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書籍紹介:『習近平時代の中国経済』(アジア経済研究所,2015年7月)

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書籍名:習近平時代の中国経済

  • 編著者: 大西 康雄
  • 出版社: アジア経済研究所
  • I S BN: 978-4-258-30024-2
  • 定 価: 1,400円+税
  • 頁 数: 147
  • 判 型: A5
  • 発行日: 2015年7月刊

書評:「習近平時代の中国経済」大西康雄著 アジア経済研究所

倉澤 治雄(中国総合研究交流センター

 習近平政権がスタートして3年が経とうとしている。本書はこの間の中国経済について、前政権の政策と比較しながら分析したレポートである。習政権はかつてない規模で反腐敗闘争を展開し、国民の喝采を浴びる一方、政権批判や民主化要求には断固たる態度で臨んでいる。一方、経済では「新常態」という新しい概念のもと、対外開放を含めた改革・開放政策を強化する方針を打ち出している。2016年には第13次5カ年計画が始まり、「シルクロード経済圏」や「アジアインフラ投資銀行(AIIB)」が報道をにぎわしているが、これらは「中国の夢」に集約されるのか、興味深いところである。

 本書は「序章」で習政権の経済政策を見るポイントを提示、その上で「経済の現状と課題」「国内改革の現況と課題」「対外開放の新構想とそのねらい」「都市・農村一体的発展戦略の行方」「第13次5カ年計画」「日中経済関係の展望」と章を立ててレビューしている。

 著者はまず前政権を含めた中国のマクロ経済指標を分析した上で、国内改革の課題に切り込む。習政権の改革・開放プランは2013年11月の第18期中央委員会第3回全体会議で示された。

 著者はとくに市場経済化を再始動させるため、政府機能の権限縮小や国有セクターの民間開放の成否に注目する。中国でも既得権益の壁を崩すのは容易ではなく、著者も「成否を判断するには時間がかかる」としている。

 一方、対外開放の構想は、ASEANとのFTAで成果を上げているものの、長期の成長を維持するには、更なる対外開放が必要となる。そのための施策として、著者は「自由貿易試験区」と「対外投資の拡大とFTA」に着目する。これらはやがて「シルクロード経済ベルト(一帯一路)構想」につながっていく。

 著者は「対外開放のバージョンアップ」が政策として確定した方針と見る一方、「中国が従来の世界経済の枠組みを変えようとする動きを本格化させている」と指摘、AIIBを含め、中国の対外政策が経済と外交が連携した形で「新しい段階に入ろうとしているといえる」と分析している。

 第13次5ヵ年計画は今年10月の中央委員会全体会議で骨格が示されるが、産業構造の高度化や環境エネルギー問題の解決が重要課題となるとの見方を示す。さらに日中の経済関係については、二国間の視点ではなく、世界経済の中の日中経済関係の視点が必要との立場で、「日中関係は、いまだ決して良好とはいえないが、経済の現実のなかでは新たな関係の可能性が芽生えている」と指摘している。

 本書は10月に示される第13次5カ年計画や「一帯一路構想とAIIB」、それに2017年の党大会や2021年の中国共産党創立100周年に向けた中国経済の動向を分析する上で、客観的かつ網羅的な分析資料となっている。