第13回中国研究サロン「『一帯一路』構想と中国外交の変貌」(2015年 5月14日開催)
演題:『一帯一路』構想と中国外交の変貌
開催日時・場所
2015年 5月14日(木) 10:30 - 12:00
国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)
東京本部別館1Fホール
講師
呉 寄南
(上海国際問題研究院学術委員会 副主任)
講演資料
「『一帯一路』構想と中国外交の変貌」( 2.06MB )
講演レポート
日中関係に詳しい上海国際問題研究院諮問委員会副主任の呉寄南氏が5月14日、中国総合研究交流センター主催の「中国研究サロン」に講師として参加し、中国の習近平国家主席が提唱して注目を浴びている「一帯一路」構想や最近の中国外交、中日関係について自らの考えを披露した。
呉氏はこの中でまず、「一帯一路」構想について、「欧州とアジアの二つの経済圏を連結するものだ」と指摘。「二つのシルクロードの沿線には60数ヵ国、世界の総人口の6割が存在し、(沿線の)GDP総額は全世界の29%、21兆ドルに上る」と述べると共に、「中国と沿線諸国が共に建設し、共に(繁栄を)享受するという大きな計画である」と強調した。
ただ、呉氏は「期待が高ければ高いほど、期待が外れたときの反動も大きい」と述べ、容易には解決しない領有権をめぐる紛争、沿線諸国の政局の混乱や宗教対立、テロ活動、投資リスクの高さなどといった問題が存在しており、「決して順風満帆にいけるものではない」と語った。呉氏はさらに中国が「一帯一路」構想を打ち出した背景について①鉄鋼、セメント、家電などの余る生産能力を海外に拡散させる②資源・エネルギー輸入の多元化③地域発展の不均衡の解消―3点を挙げた。
また、呉氏は「一帯一路」構想の一部ともいわれているアジアインフラ投資銀行(AIIB)問題に言及。「世界銀行やADB(アジア開発銀行)など既存の金融メカニズムにとって代わるものではなく、補充的なものだ」と訴えた。
呉氏はこのほか、最近の中国外交や戦後最悪とされる日中関係に触れ、「中国外交は、初期の『革命外交』、改革開放後の『経済外交』を経て、『戦略外交』ともいうべき第3ステージに立った」と分析。「国際秩序に対して単なる『参与者』から『参与しながら改革を図る』積極外交に乗り出し、国際貢献を目指している」と語った。
(文・写真/CRCC編集部)
呉 寄南(ご きなん)氏:
上海国際問題研究院学術委員会 副主任
略歴
1982年4月に上海国際問題研究所に入所。総合編集室副室長兼「国際展望」誌常務副編集長、日本研究室室長などを歴任。2007年8月に上海国際問題研究所は上海国際問題研究院に昇格し、院の学術委員会副主任に着任。2013年9月から院の諮問委員会副主任に転任。上海市日本学会会長、中華日本学会常務理事及び中国人民外交学会理事を兼任。
また、1989年11月から1990年9月まで総合研究開発機構(NIRA)客員研究員、1994年11月から1995年9月まで東京大学教養学部客員研究員、2007年9月から12月まで慶応義塾大學大学院訪問教授。
主な著作には、「日本民主党内外政策研究」(時事出版社、2014年出版)、「新世紀日本対外戦略研究」(時事出版社、2010年出版)、「冷戦終結後の日台関係」(上海人民出版社、2009年出版)、「日本新生代政治家」(時事出版社、2002年出版)、「新世紀における日本の行政改革」(主編、時事出版社、2003年出版)、「新世紀の入り口に立つ日本」(主編、上海教育出版社、1998年)、「中日関係のボットル・ネック論」(共著、時事出版社、2004年)、「戦後日本防衛研究」(共著、上海人民出版社、2003年)。訳著には、「和解とナショナリズム(若宮啓文著、上海訳文出版社、2007年)、「日本政界における台湾ロービ」(本沢二郎著、上海訳文出版社、2000年)、「共同研究 冷戦以後」(中曽根康弘他著、三聯書店、1994年)などがある。