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【19-002】米中間の科学面における摩擦に関して

JST北京事務所 2019年5月23日

 米国商務省が、5月15日、安全保障上の懸念があるとして輸出管理規則(EAR: Export Administration Regulations)のEL(Entity List 米国の安全保障・外交政策上の利益に反する者等のリスト)に中国の華為技術(ファーウェイ)を追加したことが報じられている。

 今後も、米国国防権限法2019(NDAA 2019: National Defense Authorization Act for Fiscal Year 2019)に挿入される形で規定された輸出管理改革法(ECRA: Export Control Reform Act)に基づき、同法の「新興・基盤技術」(Emerging and Foundational Technologies)の特定や規制について、パブリックコメント等を経た上で、米国から国際的に提案が行われる見通し。

 一方、米中間の摩擦が科学の世界にも及んでいることに関して、Science やNatureが4月中下旬に取り上げている。

1.Science やNatureの記事

(1)NIHの対応

 テキサス州立大学 MDアンダーソンがんセンター(University of Texas MD Anderson Cancer Center)は、米国国立衛生研究所(NIH)からの指摘を受け、3人の研究者との雇用契約を打ち切ることとしたという。指摘は、ピアレビューにおける守秘義務、利益相反、外国との結びつきについてのルール違反に関するものであった。NIHはさらに2人について指摘しており、報道の時点で、うち1名には違反はあったものの、雇用打ち切りまでには至らず、もう1名は調査中としている。これら5人の研究者は、全員アジア人で少なくとも3人は、ethnically Chinese(華僑もしくは華人)であるという。4人が申請書の情報を共有し、1名が中国の研究者に申請書を送ったと報じられている。

 昨夏、NIHはファンドしている10,000以上の米国の機関にレターを送り、"いくつかの外国機関"が、NIHのファンディング、研究、ピアレビューに干渉しているとの懸念を伝えた。4月の早い時点で、NIHは上院の委員会に対して、55の米国の大学が違反を見つけており、違反した外国研究者への大学の措置を同月内に発表するとしている。

(2)エネルギー省の対応

 米国エネルギー省は、2月に、職員や契約研究者、補助金・寄付金受給者に対して、"sensitive"な国の政府の人材確保政策への参加を禁じた。禁止を伝えるメモには国名の言及はなかったが、報道中では、2008年以来、中国の千人計画が、中国の技術者、研究者の帰国を促し、彼らが高待遇で迎えられていること、両国の研究機関との関係を維持していることに言及している。

(3)米国入国ビザの発給に関して

 一方、中国の研究者が、米国の会議に出席しようとする際にビザ発給の遅れが見られるという。24人が申請して6人しかビザが認められなかった会議の例や国際的にも著名な研究者が、自身の受賞のための米国科学振興協会(AAAS)の会議を含む2つの会議に出席できなかった例が紹介されている。以前は1か月以内に1年間のマルチのビザを取得できていたのが、3月に彼が得たのは、3か月に一度きりの米国入国を認めるビザだったという。

 制度的にも、昨年6月に米国国務省が導入した施策により、ロボティクス、航空、ハイテク製造を学ぼうとする中国人大学院生には5年のビザが認められなくなり、1年のビザのみになったとのこと。

2.中国における報道

 Natureの記事が掲載された直後に、中国の環球時報(Global Times)は、Natureの記事のことを伝えながら、さらに、いくつかの米国内の報道等を紹介している。

 Voice of Americaの報道では、NIHの調査は、中国研究者を重点調査対象としているが、中国に限定した調査ではないとしている。また、報じられた55の機関が見つけた違反について、外国機関から研究費を受けていることを報告していなかったことや、所属する米国の機関に属する知的財産権の技術移転に関して、中国やその他の国の機関との間のものであったとしている。ルール違反を疑われた多くの研究者が職を去ることになるだろうとのNIH長官の声を伝えながら、Voice of Americaが、在米華人研究者が追加的な調査が行われることを心配していると伝えたことも紹介している。このほか、The New York Timesも30人の中国人研究者のビザの取消や再審査の問題を報じたと伝えた。このニューヨーク・タイムズの記事は、主として社会科学の研究者について報じているようである。

3.それぞれの記事の結び

 Natureの記事では、これらの状況について、多くの中国人研究者は公に語ろうとはしないと伝えながら、天津大学のJay Siegelの声として「10年前、20年前に比べ、米国依存は少なくなっているとして、学生や研究者がヨーロッパとの結びつきを強めようとしている」との意見を紹介した。ビザの問題が今後も続くようなら、中国の研究者は、ヨーロッパに行くだろう、との見方である。そしてこの記事では「彼らは、彼らを歓迎するところに行くだろう」と結んでいる。

 環球時報の記事では、中国国際問題研究院の研究者の声として、科学の分野での摩擦が、両国にとっても損失であると伝えている。例として、人工知能の領域におけるデータの重要性を挙げながら、中国は他に比べられない量のデータを有し、米国はデータの多様性において突出しているとし、現下の状況では、両国がこの方面で深く協力することが難しくなっていると指摘している。

 なお、Natureが昨年秋にNature Indexにおいて、都市・都市圏を単位とするScience Citiesの結びつき(City Links)を調べたデータで、世界のトップ25の組合せのうち、唯一、国を越えた組合せだったのが、北京とニューヨークであった。(下図のC:https://www.nature.com/articles/d41586-018-07207-1)

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関連サイト

米国国防権限法2019(NDAA 2019) https://www.congress.gov/115/bills/hr5515/BILLS-115hr5515enr.pdf

Andrew Silver, Jeff Tollefson & Elizabeth Gibney. "How US-China political tensions are affecting science". nature. 2019-4-18 https://www.nature.com/articles/d41586-019-01270-y

Mara Hvistendahl. "Exclusive: Major U.S. cancer center ousts 'Asian' researchers after NIH flags their foreign ties". Science. 2019-4-19. https://www.sciencemag.org/news/2019/04/exclusive-major-us-cancer-center-ousts-asian-researchers-after-nih-flags-their-foreign

Mara Hvistendahl. "After ousters, MD Anderson officials try to calm fears of racial profiling". Science. 2019-4-23. https://www.sciencemag.org/news/2019/04/after-firings-md-anderson-officials-try-calm-fears-racial-profiling

《美又制造"学术交流障碍",在美华人学者未来一两周饭碗要丢?》环球时报. 2019-04-20. http://world.huanqiu.com/exclusive/2019-04/14756341.html?agt=15422

Jane Perlez. "F.B.I. Bars Some China Scholars From Visiting U.S. Over Spying Fears". The New York Times. 2019-4-14. https://www.nytimes.com/2019/04/14/world/asia/china-academics-fbi-visa-bans.html