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第86回CRCC研究会「中国における食料安全問題と企業の対応」/講師:大島 一二(2015年 8月24日開催)

「中国における食料安全問題と企業の対応」

開催日時: 2015年 8月24日(月)15:00-17:00

会  場: 国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)東京本部別館1Fホール

講演資料: 「中国における食料安全問題と企業の対応」( PDFファイル 28.9MB )

講演詳報: 「第86回CRCC研究会 詳報」( PDFファイル 11.6MB )

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講演レポート「中国における食料安全問題と企業の対応」

中国総合研究交流センター

 桃山学院大学の大島 一二(おおしま かずつぐ)教授は8月24日、科学技術振興機構(JST)中国総合研究交流センター(CRCC)主催の研究会で「中国における食料安全問題と企業の対応‐日本と中国の食料を考える」と題して講演し、日本で関心の高い中国の食の安全問題や対日農産物輸出の現状などについて、具体的事例を挙げながら、分かりやすく報告した。

 大島教授はまず、中国の農業・農村の現状について触れ、「農地面積は1.22億ha(日本は470万ha)と大きいが、農家1戸当たりの耕地面積は日本の約3分の1、農業者1人当たりでは10分の1以下」であり、零細規模・低所得農業の現状が続いていると指摘。「日本は近年、その中国から農産物の輸入を急速に拡大し、生鮮野菜の場合、約6割を中国からの輸入に頼っている」ことなどを紹介した。

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 大島教授はその主な理由として、①日本国内の大口ユーザー(外食産業・中食産業・食品企業等)の安価な輸入農産物に対する旺盛な需要を背景とした、日系商社による「開発輸入」戦略、②世界貿易機関(WTO)加盟と国内の農産物の生産過剰を背景に、輸出に積極的になった中国側の事情、の2点を挙げた。また、同教授はその上で、2002年に中国野菜の残留農薬問題が発生したことなどがきっかけとなり、「(中国では)残留農薬検査機器を備え、自社農場において生産するなどの規模の大きな企業でないと事実上、輸出ができない法規制が進み、安全対策が加速した」と語った。

 しかし、大島教授によると、厳しい安全基準を満たして日本などに輸出される野菜は年間5億トンとされる中国の野菜生産全体の1%程度に過ぎず、中国の食の安全問題解決のためには国内で流通する農産物の問題を解決していかなければならず、根本的な問題解決には、「なお、時間を要する」という。

 大島教授はさらに、中国産農産物の対日輸出の動向について「2010年以降は円安と人件費の上昇などにより、日系食品産業は中国国内販売に力を入れ始めている」と指摘。山東省莱陽市に進出したN社が「すでに生産物の半数を中国国内販売に回している」などの例を挙げながら、「日本の場合、食料の(完全な)自給はできないのであるから、中国側の諸機関と協力してやっていく以外にない」と述べ、「日本の食料供給政策が今、ためされている」と強調した。

(文・写真 CRCC編集部)

大島一二

大島 一二(おおしま かずつぐ)氏: 桃山学院大学 教授

略歴

1959年長野県生まれ。
東京農業大学大学院博士後期課程修了。博士(農業経済学)。東京農業大学教授、中国の青島農業大学教授を経て、現在、桃山学院大学経済学部教授。国際センター長。専門は中国経済論、中国農業論。と くに日本と中国・香港・台湾との食料貿易の現状、食品安全問題などを研究している。