第144号
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スマートシティを背景とする都市ガバナンスの革新・発展モデルの研究(その2)

2018年9月12日

張 小娟: 華南農業大学公共管理学院講師

博士。主な研究内容はスマートシティ、都市ガバナンス。

賈 海薇: 華南農業大学公共管理学院

張 振剛: 華南理工大学工商管理学院

その1よりつづき)

3 スマートシティを背景とする都市ガバナンスの革新・発展モデル

 次世代情報通信技術はスマートシティにおいて、都市の様々なガバナンス主体間の幅広い相互接続、提携・共有、業務連携に向けた技術を提供しており、複数の部門による管理、ビッグデータ管理、大衆参加および管理メカニズムなどの面で、新たな運営発展モデルが形成されている。

3. 1 スマートシティを背景とする都市ガバナンスの多部門連携による管理構造

 スマートシティの公共情報プラットフォームは、様々な都市管理部門および関連企業間の連携に向けたプラットフォームを提供している。公共情報プラットフォームはスマートシティの運営・発展の核心・基礎であり、都市公共情報インフラ、都市公共情報資源データセンター、都市公共情報応用サービスプラットフォームという3部分から構成される。その主な役割は、都市の様々な部門の異種システム間の資源共有と業務連携である[1]。都市ガバナンスの観点から見ると、スマートシティの公共情報プラットフォームは、地理空間データ、リモートセンシング映像データ、車載カメラシステム、監視カメラシステムといった都市管理資源の集積化、精密化、可視化管理を実現すると同時に、都市の公共情報共有プラットフォームを通じて、都市管理に関わる各部門の業務システムの情報相互接続とリアルタイムの交換を実現し、都市管理の統一的な指揮と調整・配置を実現している。スマートシティを背景として、都市の管理システムはより開放的になり、政府の各部門、公共サービス企業間の相互接続と資源共有を実現し、多部門提携という管理構造を形成した(図1)。スマートシティの公共情報プラットフォームは、多部門提携を実現するためのキーポイント、コアであり、都市管理に関わる各政府部門はスマートシティ公共情報プラットフォームを通じて情報共有とタスクの協調的な処理・協力を実現しているほか、公共サービス企業に対する行政許可、業界監督、業務管理といった管理を行っている。また、スマートシティ公共情報プラットフォームに直接アクセスすることで、関連する公共サービス企業はより効率的に政府部門と協力し、都市管理問題の連携処理を実現することができる。

図1

 スマートシティの建設推進に伴い、中国の一部都市では初歩的に多部門提携による都市ガバナンスの構造が実現している。例えば、寧夏回族自治区銀川市では、ビッグデータに基づくスマート政務プラットフォームが構築され、部門や地域の垣根を超えた情報交換・共有および業務連携を推進している。すでに26部門・150項目あまりの審査認可業務を一本化し、「一つの印鑑で審査認可を完了」を実現した。また、432項目の業務のワンストップ式審査認可を実現し、審査認可にかかる時間を78%短縮、企業・市民の手続きの利便性を大きく引き上げ、サービスの効率と満足度を高めた。このように、政府内の多部門間の連携および情報共有の面で大きな進展を果たしている中国の都市は多い。例えば、北京市の市級スマートシティ管理情報プラットフォームは、33の委員会・弁公室・局、19社の公共サービス企業、城六区(東城区、西城区、海淀区、 朝陽区、豊台区、石景山区)の監督指揮センターとのアクセスを実現している。上海新区では153の都市管理関連部門がネットワーク化された都市管理システムにアクセスしている。広州市では、総合管理、法執行、監督、社会参与の4つの機能が一体化した都市総合管理プラットフォームが構築され、すでに市内の10区、2つの県級市、51の市級連動部門および64の街道(中国の行政区分の一つ)で運用されている。深センでは、市内の21部門、8区、57の街道弁公室、1500あまりの企業・事業単位が都市管理問題の連携処理を行っている。

1. 2 スマートシティを背景とする都市ガバナンスのビッグデータ管理

 スマートシティを背景とする、多方面が連携する都市管理の重要な特徴として、新たな情報技術によって、異なるガバナンス主体が高速、リアルタイム、ユビキタスの連結を実現すると同時に、幅広い情報伝達と情報収集を実現する点が挙げられる。データに含まれる大きな価値は、都市の効果的なガバナンスを力強く支えている。スマートシティの公共情報プラットフォームの建設、および政府の様々な部門間、政府と大衆間の相互接続が実現するに伴い、政府は水平方向の様々な部門あるいは管理分野、そして垂直方向の各級の政府およびその部門が収集した縦横様々なデータ集合システムを有することになり、これらの膨大な量のデータを十分に活用しマイニングすることで、従来型の政府では効果的に管理できなかった複雑な「難題」を解決できるようになる。

 ビッグデータは主に、以下の2つの面で政府による効果的なガバナンスをサポートしている。①都市の各分野の現状を全面的かつリアルタイムに把握する。また、効果的なデータ収集とデータマイニングによりスマートな意思決定の水準を高め、公共の場の秩序維持をサポートする。公共安全分野では、政府はソーシャルメディア(特にスマートモバイルデバイスのソーシャルメディア)を駆使して幅広く情報を収集することで、容疑者を素早く識別・特定し、違法な犯罪行為を取り締まることができる。例えば、2015年7月に上海市奉賢区南橋鎮前進弄の金銀宝飾店で発生した強盗事件では、上海市公安局が膨大なビデオデータから容疑者の犯罪行為を再現し、事件発生から48時間後に犯人逮捕に至った。ビッグデータの実践応用プラットフォームを運用することで、上海市公安局は情報の総合的な検討評価と事件の捜査・マネージメントを強化し、窃盗、恐喝、強制取引、路上での「ひったくり」や「強奪」、自動車と軽車両の盗難、交通違反、娯楽施設の不法経営といった違法犯罪行為を厳しく管理し、取り締まり、都市の公共安全維持の面で大きな成果を上げた。2015年上半期の刑事事件解決件数、刑事取り締まり人数と行政拘留人数はそれぞれ前期比で95%増、33.1%増、52%増となった。公衆衛生の分野では、ソーシャルメディアを通じて検索データをまとめ、公衆衛生の状況を追跡・予測・モニタリングすることができる。例えば、2009年3月に発生したA型H1N1インフルエンザ(新型インフルエンザ)の爆発的流行の際、Google社は人々のネット上の検索の記録を観察することで、膨大なデータの分析結果を割り出し、冬季インフルエンザの全米における流行をより効果的かつ速やかに予測することに成功した。中国の国務院弁公庁は、健康・医療ビッグデータの重要な役割と意義を鑑み、2016年6月に「健康・医療ビッグデータ応用発展の促進・規範化に関する指導意見」を発表し、中国の健康・医療ビッグデータの融合と共有、公開と応用を規範化し、推進した。②ビッグデータの収集、分析および共有を通じて、人々によりスピーディーかつ便利で効果的な公共サービスを提供し、閉鎖的で非効率的だった政府による公共サービスを、多方面が連携する効率的なサービスへと転換する。例えば、米国政府は各部門のデータを統合したうえで、食品安全に特化したウェブサイトを立ち上げた。このサイトで食品のリコール情報を速やかに発表し、データを公開することで、国民が共有し、全面的に監督管理する食品安全ネットワークを構築した。オーストラリア政府が構築した求職者分類システムは、福祉申請者の失業リスクを評価できるほか、高リスクグループを識別することができ、求職者の職探しをサポートしている[6]。中国の常州では、2600台あまりの事業用自動車(バス)があり、運行路線は260本以上に上る。これまでに車載監視カメラを13000カ所あまり、バスステーションの監視カメラを720カ所あまりに設置したほか、無線Wi-Fiを全面的に設置し、すべての車両とバスステーションを管理している。また、バス情報アプリ「掌上公交」のダウンロード数は250万件に達し、1日の利用件数は20万回以上に達するなど、「市民が最も愛するアプリ」と呼ばれている。このアプリを使えば、市民は家の中でバスが来るのを待つことができる。

3. 3 スマートシティを背景とする都市ガバナンスの大衆参加メカニズム

 現在の中国の都市管理体制は、政府が社会生活の一切を一手に引き受けていた計画経済体制下のモデルを踏襲しており、中国の都市計画、建設、管理には真の意味での大衆参加メカニズムが存在しない。ある程度の大衆参加があったとしても、事後の参加、あるいは受動的な参加であり、都市ガバナンスに本当に必要とされる大衆参加とはまだ大きな格差がある[11]。開放性・参加性はスマートシティの重要な特徴であり、クラウドコンピューティング、モノのインターネット(IoT)などの次世代情報技術やソーシャルネットワークサービス、ソーシャルメディアなどのツール・アプリを駆使して大衆をパブリック・ガバナンスに参加させることは、都市の革新的運動となり、大衆の都市ガバナンスへの参加を大きく推進することができる。このような社会大衆が幅広く参加するパブリック・ガバナンスモデルは、人々に自らの意見やアイデアを発表する場や手段を提供すると同時に、素晴らしい都市とコミュニティを共に建設していくための積極的な模索を促す。都市ガバナンスにおけるこうした大衆参加には、2種類のモデルがある。1つ目は、オンラインの参加・コミュニケーションモデル。これはすなわち、大衆と政府がオンラインでコミュニケーションを取り合い、人々の意見とアイデアを聴取し、公共政策の改善を進めていくというものだ。2つ目は、オンラインのコミュニケーションに基づくオフラインの組織・コミュニケーションモデル。これはすなわち、ネットワークプラットフォームが提供するオンラインの連絡・交流をベースに、オフラインでのコミュニケーション・交流を組織し、公共討論への参加を呼びかけるなど、都市の発展に向けたアドバイスを求めるというものだ(図2)。図からも分かるように、2つ目のモデルは1つ目のモデルを基礎に、さらに一歩進めたものである。ある公共問題に注目する人々によるオフライン組織を立ち上げることで、都市公共事務の意思決定、討論、組織・実施に社会大衆をできるだけ参加させ、住民と政府間の相互コミュニケーションを、従来のモデルから友好的なブレインストーミングモデルへと転換することができる。

図2

 情報ネットワーク技術プラットフォームに基づく都市ガバナンスへの大衆参加は、西側諸国での実践において良好な発展を見せている。1つ目のモデルであるオンラインディスカッションは、米テキサス州Manorでの実践と模索が一定の成果を上げた。Manorの定例評議会への出席者はわずか15人と、あまりに少なかったため、Manorとスタンフォード大学、Spigit社が協力してウェブサイト「Manor Labs」を立ち上げ、都市の改善に向けた住民の意見・建議を募集し、これらの建議の公開投票を行った。2009年10月に同サイトが開設されると、すぐに100件以上の建議が寄せられ、約2000人(Manorの総人口の約1 /3)が意見を提起し、多くの提案が採択された。オフライン組織を立ち上げる2つ目のモデルは、米国のDIY Cityの取り組みが注目を集めている。米国のJohn Geraci氏は、インターネットと同様に開放的で、多くの人に共有され、広く分布し、かつ急速かつ有機的に発展する都市を建設するべく、オープンソースシステムDrupalを用いてウェブサイトDIYcity. orgを立ち上げ、世界各地の人々のアイデアやディスカッションを総括し、最終的に都市運営に向けたより良いツールを開発している。同サイトのシステムでは、誰でも新たなチームを簡単に結成することができる。そのネットワークはすでにサンパウロ、コペンハーゲン、ポーランド、クアラルンプールなどに広がり、数多くのWeb開発者、都市プランナー、環境設計士、学生、政府関係者が参加し、都市建設を支援している。サンフランシスコのソフトウェア開発者からの支援および、当時流行していた著名ブログBoingBoingによる無料の宣伝の効果もあって、Geraci氏は2009年1月14日、東西海岸で2回のミーティングを開くことができた。両会場共に多くの人が集まり、プログラマーと都市プランナーらが一堂に会し、新たなDIY City運動の推進に向けたブレインストーミングが初めて実現した。

3. 4 スマートシティを背景とする都市ガバナンスの管理メカニズム

 次世代情報通信技術およびスマートシティ公共情報プラットフォームを駆使することにより、新型の都市ガバナンスモデルでは、異なる部門が密接に協力し合う、標準化・常態化された都市管理の閉ループプロセスが確立され、従来の突貫式・運動式の都市管理から常態的な都市管理への転換が推し進められた。中国の伝統的な都市管理モデルでは、多くの都市問題の処理が往々にして運動式・突貫式ガバナンスとなっていた。これは主に、短期間かつ臨時に召集される集団活動で、安定性や体系的な組織メカニズム、資源によるサポートに欠ける。運動式のガバナンスは通常、短時間に多くの部門の人力・物力・財力を集中させることで、明らかな短期的効果を出すことをめざし、常態的なガバナンス能力の不足を補うというものだ。運動式のガバナンスは、地震や洪水、災害など、偶発性・緊急性が高い問題への対処には効果を発揮する。しかし、環境保護や都市の排水システムの改造、経済的に困難を抱える人々への支援など、頻繁に発生・出現する問題の場合、短期間内の集中的な行動では、顕著で長期的な効果を上げるのが難しい。このため、対応する標準や制度を制定し、常態的なガバナンスを実現するべきである。スマートシティの管理では、次世代情報通信技術を駆使して都市管理の様々な分野の連携に向けた技術を提供することができる。これは、突発的・緊急の問題への対応の際に、より速やかで効果的な意思疎通・協調メカニズムを提供するだけでなく、長期的な注目とガバナンスが必要な問題に対しても常態的な都市管理メカニズムを提供することができる。図3に示すように、スマートシティ管理の一般的なプロセスは、指令の発信から、情報収集、受理・立案、人員派遣、問題の処理、処理・フィードバック、検証、分析・評価にいたるまで、それぞれの部分が密接につながり合い、相互に協力し合って、一つの閉ループプロセスを形成している[12]。都市管理部門、公共サービス企業および一般大衆は、公共情報プラットフォームを通じて相互接続と資源の共有を実現し、都市管理の全プロセスにおける情報のスピーディーな伝達と業務のシームレスな接続が保証される。以上の分析からも分かるように、次世代の情報通信技術のサポートによって形成された新型都市管理メカニズムにおいては、都市の管理はすでに政府部門が管理、監督、法執行を一手に引き受けるものではなくなり、都市管理を担当する政府部門、公共サービス企業、一般大衆など関連の主体間が共に協力し合い、相互に提携し、統一的に調整・配置する都市ガバナンスのメカニズムが形成されている。このことは、合理的な都市ガバナンス構造の形成と発展を推進した。

図3

4 政策と建議

 次世代情報通信技術の応用により、都市管理モデルの革新が後押しされ、多部門、多主体が幅広く参加する、合理的で効率的な都市ガバナンスの構造・モデルの形成と発展が促された。本稿は、以下のいくつかの面から、スマートシティを背景とする多方面が連携・参加する都市ガバナンス業務を推進していくべきであると考える。

(1) 都市管理分野に用いる都市レベル、ビジネスレベル、組織レベルの公共情報プラットフォームを急ぎ構築する。都市ガバナンスの革新的運営モデルの中で、公共情報プラットフォームは異なる都市管理部門の内部および都市管理部門と都市管理関連の公共サービス企業間の相互接続・提携を実現するための基礎であり、また政府部門と大衆間の相互交流に向けた重要なプラットフォームにもなる。ゆえに、都市管理のスマート化の現状に基づき、異なる組織および業務部門で対応する情報共有プラットフォームを構築し、さらに都市レベルの都市管理公共情報プラットフォームを立ち上げることで、「情報の孤島」を打破することが、近代的な都市ガバナンスモデルを推進するための重要な業務となるだろう。

(2) 制度の革新と建設を重視する。スマートシティを背景とする都市管理において、データと情報の統合・共有は核心であるが、まずこれと対応する業務制度、管理制度を確立し、異なる組織や部門間の連携・提携を支援することが、変革に向けた第一歩となる。例えば、政府部門が人工知能やナレッジマネジメントなどの手段を採用し、従来のオフィス自動化システムをスマートオフィスシステムに改造する、もしくは異なる部門が密接に協力し合う、標準化・常態化された都市管理の閉ループプロセスを確立するなどの取り組みを行うには、従来型の業務プロセスと業務方式を変える必要があるため、関連の規則や制度を制定することで新たな業務プロセスの確立を保障する必要がある。

(3)情報技術を十分に活用し、都市計画、建設、管理における一般大衆の参加ルートを確立し、中国の都市ガバナンスへの大衆参加メカニズムを絶えず改善していく。多分野が連携する都市ガバナンス構造において、大衆は重要な役割を担っている。様々なソーシャルメディアを十分に活用して政務の公開を進め、都市計画、建設、管理業務の透明度を引き上げ、大衆の意見に積極的に耳を傾け、人々の知る権利と参加権を尊重することが、将来的に政府が複雑かつ急速に変化する時代において出現する様々な新問題をより良く解決し、対処していくための重要な措置となるだろう。

(おわり)

参考文献:

[1] 張小娟. 智慧城市系統的要素、結構及模型研究[D].広州: 華南理工大学博士学位論文,2015.

[6] 趙強,単煒. 大数据政府創新: 基于数据流的公共価値創造[J].中国科技論壇,2014(12) : 23-27.

[11] 陶希東. 中国城市治理: 理論、問題、戦略[J].華東理工大学学報(社会科学版) ,2005(3) : 95-97.

[12] 王愛華,陳才. 智慧城市: 構築于信息高地上的城市智慧発展之路[M].北京: 電子工業出版社,2014.

※本稿は張小娟,賈海薇,張振剛「智慧城市背景下城市治理的創新発展模式研究」(『中国科技論壇』2017年10期、pp.105-111)を『中国科技論壇』編集部の許可を得て日本語訳/転 載したものである。記事提供:同方知網(北京)技術有限公司