【20-035】《新型コロナウイルス》米中企業が連携して開発―抗体医薬品の臨床試験開始
JST北京事務所 2020年6月11日
6月8日、中国企業の上海君実生物医薬科技(以下、君実生物)は、中国では初めての新型コロナウイルス感染症の抗体医薬品(JS016)の第1期臨床試験に入ったと発表しました[1]。健康な人を対象としたCOVID-19の抗体医薬品の臨床試験としては世界初とのことです。君実生物は、米国イーライリリー・アンド・カンパニー社(以下、イーライリリー社)との間で、中国での臨床を君実生物が進め、中国以外の世界での臨床についてイーライリリー社が進める形で共同開発しているとのことです。
この臨床にいたる経緯は、以下のとおりです。
新型コロナウイルスの治療に関して、中国では回復した患者の血漿中の抗体を用いた治療法が採用されました[2]。この治療法が有効であったことから抗体医薬品の産業化を図るため、中国政府科学技術部は、抗体医薬品の研究開発の公募を開始しました[3]。
・公募期間は、4月28日~5月8日まで。
・3か月以内に抗体の評価を完成し、一年以内の臨床試験申請を目標にする。
・臨床試験申請に必要な薬学研究、非臨床研究(一般薬理学、薬の効果、薬の代謝と安全性評価を含む)を完成し、規範的な臨床試験計画と診療方策を作成するもの。
5月14日の報道では、上海市科学技術委員会が科学技術部と連絡を取り、研究開発において君実生物のほか三優生物医薬等の企業グループと連携して進めることを相談したとのことです。この時点で臨床前研究が完成していることやイーライリリー社とのグローバルな連携が進んでいることが言及されています[4]。
中国の抗体に関する論文としては、5月13日のScience誌掲載論文"A noncompeting pair of human neutralizing antibodies block COVID-19 virus binding to its receptor ACE2"[5](首都医科大学、中国科学院微生物研究所、同天津工業生物技術研究所の研究者がCorresponding authorになっている。)では、B38とH4抗体の動物実験の結果が紹介され、中国の報道では、その薬品としての可能性、複数の抗体を用いたカクテル療法の可能性などを説明したものがありました[6]。
5月26日のNatureに"A human neutralizing antibody targets the receptor binding site of SARS-CoV-2" [7](人民解放軍総医院第五医学センター、中国科学院微生物研究所、同武漢ウイルス研究所の研究者がCorresponding authorになっている[8]。)というCA1 と CB6に注目したサルを用いた動物実験の論文が掲載されました。中国では6月6日に、別のメディアで8日に発表される記事を先取りする形で報道がありました[9]。その中では、同論文の研究者が、既に中国及び米国に臨床試験の申請がされているということを語っていました。今回の君実生物とイーライリリー社による申請だったようです。
1. Junshi Biosciences Announces Dosing of First Healthy Volunteer in Phase I Clinical Study of SARS-CoV-2 Neutralizing Antibody JS016 in China
君实生物新冠中和抗体启动临床试验
3. 科技部关于发布新型冠状病毒中和抗体产品研发应急项目申报指南的通知
新型冠状病毒中和抗体产品研发应急项目申报指南
6 中国学者鉴定出阻止新冠病毒入侵的中和抗体
解药|多个中国团队发现抗新冠中和抗体 或尝试鸡尾酒疗法
7. "A human neutralizing antibody targets the receptor binding site of SARS-CoV-2"
8. 東大との共同研究等の活動で日本の外務大臣表彰を受けた研究者が2つの論文の共通のCorresponding authorになっている。