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【07-011】知的財産権:カラオケ著作権の場合

2007年12月11日〈JST北京事務所快報〉 File No.07-011

 「カラオケ」は日本で発明され世界に広がった娯楽形態である。新しいタイプの「楽曲」の利用の仕方であるため、カラオケを利用する際の著作権使用料をどのようにして確定し、どのように徴収するか、は、技術的にもなかなか難しい問題をはらんでいる。今、中国では、どんな地方の街に行ってもカラオケ店がある(中国では「カラオケ」は「●拉OK」(●は「上」と「下」を上下にくっつけたような字)と書いたり「KTV」と呼んだりしている)。しかし、カラオケを利用する際の著作権使用料徴収のルールについては、統一されたものがまだ確立されていない。

2007年5月20日付けの北京の大衆紙「新京報」の報道によれば、国家著作権局は2006年11月、「カラオケ使用料は1部屋1日あたり12元(約150円)」というガイドラインを示したとのことである。

(参考1)「新京報」2007年5月20日付け記事
「著作権局長、カラオケ著作権料の中間搾取を否認」
http://news.thebeijingnews.com/0564/2007/05-20/015@263514.htm

 この記事では、国家著作権局のガイドラインについては、「1部屋1日あたり12元という金額は高すぎる」「使っても使わなくても一律12元徴収されるのはおかしい」などとかなりの反発があったようである。利用者やカラオケ店の中には、徴収された著作権料の一部が国家著作権局に流れているのではないか、などと勘ぐる人が出てきたため、上記の記事にあるように、著作権局長が「著作権料の中間搾取はしていない」といった発言をせざるをえなくなったのである。カラオケの著作権は、著作権者がいちいち監督するわけにもいかない上に、お客も店側も「できれば著作権料は支払いたくない」と思っているので、著作権料徴収について実効性のあるルールを作るのはなかなか難しい。

この問題について、12月 6日付けの「新京報」では、早ければ12月末にもカラオケ著作権料徴収の新しい基準が出される、と報道している。

(参考2)「新京報」2007年12月 6日付け記事
「カラオケ著作権に対して最も早ければ今月末に新しい基準が出される」
http://www.thebeijingnews.com/news/intime/2007/12-06/014@075442.htm

 この報道によれば、カラオケ著作権の管理については、文化部(中国の「部」は日本の中央官庁の「省」にあたる)市場発展センターの協力の下、中国音像協会、中国音楽著作権協会が各地方の娯楽事業協会と協議した結果、双方の協力により基本的な枠組みができつつあり、最も早ければ12月末にも新しいカラオケ著作権料徴収の基準が出される、とのことである。

この報道によれば、新しいカラオケ著作権料の具体的な徴収方法は以下のとおりである。

  • 歌った曲数の管理ができる「カラオケ内容管理サービス・システム」を導入している店については、1カラオケ・ボックスあたり毎日4元(最初の25曲分)を基準として1曲ごとに0.12元づつ加算した額を徴収する。

    例)あるカラオケ・ボックスで、ある日、100曲の歌が歌われたとすると、

    4+0.12×(100-25)=13元

    の著作権料が徴収されることになる。
  • 「カラオケ内容管理サービス・システム」を導入していない店に対しては、一律に1カラオケ・ボックスあたり毎日10元を徴収する。

 上記の方法はまだ決まったわけではないし、実際にこの徴収方法が導入されることになるのかどうかはわからないが、一定の合理性を持った徴収方法のように思われる。また、こういった著作権料徴収のルールが、中央政府関係省庁の調停の下、権利者側である中国音像協会・中国音楽著作権協会と利用者側である各地のカラオケ事業者の団体の間の話し合いによって決められる、ということになれば、中国における知的財産権管理に関しては、かなり画期的なことではないかと思われる。

 このように関係者の話し合いによりルール作りが行われた背景には、権利者と利用者の両方が中国国内にいる、というカラオケ著作権に独特の事情があったからである。中国のカラオケ店にはもちろん外国の曲のカラオケもあるが、やはり多くの客は中国語の歌を歌いたいと思うので、中国国内の楽曲が使われるケースが圧倒的に多い。従って、カラオケの著作権使用料の徴収について最も深刻に考えていたのは、中国国内の権利者だったのである。

 よく中国は「ニセモノ天国」などと呼ばれるため、中国は知的財産権には無頓着な国である、とのイメージを持っている人が多いと思う。しかし、それは現時点では、特許権や有名ブランドの商標権など知的財産権を持つ権利者の多くが外国人であるため、中国国内では利用者側の理屈だけが横行し、結果的に「知的財産権に対して無頓着」の状態が改善されてこなかっただけにすぎない。カラオケ著作権のように、権利者が中国内部にいれば、中国の内部から知的財産権を保護すべし、という強い声が必然的に沸き上がるようになるのである。

 「中国は知的財産権に無頓着な国である」というイメージを払拭するためには、単に取り締まりを強化するだけではなく、構造的な問題として、中国国内に知的財産権の権利者が増えてくることが必要である。今後、中国の経済や科学技術の発展に伴い、中国国内に特許権等の知的財産権を持つ人がどんどん増えてくれば、「ニセモノ天国」という汚名も自然に解消されることになるだろう。中国におけるカラオケ著作権を巡る動きを見ていて、そういう期待を抱いた。その期待ができるだけ早い時期に実現することを望みたいと思う。

(注:タイトルの「快報」は中国語では「新聞号外」「速報」の意味)
(JST北京事務所長 渡辺格 記)
※この文章の感想・意見に係る部分は、渡辺個人のものである。