北京便り
トップ  > コラム&リポート 北京便り >  File No.20-021

【20-021】武漢はどういうところか

JST北京事務所 2020年3月25日

 3月18日、湖北省、そして武漢市の新型コロナウイルスの新規確定診断者がゼロを記録した。新規疑似症例数もゼロだった。ついにこの日がやってきた。今後もゼロの日が増えていくことを願っている。そしてなお治療中の武漢の、そして世界の患者の皆さんの一日も早い御快復を祈るものである。

 ウイルスとの厳しい戦いのための対策が続けられてきた湖北省の省都武漢市は、どのようなところだろうか。

 みなさんが、中国の都市でよく耳にすることがあるのは、北京、上海、そして、最近は広州、深圳だろうか。武漢は、成都、重慶、天津、南京、杭州などと様々な観点やランキングにおいて、最初に挙げた4つの大都市に次ぐ第5の都市を競い合っている都市である。

 少し前のデータになるが、『中国国家地理』誌2019年1月号の湖北特集号に掲載された情報をいくつか紹介してみよう。

中国都市総合実力ランキング第5位(2018年)

 経済日報と華頓(Warton)経済研究院が共同で発表した2018年中国都市総合実力ランキングで第5位に位置づけられている。このランキングは、GDP、教育科学研究医療、交通、都市建設、総合経済競争力を考慮したものだ。これらの点においていずれも上位にあり、目立った短所がないのが武漢の特徴だとされている。

(※同誌p73)

 特に科学技術・イノベーションの面で言えば、武漢は若い世代を惹きつける魅力のある街であり、行政もそれを強く打ち出して、重点を置いている。武漢は、"大学の城(都市)"、"青年の城"、"夢想の城"、"創新(イノベーション)の城"と呼ばれている。

(※同誌p39)

大学の数 中国第2位

・1位:北京92校、2位:武漢84校、3位:広州83校、4位:重慶65校、5位:上海64校(軍事院校を含まず)

・世界の一流大学・学科づくりを目指す中国の「双一流」政策において、武漢大学、華中科技大学、華中農業大学、中国地質大学(武漢校)、華中師範大学、武漢理工大学、中南財経政法大学から総計29学科が指定されている。

(※同誌p41,p38)

大学生の人数 中国および世界第1位

《中国》

1位:武漢...約120万人、2位:広州...約113万人、3位:北京...約89万人、4位:鄭州...約87万人(58校(大学数7位))、5位:西安...約82万人(63校(大学数6位))

《世界》

東京...約74万人、ニューヨーク...約59万人、ロンドン...約37万人。

・武漢市の大学生数は、同市の常住人口の11%に相当。

(※同誌p38[1],p41)

大学卒業生の就職に魅力的な街 

・武漢市政府は、2017年に"百万人才(大学生)留漢"政策を打ち出し、これらの大学生の武漢での創業と就職の促進に力を入れている[2]。2017年、中南民族大学の卒業生6,828人の中で武漢で就職する人数は2,059人。武漢理工大学の卒業生のうち武漢で就職する人数は4,065人で、同校の卒業生で就職する者の中の39.36%を占める。華中科技大学の卒業生は1.2万人を超えるが、就職する者は6,268人、うち2,361人が武漢で就職する。武漢就職者は就職者の37.6%を占め、前年度比8%増加した。

・1995年以降に生まれた大学卒業生の履歴書配達量では、北京、上海に次ぎ、深圳、南京、広州を上回り、全国3位となっている。

・2017年の大学卒業生の武漢市での創業・就職は30.1万人で、これまでの最高を記録した。

(※同誌p38,p41,p85および脚注2)

大都会の中では、住居を買いやすく、部屋を借りやすい武漢

・住居の価格を当該地域の家庭の年収で割った場合、深圳は37.3年、北京は36.1年、上海は30.3年、広州は21.3年。武漢は15.9年。中国の都市の中では14位というほどよい順位となる(2018年のデータ。住居は110平米で計算)。

・家賃が月収に占める割合について計算した2018年のデータでは、北京は60.1%、深圳は57.7%、上海は47.6%、広州は36.9%。武漢は29.8%、中国の都市の中で21位。これもほどよい順位となる。

・前述の"百万人才留漢"政策では、50万平米の住居を整備し、5年以内に20万人分の賃貸需要に対応できるようにすることを打ち出している。また、市価より2割安い住居も提供されている。

(※同誌p42~43および脚注2)

創新(イノベーション)と創業の拠点:光谷

・武漢のサイエンスパーク(武漢東湖新技術開発区)は光谷(オプティカルバレー)と呼ばれ、国家光電子産業基地として,2001年にレーザーの研究開発から始まった。ちなみに中国のシリコンバレーは、中国語で書けば、"硅谷"となる。光谷は最近では、電子情報技術産業のほか、生物医薬産業、ハイテク設備製造産業の基地としても発展している。インターネット企業や金融業も惹きつけている。産業人口は、2005年の14万人から2015年に53万人、2018年に78万人に発展している。光谷で生活する168万人の7割近くが35歳以下という若いエリアである。

・光谷では、毎日70社の企業が誕生し、70件の"専利"(中国の特許・実用新案)申請が行われているという。

・武漢は、「中国チャンスの城ランキング」で第6位(1~5位は北京、上海、深圳、広州、杭州)。(中国発展研究基金会、普華永道(PwC)社による選定)

・「帰国創業者が選択する都市ランキング」で第5位(1~4位は北京、上海、成都、広州)。(全球化智庫、智連招聘社による選定)

(※同誌p45~47)

ユニコーン企業数 中国第5位

・評価額10億米ドル以上、創業後の歴史が浅いユニコーン企業は5社で、北京、上海、杭州、深圳の上位4市とは差が大きい(4位の深圳は14社)ものの第5位となる。(2017年)

・武漢のユニコーンとしては、2017年当時、斗魚直播(ゲーム実況配信サイト)、安翰科技(カプセル胃カメラ)、卷皮網(ECコマースプラットフォーム)、斑馬快跑(ネット配車・運輸)、尚徳機構(オンライン教育)が知られていた。2016年の段階では斗魚直播と卷皮網の2社であり、2018年に尚德機構が米国に上場し、尚徳機構はユニコーンを卒業したが、新たに薬幇忙(医薬品ネット販売)を運営する小薬薬が加わり5社となった(2018年の都市のランキングでは7位)。これらはいずれも上述の光谷の企業である[3]

(※同誌p86および脚注3)

科学研究の都市 中国第4位、世界第19位

・2018年のNature Indexにおいて、科学研究の世界のトップ50都市(Science Cities)に中国は10都市が入選。武漢は、世界第19位、中国第4位。

(世界1位は北京、2位はニューヨーク圏、東京圏は6位、京阪神が13位。中国内の2位、3位は、上海と南京。)

(※同誌p84-85)

参考:Nature index 2018 Science Cities Top 200 science cities

 武漢は、三国志とゆかりのある都市で、三国志に関連した史跡も多い。あの赤壁の戦いの場所とされる赤壁市も近い。近代では、辛亥革命の口火を切った場所としても知られている。また、市内の湖北省博物館には、日本人にもよく知られる越王勾践の剣が所蔵されている。このほか、「江南三大名楼」のひとつと謳われる黄鶴楼、中国の都市内の湖としては最大級の東湖、武漢大学・東湖磨山桜園の桜が有名である。この時期、ちょうど武漢は桜がきれいである。現在、中国に出かけてもすぐに自由に動き回ることはできないが、「人民日報」アプリをダウンロードし、このアプリから《首个AI移动直播―带你漫步武汉东湖樱花园(初のAI移動中継―あなたと武漢東湖桜園を散歩)》のコーナーにアクセスすれば、日本国内からであっても武漢の桜をリアルタイムで見ることができる。みなさんも日本の桜とともに武漢の桜も楽しまれてはいかがだろうか。


[1]《中国国家地理》2019年1月号(p38の一部を紹介)。

[2]百万大学生留汉创业就业信息服务平台《武汉发布百万大学生留汉政策》

なお、この記事中では、武漢の大学、学生数について、各種大学89校、学生130万人としている。

[3]新浪湖北《武汉"独角兽"企业数量达5家 全国排名第七》

及び各社のサイトによる。