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第15回中国研究サロン「安倍談話と日中関係」(2015年 9月14日開催)

演題:安倍談話と日中関係

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開催日時・場所

2015年 9月14日(月) 16:00 - 17:30

国立研究開発法人科学技術振興機構(JST) 東京本部別館1Fホール

講師

鈴木 美勝:時事通信解説委員/前「外交」編集長

講演資料

安倍談話と日中関係」( PDFファイル 112KB )

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講演レポート

 東京・永田町での取材歴が長く、ワシントン特派員やニューヨーク総局長を務め、外交・内政に詳しいジャーナリスト、鈴木美勝氏(時事通信社解説委員)が9月14日、JST中国総合研究交流センター主催の「 中国研究サロン」で「安倍談話と日中関係」と題して講演した。

 鈴木氏はこの中で、戦後70年の安倍談話の成立過程に言及。「侵略」の事実を認めただけでなく、間接的な表現ながら「おわび」の言葉が入ったことについて、「さらなる長期政権を念頭に置いた、〝 岸信介の孫・安倍晋三の政治的DNA〟との妥協の産物であり、一国の統治者として現実的な選択をした結果だった」とし、本音で言えば「安倍カラーをもっと出したかったのではないか」と指摘した。

 鈴木氏の取材によると、安倍首相は春の時点で既に、「侵略」の言葉を入れることにこだわっていなかったが、「おわび」は絶対に言わないと決めていたという。しかし、7月になると、安 倍首相は安保関連法案の衆院通過(16日)をきっかけにした内閣支持率の急落、不支持率との逆転、経済政策「アベノミクス」に対する国民の疑念の広がりなど、懸念材料が次々表面化したことから、本来の「 安倍カラー」を封印、政権の危機を乗り越えようとしたのではないか。現に談話の作成過程に関連して言えば、自身の頭の整理や有識者懇談会の討議内容の吸収など予備的な準備は以前から行われていたが、口述筆記―成 文化―清書という形で、側近ら二人と共に本格的な執筆が始まったのは7月後半だったと言われる。

 この結果、安倍談話には、四つのキーワード(植民地支配と侵略、痛切な反省、心からのおわび)が明記され、中国政府や韓国政府も自制した反応をせざるを得ない「政治的に計算され尽くした構成・表現」と なった。

 鈴木氏はまた、中国の習近平政権の対日外交について、2013年から14年初めにかけては安部首相の靖国神社参拝(同年12月26日)もあって「対決」姿勢をみせていたが、14年後半になると、「 関係改善の兆し」が見え始めたと指摘した。習政権は現在、「部分協調」政策に転じ、戦略的互恵関係に対日外交の軌道を戻しつつある。鈴木氏はその理由として、尖閣諸島の海域・上空における偶発的な事故回避や、中 国経済が悪化する中での日本からの協力の必要性などを挙げた、日中関係は今後も「対立と協調」が併存する「本来の『互恵と競合』の時代に回帰していく」との見方を示した。

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(文・写真/CRCC編集部)

鈴木美勝

鈴木美勝(すずき よしかつ)氏:
時事通信解説委員/前「外交」編集長

略歴

早稲田大学政経学部卒業後、時事通信政治部に配属。55年体制の永田町政局を取材。外交・安全保障担当を経てワシントン特派員。帰国後、外務省、首相官邸、自民党各記者クラブキャップ、政治部次長、ニ ューヨーク総局長、解説副委員長、編集局総務、時事Janet編集長。著書に『いまだに続く「敗戦国外交」』(草思社)、『小沢一郎はなぜTVで殴られたか』(文藝春秋)など。このほか専門誌『外交』( vol.13~20)、多言語サイト「ニッポンドットコム」、時事通信ドットコムに執筆。