書籍紹介:『20世紀前半の中国 (中国の歴史・現在がわかる本 第1期 1)』( 貴志俊彦、2017年2月)
書籍名:20世紀前半の中国 (中国の歴史・現在がわかる本 第1期 1)
- 著 者: 貴志俊彦著、西村成雄監修
- 出版社: かもがわ出版
- I S BN: 978-4-7803-0885-3 C8322
- 定 価: 2,800円+税
- 頁 数: 36
- 判 型: A4判
- 発行日: 2017年2月刊
書評:「20世紀前半の中国 (中国の歴史・現在がわかる本 第1期)」 貴志俊彦
大澤 肇(中部大学国際関係学部講師)
通史を新しく書き下ろすというのは難題である。なぜならば歴史研究は日々進化しており、学界最先端の新しい成果を入れつつ、一般の読者を対象とするために全体としてのストーリー性も保たなくてはいけないからだ。ましてや学生向けでは、字数も限られ、簡明な記述をせねばならない。
そういった点で本書は、著者の貴志俊彦氏が、最近の中国近現代史研究の成果(漫画など「非文字資料」の活用、日常生活の変化を重視する社会史の視点、国民政府の再評価、世界史のなかで中国を捉える視点、日中戦争下、中国での民主主義の発展など)を用いつつ、清王朝末期から1945年までの中国史の流れを、うまく描いている。
さまざまなカラー写真が使われているので見やすく、また要点を外さず簡明に記述されているので、高校生向けではあるが時間がないビジネスパーソンなどの大人にもおすすめである。本書は、最新の研究成果がふんだんに盛り込まれており、単なる子ども向けの本ではないし、さらにいえば、後述するように、中国の近現代史は、現在の日中関係に直結しており、共産党体制を作り出した背景でもあるからだ。
本書のもう一つの特徴は、中国の近代化を支えた日中関係についても詳述していることである。具体的には日本留学ブームや関東大震災での援助や虐殺事件について1章-といっても2ページだが-を割いて述べている。
ただし、20世紀前半の日中間における最大の「接触・交流」ともいえる「日中戦争」については、もう少し詳述する、あるいは中国側の戦争観を紹介してもよかったのかもしれない。評者も大学で中国近現代史を教えているが、ほとんどの学生が、日中戦争についてはほとんど何も知らない(教わったが忘れてしまったのではないかと思われる)。まして日中戦争がアジア・太平洋戦争につながっていったことも「大学での講義で初めて知った」といってくる学生も少なくない。
中国政府が、歴史を国内政治や対日外交に利用しているのは事実であり問題であるが、日本における歴史知識の欠如も、日中関係の悪化や中国理解を阻む一因となっているのもまた事実であろう。
本巻の続編として、日野みどり著『第一期 2 20世紀後半の中国』、阿古智子著『第一期 3 21世紀の中国』も同時に出版された。1巻に続き、日常生活の変化や社会運動、日中関係に重点を置きつつ、最新の中国史や中国社会論の知見がふんだんに盛り込まれている。こちらもお勧めである。