第1節 概要
中国は1990年代から国策の一つである「対外経済開放政策」によって外資を導入するとともに、市場原理に従った国有企業改革を進め、国内産業の競争力強化に力を入れてきた。このような結果、2 004年上半期に中国の外資導入は急成長を遂げた。1月から6月にかけて中国全土で新たに認可された外商投資企業は2万1000社余りで、前年同期比15%増であった。契約金額は同43%増の727億ドル、実 行金額は同12%増の339億ドルであった [1] 。
この「外商投資企業」には、本報告書で述べる国家ハイテク産業開発区などのパークへ進出した企業も含まれていることは言うまでもない。そして、時代の進展に伴い、中国への企業進出だけではなく、中 国国家ハイテク産業開発区などのパークにおいて、中国と外国の共同投資により、何らかの関連パークを設立し運営しようと言う気運が高まった。
一方、2003年頃、中国経済の発展、とりわけ、外貨準備高の増加(2003年4月時点で3160億ドル)や一部の国内企業の急成長に伴い、中 国企業が海外直接投資を行うための条件が次第に整備されてきた。こうした変化を踏まえ、中国共産党や政府の指導者は、しばしば「走出去」(海外進出)戦略を提唱するようになった。
例えば、2001年からの「第10次5カ年計画」では、「外資の積極的な活用」とは別の1節として、対外投資の奨励などを盛り込んだ「走出去」戦略の推進が明記された。また、2 002年11月の第16回共産党大会では、「走出去」戦略の実施を「対外開放の新段階の重要な動き」と評価した上で、「比較優位のあるさまざまな所有制の企業が海外に投資し、(中略)実 力のある多国籍企業と有名ブランドを創りあげることを奨励する」といった目標を明らかにした。5カ年計画や党大会で相次いで明記され、承認されたことにより、「走出去」は 中国の国家戦略の一つとして位置付けられたと言える [2] 。
もともと中国「タイマツ計画」の目的は、前述したように「ハイテク技術成果の商品化、ハイテク商品の産業化、ハイテク産業の国際化」の推進にあり、「走出去」戦略はその中の「ハイテク産業の国際化」に 共通しているものと考えられる。また、「国際企業インキュベータの設立に関する意見」(国家科学技術委員会、1997年9月)、「第10回5カ年期間中における国際科学技術協力に関する発展綱要」(科学技術部、2 000年12月)、「中国の海外における技術型創業パークの試行事業に関する意見」(2003年9月)は中外共同運営国家ハイテクパークの政策的な根拠になったと言える。
2008年12月現在、ロシア、イギリス、アメリカ、シンガポール、オーストリア、イタリアとの間で合計7カ所(中国・イギリスの間は2カ所)の共同運営「海外科技園」( 海外サイエンスパークまたは海外ハイテクパーク)を設け、相手国向けのベンチャー企業のインキュベーション、相手国からの融資の獲得、海外市場参入のためのマーケティング能力の向上、ビジネスパートナーの発掘、中 外提携のマッチングといった多様な試みを進めている。
パーク関係国 | 入居企業例 | 事業領域 | 入居目的 |
中国とアメリカ | 重慶前沿生物制約公司 | バイオ製薬 | 共同開発 |
託普国際商務公司 | 商務諮詢 | 中米間の技術及び商務の企画やコンサルティング | |
中国とイギリス | 尚吉電子公司 | 電子製品 | 市場参入 |
国家留学基金管理委員会予科学院 | マッチング | 中英の大学間の交流や提携の推進 | |
中国とシンガポール | 上海傑事傑新材料公司 | プラスチック | 海外からの融資 |
北京威奥特公司 | 通信ソフトウェア | 上場 | |
中国とロシア | 華東電子研究所 | 電子 | 共同研究 |
江蘇常州植物激素研究所 | 農薬等の開発 | 共同研究 |
2002年12月、中国初の海外サイエンスパーク/中外共同運営国家ハイテクパークとして、「中美馬里藍科技園」(中国・アメリカ・メリーランド・サイエンスパーク)の建設が実質的なスタートを切った。同 パークは中国とアメリカの産業用・民生用科学技術提携協定の枠組み内の一つの事業であり、中国タイマツハイテク産業開発センター、北 京中関村サイエンスパーク管理委員会及びアメリカのメリーランド大学といった3者間の提携プロジェクトである。生命科学、バイオテクノロジー、医薬、農業、環境が重点的な取り組み領域となり、中米間の技術、経 済及び文化の潮流に合致するものとして期待され、中国企業の海外進出戦略の策定にも資すると考えられる。
また、2002年、中国科学技術部は、中国タイマツハイテク産業開発センターに対し、ロシアで「中国・ロシア友誼サイエンスパーク」を設立することを委託した。これを受けて、同開発センターは、2 001年に設立した「黒竜江・中国・ロシア科学技術提携及び産業化センター」に再委託しながら、設立準備にかかった。黒竜江・中国・ロ シア科学技術提携及び産業化センターはハルピン工業大学に直轄された事業法人であり、ハルピン工業大学はロシアと80年余りの交流提携の歴史を持つ。2003年、中国・ロシア友誼サイエンスパークがオープンし、多 様な試みが継続中である。
2004年12月7日、中国とイギリスの「政府間科学技術提携事業」の一つとして、China-UK Cambridge Technology Venture Park(CUC)が イギリスにて設立された。これは2002年10月に上海にて開かれた「中英フォーラム」で調印された「中英サイエンス創業パークの設立提携覚書」や、2 004年5月に温家宝首相がイギリスを訪問した際の再提起に基づいて、中国科学技術部タイマツハイテク産業開発センターと広州市科学技術局の努力の結果である。CUCは中国とイギリス、ひ いてはヨーロッパとの間の架け橋的な存在になっている。
[1] 胡景岩(中国商務部外国投資管理司司長)「中国の外商投資導入の状況と関連政策」日中投資促進機構「中国外資政策セミナー」中国側講演( 投資機構ニュースNo.107)。
[2] 佐野淳也「動き始めた中国の「走出去」戦略」日本総研アジア・マンスリー(2003年07月号)。