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【20-040】中国、無中継で1,000㎞クラスの量子機密通信を実現

JST北京事務所 2020年7月10日

 中国科学技術大学をはじめとした中国内外の大学・機関の研究チーム等は、量子科学実験衛星「墨子号」を介し1,000キロメートルクラスの距離での量子もつれに基づく暗号鍵配送(QKD)を世界で初めて実現した。同成果によって、従来の地上無中継量子機密通信の空間を1桁程上げられるほか、衛星が稼働できない過酷な環境でも安全な量子通信を可能にするという。成果は6月15日付で「ネイチャー」誌オンライン版で発表された。科技日報が伝えた。以下にその概要をまとめる。

 中国科学技術大学の潘建偉教授によれば、既存の技術では、「墨子号」等の量子衛星を介する中継によって、自由空間において7,600キロの大陸間通信までできているが、中継ノードの安全は人間で確保しなければならない。長距離の安全量子通信を実現する最適な方法は、量子中継ともつれに基づく暗号鍵配分を結合することであり、衛星を量子もつれ光子源とし、自由区間パスを通じて遠く離れた両地点にもつれを配分することは、既存技術の条件下でもつれに基づく量子機密通信の実現を可能にさせるという。

 これに基づき、中国科学技術大学は中国内外の研究チームと提携して、新疆ウルムチにある南山ステーションと1,120㎞離れる青海省にある徳令哈ステーションを実験地に設定し、「墨子号」衛星が上空通過時に、2対(ペア)/秒の速度で両地点の間で量子もつれを作成し、そして0.12ビット/秒のビットレートで暗号鍵を生成させることとなった。「実験において生成した暗号鍵は、中継の信頼性に左右されることなく、現実的な安全性を確保できる」と潘教授は紹介した。さらに、最新の量子もつれ源技術を導入すれば、将来衛星で1秒に10億のもつれ光子を生成でき、最終的に暗号鍵のビットレートを1秒に数十ビットもしくは一回の上空通過に数万ビットのレベルにまで上げられると語った。

 また潘教授によれば、同成果を基に生まれた衛星・地上リンク収集技術によって、量子衛星の搭載機器を現在の数百kgから数十kgに減らせ、同時に地上受信システムも現在の10数トンから100kg程度まで大幅に軽減し、地上受信システムの小型化と可搬性を実現でき、衛星による量子通信の大規模、商業化運用への展開の基礎を固めたという。

 「ネイチャー」誌の査読者は同成果について、全地球規模の量子暗号鍵配分ネットワークひいては量子インターネットの構築に向けた重要な一歩であり、中継の信頼性に左右されない長距離量子もつれ暗号鍵配分プロトコルの実現は1つのマイルストーンとなったと評価した。

 なお、潘教授は、清華大学やトロント大学の研究者とともに、アメリカ物理学会の『現代物理評論』誌の5月26日に"Secure quantum key distribution with realistic devices"と題する総説論文を発表している。この論文では、QKDに関して、現実のデバイスの欠陥による理論的・理想的なモデルからの逸脱が起こる可能性について、国際的な学術界の三十数年の努力により、現実のデバイスを使用した安全なQKDへの道が開かれてきていることをまとめている。