北京便り
トップ  > コラム&リポート 北京便り >  File No.20-042

【20-042】中国、極低温原子の光格子に大規模・高忠実度の量子もつれペアの同時生成を実現

JST北京事務所 2020年7月16日

 中国科学技術大学の潘建偉教授らは、極低温原子量子計算・シミュレーションに関する研究を進展させ、原子高度冷却の新原理を理論的に提起するとともにそれを実験で実現させ、光格子において1,250ペアの原子による高忠実度もつれ状態を同時に生成することを初めて実現した。これにより、極低温原子光格子に基づく一定規模の量子計算とシミュレーションのための基礎を確立したという。同成果は6月19日の「サイエンス」誌オンライン版で発表された。中国科学院(CAS)が伝えた。以下にその概要をまとめる。

 量子計算とシミュレーションはポストホール時代における情報処理の高速化を推進するための革新的技術として、高温超電導メカニズムのシミュレーション、暗号解読等重要な科学と技術問題の解決を可能にすると期待されている。ただし、当該研究のコアとなる大規模もつれ状態の生成、測定及び関係制御については、これまでのアプローチにおいて、もつれ粒子ペアの品質と量子論理ゲートに制限されるため、生成可能な最大限のもつれ状態でも、実用化の量子計算・シミュレーションに必要なもつれビット数と高忠実度まで大きな差を抱えていた。だが、量子ビットを実現する複数の物理システムにおいて、光格子中の超冷却原子ビットと超電導ビットは良い拡張性と高精度な量子制御性を持ち、大規模な量子もつれを最も先に実現できるシステムと言われている。

 潘教授が率いる研究チームはドイツのハイデルベルク大学と提携し、2010年から、超冷却原子の光格子による拡張可能な量子情報処理について共同研究に取り組んできた。これまでの研究において、超冷却原子Rb-87を用いて、600ペアを超えた忠実度79%の超冷却原子もつれ状態を生成し(注:同成果は、「Nature Physics」12, 783 (2016)で発表)、そして同システムによって特殊なcyclic exchange相互作用を調整して4量子もつれ状態を生成し、トポロジカル量子計算におけるエニオン励起模型をシミュレーションした(注:同成果は、「Nature Physics」13, 1195 (2017)で発表」。ただし、同時期の実験では格子中の原子温度が高かったため、格子の原子充填欠陥が10%以上になり、もつれ原子ペアをより大規模の多原子もつれ状態へのつながりおよび忠実度の改善に大きな支障をもたらした。

 今回、研究チームは交差型の格子構造を利用し、絶縁状態の原子冷却原子を超流動体に浸して低温を作る新しいメカニズムを初めて導入した。絶縁状態と超流動体の間における効率的な原子とエントロピーの交換によって、システム中の熱を超流動体の低エネルギー励起という形で貯蔵し、そして精確なコントロール手段で超流動体を除去することを通じて、優れた低エントロピーの格子充填を得ることができた。同実験において、冷却後のシステムのエントロピーが65倍に冷やされた他、格子中の原子充填率も99.9%までの大幅な向上を実現した。同研究はこれを基に、2原子ビットの高速もつれゲートを開発し、そして忠実度が99.3%に達する1,250ペアのもつれ原子を獲得したという。

「サイエンス」誌の査読者は同成果について、格子量子の冷却技術が新しい物質の状態研究と量子情報処理の需要に満足させるための目標であり、同研究でこのほどのエントロピー低減を実現したのはブレークスルーだと評価した。

 潘教授らの研究は、中国科学技術部(MOST)、国家自然科学基金委員会(NSFC)、中国科学院(CAS)、教育部(MOE)および所在地の安徽省等から支援を受けているという。