アジアの新型コロナの状況・対策 SSPメンバーより
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【20-32】バングラデシュにおける新型コロナウイルスのパンデミック

2020年6月18日 Saifur Rahman(さくらサイエンスプラン(SSP)同窓生)

科学技術振興機構(JST)中国総合研究・さくらサイエンスセンター(CRSC)では、2014年度より日本・アジア青少年サイエンス交流事業「さくらサイエンスプラン(SSP)」を実施し、科学技術交流を通じてわが国とアジアを中心とした各国・地域との連携・協力関係を深めてまいりました。各種報道の通り、現在、世界中で新型コロナウイルス感染症の流行が拡大しておりますが、本コーナーでは「さくらサイエンスプラン」に参加している各国・地域の関係機関・関係者より現地の新型コロナウイルス感染症について、その状況や対策等をリポートします。

現在の状況

 中国湖北省で新型コロナウイルスが発生したことを受け、政府の関係機関である疫学・疾病管理研究所(IEDCR)は、WHOのガイドラインに沿って状況観察を実施しました。WHOによる緊急事態宣言により、当初の懸念事項であったスクリーニングが行われないまま、学生を含む多くの人々が2月中旬までに中国からバングラデシュへと帰国し、その後、政府は新型コロナウイルスのパンデミックへの準備を進めました。新型コロナウイルスがヨーロッパ諸国、特にイタリアに甚大な影響を与えたとき、ヨーロッパや中東、そして近隣の東南アジア諸国からも多くのバングラデシュ人が3月に様々なルートを辿って帰国し、彼らはとても簡易な体温検査のみで通関しました。政府は帰国者のために機関による検疫を手配しましたが、彼らは滞在施設の不足を理由に検疫を拒否しました。その後、彼らは、引き続き検疫機関に隔離を指示され、拒否した者には外出自粛ガイドラインに沿って自宅で自粛を要求されるも、これらを拒否。政府は彼らの自宅における外出自粛を保証するために地方管理を強化しましたが、適切な検疫は維持されませんでした。これにより、バングラデシュはパンデミックの時期へと突入しました。

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適切な手洗い方法を女性たちに教える医療従事者

 IEDCRは新型コロナウイルスの状況を綿密に観察し続け、2月初旬頃から新型コロナウイルスの唯一の検査機関として検査を開始しました。最初の症例は3月8日に報告され、最初の死者は早くも2020年3月21日に報告されました。最初に検出された3人のうち、1人はイタリア出身で、もう2人はその患者との濃厚接触者でした。症例数は4月中旬までは少なく、首都ダッカが中心でしたが、今では国内ほぼ全ての地域にて新型コロナウイルスの陽性患者が確認されています。IEDCRは、地域コミュニティでの集団感染をも確認したため、健康衛生に関する緊急事態を宣言し、ナラヤンガンジ(ダッカに隣接する)を国内での感染の震源地とすることを発表しました。

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新型コロナウイルスで亡くなった方の対応をする医療従事者

 現在までに、合計8,238人の新型コロナウイルス感染者(検査数70,239人のうち)と170人の死者が報告され、その中で174人の陽性患者が回復しました。また、国内の約79%の患者が在宅で治療を受けているため(保健省発表)、実際の回復状況は記録されておらず、公式の回復状況データにも含まれていません。現在までの24時間の間に、641人の陽性患者と15人の死亡が報告されています。(陽性患者)全体の11%が医療従事者であり、治安部隊やその他第一線の行政職員が患者の多くを占めており、政府の懸念事項となっています。

 時間の経過とともに、検査センターの数(現在は30以上に近い)と検査数も増加傾向にあります。検査数の増加に伴い、報告される症例数も増加しました。現在では、毎日約5,000件のPCR検査が行われていますが、人口密度の高い(1億6,000万人)この国ではまだ不十分です。

 検査数が限られているために、人々は現在の状況がパンデミックのピークであるかどうか未だ確信を持てていません。政府は、この国におけるパンデミックの状況を明確に見出すために、毎日最低でも1万人に対してPCRテストを実施する必要性があり、その実施のためテストセンターの数を拡大しようとしています。政府当局は、統計から5月の終わりまでには、1,000人の死者と計50,000人もの感染者で出ると予想しています。感染が拡大した当初、防護具やマスク、テストキットが不足していましたが、今では政府は十分な数の防護具、マスク、テストキットを保有していると発表しています。一部の現場作業員は、十分な防護用品を得られないと主張し、一部の医療従事者は、異なるニュースチャンネルを通じてマスメディアに供給された防護具の品質についての疑問を呈しました。そのため、政府は現在、防護具やその他の防護用品の量と質を厳しくチェックしています。

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公共施設の除菌作業を行う清掃チーム

政府がとった措置

 国家委員会は、バングラデシュにおける新型コロナウイルス感染者の発見に伴い結成され、国民の危機意識強化と、状況観察を通じて必要な対策を講じます。まず、3月18日には、すべての教育機関の閉鎖が発表されました。最近では、シェイク・ハシーナ首相が記者会見で、このままでは9月開校を検討しなければならないと述べています。パンデミックの進展に伴い、感染の拡大を抑制し、ソーシャルディスタンスを保つため、政府は3月26日から4月3日までの間は休日とし、すべての人々に自宅待機を要請。また新型コロナウイルスに関する健康規則を遵守するよう国民に推奨しました。ウイルスの感染状況を考慮して、外出自粛令は2020年5月5日まで延長されました。この発表を受け、国民はパニックに陥り、多くの人々がダッカから家族のもとに戻るため全国各地から移動し、さらに感染拡大のリスクを高めました(後に実施された接触者追跡の結果、他の地域で検出された患者の多くはダッカやナラヤンガンジから移動してきた人々であることが判明しました)。移動を制限するために、政府は3月26日から医療や食品、薬品配送など緊急を要するもの以外は、あらゆる種類の公共交通機関(道路、水路、航路)を封鎖し、家庭や公共、宗教施設でのあらゆる集会を制限、国境をも閉鎖しました。人々は(自粛)政策により自宅で待機し、礼拝も全て家で行っています。外出は、食品や薬品の買い出しのみ許可されます。3月25日にはショッピングセンターなども閉鎖されました。多くの地域では感染拡大を抑えるために、感染事例が報告された後、ロックダウンが実施されています。

 政府と技術委員会は、最前線に立つ医療従事者を保護し、陽性患者に適切な医療施設を提供するため、防護服、マスク、検査キット、感染症専用病院、酸素ボンベ、ICU、人工呼吸器、全国の遠隔医療サービスの管理、死者のために適切な葬儀の手配など、かなり早い段階で対策を講じてきました。しかし、国民からすれば、膨大な人口の前ではこれらの対策だけでは不十分と考えています。国や地方の行政や治安部隊は、都市部と農村部でソーシャルディスタンスを保つよう日々働きかけており、市場や医療従事者も最善の努力をしています。

 経済危機に対処するために、政府はアパレル部門や様々な産業、小・中・大規模農家、中・低所得・無収入の人々を対象に、約100万バングラデシュタカ(BDT、GDP全体の約3%)の財政支援策を実施することを宣言しました。さらに、政府は現場で働く労働者への激励補助金と財政保護を実施しました。

 政府はボロ米を収穫し、早期の洪水から守るために、複合収穫機やリッパーマシンを農家に提供しました。すでに水田の約70~80%が収穫されています。これはパンデミック時の食糧危機問題を克服するための良い取り組みであり、国民としてもとても良いニュースです。

 パンデミック後の経済危機と食糧危機に対処するために、首相は農業に目を向け、すべての人々に耕作可能な土地を隅々まで利用するよう促しました。操業停止の状況を考慮して、政府だけでなく、様々なNGO、政党、政治家、民間企業、個人が低所得者に対して食料を配布しています。国民から批判の声も上がりますが、アパレル産業は、適切な健康ガイドラインを維持することを条件に、2020年4月26日から生産を開始する許可を得ています。

新型コロナウイルスの影響

 他の国と同様、バングラデシュもまた、主要な送金源(アパレル産業や駐在員の収入)が打撃を受け、経済危機に陥っています。また国内でも、多くの人々が職を失い、再び貧困ラインを割り込んでしまうことを恐れています。

 このパンデミックでは、約4,000人の学生が授業に参加できなくなると予想されています。政府は高校生には録音された講義をテレビを通じて放送し、私立大学ではオンライン授業を実施していますが、ほとんどの公立大学での教育活動は完全に休止されています。

 また、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、バングラデシュの多くの開発プロジェクト(パドマ橋、メトロ鉄道など)も停止しています。

 2020年は「ムジブ・ボルショ」(国家の父の生誕100周年)と宣言され、バングラデシュの人々にとって祝賀の年になると期待されていました。しかし、新型コロナウイルスにより、政府はすべてのプログラムを中止しました。また「ポヘラ・ボイシャク」(ベンガルの新年)の祝賀会も全てキャンセルとなりました。ほとんどがイスラム教徒であるバングラデシュは、いまだラマダン(5月末)後の宗教的なお祭りを祝うことを期待しています。これらは、国民の精神的な健康だけでなく、社会にも多大なる影響を与えています。これを克服するために、人々は家族と時間を過ごし、栄養価値の高い食品を食べ、定期的に運動し、音楽を聴き、ヨガ、ガーデニング、読書などで時間を過ごすことを私はお勧めします。私は家にいて、家族との時間やソーシャルメディアを利用して、同僚、学生、友人、親戚と連絡を取り合い、運動をしたり、映画を見たり、科学雑誌を読んだり、高等教育を受ける機会を探したりしています。

 ほとんどの人は政府の指示に従おうとしていますが、1ヶ月以上自粛をしていると飽きてしまう人もいれば、マスメディアの忠告にも関わらず、外出する人もいます。人々は仕事とお金を求めて外出しなければいけないと主張します。しかし、政府当局は、国民に自宅で自粛するよう何度も呼びかけています。他の多くの国と同様に、政府は現在、適切な制限と、ソーシャルディスタンスを保ちながら規制を緩和し、緊急を要する産業を再開することを考えています。

 今回のパンデミックを受けて、バングラデシュの人々は、政府が医療分野や関連研究にもっと投資し、将来のパンデミックに備えるために、国全体で組織化された医療と監視システムを確立すべきだと考えています。

 最後に、このパンデミックから人々を救い、国を救い、世界を救うために戦っているすべての人々に敬意を表したいと思います。どんなに空が暗く見えても、太陽は必ず再び輝きます。

(2020年5月1日)


※本稿はさくらサイエンスプラン同窓生からの寄稿文を中国総合研究・さくらサイエンスセンターが日本語訳したものである。


●英文オリジナル

COVID-19, The Pandemic in Bangladesh

01 May 2020
Current Situation

Following the outbreak of COVID-19 in Hubei (China), the government and the concerned body, Institute of Epidemiology, Disease Control & Research (IEDCR) were observing the situation and following the WHO guidelines. With the declaration as emergency by the WHO, a large number of people including students returned home until the mid February from China without much screening which was the initial threat and matter of concern. From then on, the government was taking preparation to face the pandemic. When Covid 19 affected badly the European countries, especially Italy, huge number of Bangladeshi from Europe as well as from Middle East and neighbouring South-East Asian countries were back at home by March through different ports and received only thermal screening. Though the Govt. arranged institutional quarantine for the returnees, they refused to stay, claiming the lack of facilities. Then they escaped, despite the advice of home quarantine guidelines whereas some of them (returning later on) were pushed to institutional quarantine. Though the govt. enforced local administrations to ensure their home stay, the proper quarantine was not maintained. With these, Bangladesh entered the pandemic era.

IEDCR was in close observation and started testing as the only institute for Covid-19 cases around the beginning of February and the first case was reported on 08 March while the first death was on 21 March, 2020. Among the first three detected person, one was from Italy another two were in close contact of that person. The number of cases has been low until the mid of April and mostly in the capital city, Dhaka but by now patients have been detected in almost all districts of the country. IEDCR has declared health emergency since community transmission were evidenced and announced Narayanganj (adjacent to Dhaka) as the epicenter of the outbreak in the country.

To date, a total of 8,238 Covid-19 cases (out of 70,239 tests) and 170 death have been reported while 174 persons have been recovered. Since around 79 % patients are taking treatment from home (according to the Ministry of Health), the actual data of their recovery is not recorded and not included as well in the official recovery data. In 24 hours duration until now a highest of 641 cases and 15 deaths have been reported. Among the total cases 11 % are health workers and a big percentage is shared by the security forces and other frontline administrative workers, which is a matter of concern to the government.

With time, the number of test centers (at present near above 30) and tests have been increased. With the increased number of tests, the number of reported cases also increased. Now around 5000 tests daily are being performed, which is not still enough for such a densely populated country with around 16 crores (160 million) people. Due to limited number of tests people are not sure yet whether they are experiencing the peak of the pandemic or not. The govt. is trying to expand the number of test centers to ensure at least 10000 tests daily to find out the true picture of the pandemic in the country. The authority is expecting to have as much as 50000 cases with 1000 deaths at the end of the May statistically. Though there was shortage of PPE, masks and test kits at the beginning, now the govt. is announcing that enough number of them are in storage. Some field workers claimed not to get enough protective equipment and some health workers questioned about the quality of the supplied PPE in the mass media through different news channels. That is why the govt. is now strictly checking the quantity and quality of PPE as well as other necessary equipment.

Measures taken by the Government

A national committee was formed followed by the first case detection to make more awareness among the people across the country, observe the situation and figure out the necessary doings. Firstly, on 18 March, came an announcement to close all the educational institutions. Recently, the Prime Minister Sheikh Hasina has told in a press briefing that if the situation continues then educational institutions will have to consider opening in September. With the advancement of the pandemic, to control the spread of the infection and to maintain the social distancing, the govt. declared a general holiday from 26 March to 3 April and advised all the people to stay home and abide by the Covid-19 health regulations. Considering the state of spread, now it has been extended up to 5 May 2020. With the announcement, people got panicked and a large number of people migrated from Dhaka throughout the country to stay with family, thus increasing the risk of spreading the infection (later on the contact tracing revealed most of the detected patients in other districts were those who migrated from Dhaka and Narayanganj). To restrict the movement, the govt. immediately imposed restriction from 26 March on all kind of public transportations (road, air & water) except emergency like medical, food, drug etc. and any kind of public gatherings in home, open places or in any religious places and closed the borders too. People are being pushed to stay and pray at home by the law enforcement and only allowed outside to buy food and drugs. On 25 March shopping centers were also shut down. Many districts imposed lock down after having reported cases to limit the spread.

The govt. and the technical committee took some early measures to protect the frontline fighters and to provide proper healthcare facilities to the affected patients such as managing enough PPE, masks, test kits, dedicated hospitals, oxygen cylinders, ICU beds, ventilators, telemedicine services throughout the country and also arranging proper funeral for the deaths. But according to the public thinking, it is not enough for the big population. National and local administrations and security forces are working relentlessly to ensure social distancing in both urban and rural areas and market places and health workers are also giving their best efforts.

To face the economic crisis, the govt. has declared financial incentive packages of around one lakh crore (100,000 X10,000,000) BDT (around 3% of total GDP) targeting garment sector, different industries, low, medium and high scale farmers, and middle, low income and incomeless people. Moreover, the govt. declared incentives and financial protection to the frontline field workers.

The govt. has provided combined harvester, ripper machine to the farmers to harvest and save the Boro rice from early flood. Around 70-80% of the paddy fields has been harvested already. This is a good initiative and good news to overcome the food crisis issue during pandemic.

To fight the economic and food crisis after this pandemic, the Prime Minister has eyed on agriculture and urged all the people to utilize every inch of cultivable land. Considering the shutdown situation, the govt. as well as different NGOs, political parties, leaders, private companies, individuals are distributing food to the low income people. Despite criticism, to gear up the wheel, limited garments industries have got the permission to start production from 26 April 2020 with the condition of maintaining proper health guidelines.

Effect of Covid-19

Like all other countries, Bangladesh is also experiencing economic crisis since its major source of remittance (garments sector and expatriate income) has been hurt. Other than this, large number of people are in fear of losing job and going under the poverty line again.

Around 4 crores of students are expected to suffer from session irregularities in this pandemic. The govt. is telecasting recorded lectures for the students up to high school level and private universities are conducting online classes whereas academic activities of the most public universities are in complete shutdown.

The progress of many mega development projects (such as Padma Bridge, Metro rail etc.) of the country is halted.

The year 2020 was declared as "Mujib Borsho" (Birth Centenary of the Father of the nation) and was expected to be the year of celebration for the Bangladeshi people. But due to Covid-19 the govt. called off all the programmes. This year the people also missed the celebration of "Pohela Boishakh" (the Bengali New Year). As a country having mostly muslim population, now people are expecting to celebrate their biggest religious festival after the holy month of Ramadan (at the end of May) which is still in doubt. These things are affecting the mental health of the individual as well as the society. To overcome this, people are advised to get attached and spend quality time with the family members, to eat nutritious food, to exercise regularly, to listen to music, spend time in yoga, gardening, reading books etc. I am following the instructions of staying home, spending time with family members and on social media, keeping contacts with my colleagues, students, friends and relatives, taking hand on exercises, watching movies, reading scientific journals and searching for the opportunities to pursue my higher studies.

Most of the people are trying to follow the instructions but some are bored of this after more than one month staying at home and some people are trying to come out of home without any emergencies as shown in the mass media. People are claiming that they are out for searching of work and money. But the govt. and the authority have urged the people repeatedly to stay at home and stay safe. Like many other countries the govt. is now thinking of relaxing some movements to start up some emergency sectors while maintaining proper health regulations and social distancing.

With this pandemic, people of Bangladesh think that the govt. should invest more in health sectors and related research works, and establish an organized health care and surveillance system across the country to combat such pandemic in future.

Finally, I would like to salute to all of those who are fighting to save the people, save the nation as well as to save the world from this pandemic. No matter how dark the sky seems, the sun will always shine again.

Saifur Rahman
Participant of Sakura Science Project 2017