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第89回CRCC研究会「中国の産学官連携」/講師:近藤 正幸(2015年11月4日開催)

「中国の産学官連携」

開催日時: 2015年11月4日(水)15:00-17:00

会  場: 国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)東京本部別館1Fホール

講演資料: 「 中国の産学官連携」( PDFファイル 392KB )

講演詳報: 「 第89回CRCC研究会 詳報」( PDFファイル 7.06MB )

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企業資金が圧倒的に多い中国の産学官連携-近藤正幸・横浜国立大学大学院教授

中国総合研究交流センター

 横浜国立大学大学院の近藤正幸(こんどう まさゆき)教授(環境情報研究院・学府環境イノベーションマネジメント専攻)は11月4日午後、東京千代田区の科学技術振興機構(JST)東 京本部別館1Fホールで開かれたJST中国総合研究交流センター(CRCC)主催の第89回研究会で講演し、日本と比べて進んでいる中国の産学官連携の現状について報告した。

 中国では、「大衆による起業、万人によるイノベーション」政策の下で重点大学を中心に産学官連携の強化が行われ、大学の構造改革が進められている。近 藤教授はこうした動きを長年にわたって研究してきた日本における第一人者で、この日は「中国の産学官連携」と題して講演。中国の大学が産学官連携の中でどのような位置付けにあるのかなどについて、日 本と比較しながら、分かりやすく解説した。

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 近藤教授はこの中で「中国のナショナル・イノベーション・システム(NIS)が計画経済下の旧ソ連型の研究開発と生産が分断されたシステムから市場経済への移行過程の中で大きく変化し、政 府からの研究費支出が激減。それが逆に企業からの積極的な資金導入につながり、関連法規がほとんどなかった中で、中国共産党・政府の主導の下で産学官連携が一挙に進んだ」と指摘。「 上場企業を含めて大学発ベンチャーが次々に誕生し、売上高は2007年度で2兆円規模である。"技術市場"も設立されて発展し、ゼロから出発した取引総額は2005年時点で1551億元(約2兆0830億円)に も上っている」と語った。

 近藤教授によると、中国の産学官連携では企業から大学の研究開発に提供される資金の割合が日本や欧米に比べて圧倒的に多く、05年時点で36.7%を占め、清華大学のケースでは1990年代後半に40%を 超えた。因みに、日本と米国は06年時点でそれぞれ2.8%と4.9%。ドイツでも05年時点で14.1%だったという。

 近藤教授はまた、中国の地方政府も産学官連携に極めて積極的で、清華大学は09年末までに地方政府と共同で6つのベンチャー・キャピタル・ファンドを設置したことなどを紹介。「 日本企業はブランド志向で有名大学と提携したがる傾向にあるが、地方大学にもいい先生がいる」と述べ、地方の大学や研究機関にも目を向けていくべきだと強調。中国に比べて遅れ気味の日本の産学官連携については、① 政府プロジェクトに対する成果主義の導入②教員や研究者に対するさらなるインセンティブ③制度の柔軟な運用や規制の緩和④政府調達の実施―などの必要性を訴えた。

(文・写真 CRCC編集部)

近藤 正幸

近藤 正幸(こんどう まさゆき)氏:
横浜国立大学 大学院環境情報研究院・学府
環境イノベーションマネジメント専攻 教授

略歴

1973年3月東京工業大学卒業、1975年6月ワシントン大学修士課程修了、1976年3月東京工業大学修士課程修了の後、1976年4月に通商産業省に入省。その後、スタンフォード大学博士課程留学、埼 玉大学大学院政策科学研究科助教授、世界銀行産業エコノミスト、中部通産局総務課長、工業技術院研究開発官、通商産業大臣官房調査統計部統計企画室長、統計審議会専門委員、英 国王立国際問題研究所(チャタムハウス)客員研究員、工業技術院技術評価課長、高知工科大学大学院教授などを経て、2001年から現職。
著書は、単著に「大学発ベンチャーの育成戦略」、共訳に「インフォトレンド」、共編著に「Innovation Networks & Knowledge Clusters: Findings and Insights from the US, EU and Japan」、「21st Century Innovation Systems for Japan and the United States – Lessons from a Decade of Change」、分担執筆に「入門 情報セキュリティと企業イノベーション」、「ベンチャーと技術経営」、「企業活力」、「 開発技術学入門」、「Management of Technology: Growth through Business, Innovation and Entrepreneurship」、「 Measuring the Dynamics of Technological Change」、「Problems of Measuring Technological Change」など。こ のほか論文43編、査読付国際会議論文35編など多数。