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中国の土壌汚染の現状と防止対策(その2)

2015年 9月24日

庄国泰:環境保護部自然生態保護司 司長

1962年4月生まれ、福建省泉州出身。自然生態と農村環境保護、生態文明の推進事業に長期にわたって従事。『環境保護』など重要学術誌への論文発表多数。「土壌修復技術方法・応用」などの書籍の翻訳編集を担当。2012年から環境保護部土壌環境保護法規起草事業指導チームメンバー。近年は、「土壌環境保護『十二五』計画」や「土壌汚染防止・処理法」草案提案稿、「土壌汚染防止・処理行動計画」などの重要文書の起草・作成を筆頭となって組織し、中国の土壌環境保護事業の発展を力強く推進している。

その1よりつづき)

2 土壌環境管理における目立った問題

 今後しばらく、中国の経済成長に対する資源・環境の制約は厳しくなり、土地資源の不足と膨大な人口を抱える基本的な国情に変化はなく、食糧の安全保障の圧力は引き続き増大し、土壌環境の保護は多くの課題に直面するものと見られる。

(1)日増しに高まる土壌環境保護の圧力。中国の重化学工業は依然として比較的大きな規模を維持し、汚染物の排出は特定の地域や流域の土壌汚染を一層悪化させていくものと見られる。鉱物資源の開発の強化や石炭・石油の生産量や消費量の増大に伴い、土壌中の有機汚染物と重金属の負荷は引き続き高まり、土壌環境に巨大な圧力を与える。現在の農業生産の条件においては、食糧供給を保障するため、化学肥料や農薬、農業用フィルムなどの農業用化学品の使用量が比較的高い水準を維持し、大量の重金属や農薬などの有機汚染物が土壌に入り込み、土壌環境の質の悪化の重要な原因となると見られる。

(2)複雑さを増す土壌環境問題。重金属だけでなく、中国の土壌は有機汚染も日増しに深刻化している。レアアースやフタル酸エステル、抗生物質、ホルモン、放射性核種、病原菌などの汚染物の土壌汚染は軽視を許さない。土壌環境問題は、多様性と複合性という特徴を示し、リスクの監督制御の難度はさらに高まり、長年にわたって蓄積された問題が集中的に噴出しつつある。効果的な措置を取らなければ、中国の土壌汚染の悪化傾向は今後しばらく根本的な転換は進まず、土壌汚染問題は大衆の健康と調和社会の建設に大きく影響する。

(3)土壌環境の監督管理体系の未整備。中国には現在、土壌環境の保護に特化した法律・法規が存在しない。土壌環境保護の基準体系は未整備で、土壌環境の質や測定・分析方法、標準試料などの現存する基準は、新たな時代における土壌環境保護事業の必要性を満たせなくなっており、早急な改正と改善が求められている。各地の土壌環境モニタリングや監督・取り締まり、リスク警告のシステムの構築は非常に遅れており、管轄区域の土壌環境の有効な監督管理は難しい状態となっている。土壌環境保護の科学技術面のサポート能力は低く、基礎研究は弱く、中国の国情に合致した土壌環境保護の実用技術と設備の開発が待たれている。土壌環境保護と汚染処理への資金投入は著しく不足しており、有効な資金投入メカニズムを迅速に構築する必要がある。各級政府が統一的に組織し、関連部門が分業して責任を負い、関係各方面が共同で参加する土壌環境保護管理体制はまだ形成されていない。

3 土壌汚染防止・処理対策の強化

3.1 土壌汚染防止・処理のための政策・法規・基準の整備加速

 中国には現在、土壌汚染の防止・処理に特化した法律または行政法規が存在しない。中国における現在の厳しい土壌環境の状況を考慮すれば、土壌汚染の防止・処理のための立法は一刻の猶予も許さない状況にあると言える。環境保護部はすでに、「土壌汚染防止・処理法」の草案提案稿を全国人民代表大会環境資源保護委員会に提出しており、今後は、全国人民代表大会と積極的に連携し、立法プロセスの推進を加速する段階にある。各地方は、特に目立った土壌環境問題に対応するため、着実に実施可能な土壌汚染防止・処理のための地方にあった法規の制定を検討する必要がある。

 各地方と関連部門には、▽土壌汚染防止・処理に有益となる税制・融資・手当・土壌汚染損害責任保険などの経済政策を研究・制定し、▽有機肥料の生産・使用や不用農業用フィルムの回収・加工利用を奨励し、▽建設事業用地の土壌環境の質の評価と記録の制度、汚染土壌の調査・評価・修復の制度を構築し、処理・修復の責任の主体と要求を明確化する――などの措置が求められる。さらに、▽「土壌環境質標準」などの関連基準の改訂、▽汚染土壌の処理・修復、重点地域・産業の重金属汚染物の特別排出規制値、主要汚染物の分析・測定方法、土壌標準試料などの基準の制定、▽土壌環境の質の評価と等級区分、被汚染区画の環境調査とリスク評価、土壌汚染の処理・修復などの技術規範の制定――などを急ぎ、土壌環境保護の基準体系を絶えず整備し、土壌環境の監督管理業務の必要性を満たす必要がある。

3.2 土壌汚染物の汚染源制御の強化

(1)鉱工業企業の汚染制御の強化。産業参入条件を改善し、環境分野の法執行を厳格化し、土壌の重大汚染を引き起こした鉱工業企業に対する期限付きの処置を実行し、耕地と大規模飲用水源保護区において長期にわたって問題となっている鉱工業汚染とその土壌環境安全リスクの調査と処置を進める。集中的な汚染処理施設の環境に対する監督管理を強化し、危険廃棄物の貯蔵・処理施設の運営を規範化し、周辺土壌に対する汚染を防止する。

(2)農業生産過程の環境監督管理の強化。肥料・農薬・農業用フィルムなどの農業用品の使用における環境安全管理を強化し、汚水潅漑と汚泥農業利用を厳しく制御する。農業の広範囲にわたる汚染の制御を強化し、エコ農業を大いに発展させ、無公害・グリーン・有機農産品の生産拠点の建設を強化する。

(3)産業計画配置の最適化。計画を強化し、配置を合理化し、重汚染企業や各種の工業パーク、経済開発区、ハイテク区、各種の資源開発・採掘などの活動による周辺土壌への汚染を防止する。地域・計画・事業の環境評価などの手段を通じて、各種の無秩序な開発プロジェクトによる土壌汚染を防止する。重汚染企業が都市から農村に移転し、新たな土壌汚染を引き起こすことを防止する。

(4)奨励と懲罰の政策措置を実施する。耕地を重点とし、土壌環境保護の成果の評価と審査を展開し、土壌環境保護措置の実施が着実に行われ、土壌環境の質が有効に保護・改善された地区に対しては、国家としてこれを奨励する政策措置を実行する。耕地土壌への重大汚染や大規模飲用水源への脅威がもたらされた地区に対しては、地域内での関連プロジェクトの環境アセスメントの制限などの懲罰的な措置を実行する。

3.3 汚染土壌の環境リスクの厳しい管理・制御

(1)汚染耕地の土壌の安全利用管理の強化。耕地の土壌汚染が深刻なものは、現地の実情と結びつけ、農法措置の調整や栽培業の構造調整、土壌汚染処理・修復などの総合措置を取り、耕地の土壌環境の安全を確保し、農産品の汚染を防止する。耕地土壌の汚染が深刻で修復しがたいものは、現地政府が、農産品禁止生産地域の画定などの措置を通じて、修復を強化し、農家への損失には合理的な補償を与える。汚染耕地の処理・修復期間は、関連する農家に相応の経済的補償を与える必要がある。

(2)汚染地区の環境の監督管理の強化。大中都市の周辺や重汚染鉱工業企業、集中型汚染処理施設周辺、重金属汚染防止・処理重点地域、飲用水水源地周辺、廃棄物堆積地区などの典型的な汚染地区を重点として、汚染地区の再利用の環境リスクの評価を展開し、評価と無害化処理を経ていない被汚染地区が土地の流通や開発利用を行うことを禁止する。評価を通じて、人体の健康に重大な影響をもたらす被汚染地区を認定し、措置を講じて汚染の拡散を防止し、住宅開発への利用を禁じる。

3.4 土壌汚染処理・修復の試行モデル事業の積極的展開

 「まず計画してから実施し、調査しながら処理する」という原則に照らして、土壌汚染の処理・修復を着実に推進する。各地方は、土壌汚染の状況にも基づき、土壌修復工事計画を制定し、処理・修復の優先地域や目標、主要任務を確定する。国家は、典型となる地区を選び、土壌汚染の総合防止・処理モデル地区を建設し、適切な土壌汚染防止・処理技術体系を一歩ずつ構築し、科学的な土壌汚染防止・処理政策体系を整備し、成熟した土壌汚染防止・処理の実践経験を蓄積する。同時に、土壌汚染の類型や土地利用の現状、地域の代表性などの要素を総合的に考慮し、土壌汚染処理・修復の試行事業を全国で展開し、土壌汚染の処理・修復技術体系の構築を加速する。各地方は実情に立脚し、各地に合った措置を取り、汚染耕地の処理・修復を計画的に段取りよく推進する。

3.5 土壌汚染防止・処理の科学技術によるサポート能力の建設強化

 土壌汚染防止・処理の科学技術の基礎を固めるため、土壌汚染防止・処理の重大科学技術特別プロジェクトをできるだけ早期に始動する必要がある。土壌環境の質の評価や等級区分、土壌環境リスクの管理・制御、土壌汚染と農産品の品質との関係、汚染土壌の最適化利用、重点地区の土壌汚染と健康などの基礎研究と応用研究を強化する。一連の国家土壌環境保護重点実験室と土壌汚染処理・修復工学技術センターを設立し、中国の国情に合った土壌環境の保護や土壌汚染処理・修復の実用技術・設備を開発し、普及させる。国際的な協力と交流を積極的に展開し、国外の進んだ土壌環境保護理念や管理モデル、土壌汚染処理・修復技術などを導入し、中国の土壌環境保護の科学技術水準を絶えず向上させる。

3.6 土壌汚染防止・処理の投入メカニズムの構築

 「汚染した者が処理する」「投資した者が利益を受ける」との原則に照らして、公共財政投入を主導とし、民間資金が幅広く参加し、多様なチャネルによる投資が可能な土壌汚染防止・処理の投入メカニズムを一歩ずつ構築する。中央に集められる汚染物排出費などの特別資金を一定の比率で土壌汚染防止・処理に用い、資金の年ごとの増加を確保する。地方も、本級予算の中から土壌汚染防止・処理のための特別資金を手配する。都市建設土地譲渡金からも一定比率の資金を汚染土壌処理・修復に用いる。各級政府は、土壌汚染防止・処理活動の経費を保障しなければならない。国家土壌汚染防止・処理特別資金をできるだけ早く設立し、土壌環境の基礎調査や耕地土壌の環境保護、歴史的に引き継がれた鉱工業汚染のモデル処理事業、土壌汚染処理・修復の試行モデル事業、土壌環境の監督管理の基礎能力建設などを重点的に支援する。


※本稿は庄国泰「我国土壌汚染現状及防控策略」(『中国科学院院刊』第30巻・増刊,2015年、pp.46-52)を『中国科学院院刊』編集部の許可を得て日本語訳・転載したものである。


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