【21-002】中国「天眼」4月1日に世界のアカデミアに開放
JST北京事務所 2021年01月25日
1. 概要
2016年に竣工、2020年1月11日に正式運用が開始された貴州省黔南プイ族ミャオ族自治州平塘県の窪地にある、口径500メートルの球面電波望遠鏡[名称は中国「天眼[1]」(スカイアイ)。英語名称はFAST(Five-hundred-meter Aperture Spherical radio Telescope)]は、2021年4月1日から世界のアカデミアに正式に開放され、世界の研究者からの観測申請を受け付ける。
そして中国天眼科学院会・時間配分委員会は申請されたプロジェクト採択を審査の上、同年8月1日から観察時間を割り当てる旨、新華社が1月4日に報じた。[2]
2. 本文
中国「天眼」は、中国科学院国立天文台の指導の下、科学的有効性を発揮し、主要な科学的成果を促進し、全人類の宇宙への探求と理解に貢献するために、国際慣行に従い徐々に開放されるという原則を建設当初に確立した。
この度、中国科学院国立天文台「天眼」運用開発センターは、2021年4月1日から各国の研究者によるオンライン観測申請の受付を開始する。
「天眼」運営開発センター常務副主任兼チーフエンジニアの姜鵬氏によると、世界のアカデミアに開放する一年目には、国外の研究者に割り当てられる観察時間は10%程になると推定されている。
「天眼」は科学的目標と関連する戦略計画に従い、「ドリフトスキャン調査」、「中性水素ガス銀河調査」、「銀河系偏光調査」、「パルサータイミング測定」、「高速電波バースト観測」等の多くの優先かつ重大なプロジェクトの多くを確立している。ただし今回の観測申請は、これらのプロジェクトに限定されない。
【用語】
ドリフトスキャン:
CCD撮像素子は2次元に配置された画素の情報(露光による蓄積電荷)を縦転送と横転送して読み出し画像を構成させる。「露光→(縦横)転送→読み出し」という通常の駆動方式の他に、ドリフトスキャンと呼ばれる駆動方式で画像を取得することもできる。それは「露光しながら縦転送→横転送→読み出し」というプロセスとなる。
この露光中の縦転送と移動物体の速度を同期させると暗所でも移動物体を捉えることができる。逆にカメラを方位方向に回転させ、流れる風景と縦転送を同期させることで、暗所に強く全周画像を取得できる監視カメラを実現することができる。この方式を電子増倍CCD(SPD-CCD/EM-CCD)に適用することで、暗視用途の全周監視カメラを開発することが可能。
《参考》兵庫県立大学 天文科学センター 西はりま天文台「研究者の方、大学・高校向けページ」
中性水素銀河調査:
宇宙が約140億年前に誕生した際には水素原子は原子核と電子がバラバラの電離状態にあり、その後、宇宙誕生後約40万年の時代に、温度低下により原子核と電子が結合して電気的に中性な原子になったことが判明している。現在の宇宙の水素は再び電離状態にあり、宇宙誕生後約10億年の頃に、初代の銀河や星の形成に伴い水素ガスが電離された(宇宙再電離)と考えられているが詳細は未解明。特に、再電離が起こる前に存在したはずの中性水素ガスを検出するために遠方宇宙の観測が精力的に行われている。
《参考》東京大学大学院 理学系研究科・理学部 原子宇宙の中性水素ガスの兆候を発見
銀河系偏光調査:
「宇宙マイクロ波背景放射」と呼ばれる宇宙の始まりのころに起源をもつ放射(電磁波)を観測しようとすると、その手前にある私たちの銀河系の星間ダストは磁場があると向きが揃えられ、当該電磁波を偏光させてしまいノイズになる一方、磁場の向きという情報を得ることにもなり、銀河系の星の誕生等の現象を研究するための重要なデータともなる。
《参考》sorae 銀河の進化のカギを握る?銀河系の偏光観測による磁場の流れ
パルサータイミング法:
中性子星(パルサー)の周りを公転する惑星の検出方法。中性子星に惑星がある場合、中性子星は惑星の重力を受け、惑星との共通重心の周りを公転する。惑星の軌道面が視線方向に対して垂直でない限り、中性子星は視線方向に運動し、中性子星からの規則的パルスは、ドップラー効果によって周期的変動を示す。これを電波観測により検出する。
《参考》公益社団法人日本天文学会 パルサータイミング法
高速電波バースト:
明るく点源的で広帯域の電波が、天球上の一点からごく短い時間に観測される現象。電波バーストの持続時間はわずか数ミリ秒だが、その間に太陽5億個分ものエネルギーが発生する。
宇宙の初期状態や現在の状態を理解する重要な手がかりになる可能性を有する。
《参考》National Geographic 【解説】謎の高速電波バーストの発生源を特定
以上
1. JST Science Portal China 2016年9月26日付「中国の「天眼」FASTが竣工、深宇宙を観測始まる」
2. 新华网2021年1月4日"中国天眼4月1日正式对全球科学界开放"