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【20-031】中国研究チーム、新型コロナウイルスに19種類の新しい病原性変異発生を発見

JST北京事務所 2020年5月22日

 中国工程院の李蘭娟院士が率いる研究チームはこのほど、プレプリントサーバ(査読前論文のプラットフォーム)medRxivで論文原稿を公開し、新型コロナウイルスが病原性へ切実に影響を与える突然変異を起こし、これらの変異を薬物やワクチンの開発へ反映すべきと指摘した。科学網が伝えた。以下にその概要をまとめる。

 同研究チームは、1月22日~2月2日の間に浙江大学附属病院で治療を受けた生後4カ月~71才までの11人の新型コロナウイルス感染者から採取・分離したウイルス株に対して超高度な配列解析を実施し、そして、GISAIDデータベースにある1,111のゲノム配列との比較を行った結果、この11人から分離されたウイルスに33種類の突然変異があり、うち19種類は新発見の変異であったという。研究者らはこの発見に基づいて、たった11人から分離したウイルスだけでも、豊富な変異多様性を観察できたのは、新型コロナウイルスの多様性を示すことであり、これまで評価が非常に低くされてきていた可能性があると論文で述べた。

 また、これらの突然変異がウイルスの病原性に与える影響を評価するために、体外感染試験も実施された。研究者らは、ヒト細胞と類似度の高いACE2受容体を持つVero-E6細胞系を用いて、同11人の感染者から採取したウイルスをそれぞれVero-E6細胞に感染させた。4時間、8時間、24時間ごとに細胞を採取してウイルス量を検測した結果から、8時間が経った後、6号、7号、9号、10号と11号感染者から採取したウイルスに感染させた実験例に顕著なウイルス量増加が観察できた。24時間が経った後、2号と7号感染者からのウイルスを除き、他のすべての実験例で顕著なウイルス量の増加が現れ、そして10号と11号感染者のウイルスの増加が他よりはるかに速いことも分かった。ウイルスの増殖力では、最も強い10号感染者のウイルスは最も弱い2号感染者のウイルスより24時間で増加量が270倍もの差があると指摘された。

 ウイルス量と病原性の相関性について、48時間後と72時間後の測定結果から、病変効果と病死率がウイルス量に正比例すると分かったが、11号感染者から採取したウイルスにトリヌクレオチドの突然変異が現れ、この変異はその後の実験において強く影響し、ウイルス株の増殖率と病原性の大幅な増強が見られたという。

 このほか、最近、「便から生きたウイルスを分離できていない」との報道があったものの、同研究に導入されたウイルスのうちの3つが、感染者の便のサンプルから分離したものであることから、新型コロナウイルスは便でも増殖が可能であることが示された。

注:同論文に言及された11人の感染者は、論文作成の時点で全員治癒して退院したという。