【07-006】日本の月探査機打ち上げの中国における報道
2007年9月19日〈JST北京事務所快報〉 File No.07-006
9月14日(金)10時31分、日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)種子島宇宙センターから、月周回探査機「かぐや」を搭載したH-IIAロケット13号機が打ち上げられた。このニュースは、中国でも素早く、しかもかなり大きく報道された。
まず、国営通信社の「新華社」は、打ち上げの直後、即座にニュースを配信した(日本と中国との間には時差が1時間あることに注意。中国の10:18は日本の11:18。「かぐや」は中国語では「月亮女神」と表現されている。)
「新華社」ホームページ2007年9月14日10:18アップ
「日本の『月亮女神』衛星、月の探査計画開始」
http://news.xinhuanet.com/newscenter/2007-09/14/content_6721853.htm
また、中央電視台(CCTV)のニュース専門チャンネルでは、この打ち上げの様子を生中継していたようで、下記の中央電視台のホームページから打ち上げ時の生中継の様子を見ることができる。画面の右上の「現場直播」は「生中継」の意味である。
(参考2)中央電視台(CCTV)ホームページ2007年9月14日9:52アップ
「動画:日本初の月探査衛星『月亮女神』打ち上げ」
http://news.cctv.com/science/20070914/102821.shtml
※このページの上の方の「視頻」というボタンをクリックするとCCTVの生放送時の動画を見ることができる(日中間の国際インターネット通信ではデータの転送速度が遅くなる場合があり、パソコン環境によっては必ずしもうまく動画が再生できないこともあるので、その点は御留意いただきたい)。上記の映像を見ると、日本の映像に中国語の同時通訳をかぶせているのがわかる。最後の方では、スタジオの解説陣の解説も見ることができる。
この「かぐや」打ち上げのニュースは、9月14日12時(日本時間13時)から放送された中央電視台第一チャンネル(総合チャンネル)の「新聞30分」(お昼のニュース)でも、国内ニュースに続く国際ニュースのトップで伝えられた。
さらに北京の大衆紙「新京報」の9月15日付け紙面では、1面にH-IIAロケット13号機の打ち上げの写真を大きく掲げ、紙面の中の国際面で2面にわたって「かぐや」による探査計画や日本の宇宙開発の経緯などについて詳しく解説している。
「日本の月の『女神』宇宙へ」
http://www.thebeijingnews.com/news/guoji/2007/09-15/014@021544.htm
この「新京報」の記事は、新華社による配信記事を使っているが、元になっている新華社の記事は以下のとおりである。
「『月亮女神』月探査への第一歩を歩み出す~さらに40日の関門となる道を進む必要がある~」
http://news.xinhuanet.com/newscenter/2007-09/15/content_6725031.htm
(参考5)「新華社」ホームページ2007年9月14日15:06アップ記事
「インタビュー:『かぐや』は科学と開発のためにやった~日本宇宙航空研究開発機構の岩田隆浩博士を訪ねて~」
http://news.xinhuanet.com/newscenter/2007-09/14/content_6723402.htm
中国も初めての月周回探査機「嫦娥1号」の打ち上げを今年秋に予定している(打ち上げ期日は未発表:「嫦娥=チャンア(日本語読みでは『ジョウガ』)」は、中国の伝説上の月に住むという仙女」)。上記のインタビュー記事では、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の岩田隆浩博士は「一般の人は競争をしているように見えるかもしれないが、科学者の立場からすると競争ではない。お互いを信頼するという基礎の上に立ってデータを交換することは非常によいことなのだ。」「中国が打ち上げを計画している『嫦娥』と『かぐや』は志を同じくする仲間であり、我々はこれらの探査機に対して大いに期待している。」と語っていることを紹介している。
これらの記事では、「かぐや」計画の詳細を解説しているほか、日本の科学者はいくつかの挫折を乗り越えて「かぐや」の計画を進めていると説明するなど、記事の内容は非常に客観的で、ある意味で好意的に日本の先進的な宇宙科学探査技術を紹介している。アメリカやロシア、インドの月探査計画なども紹介しており、「中国も負けてはいられない」というライバル意識が背景にあるような雰囲気も感じるが、ことさら競争心を煽るような記述もなく、むしろ、上記のようなJAXAの専門家の意見を紹介して、月探査計画については、各国がやるべきことはやった上で協力し合おう、という雰囲気になっている。こういった良い意味でのライバル意識は、悪いことではないと筆者は考えている。
いずれにしても、「かぐや」打ち上げに関する中国での報道の扱い方は、筆者の想像していたよりも大きなものだった。来るべき中国初の月探査機「嫦娥1号」の打ち上げへ向けて雰囲気を盛り上げる、という意味もあったと思うが、日本の宇宙開発計画に中国もこれだけ関心を持っている、ということは注目に値する。
科学技術を巡る国際的な関係には、競争する面と協力する面との双方が存在する。中国の宇宙開発というと、宇宙飛行士が軍人であることに見られるように、国威発揚としての位置付けに着目しがちであるが、今回の日本の月探査機「かぐや」に向けた中国の関心と報道振りを見ていて、科学探査などの面では、競争の面がある一方で、協力する部分も大いにあり得ることを感じた。今回の「かぐや」打ち上げに対する中国での報道ぶりは、今後の日中間の科学技術関係を考える上でも、一つの示唆を与えていたように思う。
※この文章の感想・意見に係る部分は、渡辺個人のものである。