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書籍紹介:『「満州」から集団連行された鉄道技術者たち』

書籍イメージ

書籍名:「満州」から集団連行された鉄道技術者たち

  • 著者: 堀井 弘一郎
  • 出版社: 創土社
  • ISBN: 978-4-7988-0220-6
  • 定価: 1,400円+税
  • 頁数: 224ページ
  • 商品の寸法: 18.8 x 2.0 x 12.8 cm
  • 発行日: 2015年1月刊

紹介文

橋村 武司(天水会 会長)、伊藤 禮子(天水会 事務局長)

 1945年8月15日の終戦後、「満州」では帰国を前に留用になった多くの日本人がいた。軍人や鉄道、医学、科学などの専門家と家族の一団である。一説では数万人とも言われる。

 1950年秋、突然「満州」にいる鉄道留用者に移動の命令が下った。そして、集結地は北京、天津、濟南であった。理由は聞かされていなかったが、祖国への帰国であろうと期待した。しかし、結果は意に反し行き先はシルクロードの天水の西北鉄路幹線工程局であった。技術者はそれぞれの持ち場に配属された。一方、留用者の子女たちは鉄路局傘下の小中学校へ入学ができた。これは予想外の出来事であった。

 1952年10月1日の新中国建国3周年記念日に、天水から蘭州へ待望の鉄道、天蘭線が開通した。これは日中の技術者が共に汗を流し、3年の計画を半年繰り上げて難工事を克服した快挙であった。そして日本人技術者の協力が大きかったと賞賛された。

 しかし、この稀有の歴史的事実の公式記録はほとんど公表されていない。よって直接体験した900人の日本人家族を含む関係者以外、日中の人々にほとんど知られていない。

 天蘭線完成の慶祝の中、1953年の春、突如帰国命令が下り、念願の祖国への帰還を果たした。 翌年には全国各地の故郷へ帰った仲間たちに声をかけ有志で天水会を立ち上げた。初会の開催日には家族共々大勢が集まり、周囲は興奮の渦に巻き込まれた。それから60年間、会員の親睦と日中友好交流の草の根活動を続けている。目下、最大の課題は「天蘭線鉄路建設の事跡」を日本の青年また中国の青年たちに広く知ってもらい、日中友好の礎としていくことにある。それは日中間のコミュミケーションを深める上で有意義であり、事実に基づく議論は相互理解をより深化させ、また子々孫々の活動に繋がると確信しているからである。

 十数年前、堀井弘一郎先生と知己を得、先生自ら現地天水や国内各地での調査を踏まえ、この度本書の発刊の運びとなった。天水会にとって最も喜ばしいのは第三者の研究者による貴重な記録本であることにある。著作に当たっては、天水会の会員は勿論、中国の同学・先輩たちの全面的な協力を得た成果である。歴史の事実の記録として、是非この一冊を後世に語り継いでいきたい!

2015年2月吉日

書評:「満州」から連行された鉄道技術者たち

 沖村憲樹(独立行政法人科学技術振興機構 特別顧問 中国総合研究交流センター 上席フェロー)

 JST理事長時代に、中国との交流をより活発にしたいとの強い思いから、各方面に訴え、中国総合研究交流センター(CRCC)を設立した。CRCCは、日中交流のために、多彩な諸活動を行っている。

 CRCCの趣旨をご理解いただき、諸活動に積極的に参加して下さっているのが、本書の主要な主人公である天水会会長橋村氏である。

 ある日、橋村氏から、鉄道技術者として中国に留用された「天水会」のご苦労のお話をお聞きし、深く興味を抱いた。

 かって、日本は中国を侵略し、中国全土で戦闘行為が行われ、第二次世界大戦終了時、軍人、一般人、数百万人の日本人が残留していた。長年に亘る日本の「仕打ち」にも関わらず、日本軍は「階級」をそのままにして日本に帰ることが出来たと聞いており、中国からの色々な帰国の話を聞く度に、シベリア抑留の話、筆者の北朝鮮から一年近く掛かって周囲に多くの餓死者を見ながら引き揚げてきた経験を考えると、概括的に言って、中国は懐の深い立派な対応をしてくれたと思ってきた。

 だからと言って、数百万人の残留者の中にも、多くのご苦労があったことは無視できない。

 本書、「「満州」から集団連行された鉄道技術者たちの記録」を拝読すると、1000日の留用期間の色々なご苦労があったようであるが、総じての結論は、

 「食事、住居は誠意を持って提供され、子供たちは教育を受け、天水の人々の心からの歓待を受けた。別離のときは、熱烈な歓送をしてもらい、涙を流しながら別れを惜しんだ。天水を「第二の故郷」と思う。

 そして、待ち望んで帰国したが、故郷では、帰国者と蔑まれ、冷たい仕打ちを受ける。」

 ということだと思う。

 両国の国民性を始め多くの事項について、多くの勉強をすることが出来た。

 日中交流のためには、日中の国民の相互に理解し好意を持つことが根底となると考えている。その為にCRCCでは「サイエンスポータルチャイナ」(1日2万PV)「客観日本」(1日20万PV、70%が中国本土)を運営している。本書は、日中交流の歴史の理解のため興味深い材料として、両ポータルサイトに紹介する次第である。