【20-051】中国におけるグラフェンウェハー研究開発の動向
JST北京事務所 2020年12月01日
シリコン素材の半導体は3ナノメートルまで製造技術の開発が進み、微細化が極限にまで達しつつある中、新しい材料を用いたグラフェン半導体が注目され始めた[1]。グラフェン材料が注目される理由としてはシリコン素材の散熱性不良等の原因でチップの最高クロック周波数が液体窒素環境下で8.4GHzであり、デスクトップ用チップの主クロック周波数は3~4GHz程である中で、グラフェンチップは周波数が最高300GHzまで達成できるためである。グラフェン素材は優秀な転熱性を持つだけでなく帯電体移動率もシリコンより優秀で室温でシリコン素材の10倍以上、実験室で100倍に達している上、飽和速度もシリコン素材の5倍で電子移動速度も光速度の1/300に達する[2]。
上記の原因で様々な国がそれぞれグラフェン材料を開発しようとしているが、グラフェン材料の高純度のグラフェン製造、グラフェンウェハー製造等の困難も存在している。中国も2014年からグラフェン材料の開発に着手し、2018年にファーウェイもグラフェンチップの開発を始めたと発表した[1]
グラフェン技術の研究について近年中国では、中国科学院上海マイクロシステム・情報技術研究所(以下、SIMIT)、北京大学グラフェン研究所、南方科技大学をはじめとした研究機関が多くの成果を発表している。
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SIMITは中国科学院(CAS)所属の研究所であり、中国政府による国家の重要な戦略製品と重大な産業化を目的とした研究資金である「国家科学技術重大特定プロジェクト」の支援の下で、主にICT分野の研究を行い、2015年からグラフェンウェハー技術関連で続々と研究成果を出している。
2015年11月に中国初めて1.5インチのグラフェン単結晶薄膜の製造に成功[3]。その技術的なブレイクスルーは、ウェハーの銅基板をCu85Ni15に切り替えることによって180μm/分の速度で積み重ね単結晶グラフェンウェハー製造を可能とした。
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2019年4月、SIMITはグラフェンウェハーの製造工程で、サファイアを基板にすることによって高触媒機能のカバーニッケル合金薄獏を制作し、750℃の低温で高機能の銅ニッケル薄膜上に単結晶グラフェンを積み重ねるようにした。この発見の意義は、それまで単結晶グラフェンは銅あるいはゲルマニウムを基板にして1,000℃以上の高温で蒸着させていたが、この条件下では皺や汚れがつきやすく、また比較的大きなエネルギー損失を発生させるだけでなくグラフェンの性能低下にも陥りやすかった。しかしその温度を750℃に下げることによって平坦で純度の高いグラフェンウェハーの製造が可能となった。これにより、6インチの製造工程のブレイクスルーを達成した[4]。
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2019年4月、北京大学グラフェン研究所は世界初めてサファイアウェハー基板で厚さ500nmのCu90Ni10薄膜の製造に成功し、これでムラと汚れのない電導性能を有する優れた4インチグラフェンウェハーの小規模量産に成功した。北京大学グラフェン研究所で開発したグラフェンウェハー生産設備の生産規模は年間1万枚であり、同設備で4インチのみならず6~8インチウェハーの製造も可能[5]。
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2019年5月、南方科技大学材料系の程春副教授プロジェクトチームの蔡念鐸氏が樟脳を用いた化学気相成長法(CVD法)による簡単かつ高効率に、また大規模・高品質に相転移が可能なグラフェン合成に関する研究成果を発表した。[6]
2020年6月、SIMITは(001)面ゲルマニウムウェハー基板の傾斜度を15°に設定することにより、高機能で単結晶のグラフェンウェハーの製造が可能となったという研究成果を発表した。ゲルマニウムウェハー基板は、CMOS製造工程とマッチする長所を持っているので、この発見はグラフェンナノ電子機器の大規模製造に材料的なサポートを提供するものである[7]。
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2020年10月16~18日、上海大学で2020中国国際グラフェンイノベーション大会が開催された。本大会では8インチ銅ニッケル合金触媒超平坦グラフェン単結晶ウェハーと8インチゲルマニウム基グラフェン単結晶ウェハーの展示が最も注目を浴びた。8インチグラフェンウェハーは既に小規模の段階ではあるがSIMITの研究技術によって製造されている。また長三角(長江デルタ地域)グラフェン産業一体化発展を推進し、上海、浙江、安徽、無錫、常州をはじめとした地域のグラフェンプラットフォームを設立すること等も発表された[8]。
1.《为什么说石墨烯芯片是未来芯片的主导!》搜狐,2020年8月11日
2.《石墨烯材料芯片如何取代硅材料?》钜大锂电,2018年07月01日
3.《上海微系统所成功研制1.5英寸石墨烯单晶晶圆》中国科学院上海分院,2015年11月26日
4.《上海微系统所在石墨烯单晶晶圆制备方面取得进展》中国科学院,2019年4月11日
5.《重磅!北京大学在全球范围率先实现石墨烯单晶晶圆的规模化制备!》个人图书馆,2019年5月9日
6.《从樟脑丸获得灵感 南科大材料系本科生蔡念铎发表石墨烯合成转移研究成果》南方科技大学新闻网,2019年5月16日
7.《上海微系统所在石墨烯单晶晶圆研究方面取得新进展》中国科学院上海微系统与信息技术研究所,2020年6月28日
8.《我国先进石墨烯晶圆研究成果集体亮相》科学网,2020年10月21日