排気ガスの寄与率は16%で、これより、小型自動車、ディーゼル自動車、航空機等の輸送機及び、その他の燃油を動力とする非道路車両・機械、工業炉等の排ガスがPM2.5に寄与していることが分かる。燃油の消費量を見てみると、その内訳は、自動車を主とした交通運輸、郵便、物流、及び自家用車となっている。自動車の燃油の種類を分類すると、ガソリン車の寄与率が10.7%、ディーゼル車の寄与率が5.3%であった。

 石炭の燃焼の寄与率は15%で、石炭を燃料とする火力発電、工業用・暖房用の石炭の寄与率が、それぞれ8.4%、6.1%であった。通年運転しているボイラーと冬期の暖房用ボイラーのPM2.5排出量の比率は1:1.4で、工業用・暖房用の石炭による寄与は、主に暖房を使用する冬期に集中していることが分かった。

 土壌ダストの寄与率は6%で、地殻由来が代表的である。これは粉じんの主要な組成成分で、その寄与率は粉じんより低くなっている。粉じんは、土壌ダスト、建設現場や工場などで発生するほこり、石炭の燃焼により発生するすす、自動車排気ガスや道路の摩損等で発生するちり状の粒子であり、移動、混合、沈殿を繰り返して生成される。PMFを参考に分析をした結果、粉じんの寄与率は19%であった。

 2013年の排出源解析結果と2000年~2001年の排出源の寄与率を比較すると、PM2.5に影響する主要な排出源に大きな変化は見られなかった。主要排出源は、自動車排気ガス、石炭の燃焼、粉じん、二次無機塩、有機化合物となっている。際立った変化として、自動車排気ガスの寄与率が大幅に増加したことが挙げられる。自動車排気ガスの寄与率は約9%から16%にまで増加。また、二次有機粒子の寄与率は6%~10.6%から10%~15%まで増加したのである。

図5

図5 2001年の北京市のPM2.5主要排出源

 一次生成粒子のうち、石炭の燃焼の寄与率が50%以上減少している。また、1999年~2012年の大気中SO2の年平均濃度は1985年~1998年に比べて56.5%減少しており、近年、北京市が進めている、石炭使用の削減、クリーンエネルギー生産の促進等の効果が表れていることが見て取れる。自動車排気ガスの寄与率は一旦現象したが、その後上昇を続けている。今後自動車保有台数が増加するにつれ、自動車の大気汚染への影響はますます重視されるだろう。粉じんの寄与率はやや減少している。

(終わり)