第16回中国研究サロン「習近平政治は特異なのか:習近平政権の国内政治と対外行動」(2015年11月16日開催)
演題:習近平政治は特異なのか:習近平政権の国内政治と対外行動
開催日時・場所
2015年11月16日(月) 16:00 - 17:30
国立研究開発法人科学技術振興機構(JST)東京本部別館1Fホール
講師
加茂 具樹:慶應義塾大学総合政策学部 教授
講演資料
「習近平政治は特異なのか:習近平政権の国内政治と対外行動」( 1.18MB )
講演レポート
慶應義塾大学総合政策学部の加茂具樹教授は11 月16 日、JST中国総合研究交流センター(CRCC)主催の第16回中国研究サロンで「習近平政治は特異なのか~習近平政権の国内政治と対外行動~」と題して講演し、権力を集中させて強い指導者にみえる習近平国家主席(中国共産党総書記・中央軍事委員会主席)も、実は、「80年代以来の制度を継承し、『新しい』制度を生み出しているわけではない」と指摘。「(習政権は)制度からみる限り、これまでと変わらず、特異な政権とはいえない」と強調した。
習政権は2012年11月、習近平氏が党総書記に就任して発足し、まもなく4年目を迎えようとしているが、同氏の政治指導者としての評価はこの間、「弱い指導者」「コンセンサスを重視する指導者」から、「強い指導者」「集団指導体制を壊そうとしている指導者」へと一変。中央全面深化改革領導小組、中央国家安全委員会、中央ネットワークセキュリティー・情報化領導小組、中央軍事委員会国防・軍隊改革領導小組、中央財経領導小組などを次々に設置。自らトップに就任し、政策調整と決定の過程で大きな影響力を行使する権限を掌握。反腐敗闘争によって、体制内エリートの反抗の意思を奪い、大胆かつ積極的な対外行動にでて実績を挙げ、大衆の支持を取り付けているようにみえる。
しかし、加茂教授はこれについて、習氏が「なぜ、権力を集中させた」のかという観点だけでなく、「なぜ、他の政治エリートが(習氏の権力集中を)認めた」のかという視点が重要だと指摘。「前任の胡錦濤主席が指導者や幹部の腐敗、党の威信低下などといった問題に迅速に対応・解決できなかったことで、(体制内エリートたちが)習政権を取り巻く環境について危機意識を共有したからだ」と解説。80年代以来、党内で継承されてきた中国政治の制度、即ち、「集団指導制度」、「定年制」、あるいは「党は憲法と法律の範囲内で活動しなければならない」「党の主張を国家の主張に置き換える」は依然として維持されていると語った。
加茂教授によれば、こうした習近平氏と他の政治エリートとの間の関係のありかたに関する制度は、習近平のような権威主義国家の指導者が政権を持続させるために克服しなければいけない二つの政治課題の一つだという。そして、習氏にとってのいま一つの政治課題が習氏と他の政治局常務委員をはじめとする政治エリートと権力の外にある大衆との間の関係である。80年代に提起された「社会協商対話制度」と表現されるものがそれであり、こうした制度を習政権もまた重視し、政権の持続のために積極的に活用していると語った。
その上で加茂教授は、習氏は(個々の)政策の決定過程で権限を集中させているようにみえるが、これまで中国政治において継承されてきた制度を書きかえているわけではなく、制度を逸脱、破壊しようとしてもできない状況にある」と指摘。そもそも「こうした『制度』(社会で正統と承認されている目標価値獲得の行動定型あり、かつ人々がそれに従うことは適切であると了解している行動定型)を書き換えて、『新しい制度』とつくることは容易ではない」と論じた。加茂教授はその上で、「経済発展し社会が多元化するなかで、政策決定のために不可欠なコンセンサス(党内と社会の)をどう求めたらいいのか苦慮しているのではないか」との見方を示し、「習氏は(中国のリーダーとして)特異ではなく、必ずしも一般的に言われているような強い指導者とはいえない」との考えを表明した。
加茂教授はさらに、講演後の質疑応答で、「習氏は制度を変えたいのか、また、変えようと思っているのか」との質問に対し、「権力者なら変えたいと思うだろうが、やってはいけないと思っているかも知れない」とし、それを判断するためには「制度」の変更に手をつけるかどうか」や政権の正式呼称が「習近平同志を総書記とする党中央」から「習近平同志を核心とする第4世代指導集団」に変わるかどうかなどを、注意深く、みていく必要があると訴えた。
(文・写真/CRCC編集部)
加茂 具樹(かも ともき)氏:
慶應義塾大学総合政策学部 教授
略歴
1972年生まれ。慶應義塾大学総合政策学部教授。慶應義塾大学東アジア研究所現代中国研究センター副センター長。国際大学グローバル・コミュニケーション・センター客員研究員。博士(政策・メディア)。現代中国政治、比較政治学専攻。日本国駐香港総領事館専門調査員(2000-2003年)、國立台湾師範大学政治学研究所訪問研究員(2010年)、カリフォルニア大学バークレー校東アジア研究所現代中国研究センター訪問研究員(2011-12年)、國立政治大学国際事務学院客員准教授(2013年)を歴任。著書に『現代中国政治と人民代表大会』(2006年、慶應義塾大学出版会)、共著書に『党国体制の現在』(2013年、慶應義塾大学出版会)、『中国 改革開放への転換』(2013年、慶應義塾大学出版会)、共訳書に『北京コンセンサス』(2012年、岩波書店)がある。