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書籍紹介:『人民元の興亡』(吉岡桂子、2017年5月)

書籍イメージ

書籍名:人民元の興亡

  • 著 者: 吉岡桂子
  • 出版社: 小学館
  • ISBN : 978-4-0938-9771-6
  • 定 価: 1,800円+税
  • 頁 数: 400
  • 判 型: 四六判
  • 発行日: 2017年5月刊

書評:『人民元の興亡』吉岡桂子

馬場錬成(特定非営利活動法人21世紀構想研究会理事長、科学ジャーナリスト)

 新聞記者が世界を股にかけ、足で書いた「経済小説」である。小説としたのは、インタビュー取材と文献精査で掘り起こした通貨と金融政策をめぐる数々の裏面史を、エピソードを織り込んだ練達の筆さばきで読むものを楽しませてくれるからだ。ドキュメンタリータッチのノンフィクション・ノベルと言ってもいいだろう。

 著者は朝日新聞の経済記者として中国、アメリカで取材活動の経験を積み、いまバンコクを拠点にアジアの取材を続ける。その活動の折々に体験したインタビューの内容と史実に照らし合わせた著者の検証・見解がいたるところにちりばめられており、それがあたかも裏面史のようになっている。取材対象となった世界の金融政策のリーダーたちの人物評、時には人物評価がこれまた読ませてくれる。

 前半はこの本のタイトルになっている中国人民元の歴史を書いている。冒頭で写真を並べた「紙幣で辿る中国近現代史」は興味深いし、紙幣の顔として掲載される人物にまつわる物語は、そのまま中国の歴史を語っていることになる。毛沢東が人民元のお札の顔になるのを拒否したというは、何を物語っているのか。著者の追跡取材は見事である。

 後半は人民元と日本円を交錯させながら、世界の金融・通貨のせめぎ合いを人物に焦点をあてながら語りついでいく。登場する人物は、経済・金融の重要な政策マンが多く、一般にはなじみの薄い人が多いが飽きさせない。特に中国の金融プロはどういう人物なのか、専門家は別にしてあまり知られていないのではないか。

 たとえば「人民元の番人」と呼ばれる中国人民銀行総裁の周小川とはどのような人物なのか。米国留学で英語力を磨き(しかし著者の評価ではそれほどではないようだ)、米国での人脈を築き、アメリカを始め国際金融界で存在感を出す。その人となりを書きながらダイナミックに動く世界の金融史を辿り、世界経済の息遣いを解説してくれる。

 日本でも話題になっているAIIB(アジアインフラ投資銀行)設立の動機はどこにあったのか。中国の野望とされるAIIBは、一帯一路構想とも呼応しているものであり、習近平の中華民族の復興実現へとつながっていくのではないか。ADB(アジア開発銀行)の設立当時の日本の苦杯を振り返りながら、AIIBとの設立比較論も興味深く論評されている。

 2000年を境にして中国の経済状況は、驚異的な成長を続け、並行するように人民元の世界地位は上がってきた。戦後、アジアでもっとも存在感を出し、何事にも上から目線で考え発言していた日本の地位は中国に抜かれて行った。その現実を人民元と中国の金融政策を語ることで、相対的に地盤沈下をおこしている日本を語った本でもある。

 巻末に収納した参考文献、略語一覧、「通貨と権力」関連年表も気が利いている。読みだしたら止まらない内容が展開されており、一夜で読了させる中国とアジアそして日本の金融の歴史と解説の本である。