【19-004】中国の科学研究:研究倫理の現状認識
JST北京事務所 2019年6月19日
中国の科学研究における研究倫理について、中国科学院院士の楊衛氏が以下のように問題を提起し、最近の状況を説明しながら自身の考えを述べた。科技日報が伝えた。
研究論文の信頼性は改善されているが、研究倫理は未だ懸念がある―これが中国の研究の現状に対する認識である。
中国における研究不正等は14種類の行為(剽窃、偽造、改ざん、重複発表、署名不当、利益相反、コネ利用、学術独裁、引用不当、倫理違反等)があり、第14種は倫理違反である。中でも倫理違反はこれまで重要視されていなかったところであり、昨年、賀建奎氏による赤ん坊へのゲノム編集事件は全世界の注目を集めたところである。
近年、アカデミアは研究不正と戦っており、告発制度も導入されている。告発制度導入により、中には競争相手を攻撃するタイプの告発もあったが、大部分は正当な告発であり、不正行為の抑制に大きな効果を発揮した。
また、以前の知的財産権法では翻訳権は著者に帰属していたため、同一の論文を複数の言語で掲載するようなことも行われていたが、2005年以降、大手出版社が中国語と英語の二重掲載を厳しく制限するようになり、類似性の高い投稿について対処するようになった。
2008年に発生した実験データ盗用事件の発覚を受け、中国科学技術協会により毎年人民大会堂と各学校で大学院の新入生に対する研究倫理教育が行われるようになった。
Retraction Watchのサイトによると、2010年に中国本土からの撤回数がピークに達し、この年、世界中で撤回された論文数は5,040編で、そのうち中国のものは4,117編を占めた。その後、各方面の努力によりこの数字は急減し、2018年に全世界で撤回された論文268編のうち中国の論文は76編まで減少した。現在の中国の水準は、世界平均の1.5倍から1.6倍となっている。
エルゼビアの協力により得たデータによれば、日本でもかつて1998年に論文撤回のピークがあり、その後反落した。ドイツにおいても1990年代、東西ドイツが統一された頃、西ドイツの基準で東ドイツの論文を評価したことにより、しばらく非常に深刻な研究不正問題が発生し、大量の論文撤回が発生した。当時ドイツ研究振興協会は大変厳しい措置を講じたことにより、現在は比較的良好であり、ドイツの事例は非常に参考になる。
ドイツの学者によれば、論文撤回や重複投稿については厳しく監視され、比較的統制が簡単であるが、中国の研究倫理については依然懸念されるとのことである。
中国の研究倫理に関する研究はまだ貧弱であるが、その研究分野は非常に広く、医学・生命科学、インターネット等に関係している。
研究倫理問題を解決するために、中国科学院や中国工程院、基金委員会を束ねる科学倫理委員会を設立の上、研究費を助成し、関連学会の倫理基準を制定するよう提案する次第である。
(楊衛:中国科学院院士、国家自然科学基金委員会前主任、浙江大学前学長)
関連リンク
《中国科研:诚信好转 伦理堪忧》科技日報2019年5月9日付
http://digitalpaper.stdaily.com/http_www.kjrb.com/kjrb/html/2019-05/10/content_420911.htm?div=-1