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【20-034】デジタル人民元・ブロックチェーンの活用状況について

JST北京事務所 2020年6月05日

1. 概要

 ここ数年、日本においても仮想通貨や電子マネーの取引が急速に普及し、日常生活における決済手段として認知されつつある。また中国においても、Alipay(アリババ)やWeChatPay(テンセント)が普及し、日常生活において、ほぼ紙幣を用いることがなくなっていることについては、日本においても広く伝わっているところである。

 4月13日に中国工業・情報化部(省に相当)により、ブロックチェーン技術の標準化を目的とした「国家ブロックチェーン・分散型台帳技術標準化技術委員会[1]」の設立が発表された。

 さらに同日4月14日には、中国の中央銀行である中国人民銀行による中央銀行デジタル通貨(デジタル通貨電子決済(Digital Currency Electronic Payment「以下"DCEP"」)のスマホアプリがテストリリースされた。

 先行して深圳、蘇州、雄安新区、成都、将来の冬季オリンピック会場で試験的に運用を行い、その機能を改善・最適化するとのことである。特に蘇州市では蘇州市及び各区各区別機構と事業機構の工商銀行、農業銀行、建設銀行、中国銀行を通じて給料を支払う社員に向けて、4月中にDCEPデジタル財布を整備し、5月から給料中の50%の交通手当をDCEPの形で支給すると報道された。

 DCEPの概要及び中国におけるブロックチェーンの活用状況について紹介したい。

2.デジタル人民元とは

(1)使用者からの視点

①中央銀行が発行するデジタル人民元通貨(DCEP)は法定通貨である。このため紙幣と同様に強制通用力があり、中国の機関や個人はDCEPの受け取りを拒否できない。(電子マネーは、強制通用力を有しない)

②機能は紙幣とまったく同じであるが、デジタルであるため、携帯電話にデジタルウォレット(アプリ)をダウンロードして使用する。
使用方法は、「スキャンコード」、「タッチ」、「送金」、「支払い」(電子マネーと同様)

③DCEPそのものに強制通用力があるため、銀行口座に関連付ける必要がない。互いの携帯電話にDCEPアプリがインストールされ、起動している限り、日本でも交通系ICカード等で使用されているNFC等の近距離通信技術を用いた携帯電話の接近によるPoint-to-Point(オフライン)送金を実現できる上、オンラインでの送金も可能。(オフライン決済の強制通用力とオンライン決済の利便性を兼備)
(一般的に電子マネーは、オンラインで銀行口座と連動させることにより決済を実現しているため、オフラインでの入出金が不可能)

(2)DCEPの仕組み

①以下の特徴を有するブロックチェーン技術である分散型トランザクション処理システムを活用している。これにより中国人民銀行は、ブロックチェーン(データ)の分散運用とDCEPの集中管理を両立することが可能となる。
・データの集中管理が不要
・発信者のトレースが可能
・改ざんが困難

【ブロックチェーン】
「ハッシュ(1つ前の取引データ)」及び「トランザクション(当該取引データ)」を「ブロック」として鎖(チェーン)のように連結していくことによりデータを保管するデータベースである。データベースは複数に分散管理することが可能であり、「ノード」と呼ばれる。ブロックの改ざんためには、それ以降のブロックをすべて廃棄した上、各ブロックの再計算が必要なため、現実的に不可能でありデータの管理者が不要という特徴を持つ。

②DCEPは、二階層で発行される。このため、中国人民銀行はDCEPの現行技術に制約されることなく、今後のDCEPの市場流通、将来の技術革新及びビジネスモデルの革新に対応する余地を持つことが可能となる。
・中国人民銀行は直接DCEPを発行しない。
・商業銀行が中国人民銀行にDCEP口座を開設し、準備金の100%を支払った上で、DCEPを発行。
・個人及び企業は、商業銀行が提供するデジタルウォレット(財布)アプリを通じてDCEPを得る。
現在、中国農業銀行がデジタルウォレットアプリを試供中である(現在、限定された者のみダウンロードが可能)[2]

 中国人民銀行の元総裁であり、中国フィンテック協会ブロックチェーン研究グループ長であり、清華経営管理デジタル金融資産研究センター諮問委員である李礼輝は、「一般的に中央銀行のデジタル通貨は技術的に中立であり、単一の技術に依存するべきではない。競争原理を活用して異なる研究機関による技術競争を通じ、デジタル通貨システムの最適化を図るべき」と述べた。

(3)DCEP検討の経緯

 中国では、2014年から中国人民銀行によりデジタル通貨に関する調査研究が正式に行われ、着実に成果を挙げており、現在パイロットテストを実行している。[3]

・2014年:中国人民銀行内に専門チーム設立し、デジタル通貨に関する調査を正式に開始。

・2017年:「中国人民銀行デジタル通貨研究所」を北京に設立。デジタル通貨技術及び応用研究に着手

・2018年:「深圳金融技術有限公司」、「南京フィンテック研究イノベーションセンター」、「中国人民銀行デジタル通貨研究所(南京)応用モデル基地」が設立。
政府により、デジタル通貨の研究とモバイル決済のパイロットテストを実施に関する文書を発行。以降、全国においてデジタル通貨の研究が展開。[4]

・2019年:国務院が中国人民銀行によるデジタル通貨の研究開発を正式に承認。

・2020年4月:深圳、蘇州、西安新区、成都及び(将来の冬季オリンピック会場を含む)でパイロットテストを開始。

3.中国におけるブロックチェーンの活用状況

(1)ブロックチェーンサービスプラットフォーム

 ブロックチェーンを利用したサービスを単独で開発し運用するためには、多額の費用が必要となる。そのため、2018年8月、国家情報センターと北京大学、大連理工大学により「ブロックチェーン技術応用実験室」が設立された。各種サービスへの活用が可能となる共通のブロックチェーンサービスプラットフォームの研究開発が進められ、"BSN(Block-chain-based Service Network)[5]"として4月に商用運用された。[6]

 BSNは、低コストでブロックチェーンアプリケーションを提供するための開発・運用・保守・監視のためのプラットフォームであり、単独でブロックチェーンアプリケーションを運用するために年間最低10万元(約155万円)を要するところ、BSNを活用することにより、年間最低3千元(約45,000円)程度の費用で運用することが可能となる。

 現在、全省40都市にノード(ネットワーク上の結節点)が確立されており、今後100都市にノードが増大することが見込まれている。また海外の都市へのノード展開も行われ、日本では東京にノードが設置されている。(Google Cloudがプロバイダー)

 BSNは、金融、不動産、サプライチェーン、行政等、広範囲で活用されることが見込まれている。

 例として、中国では税務処理に使用する領収書は、発票という政府指定の共通様式で発行する必要がある。この発票にもブロックチェーンの使用が広がりつつあり、北京市においても、3月から発票に「ハッシュ」及び「トランザクション」が印刷されている。これにより納税者及び税務当局双方の事務負担が軽減されることが見込まれる。[7]

以上


1. 工业和信息化部科技司2020年4月13日 "全国区块链和分布式记账技术标准化技术委员会组建公示"

2. 99安卓游戏 "央行数字货币dcep 官方版"

3. 中国知识产权资讯网5月14日 "传闻中的法定数字货币真的来了!"

4. 火星财经4月28日 "DCEP发行的意义与影响"

5. 火星财经 1月7日 ""国家队联盟链"区块链服务网络4月将正式商用,城市节点或达百个"

6. 区块链服务网络

7. 国家税务总局北京市税务局关于推行区块链电子普通发票有关事项的公告 3月4日